東方守勢録
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第八話
「……さてと……ここまでくれば大丈夫かな?」
俊司たちが基地を脱出し数分後、最初に集まっていた丘の上に再び集合していた。
「ここまでは無事に遂行出来たわね……あとは文なんだけど……」
「お~い!」
霊夢が心配そうに呟くと、待ってましたと言わんばかりに背中に椛を抱えた文が現れた。
「おかえり文。遅かったな」
「いやぁ……まさか椛相手にここまで手こずるとは思いませんでしたよ」
「椛!」
にとりは文の背中でぐったりした椛を見ると、血相を変えて駆け寄った。
「うう……ごめんね椛……」
「にとりさん。あなたが作ったチップとはいえ無理やり作らされたものなんですから…あなたが謝る必要なんて……」
「ううん……この副作用は私のせいなんだ……」
「……どういうことですか?」
にとりは表情を一変させると、そのまま自分の罪を暴露し始めた。
「私がこのチップに記憶を残せるようにしたのは……紫さん達には話したよね?」
「そうね」
「だから……面会を中止にされたの?」
「うん。それでこの場所と永遠亭への奇襲計画がばれるように仕向けたんだけどね……どうやら見つかってたらしくって……で、本題はここからなんだけど、記憶が残るようになったのは良かったんだ。けど、そこに強い副作用が入っちゃって……」
「チップを引き抜かれると、なんとも表現しがたい苦痛を受ける事?」
幽々子がそう言うと、にとりはコクリとうなずいた。
「それを知ったのが幽々子さんが敗北した時の報告を受けてからなんだ……ほんとにごめん……」
「……まぁ、そんなに気にしてないわ。あの苦痛よりかは死ぬ時の痛みの方がつらいもの」
幽々子は笑いながらとんでもないことを言っていが、一同は驚くことなく笑みを浮かべていた。
「それだけ罪を犯したと思ってるなら、やることは一つよね」
「……うん。また……一緒に戦わせて下さい」
「さて、どうしましょうか?俊司君?」
「……だからなんで俺なんだよ」
俊司は来ると思っていたのか、そこまで驚いたそぶりを見せなかった。そんな彼をみて紫はなぜか残念そうに見ていた。
「まあ、これからよろしく」
「うん。精一杯罪滅ぼしさせてもらうよ」
「さてと、帰るとしますか」
俊司がそう言って、一同は基地に背を向けて帰り始める。
まだまだ先は長い。だが、少しずつ希望が見え始め皆の脳裏にはいつもの幻想郷がちらほらと浮かび上がっていた。
俊司達が去ってから数十分後。悠斗が言った通り数百人の援軍が基地に到着していた。
だが時すでに遅し。爆発し崩落した武器庫や、弾丸が貫通しボロボロになったテントや建物。そして……気絶や負傷をした兵士達。すべてが革命軍の大敗を物語っていた。
そんな中、この状況を興味深そうに見つめる男が一人いた。
「……無様だな」
男は呆れたようにはそう呟いた。
「……基地の責任者を呼べ」
「はっ!クルト大尉……私ですが……」
「状況を述べろ。できるだけ簡潔にな」
「はっ!」
男はクルトに言われた通り、侵入された経路やされによって生じた損害。あと、疑わしきことすべてを洗いざらいしゃべっていった。
「……なるほど。わかった」
「い……いかがいたしますか……」
「月の兎を始末できなかったのは我々にも責任はある。これは本部の人間でも対処はできなかっただろうな。もういいさがれ」
「はっ!」
男は敬礼するとクルトに背をむけて安堵の表情をしていた。
(自分への対処だけを気にするとは……こんなやつが責任者なんぞつとまるわけがないだろうに。しかし、気になるのは……)
クルトは聞き出した情報を整理すると、何かを見透かしたのか溜息をついて兵士に命令を出した。
「捕虜施設の看守を呼んで来い」
「はっ!」
兵士は素早く敬礼すると、駆け足でどこかに向かい始めた。
数分後、兵士は言われた通り捕虜施設の看守を連れて戻ってきた。
「お前が看守か。名は?」
「鍵山悠斗伍長です」
「単刀直入に聞かせてもらおう……」
そう言ってクルトは一呼吸置いて率直な意見を口にした。
「貴様……やつらに手をかしたのではないか?」
「なにを……おっしゃってるんですか?」
悠斗は身構えていたからか、あまり動揺したそぶりは見せていなかった。だが、クルトはそんな彼がすっと後ろにまわした右手を見逃してはいなかった。
「どうやら捕虜施設の牢屋には傷一つついていなかったらしい。我々は命を惜しんでも戦うように命令をしていたはずだが?」
「……申し訳ありません。いきなり背後をつかれ……戦うすべもなく……」
「そうか……それならいいが……」
クルトは悠斗を見ながらそう言うと、何かを凝視するかの様に目を細めた。
「クルト大尉!ご報告があります!」
「この男がやつらと会話し……挙句の果てには隠していた捕虜を逃がした……といったところか?」
クルトは目をつむりながらそう言った。
悠斗の表情が一気にくもる。隠していた右手ももはや意味がない。悠斗は早まる鼓動から自分がおびえていることを身にしみて感じていた。
「おっしゃるとおりです……」
「……」
冷や汗が全身から滲みだし、追い込まれていく悠斗。クルトはやっぱりかと言わんばかりにはぁと溜息をつくと、彼を鋭い目で睨みつけた。
「いつから目上の者に嘘をつくようになった?」
「……」
「……答えないか……裏切り者が」
裏切り者。悠斗は覚悟はしていたが、その一言が心に深く突き刺さった。
悠斗にとっては入隊してから4年以上も活動してきた軍である。彼にとってはかけがえのない場所であり、それはクルトもよく知っていた。
だからこそクルトはこの言葉を使った。自身が最良だと考えたの結果を生み出すために。
「この軍は……今は何をしようとしてるんですか……」
「日本存続のためだ。数々の犠牲者を出したあの事件を二度と怒らせないための……」
「そのようなでたらめ……通じるとおもってるんですか?」
悠斗はさっきとはちがう強気の姿勢をみせながらそう言った。
「私は看守です。捕虜の人たちと接するのは私が一番長い。それに情報もよく耳にします。……ここの人たちの話を聞くと、あなた方の言ってることとは矛盾が多すぎるんです」
「……それがどうした?ここの住人が嘘をついてるかもしれんぞ?」
「……それも一理あります。ですが、私には彼らが悪人とは思えません」
「……なぜだ?」
「……そう思うからです」
悠斗は真剣にそう思っていた。それがクルトの思い通りであったことも知らずに。
「そうか……なら仕方ないな。きさまは今回の失態で捕虜施設の看守を解任する」
「……」
「……以上だ」
「……それだけですか?」
「ああ。もうさがれ。処罰は後で伝える」
「わかりました……」
悠斗は腑に落ちない表情のままクルト背を向ける。
それをみてクルトは笑みを浮かべていた。
「……十秒だ」
「……十秒?」
ドスッ
「!?ぐ……おあ……あ……」
悠斗が振り返ろうとした瞬間、青白く光る触手が二本彼の胴体を貫いていた。
「……これが処罰だ。苦しみながら散れ」
そう言って手を動かすと、触手は悠斗の胴体から離れ、悠斗の体は地面にぐずれ落ちた。
「お前らも……裏切ったらどうなるか……考えておくことだな」
「……はっ」
「く……そ……ひな……さ……」
「こいつはテレポートを使って迷いの竹林に捨てろ。やつらはこいつのような人間がいると勘違いしてるかもしれん。見せしめにしておけ……あと、すぐに息の根をとめるなよ。じわじわと死への恐怖を味わえ。そのために急所を外したんだからな」
「……了解しました」
兵士はそのまま悠斗の体を持ち上げると運び始める。
「馬鹿が……鋭い勘をもつのは……いいことばかりではないな」
クルトはぐったりとした彼をみながらそう呟いていた。
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