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リリカルってなんですか?

作者:SSA
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無印編
  第九話 前



 春夏秋冬。たった四文字。だが、その四文字で一年が表せるのだ。
 実際は、そんな四文字で表せるほど単純なものではなかったが、それでも、四文字で表せるといっても過言ではないぐらい、僕にとっては一瞬の瞬きに近かった。
 一年生から二年生になったときも時の流れが早いと思い、理由を考えたものだ。一つの諸説について考えてみたが、こうしてまた一年経ってもう一つ諸説を思い出した。
 もう一つの諸説は、忙しすぎて一息をつく暇がないから、というものだったが、なるほど、こうして考えてみると的を射ているように思える。

 夏には、プールにキャンプに花火大会、縁日。
 秋には、運動会に写生大会。
 冬には、クリスマスにお正月に雪合戦。

 行事自体は、まったく一年生の頃と変わらないとはいえ、今度は二年生。二年生にもなれば、育ち盛りであるクラスメイトの体力も昨年よりもパワーアップし、さらに今度はお兄さん、お姉さんとして一年生の面倒も見ながら行事に参加しているのだ。もっとも、今年は幾人か、一年生の相手をしながら、年上ということに対して自覚を持ってくれた同級生もいたから、パワーアップした面々の分と自覚を持った面々の分を足し引きすると大変さは一年生と比べると五十歩百歩というところだ。

 もっとも、僕のクラスメイトに対する心労と行事に参加することへの体力は大変だったが、その行事自体は楽しんだから、文句は言えない。
 子供のような行事に僕のような人間が楽しめるのか、と問われれば、答えはイエスだ。子供と思えるようなことも意外と面白いと思える。
 男はいつまで経っても心に子供の部分を残しているというが、僕にも子供の部分が残っていたと考えるべきだろうか。

 そんなこんなで、気がつけば季節はめぐり春夏秋冬。あっ、という間に一巡りし、季節は再び春。通学路に桜が満開になり、さらに新しい年下を向かえた頃―――

 僕たちは、三年生に進学した。



  ◇  ◇  ◇



「……変な夢だな」

 僕の枕元でジリジリジリと激しく自己主張する目覚ましの頭を叩いて止め、僕は先ほどまで見ていた夢についての感想を呟いた。
 これほどまでにしっかりと覚えている夢というのは珍しい。
 一般的に、夢は記憶の整理といわれている。つまり、その日、あるいは昔に体験したこと、あるいは自分の願望をひっちゃかめっちゃかに映像として再生する。それが夢と呼ばれるものだ。その日見た夢で自分の心理状態さえ探れるらしい。
 だが、先ほどまでの夢は、一般的な夢と呼ばれるものとは異なるように思える。

 森の中で一人の男の子が異形の何かと戦う。

 これだけ言うとまるで御伽噺の一説だ。さらに、男の子がその異形に大勝利なら、本当に御伽噺の一説なのだろうが、夢では男の子は、異形に勝てず、その異形そのものを取り逃していた。

 ―――まあ、夢か。

 僕は先ほどまで見ていた夢をそう結論付けて気にしないことにした。夢など気にするものではない。
 しょせん、頭の中で処理されたイメージの残滓に過ぎないのだから。それよりも、今日もまた大変な日々が始まる。三年生に進級したからといって急に彼らが大人びるわけでもないのだから。さらに昨日のクラス替えじゃ、またクラスの半分ぐらいがごっそり入れ替わったことだし。

 そこまで考えて思った。

 ああ、なるほど、分かった。あの夢が示唆したものが。
 おそらく、男の子は僕で、異形の怪物は、新しくクラスメイトになった面々だろう。

 ―――なんてね。

 そんな下らないことを考えながら、僕はパジャマからまだ新学期が始まったばかりで汚れの目立たない制服へと着替えた。



  ◇  ◇  ◇



 時刻は昼休み。春の陽気と言っても過言ではない気温の中、気持ちいい春の日差しを浴びるために僕はアリサちゃんとすずかちゃんと一緒にお弁当を食べるために屋上に来ていた。ところで、僕が通っていた小学校は屋上に鍵がかけられていて立ち入り禁止だったものだが、聖祥大付属小学校は生徒に解放されているらしい。転落防止用のフェンスも完備されており、普通に弁当を食べたりする分には問題ないようである。

「将来の夢か」

 お弁当に入っていたミートボールを口に運びながら僕は先ほど先生が授業の先生が言っていたことを呟いていた。

 先ほどの授業は、社会だった。その中で先生が様々な職業を紹介し、次の授業までに各々が自分の好きな職業について調べるというものだった。そして、最後に先生が言った一言が僕の心に波紋を広げた。

 ――――将来なにになりたいか、今から考えるのもいいかもしれませんね。

 社会の先生の今日の授業の最後の言葉だ。
 聖祥大付属小学校は私立の小学校というだけあって、公立とは違って、担任の先生がすべての授業を行うわけではなく、一つの教科ごとに先生がついている。人は、おおよそ自分の知識の三割程度しか人には伝えられないそうだ。ならば、この方法は確かに効率がいいのだろう。

 ちなみに、今年も担任は一年生のときから変わっていない。

 さて、将来の夢か。僕は一体何がしたいのだろう?

「アリサちゃんたちは将来の夢って何か考えてる?」

 僕は、今日、一緒にお弁当を食べていたアリサちゃんとすずかちゃんに聞いてみる。

「う~ん、そうねぇ、あたしは、パパもママも会社の経営をやってるからたくさん勉強して後を継がないと」

「私は機械系が好きだから、工学部で勉強したいな」

 なるほど、とても小学生の答えではないが、納得である。

 もしも、これがアリサちゃんたち以外なら僕は絶句していただろう。なぜなら、アリサちゃんとすずかちゃんたち以外から出るとすれば、サッカー選手やプロ野球選手、お菓子屋さん、お嫁さんなどのファンシーのものだと予想するから。
 そんな中、彼女たちは規格外といっても過言ではない。明らかに周囲と比べて精神年齢が上だ。確かに女の子のほうが、男よりも精神年齢は高いといわれているが、それを考慮しても彼女たちはずば抜けているといっても過言ではない。
 そのせいで、周囲から浮いているような気がするが、彼女たちは周囲に合わせるだけのスキルを持っているので特に問題は起きていないようだ。

「そういうあんたはどうなのよ?」

「僕か―――」

 僕は自分の将来に思いを馳せてみる。

 なぜか奇妙なことに僕は二度目の人生を送っている。前世の僕は親に言われるままに、周囲に流されるように大学まで進学した。大学で選択した学部だって理系科目が少し得意で、パソコンに興味があった、程度で選択したようなものだ。きっと、僕は大学を卒業して適当な会社で働いて、家庭を作るんだろうな、という散漫とした光景しか思い浮かべていなかった。今は、どんな因果が働いたのか、こうしてもう一度、小学生をしているわけだが。

 さて、将来なんてものは、今まで考えたこともなかった。また前世のような進路を選ぶのだろうか。

「僕は何になれるんだろうね?」

「あんたなら何でもなれるんじゃない」

「ショウくんは学年一位だもんね」

 アリサちゃんとすずかちゃんは軽く返してくれる。

 学年一位、その言葉からふと考える。そう、僕は確かに今は学年一位だ。だが、その地位も高校生、いや、もしかしたら中学生までだろう。いくら、大学に行ったといっても、僕は天才ではない。

 十を聞いて十を理解すれば秀才。十を聞いて三を理解すれば凡人。一を聞いて十を理解すれば天才だ。

 ならば、今の僕は確かに天才だろう。一を聞いて十を知っているのだから。だが、僕の本質は天才にはほど遠い凡人だ。今は大学生の知識というチートを使っているに過ぎない。ならば、そのメッキが剥がれるのはいつだろうか? もっとも、僕だってもともとの知識に胡坐をかいているわけではない。確かに僕は凡人だ。だが、凡人でも、勉強の質と量さえ考えれば、成績はそれなりに取ることが可能なのだから。

「あ、そうだ。ショウなら、教師とかいいんじゃない?」

「そうだね。ショウくん、みんなをまとめるの上手だし」

「先生かぁ」

 人と機械。前世は今言われた職業。後者は、前世で関わっていたもの。両者はまったくの逆ベクトルである。この二年間の短い小学校生活で、先生という職業はご勘弁願いたいとは思っているが、人と関わる職業というのも面白いかもしれない。

「ぼちぼち考えるよ」

 ―――十年後、僕は一体どんな将来を描いているんだろうか。



  ◇  ◇  ◇



 そろそろ日が暮れようかという時間帯。太陽が水平線の向こう側に消えようという時間帯。俗に言う夕方に僕とアリサちゃん、すずかちゃんは近くの自然公園を抜けて僕たちが通う塾への道のりを歩いていた。
 最近は、アリサちゃんの車を使うことは少なくなった。おそらく、彼女の精神的な成長なのだろう。自立を望むといえばいいのだろうか。思春期の手前に見られることで、どちらかというと小学校の高学年ぐらいから見られる傾向なのだが、アリサちゃんの精神年齢の高さから考えると妥当なのかもしれない。
 そんな理由で僕たちは、徒歩で自然公園を抜けて塾へと向かっていた。

 適当な話題を振りながら僕たちは自然公園を歩く。途中で、犬に吼えられていたが、アリサちゃんが英語で威嚇するとすぐに静かになっていた。犬には英語が通じるのだろうか。

 それは、ともかく、このまままっすぐ行けばあと二十分もあれば、自然公園を抜けられるというところでアリサちゃんが何故かわき道へと進路を変えていた。

「あれ? こっちだよね」

「こっちのほうが近道なのよっ!」

 なにが嬉しいのか、笑いながら言うアリサちゃん。どうやら彼女の中でこの道へ行くことは決まっていることらしい。
 なるほど、確かに子供はこういう隠れた道が好きだ。大人から見れば非効率。ただ疲れるような道も、近いからという理由だけで行こうとする。少し前に精神年齢が高いと思ったのは気のせいだったのだろうか。

 僕は、隣でどうする? と問いかけるように微笑んでいるすずかちゃんにふっ、と力を抜いた笑みを浮かべる笑みで答えた。
 たぶん、僕たち二人の笑みはありありと「仕方ないな」という言葉が浮かんでいたことだろう。おそらく、アリサちゃんに見られたら、怒られるに違いない。

「ちょっと! なにやってるのよっ!! 早く来なさいっ!!」

 どうやら、僕たちは笑みを見られなくても怒られ運命だったようだ。

 さて、アリサちゃんに追いついて僕たちはわき道を歩き始めた。
 歩いてみて分かったが、整備されているにも関わらず、この道が使われない理由がよくわかる。周りは木々で囲まれており、夕方だというのに薄暗い。それが夕日の紅と重なって実に薄気味悪い雰囲気を醸し出している。

 しかし、この道どこかで見たことがあるような気がするんだけど……気のせいだろうか。

 いわゆる既視感というやつである。だが、僕の記憶が確かなら、この道を歩くのは初めてであり、決して過去に歩いた記憶はない。だが、どこかでこの景色を見たことがあるような……?
 なんだか、頭に残る違和感。最近は特に感じたことはなかったのだが、そう、あれは、アリサちゃんや忍さん、高町さんのお父さんやお母さんを見たときに似ている。つまり、僕のうろ覚えである『とらいあんぐるハート3』の断片を覗き込んだときだ。

 まさか、この場所も『とらいあんぐるハート3』に関係あるのか?

「どうかしたの? さっきからぼ~っとして」

 どうやら、思考に没頭してしまったらしい。もはや、『とらいあんぐるハート3』に関しては、霞がかかった記憶しかない故にこうして考えるときは、周りが気にならないほどに思考の奥深くにいかなければならない。それは確かにアリサちゃんからしてみれば、ぼ~っとしているように見えたのだろう。

「あ、いや、なんでもないよ」

「大丈夫? 風邪とかだったら無理しないほうがいいよ」

「そうそう、あんたなら一日ぐらい休んでも問題ないでしょうし」

「いや、本当に大丈夫だから。それよりも、早く―――」

 行こう、と続けようとして、僕の言葉は途中で止まってしまった。なぜなら、唐突に僕の頭に声が響いたからだ。たすけて、というか細い声が。

「どうしたのよ、ショウ? 本当に変よ」

「……今、声が聞こえなかった? 助けてって声が」

 僕の問いにアリサちゃんとすずかちゃんは顔を見合わせるが、何をいってるんだろう? と明らかに疑問に思う表情が浮かんでいるということは彼女たちは聞こえていないだろうか。

「別に……」

「何も聞こえなかったかな」

「そう……」

 この場に三人もいて、たすけて、という声は僕にしか聞こえなかった。ならば、これは僕の気のせいと断じるべきだろうか。もしも、聞こえた声が切実に救助を求める声でなかったら、僕は早々に気のせいということにしてこの場を立ち去っていただろう。だが、もしも、ここで無視して後日、新聞にこの公園で変死体発見、なんて記事が載ったら後味が悪すぎる。

 しかし、僕だけ聞こえるなんて偶然が―――っ!?

 とか、思っていたら今度は二度目。しかも、今度は、一度目よりもはっきり聞こえた。

「ほら、もう一回、助けてって」

「……何も聞こえなかったわよ」

 呆れたような顔をして僕のほうを見てくるアリサちゃん。その表情にはありありとあんた頭大丈夫? と言いたげな表情が浮かんでいる。

「ねえ、ショウくん本当に大丈夫? お家に帰ったほうがいいんじゃ」

 アリサちゃんはともかく、まさかすずかちゃんにまで言われるとは思わなかった。しかし、本当に聞こえていないとなると、一体どういうことだろうか。二度目は一度目の掠れたような声ではなく、はっきりと『助けて』と聞こえた。さすがにこれをアリサちゃんたちが聞き逃したとは思えない。つまり、立てられる仮説は、僕には聞こえたが、アリサちゃんたちには聞こえなかった。

 さて、そんな偶然がありえるだろうか。離れているなら分かる。だが、僕たちは並んで歩いていたのだ。しかも、アリサちゃんとすずかちゃんの間に僕が入るように。ならば、僕だけ聞こえたというのはおかしな話だ。そう、人知を超えた現象でもなければ。

 人知を超えた存在。それで僕はピンときた。

「……なるほど、幽霊か」

「え?」

「は?」

 僕の出した結論に二人とも呆れたような驚いたような声を上げた。

 だが、僕はあながち間違っているとは思えない。なぜなら、幽霊のような超常現象を肯定するような存在が、今、まさしくここに存在しているのだから。輪廻転生と呼ぶしかない僕が存在しているのだ。ならば、幽霊が存在したところでおかしい話ではないだろう。特にここの雰囲気は幽霊が出るにはぴったりの雰囲気で、時刻は現世と幽世が重なる逢魔時だ。これ以上の状況はない。なにより、彼女たちに聞こえず僕には聞こえるという状況から考えても、何らかの超常現象が働いていると見て間違いないだろう。

「あ、あああ、あんたなに言ってるのよっ! 幽霊なんているはずないじゃないっ!」

 アリサちゃんが明らかに震えた声で僕の言葉を必死に否定している。もしかして、こういった話は苦手だったのだろうか。それなら悪いことをしてしまった。
 それじゃ、すずかちゃんはどうだろう? と白い肌をさらに白くしているアリサちゃんからすずかちゃんに視線を移すとどこか浮かない顔をしていた。

「すずかちゃん? もしかして、すずかちゃんも幽霊とか苦手?」

「ちょっと! 『も』ってなによ!? 『も』って! あたしは全然へいきなんだからねっ!!」

 アリサちゃんが横で喚いているような気がするが、とりあえず、今はすずかちゃんを優先する。だが、すずかちゃんはすぐに僕に気づいたようで、はっ、と顔を上げるといつもの笑みを浮かべてくれた。

「ううん、なんでもないよ。急にショウくんが幽霊とかいうからびっくりしただけ」

「なら、いいんだけど」

 しかし、どうしたものだろうか。おそらく、幽霊というのはあながち間違いではない。僕しか声が聞こえず、アリサちゃんたちには聞こえないという超常現象なのだから。
 ここで、僕たちが取れる道は二つだろう。

「どうする? 進む? 戻る?」

 たぶん、声のした方角から考えるにこのまままっすぐ進めば、その現象に出会うことになるだろう。僕としては、好奇心から進んでみたい気持ちもあるのだが、怖いという気持ちも当然ある。
 僕が一人だけなら、おそらく好奇心が勝って進んだだろう。だが、ここにいるのは、僕だけではない。アリサちゃんとすずかちゃんもいるのだ。僕のわがままで彼女たちの恐怖心を無視するわけにもいかない。

 だが、その心遣いが挑発に見えたのだろうか。

「進むわよっ! 幽霊なんて絶対いないんだからっ!!」

 アリサちゃんが、半ばムキになってしまった。これには苦笑せざるをえないが、すずかちゃんはどうだろうか? と顔を見ると、「仕方ないなあ、アリサちゃんは」という顔をしていたが、反対はしていないようだった。おそらく、彼女も興味自体はあるのだろう。これで、意思の統一はできた。

「それじゃ、行こうか」

 僕は歩き出し、アリサちゃんとすずかちゃんが後からついてくる。ちらっ、と後ろを横目で確認すると、アリサちゃんが、すずかちゃんの腕に自分の腕を絡ませて、ぴったりくっついていた。

 怖いなら、大人しく引き返すといえばいいのに。

 もっとも、それがいえないからアリサちゃんなのだろうが。

 さて、しばらく無言で歩き続ける。時折、カサッと風で木々が揺れると後ろのアリサちゃんが「ひっ」と悲鳴を押し殺すような声を上げていた。意地っ張りもここまで来ると立派なものだと関心する。
 しかし、いつまで経っても僕たちはあの声の主に出会うことはなかった。幽霊らしき姿も見えない。いや、そもそも幽霊は姿が見えなくて、声しか聞こえないという可能性もあるのだが、あの声も聞こえなくなった。もしかして、あれは気のせいだったのだろうか。

「……け、結構進んだわよね」

「そうだね」

「なにもないわよね」

「ないね」

 確認するようにアリサちゃんが一言問いかけてくる。すべてが事実だ。もう少し進めば、この森を抜けてしまうだろう。
 もしかしたら、本当に気のせいだったのかもしれない。

「もう少しで抜けるわよ。ほら、やっぱり幽霊なんて――「あっ!」――きゃっ! なに!? なによっ!?」

 いなかった、アリサちゃんがそう告げ終わる前に僕はあるものを発見してしまった。
 もしも、これが幽霊だったら、声を上げることなんてなかったのだろうが、生憎ながら、見つけたのは幽霊ではなかった。
 見つけたのはきちんと実体を持った生き物だった。後ろでアリサちゃんが混乱してすずかちゃんにしがみついているが、その相手はすずかちゃんに任せるとして、僕は、その見つけた生き物に駆け寄った。

「……怪我してる」

 ぱっと見た感じ、薄汚れているようにしか見えないが、所々細かい怪我をしており、血を流している。しかし、見たことのない動物だ。といっても、僕には細かい動物の種類が分かるほど動物に関する知識が豊富ではない。せいぜい分かるのは猫でも、犬でもなくイタチ系の動物であることぐらいだ。

 しかし、ピクリとも動かないが、こいつは生きているのだろうか。そう疑問に思い、持ち上げてみると、まだ温もりを持っていた。微妙にドクンドクンという心臓の鼓動も掌で感じることが出来る。だが、かなり衰弱していることは間違いない。こうして僕が持ち上げても目を開けないのだから。

 ……もしかして、こいつが僕に助けを求めたのだろうか。

「どうしたの?」

「なによ?」

 ようやく、アリサちゃんをなだめたのか、僕に駆け寄ってくる二人。何かを拾ったところまでは分かったのだろう。だが、それが何かは知らない。だから、僕は、抱いているイタチ(?)を二人に見せた。

「えっ!? なに? 生きてるの?」

「怪我してる……」

「早く動物病院に連れて行ったほうが正解かな。ねえ、携帯で近くの動物病院を調べてくれる」

 はたしてイタチ(?)を見てくれるかどうかは分からないが、素人の僕たちよりもよっぽど面倒を見てくれるだろう。
 あたふたと携帯を開いて、カチカチと動物病院を調べている二人を確認して、イタチを調べてみる。

 毛並みはいいようだ。野生だろうか。しかし、こんなところでイタチが生息しているなんて聞いたことがない。まあ、自然公園だから不思議ではないのだろうが。ん? この宝石は……。

 よくよく調べてみると、イタチの首からは赤い宝石がぶら下がっていた。明らかに人の手によるものだ。だとすれば、こいつは、誰かのペットと考えるのが妥当だろう。

「ショウ! 見つかったわよっ!!」

「うん、わかった」

 なにはともあれ、衰弱しているこいつを連れて行くのが先だと判断した僕たちは、森を抜けてイタチを動物病院へと運ぶのだった。

 続く

あとがき
 主人公はオカルトを信じるタイプです。(己が超常現象なので) 
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