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阿倍野の座敷童

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第六章

「これがね」
「お客さん増えてるの」
「最近ね」
「それでなのね」
 波留はコースのリゾットを食べつつ言った。
「こんなに繁盛してるのね」
「そうなのよ」
「何かあったのかしら。元々味がよくてお値段も手頃なお店だったけれど」
 それでもというのだ。
「ここまで人気なかったわ」
「そこが不思議よね」 
 二人がこう話していると近くのサラリーマン風の二人の男が話していた。
「この前息子が変なこと言ってたよ」
「変なこと?」
「実は前に家族でこの店に行ったんだ」
 そうだったがというのだ。
「美味いし安いからな」
「実際そうだな」
「それで連れて行ったら」
 家族をというのだ。
「店の中に女の子がいるってな」
「言ってたんだな」
「ああ、着物を着た黒いおかっぱのな」  
 そうしたというのだ。
「女の子がお店の中で遊んでたってな」
「着物?ここレストランだぞ」
 同僚の男は怪訝な顔で反論した。
「そんなな」
「着物の子なんてな」
「いないだろ」
「そうだよな」
「本当に変なこと言うな」
 こう返した。
「息子さんな」
「ああ、何だろうな」
「座敷童みたいな話だな」
「そう思うよな」
「俺もな」
 こんな話をしたのだった。
 そしてだ、波留はその話を聞いて言った。
「多分ね」
「前にお話していた座敷童ね」
 沙織も応えた。
「そうよね」
「どっかのお店に入ったって言ってたけれど」
「あの女の子ね」
「それでそのお店は」 
 そこはというと。
「ここだったのね」
「そうみたいね」
「いいわね」 
 波留は微笑んで言った。
「このお店に入ってくれるなら」
「ええ、そしてあの百貨店はね」
「貧乏神が入ってるから」
「これから傾くわね」
「絶対にね。ひょっとして」
 波留はカプチーノを食べつつ笑って話した。
「その貧乏神って会長かもね」
「あのグループの」
「そう、死んでね」
 そうしてというのだ。
「地獄に落ちないでね」
「まああいつは普通は地獄行きよね」
「どう見てもとんでもない奴でね」
「悪いことばかりしてたから」
「悪代官みたいな顔してたし」
 時代劇に出て来る様なというのだ。
「だからね」
「地獄に落ちていないと」
「貧乏神になって」
「あの百貨店にいるのね」
「表向き説得して建てさせた位のものだし」
 その会長がというのだ。
「あそこにいるかもね」
「思い入れがあって」
「それかグループ全体に憑いてるかも」
「どう見ても権力に執着するタイプだったし」
「あのグループの今後が楽しみね」
「そうよね」
 笑ってこうした話をした、コースはどれも前より美味しく感じた。そして繁盛する店を二人で笑顔で後にしたのだった。


阿倍野の座敷童   完


                   2025・7・29 
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