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居酒屋で高級ワイン

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第二章

 ある日だ、安藤はまたこの店に入ったが。
 カウンターの少し離れた場所の席に座る客が一本一万円するこの店で一番高いワインを注文したのを見た、その客はラテン系の顔立ちをしている黒髪の男性で。
「あれっ、マルコス選手の」
「通訳の人です」
「選手の人は来なくてもなんだ」
「通訳の人は来るんですよ」
 前川は安藤に話した。
「うちの店は」
「そうなんだね」
「それで通訳の人はお給料いいですね」
「俺達よりずっとね」
「それでそうした人がです」
「この店に来てなんだ」
「注文してくれます」
 高いワインをというのだ。
「それで飲んでいます」
「成程ね、同じ球場に関わる仕事でも」 
 安藤は今も飲み放題のワインを飲んでいる、その安いワインを飲みながらそのうえで肉料理を食べつつ言うのだった。
「仕事が違うと給料も違う」
「それで、です」
「飲むワインも違うね」
「おつまみは同じですがね」
「成程ね。俺も奮発したら六千円の位は飲めるかな」
 メニューを開いて呟いた。
「一万円は無理でも」
「じゃあそうしてみますか?」
「いや、いいよ」
 前川に笑って返した。
「俺は安いワインで充分美味いと思って満足しているからさ」
「それで、ですか」
「この飲み放題のワインでいいよ。安いワインをしこたま飲むのが」
 それがというのだ。
「俺には合っているよ」
「そうですか」
「うん、じゃあもう一杯」 
 飲み放題のそれのおかわりを頼んだ、そのワインをだった。
 安藤は飲んだ、そのワインは彼にとってはとても美味く満足できるものだった。メニューはもう閉じられ目も向けられていなかった。


居酒屋で高級ワイン   完


                   2025・7・20 
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