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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第3部
オリビアの岬〜海賊の家
  女海賊イザベラ


 あれから船で向かった先は、サマンオサ大陸の南のとある入り江。その先の開けた洞窟に船を停泊した後、私たちは船を降り、そのまま洞窟を抜けた。洞窟を抜けるとそこは崖の中腹で、一方は砂浜へ続く下り坂、もう一方は高台に続く登り坂となっていた。アジトは高台にあるらしく、先頭を歩くイザベラさんに続いてついていくことにした。

 ちなみにユウリはというと、船を降りてすぐはフラフラしていたが、歩いているうちに体調が戻ってきたらしく、アジトに近づくにつれいつもの毒舌も復活した。

 高台に到着すると、緑豊かな木々の間から大きな木造の建造物が見えた。さらに進むと、その全貌がはっきりと視界に入る。建物の状態からして古くからあるようだが、しっかりとした造りの家だ。家の入口に何かの動物の頭蓋骨が飾ってあるあたり、なんとなくここが海賊のアジトだとわかる。

「ここがあたいらが拠点にしているアジトだよ」

 イザベラさんに勧められ、私たちは彼女の後について中に入っていく。中は広く、いくつもの部屋に分かれていた。壁には世界各地の地図や海図が貼られており、ドクロをモチーフにした海賊旗も掲げられていた。

「ひえっ! なにこれ、ごうけつぐま?」

 歩いている途中、シーラが壁にかかってあるクマの魔物の毛皮を見て驚いた。

「違う、それはグリズリーの毛皮だよ。悪徳商人から奪ってきたのさ」

 誇らしげに語るイザベラさんに対し、恐怖で顔をひきつらせるシーラ。魔物の毛皮を間近で見て獣をさばく光景を連想してしまったのか、さらに顔色を悪くした。

「なあ、お礼をくれるって言うけど、武器とかはないのか?」

 何かを期待するかのように、ナギがイザベラさんに尋ねた。

「もちろんあるさ。この先の倉庫にあるから、好きなだけ持っていきな」

「マジで!? よっしゃー!!」

 太っ腹なイザベラさんに、思わず歓喜の声を上げるナギ。好きなだけとは言うけれど、武器なんだから結局使うのって1つか2つくらいじゃないの?

 そんなはしゃぐナギを尻目に、ユウリはイザベラさんから目を離さなかった。おそらく万が一に備えて警戒しているんだろう。

「随分熱い視線をくれるねえ。けど、あたいは善人からは何も盗りゃしないよ」

「俺たちが善人だという確証はあるのか?」

「強いて言えば、女の勘さ」

「……少し疑いすぎたみたいだな」

 肩を竦めたユウリは警戒を解くと、視線を前方に移した。何故か私も、ホッとした。

「ここが商品を保管している部屋だ。離れにもう一つあるけど、さすがにそこにあるものはあたいらの生活がかかってるからあげられないんだ。その代わり、ここから好きなもん持っていきな」

 中は部屋を埋め尽くさんばかりの盗品で溢れていた。薬草、聖水などのアイテムや食料品、売ればお金になりそうな調度品に装飾品。ちょっとした店ができるくらいの在庫量だ。

「こんなにたくさんあったら、お店開けちゃいますね」

「ああ。時々行商人が来て、取引してるからね。それで得た金で生活してるのさ」

 なるほど。義賊とはいえ海賊なら、収入源も限られる。盗品を売買することで、生活費を賄っているということか。

 私が納得していると、海賊の一人が急ぎ足でイザベラさんのところにやってきた。

「おかしら! 行商人が来てますぜ」

「なんだ、このタイミングでか。すまない皆。席を外すから、ここにあるものは好きなだけ持っていってくれ」

 そう言い残すと、イザベラさんは海賊とともに行ってしまった。薄暗い倉庫に放置される私たち。

「ホントにいいのかなあ?」

「良いって言ってんだから、遠慮しないでもらっちゃおうぜ! ……おっ、これなんか、俺に合いそうな武器じゃね?」

 ナギが手にしたのは、鞭状の武器だった。鞭の部分が特殊な形の金属片で紡がれていて、柄の部分にはドラゴンの頭を模した装飾が施されている。

「それは……、『ドラゴンテイル』じゃないか」

「ユウリ、知ってるの?」

「文献でしか見たことはないが、珍しい武器だ。敵をまとめて攻撃出来るそうだが」

 ユウリの説明を聞いたナギは、目をひときわ輝かせた。

「へえ!! じゃあオレ、これもらおっかな! サイズ感もぴったりだし!」

 そう言うとナギは、早速ドラゴンテイルを自分の腰に装着した。そして自分の腰に刺さっている得物を見ては、にやにやと満足そうな笑みを浮かべた。

「どうしようミオちん……。ナギちんが過去イチで気持ち悪いんだけど……」

「シーラ、駄目だよ目を合わせちゃ」

「何だよお前ら失礼なやつだな!!」

 こうしてナギは一足先に自分の欲しいものをちゃっかり見つけることができたが、他の四人はなかなか決まらなかった。いざ好きなものを、と言われると何を選べばいいかわからない。けれどしばらくして、シーラが奥の棚からウイスキーとワインを見つけるやいなや、持ちきれないくらいの量を手にしたのは驚いた。

 そんなこんなでイザベラさんが戻ってくる間、ナギはドラゴンテイルという武器、ユウリは能力が上がる種をいくつか、シーラはありったけのお酒、そして私とルークは薬草をいくつかもらうことにした。

「なんかシーラが一番原価高くねえ?」

 両腕に持ちきれないくらいの酒瓶を抱えたシーラの姿に、ナギは呆れながら言った。

「仕方ないじゃん☆ あたしお酒以外興味ないし」

「悲しい人生だな、それ……」

 しばらくして、イザベラさんが戻ってきた。さっき海賊が言っていた行商人も一緒だった。彼女は行商人にいくつかの商品を確認すると、倉庫に入り、立てかけてあった銅の剣と鉄の槍を行商人に見せた。

「これとこれ、しめて100Gでどうだい?」

『え!?』

 その破格の金額に、全員の声が揃った。商売に疎い私でもわかる。どう考えても、銅の剣と鉄の槍で仕入れ値が100Gに収まるわけがない。

「ほう、イザベラさん。今回は随分と強気な価格ですねえ。市場ではもっと安く仕入れられますよ」

「そ、そうなのか? なら、このくらいで……」

 イザベラさんが指で示した金額は、70G。そのあまりの安さに、私たちは愕然とした。

 まさかイザベラさん、お金の価値がわからないんじゃ……?

 ドキドキしながらやり取りを見ているが、どう見ても行商人に足元を見られている感が否めない。行商人も、わかっててイザベラさんを騙そうとしているのだ。なんてタチが悪い!

 すると、ユウリがイザベラさんと行商人の間に立ちはだかった。イザベラさんは彼の意図がわからず、訝しげに見返した。

「なんだ? 今大事な仕事の最中だ。邪魔をしないでくれないか」

 するとユウリは行商人を無視し、イザベラさんに向き直った。

「俺は世界中を旅しているが、あんたほど物の価値がわからない奴に出会ったのは初めてだ」

「なっ……!?」

 失言と捉えてもおかしくはないユウリの物言いに、瞬時にしてイザベラさんの顔が火のように真っ赤になった。

 そこに、不愉快そうにユウリを睨む行商人が口を挟む。

「すみませんが、お取り込み中なんで下がってもらってもいいですかね?」

 その言葉には、『余計なことは喋るな』と言う、無言の圧力が感じられた。しかし、そんな行商人の声を無視してユウリは言葉を続ける。

「一般的に、銅の剣の買い取り値は75G。鉄の槍は487Gで、トータル562G。状態によっては多少査定がマイナスするかもしれないが、それを鑑みても最低でも500Gはもらうべきだ」

「なんだって!?」

 ユウリの明確な金額提示に、イザベラさんの口が開いたまま塞がらない。

「ちょっとちょっと! あんた、せっかく商談がうまく行きそうだったのに、邪魔しないでくれないかね!?」

 自分に都合が悪くなったと見るや、ユウリに矛先を向ける行商人。

「あんたのは商談じゃない、一方的な搾取だ。俺の知ってる二周り年下の商人のほうが、あんたより数段商売上手だぞ」

「ふ、ふざけるな! おれは十年以上もこの商売を続けてる! 二回りも年下なんて、ただのガキじゃないか! ただのガキがおれより商売上手だなんているわけないだろ!!」

 その一言にカチンと来た私は、ユウリを押しのけて行商人の前にずいと立った。

「いないなんて決めつけないでください! その商人は私の弟なんですから!」

 なんなら町まで作ってますけど? とさらに言ってやりたかったが、流石に大人げないのでやめた。

「な、何なんだお前ら……。それにあんたの弟って、マジで子供じゃあ……」

「知らないのなら覚えといてください。ルカ・ファブエルの名前を!」

 子どもだからって高を括ってる人に、身内として一言言ってあげなければ気が済まない。私は相手にはっきりと自分の弟の名前を告げた。

「落ち着け。お前がムキになってどうする」

「あ……!」

 ユウリにぽんと肩を叩かれ、私はハッと我に返る。しまった、いくらなんでも初対面の人に向かって調子に乗り過ぎた。

「ごっ、ごめんなさい! 言い過ぎました!!」

「……いや、ちょっと待ってくれ。今、『ファブエル』って言ったか?」

「は、はい。それが何か……?」

「おい! 今はあたいと商談中だろ!」

 すると、ずっと様子をうかがっていたイザベラさんがしびれを切らしたのか、私と行商人との間に割って入った。

「あっ、すみません! じゃ、じゃあこのくらいで……」

 結局行商人は、ユウリが提示した金額でイザベラさんとの取引を成立させた。



「いやあ、先程は大変失礼しました。まさかドワイトさんのところのお子さんに出会うとは思いもしませんでして」

 イザベラさんから買い取った商品を鞄や袋に入れながら、行商人は私の方を見て頭を下げた。

「もしかして、うちのお父さんとお知り合いなんですか?」

 私とルカの父、ドワイト・ファブエルもまた、世界中を旅する行商人の一人である。同業者なら、お父さんのことを知っていてもおかしくはない。

「はい。この間同じ町で知り合ったとき、ドワイトさんからよく自分の子供のことを聞かせてもらってましたよ。長男は町を作ってて、長女は勇者と一緒に魔王退治の旅に出てるって。あのときは冗談半分で聞いていたけど、まさか本当だったなんて」

「えっ、私が旅に出てることとか、ルカが町を作ってることをお父さんは知ってるんですか?」

「ええ。おそらく立ち寄った町で聞いてたんではないですか? ドワイトさんの会話術は商人の間でも一目置いてますから」

 こんなところでお父さんの評判を聞くことになるなんて、思いもしなかった。

「息子さんが町を作るって聞いたとき、もう息子さんは成人していると思ったんですよ。あなたの弟というのなら、きっとまだ子供なんですよね? それを聞いて驚きましたよ」

「ええと確か、今年13歳になると思います」

「それは驚きです。……なら余計に最近耳にした噂が気になりますね」

「噂だと?」

 その言葉に、今まで黙っていたユウリが口を挟む。

「最近商人の間で人気の町があるそうです。その町は自由に商売ができて、しかも移住するにも最適な環境だとか」

「それってきっと、るーくんの町じゃない? 前に似たようなこと言ってたし」

 シーラの言葉に、私も頷いた。町を作って間もない頃、確かにルカは商人が自由に商売できる町を作りたいと言っていた。

「けどそれなら別に、気にすることでもなくねえいか? 順調に町を作ってるってことだろ?」

 ナギのもっともな意見に、行商人は何とも言えない顔をした。

「普通の人ならそう思うかもしれませんがね。私たちのような損得を考える商人には、話がうますぎると勘繰ることが多いのですよ」

「つまり何か裏があるってことか?」

 ギロリと行商人を睨むユウリ。その形相に、饒舌だった行商人の口が引き結ばれる。

「ねえ、ルカってミオの弟のルカだよね? 町を作ってるって、本当なの?」

 タイミングを見計らったのか、ルークがそっと私に耳打ちをしてきた。そう言えば、ルークにはルカのことは話してなかったっけ。

「うん、そうだよ。今はスー族の人と一緒に町作りをしてるはずなんだけど……」

 今の行商人の言葉を聞くと、この短期間で噂が広まるほど町は発展しているということなのだろうか。それに話がうますぎるというのも、たしかに気になることだ。

「まあでも、私の思い過ごしかもしれませんね。長々とお話してすみません。では私はこれで失礼します」

 そう言うと行商人は、気になる噂だけを残したままそそくさと帰っていった。

 行商人が帰った後、イザベラさんはユウリに向かってこう言った。

「お前のお陰で、当面生活に困ることはなくなった。ありがとうな!」

 ご機嫌なイザベラさんの声に思考を止めたユウリは、彼女を一瞥したあとすぐに目をそらした。

「……ふん。あんたがあまりにも商売っ気がなかったから我慢できなかっただけだ」

 どことなく照れくさそうに答えるユウリ。今まで少なからず警戒していたユウリも、この一件ですっかりイザベラさんと打ち解けたように見えた。けれどそんな二人の様子を、なぜか私はいつものように良かったと思えることができなかった。



 その夜、海賊のアジトでは盛大な宴が開かれた。

「皆!! 今夜は腹いっぱい食べてくれ!!」

『おおーーっ!!』

 イザベラさんの一声に、アジトの大広間に集まった全員がジョッキを片手に乾杯した。

 イザベラさん率いる海賊団は二十人ほどのメンバーだが、皆屈強な身体をしており、しかも大酒飲みだそうだ。

 なのでシーラが倉庫からありったけの酒瓶を抱えて出てきたときは、イザベラさん以外の海賊皆に止められてしまい、結局二、三本しかもらえなかった。

 その時はがっかりしていたシーラであったが、夜に私たちの歓迎会を含めた宴を行うとイザベラさんが言ったときの彼女の反応は、かつてないほどはしゃいでいた。

 現に今も一番お酒が強いと囃し立てられている海賊の一人と、飲み比べ対決を始めている。その横ではナギが、別の海賊たちにお酒を飲まされていた。ルザミでも意外とお酒が強かったナギは、ここの場でもシーラに負けず劣らず注がれたお酒を飲み干している。

 一方ルークはあまりお酒が好きではないのか、ちびちびとブドウジュースを飲んでいる。しかしそんな控えめな飲み方が海賊の目に止まったのか絡まれてしまい、「飲め飲め」とばかりにジュースの代わりにブドウ酒を注がれ、嫌々飲んでいる。

 そして、私はと言うと――。

「なあ、ユウリ。あたいの仲間にならないかい?」

 向かいの席で、焼いたお肉を黙々と食べているユウリに肩を回しながら、イザベラさんが喋っている。顔を赤らめているのは、片手にウイスキーを持っているからだろう。

「あたい、あんたが気に入っちまったんだ。いっつもむさ苦しくて小汚い男どもに囲まれてるからさ、あんたみたいにきれいな顔の男が一人でもここにいてくれると、目の保養になるんだよ」

 そう言いながらイザベラさんは、自身の豊満な胸をユウリの腕に押し付けながら彼を口説いていた。

「それに、さっきあたいを助けてくれただろ? あんたみたいに商売に詳しい男がいたら、うちの海賊団もちょっとは生活がマシになるんだ」

「……」

 一方的に話すイザベラさんとは対象的に、ユウリはただ無言でお肉を食べている。

 もしかしたらさっきの船酔いで、具合がまだ良くなってないのではないだろうか?

 それにユウリは、ヘレン王女のときのように積極的な女性に絡まれるのが苦手だから、彼女に言い出せずに仕方なく参加しているのかもしれない。

――あんなに辛そうなんだもん。助けてあげなきゃ。

 このまま見て見ぬ振りをするのも嫌だと感じた私は、意を決して声を上げることにした。

「あ、あのー、イザベラさん。ユウリ、なんだか具合が悪そうですけど……」

「何っ!? 本当か!?」

 恐る恐る口を出す私に、イザベラさんはユウリの顔を覗き込むと、大げさなくらいびっくりした。

「たしかに顔色が悪い。よし、あたいがベッドまで運んでやる」

 ぐい、とユウリの腕を掴むイザベラさんだったが、ユウリに手を払われた。

「俺に構わないでくれ」

 そしてお肉が残っているお皿を置いたユウリは立ち上がると、そのまま部屋から出ていってしまった。

「……」

 ユウリが去ったあともしばらくじっと見つめていたイザベラさんだったが、酔っ払って彼女にぶつかった海賊をギロリと睨みつけると、思い切りげんこつで海賊の頭を殴り、

「ったく、ホントにうちの男どもは、ろくな奴がいないね」

 はあ、と心底呆れたように呟いた。

 すると今度は別の方向から、

「おかしらぁ! 酒飲み対決で負けちまいました!」

「おかしら、酒が足りませぇん!」

「おかしら〜、おれと結婚して〜!」

 と、次々に他の海賊がイザベラさんに絡んできた。

「……お前ら全員、殺す!!」

 イライラがピークに達したイザベラさんは、あろうことか近くにいた海賊の頭を順番に殴りつけた。それでも殴られた海賊たちは皆何故か喜んでいるので、これが日常茶飯事なのかと勝手に一人で納得してしまった。

「ああもう、こんな奴ら相手にするのも疲れるよ。あたいはユウリの様子を見てくるから、そっちはそっちで仲良くやってな」

 そう言い捨てると、イザベラさんも行ってしまった。彼女がいなくなって少しは静かになるのかと思いきやそんなことはなく、変わらず海賊たちは騒いでいた。

 どうしよう。私が余計なこと言っちゃったから、ユウリ怒っちゃったのかな。

 それに、あのときユウリを助けようとした一方で、早くイザベラさんから離れてほしいとも思っちゃったし……。

――いや、なんで私、離れてほしいだなんて思ったの?

「ああもう、モヤモヤする!!」

 つい叫んでしまった私は、思い切り頭を掻きむしった。

「どうしたの、ミオ?」

 不審に思ったルークが堪らず声をかけた。そりゃあいきなり一人で叫んで頭掻きむしってるんだもの、おかしいと思わない方が変だろう。

「ご、ごめん。なんでもない。ちょっと夜風に当たってこようかな」

 取り繕った笑顔を見せながら、ごまかすようにその場から立つ。その時だった。

――この音色……!

 外の方から、笛の音が聞こえる。この音色は、山彦の笛だ。外にいたユウリが吹いているのだろう。もし同じ音が山彦のように帰ってきたら、この近くにオーブがあるはず……。

――また聞こえる!! 同じ音だ!!

「ルーク、今、笛の音が聞こえなかった!?」

 自分だけの判断じゃ自信がなかったので、念の為ルークに聞いてみる。

「ごめん。酔っ払ってて、よく聞き取れなかったんだ」

 言われてみれば確かにルークの顔は真っ赤に出来上がっており、彼のテーブルにはワインボトルが三本開けられている。

「もしかしてそれ、全部飲まされたの?」

 するとルークの隣にいた海賊が、彼の肩を抱きながら新しいワインボトルに手を伸ばす。

「人聞きの悪いこというなよ、これがおれら海賊流のもてなしなんだぜ? 嬢ちゃんもどうだい?」

「けっ、結構です!!」

 私まで飲まされたらたまったものじゃない。私は逃げるようにこの部屋を後にした。
 
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