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引き籠っても許すか

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第六章

「それまでも引き籠っていましたが」
「住所や名前まで公開して」
「近所や私達の職場で言い回り」
「ビラも貼ったり置きました」
「後で調べると嘘まで吐いていました」
「娘がしていないことまでしていると言っていました」
「そこまでとなりますと」
 それこそというのだ。
「もうです」
「相手の方がおかしいですか」
「娘よりも」
「確かに娘さんはいじめをしました」 
 それは事実だというのだ。
「悪事を為しました、ですが」
「それでもですね」
「相手の方がですね」
「自分達を正義としたくて悪を徹底的に糾弾する」
 そうするというのだ。
「その方がです」
「おかしいですね」
「むしろ」
「そうですか」
「娘にここまで為す方が」
「おかしい、異常いえ狂気を感じます」
 何も言わず虚空を見ているだけの志桜里を見て言った。岩清水達こそというのだ。
「彼等には」
「そうですか」
「今思うとそうかも知れないですね」
「家の中にも押し入ってきましたし」
「娘を連れ出した」
「悪には何をしてもいいか」
 それはというと。
「決してです」
「違いますね」
「やはり」
「加減がありますので」
「制裁でもですね」
「そういうことですね」
「しかも法律に基づいていないことは明らかです」
 医師は岩清水達のこのことも指摘した。
「司法、警察が介入出来ないまでの数と勢いで圧力を加えていても」
「どうも警察にです」
 父が話した。
「いじめの加害者を守るのかと」
「抗議を行うのですね」
「その悪事を羅列して。電話をかけ」
 抗議のそれをというのだ。
「直接団体で乗り込んで。そして介入出来ない様にしてです」
「行動しますね」
「そう、そして」
 医師はさらに話した。
「私は日本の法律には詳しくないですが」
「それでもですか」
「明らかなリンチです」
 岩清水が行ったことはというのだ。
「群衆を扇動したうえでの」
「そうしたものですか」
「無法の極みです」
 彼等が行ったことはというのだ。
「いじめという悪を糾弾する大義名分を掲げた」
「無法行為ですか」
「むしろいじめより悪質です」
 こうも言った。
「法律が介入出来ない様にしたうえで行う」
「悪質なリンチですか」
「人には確かに悪の一面があります」
 医師は看破した。
「そしていじめは悪です」
「娘は悪を犯しましたね」
 母は項垂れて応えた。
「交際してはいけない人とも交際して」
「はい、ですが」
「それでもですか」
「彼等が行ったことはそれ以上の悪であり」
「娘はその悪に壊されたのですね」
「悪を見付けたより悪質な悪に」
 それによってというのだ。
「そうなりました」
「そうですか」
「はい、そして」
 そうであってというのだ。
「娘さんの回復は」
「もう、ですね」
「無理ですね」
「おそらく」
「・・・・・・・・・」
 志桜里は俯いたまま何も話さない、徹底的に糾弾され最後の家から連れ出されたうえでの吊し上げが最後の一撃になった、それでだった。
 心は完全に壊れた、だが岩清水達はその話を聞いて嗤い喝采した。悪をまた一つ滅ぼすことが出来たと言って。


引き籠っても許すか   完


                     2025・6・26 
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