脳腫瘍の影響
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第一章
脳腫瘍の影響
武井八雲は非常に温厚で誰も怒ったところがなかった、いつも微笑んでいて前からかなり広くなった額はよく光細面の顔はいつもにこにことしていて仏像の様な顔だ中肉中背で勤務先の工場では評判の工場長だった。
だが最近だ、様子がおかしかった。
「工場長変わったな」
「まるで別人だよ」
「いきなり怒って怒鳴って」
「いらいらしている感じで」
「一体どうしたんだ?」
「何かあったのか?」
誰もが不思議がった、このことは家でも同じでだ。
妻の聡子、丸顔で眼鏡をかけて大きな目を持ち黒髪をショートにした小柄な彼女は上の娘の高校生の文香にも中学生の下の娘の清香にも言った。二人共母親そっくりである。
「お父さん変わったわね」
「まるで別人よ」
「ちょっと前まで絶対に怒らなかったのに」
「いつもにこにことしていて」
「仏様みたいだったのに」
娘達も言うことだった。
「そうだったのに」
「今はいつも怒って怒鳴って」
「何でもないことでも喚いて」
「ヒステリーも起こして」
「怒ってばかりじゃない」
「別人ね、どうしたのかしら」
このことがわからなかった、家族も。
だが健康診断でだ、彼の結果を聞いて誰もが驚いた。
「脳腫瘍!?」
「工場長さんそうなのか」
「脳腫瘍だったのか」
「危ないぞ」
「幸い早期発見で転移の心配もないので」
医師は病院で聡子に話した。
「すぐに手術すればです」
「問題ないですか」
「はい、ですが」
ここで医師は聡子に尋ねた。
「何か変わったことはありませんでしたか」
「変わったことですか」
「急に攻撃的になったり狂暴になったり」
「あの」
聡子は一呼吸置いてから答えた。
「まさにその通りでした」
「人が変わった様にですね」
「別人みたいに」
夫のことをありのまま話した。
「攻撃的で怒って怒鳴って」
「やはりそうでしたか」
「今まで絶対に怒らずいつもにこにこしていた人が」
そうであったのがというのだ。
「本当にです」
「別人の様にですね」
「そうなりまして」
それでというのだ。
「皆驚いて困っていました」
「脳に腫瘍が出来るとそうなることがあります」
医師は率直に話した。
「怪我をしてもです」
「人が変わるんですか」
「そうなることがあります、人格も脳によって形成されるので」
だからだというのだ。
「そこに何かあれば」
「性格も変わるんですね」
「そうなることがありまして」
それでというのだ。
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