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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第257話:双翼の羽搏き

 
前書き
どうも、黒井です。

今回は今までにない位シンフォギアらしい感じに仕上がりました。 

 
 ワイズマンが月遺跡へと送り込んだ幹部は当然だがドレイク1人だけではなかった。エンキが感知していたように、遺跡内部には他にも複数人の幹部が転移してきており、それらがマリア達により防衛システムを解除され自由に動けるようになった颯人達に襲い掛かっていた。

「くっ!」

 飛んできた無数の魔法の矢をフレイムドラゴンに変身している颯人が横に転がって回避し、膝立ちになりながら両手に持った二丁のウィザーソードガンで撃ち返していた。無数の銃弾が不規則な軌道を描き、狙いを悟らせないように迫るがそれらは颯人と未来の前に立ち塞がったメデューサと、彼女に付き従うメイジ達により防がれた。

〈〈〈バリアー、ナーウ〉〉〉

 数人のメイジが隊列を組んで張ることにより、1人1人の魔力の消費量を抑えつつ強固な障壁を張る連中にとって最早お馴染みとなった防御陣形により颯人の銃撃は防がれる。虚しく障壁の表面で始める銃弾に颯人は小さく舌打ちをしながら、ならばとドラゴンのブレスで吹き飛ばそうと右手の指輪を付け替えて必殺の魔法を放った。

「コイツでどうだッ!」
〈チョーイイネ! スペシャル、サイコー!〉

 胸に出現したドラゴンの口内に灼熱の炎が灯り、一気に吐き出されたそれは遺跡内部の壁や床を焼き払いメデューサと彼女の前で障壁を張るメイジ達を纏めて飲み込んだ。直撃した訳でもないのに放射熱だけで壁や床が赤熱化する程の熱量に、颯人の隣に浮遊している未来と人格を入れ替えたシェム・ハが思わず顔の前に手を上げて肌を焼く熱を防いだ。

「……! 大した炎だ。遺跡の内部が融解寸前まで熱せられるとはな。まぁこの程度で遺跡がどうにかなることはないであろうが……」
「そいつはどうも。だが…………」

 炎を止め、颯人が降り立ちメデューサ達の様子を伺う。強烈なブレスが通り過ぎた後は、空気が激しく熱せられたからか陽炎が立ち先が見通しづらくなっていた。そんな中でも、視界の先で輝きを発する障壁の光に颯人は仮面の下で苦い顔になった。

「チッ、予想してたがやっぱりか……連中随分と強くなってるじゃねえか。もうメイジ連中を雑魚だ何だと言えなくなってきたな」
「弱音とはらしくない。この程度、お前ならば鼻で笑うのではないか?」
「随分と俺の事を知ってるみたいな口ぶりじゃないか?」
「未来の頭の中でお前達の事はある程度学んでいる」

 本来であればその知識は、颯人達にとって脅威となるものだっただろう。それが何の因果か、今はこうして肩を並べて戦うのに役に立ってくれている。何が功を奏するか分からない現実に、シェム・ハが内心で笑みを浮かべているとそれに内面に引っ込んでいる未来もつられて笑っていた。

(あはは……)
「だが、故に気になる。何故お前は、あの白銀の姿にならない? あれを使えばあの程度の連中、軽く蹴散らせるはずだ」

 シェム・ハが言っているのはインフィニティースタイルの事だろう。確かに魔力還元で実質無制限に魔法を使い放題なあの姿であれば、メデューサが幹部とは言えここを突破するのは容易いであろう。しかし颯人はドラゴンの力こそ使いはしても、インフィニティーにはなかなかなろうとしない。効率的とは言い難い彼の行動をシェム・ハが不可解に思っていると、彼は小さく肩を竦めながら答えた。

「確かにインフィニティーには特に制限はねえ。だがメデューサ程度にいちいち使ってたら、ワイズマンを相手にする時足元を掬われちまいかねねえんでね」

 言ってしまえばつまらないプライドの様な物だが、状況がそこまで切迫していないと言うのも理由の一つではあった。現状管制室はマリア達が押さえているし、先程の通信を聞く限りだと奏は翼と行動を共にしているらしい。決して自分と奏の連携が劣っているとは言わないが、ツヴァイウィングとしてコンビを組んできた奏と翼の2人がそう簡単に後れを取るとは颯人は思っていなかった。

「ま、序でに言えば? 今回に限ってはお前さんも居てくれるからってのもあるがね」
「ん?」
「アンタが一緒に戦ってくれるんなら、こんな連中相手に全力出すまでも無いって話さ」
「…………ククッ!」

 颯人の答えが気に入ったのか、シェム・ハは笑いを堪える事が出来ず口元を手で隠しながら笑みを零すと、次の瞬間無数の丸鏡を展開し正面のメデューサ達の周囲に浮かべた。

「そこまで豪語するならば、しっかりと我についてこれるのであろうな?」
「ご安心を。アドリブは得意なんでね」
「フッ……期待するぞ!」

 次の瞬間、シェム・ハが展開した丸鏡から一斉に光線が発射される。メデューサはメイジ達に命じてそれらを防がせたが、付近を縦横無尽に飛び回って光線を発射してくる丸鏡には流石に手を焼いている様子で翻弄されていた。

「くっ!? えぇい、鬱陶しいッ!」

 流石にこのままではジリ貧になると、メデューサはヘビが絡み合ったような形状の杖を一振りして魔力を波動の様に飛ばして周囲の丸鏡を纏めて吹き飛ばした。魔力の波動を喰らった丸鏡はコントロールを失ったように吹き飛び、中には壁や天井にぶつかって砕けるものもあった。
 砕けた鏡が降り注ぎ、それが光を反射してともすれば幻想的さすら感じさせる。そんな中を、颯人が両手にソードモードにしたウィザーソードガンを持ち駆け抜けた。

「ッ!? 止めろッ!」

 メドゥーサが気付き迎撃を指示するがもう遅い。その時点で彼は集団の中へと飛び込んでおり、懐に入られた時点でメデューサ達は殆ど敗北したも同然であった。

「オラァァァッ!!」

 あいさつ代わりに颯人が独楽のように回転しながら剣を振るえば、周囲のメイジ達が次々と切り裂かれ倒れていく。慌てて距離を取り反撃しようとしても、颯人はアクロバティックな動きで彼らを翻弄し狙いを定めさせない。加えてシェム・ハが再び丸鏡を展開して、颯人の攻撃の合間を縫うように光線を放ってくるものだから堪ったものではない。

「くっ!? くそ、コイツ等……!?」

 颯人とシェム・ハの連携攻撃で次々と倒されていく配下のメイジを前に、メドゥーサが思わず歯噛みする。そんな彼女を煽る様に、颯人は彼女を含むまだ残っているメイジ達に剣の切っ先を向けた。

「さぁ、タネも仕掛けも無いマジックショー、たっぷりと楽しんで行けッ!!」




***




 同時刻、奏と翼にも当然と言うべきかジェネシスの幹部が襲い掛かっていた。襲い掛かって来たのは最近目にするようになった群青色の仮面をした女性の幹部、幹部名リヴァイアサンと言う魔法使いだった。

「はぁぁぁっ!」

 リヴァイアサンは魔法の杖の役割を兼ねる銛を奏に突き刺そうと飛び掛かって来る。奏はそれをアームドギアで防ぎ、攻撃を受け止められた隙を突くように翼が刀を振るった。

「なんのっ!」
「そこっ!」
「チッ!」

 息の合った連携を見せる2人の反撃に、リヴァイアサンは素早く後ろに下がって体勢を立て直す。こちらはメドゥーサと違って配下を引き連れていない為、状況は完全に2対1と奏達が圧倒的に有利な状況となっていた。既に数度刃を交わらせたが、この時点で奏と翼はリヴァイアサンの実力が個人レベルならともかく2人を相手にするには不足していると察していた。ただでさえ2人は装者の誰よりも実戦経験が豊富なのだ。加えてこれまでに何度も世界を救うレベルの戦いを潜り抜けてきた。そんな彼女達を相手に、今更幹部が1人で相手をするのは正直に言って役者不足であった。

 なので2人は、無駄とは知りつつリヴァイアサンに降伏を勧告してみた。もしかするとこの場を退きさがって、戦わずして戦闘を終えられるかもしれなかったからだ。

「諦めろ。お前1人じゃ、アタシか翼のどっちかを倒すのだって一苦労だろ。てか、片方だけでもお前1人には負けないし」
「大人しく降伏するなら、決して悪いようにはしない。逃げるつもりなら深追いもしない。だから刃を納めてはくれないか?」

 余裕すら感じさせる奏と翼の態度は、悔しいが確かに両者の戦力差は明らかだ。しかしだからと言って降参したり引き下がる事が出来るほど、リヴァイアサンも聞き訳は良くなかった。

「……フンッ、お前らみたいな連中はそうやってすぐ余裕ぶる。自分が世界の中心みたいなその考え、反吐が出るね」
「耳に痛い言葉だが、実際問題お前今から逆転できるのか? 他に仲間居ないだろ?」

 軽く周囲を探ってみるが、他にジェネシスの魔法使いが隠れ潜んでいる気配は感じられない。よしんば居たとしてもそれは恐らく琥珀メイジか白メイジ程度だろう。最近は琥珀メイジも大分強くなってきた事を奏達も実感しているが、他のメイジがやって来ても負けるイメージが奏は想像できなかった。

 そんな奏の油断とも取れる余裕を察してか、リヴァイアサンは喉の奥で笑いながら立ち上がり銛を一旦その場に突き立てて右手の指輪を取り換えた。

「そういう油断が足元を掬う。仲間が居ない? なら出せばいいだけの話だ」
「何を……」
「チッ、させんッ!」

 何をするつもりなのかは分からないが、何かをするつもりなのは分かった翼は素早くリヴァイアサンに接近して魔法の使用を妨害しようとする。だがそれは一歩遅く、翼が肉迫した時にはリヴァイアサンの魔法は発動していた。

〈デュープ、ナーウ〉
「ハァァァァッ!!」

 リヴァイアサンの魔法が発動するのと、翼の刃が振り下ろされるのは殆ど同時であった。鋭い刃が真っ直ぐリヴァイアサンの脳天を唐竹に叩き切らんと迫るが、ギリギリ刃がリヴァイアサンに直撃する寸前、間に差し込まれた《銛の柄》が邪魔をした。

「なっ!?」
「その魔法は……!」

 突然気配もなく割って入った銛に驚愕する翼に対して、奏はその魔法が何であるかを知っていた為表情を険しくさせた。

 今リヴァイアサンが使った魔法は分身を作り出すデュープの魔法。颯人が良く使うコピーの魔法と違い、正真正銘の分身でありもう1人の術者として戦闘に参加する。特に厄介なのは分身自体も意志を持ったように動く事であり、魔力を消費するがあれさえあれば個人で徒党を組んで戦う事も可能であった。
 颯人が輝彦に欲しがり、しかし彼の手に渡れば絶対にロクな事に使わないだろうと言う事で輝彦が余程の事が無い限りは颯人に指輪を渡さない魔法として奏はあの魔法をよく知っていた。

 攻撃を受け止められた翼は体勢を整える為一旦距離を取ると、並び立った2人のリヴァイアサンが鏡合わせのように左右対称に構えを取った。

「「これで不足はないだろう。いや、寧ろ有利になったのはこちらの方かな?」」
「何ぃ?」
「どう言う意味だ?」

 ただ数を合わせただけで何故あちらの方が有利になると言われるのか、納得がいかない奏と翼が堪らず噛み付くと、分身と合わせて2人になったリヴァイアサンは同時に2人へと突撃した。

「「お前達は所詮2人でつるんでいるだけッ! 対して私は分身だッ! 思考が異なる2人と、最初から思考が同じ2人であればどちらの連携が優れているかなど一目瞭然ッ!」」

 素早く接近してきた2人のリヴァイアサンが同時に銛を突き出してきたので、奏と翼はそれをアームドギアで防いだ。するとリヴァイアサン達は全く同じ動きで銛を振るい叩き付ける様に振り下ろした銛が奏達のアームドギアを叩き重い一撃に2人の動きが思わず止まる。

「ぐっ!?」
「くそっ!?」

 2人の動きが止まったのを見ると、リヴァイアサン2人は正しく示し合わせた様に左右に分かれ、銛を床に突き立てそれを軸にして防御の為にがら空きとなった背中に蹴りを叩き込んだ。銛を敷くに自らの体を振り回しての遠心力を交えた蹴りは2人の体をサッカーボールのように軽々と蹴り飛ばして壁に叩き付けた。

「うわっ!?」
「がはっ!?」

 まるで水を得た魚の様な流れる連続攻撃に、思わずその場に膝をつきそうになる2人。リヴァイアサンはそんな2人を敢えて追撃せずに嘲った。

「「お前達にはユニゾンとか言うのがあるらしいが……これこそが本当のユニゾンだ。人間群れただけでは、連携に限界がある! それがお前達の限界という事だ」」

 そのリヴァイアサンの言葉は、奏と翼の心に火をつけた。確かに2人は分身のリヴァイアサンと違って個人の集まりだが、しかし個人の集まりだからこそ得られる力があると言う事をよく知っていた。

 それに何より、彼女達は装者として、そして歌姫として共に歩み研鑽を積んできたのだ。それを何も知らないあんな奴に侮辱されるのは我慢ならない。

「そいつは……聞き捨てならないなッ!」
「「ん?」」

 立ち上がった2人の目に宿るのは燃え上がる闘志の炎。2人で多くの人々を歌で魅了し、共に支え合ってきた誇りが力をくれた。

「貴様の様な独りよがりで良い気になっている輩に、共に並び立ち前に進む事の喜びなど分かるまい……!」
「行くぞ、翼ッ! 双翼の揃ったツヴァイウィングの力、見せつけてやるッ!」
「承知ッ!」

 並び立つ2人の歌姫が表すのは、双翼を広げた気高き不死鳥。2人の背後に炎を纏いながら羽搏くその姿を幻視したリヴァイアサンは、一瞬後退ろうとする足を気合で押し留め前に出た。

 対する奏達は口から歌を紡ぎながら相対する。それは普段ギアを纏っている時に口ずさむ唄ではなかった。2人にとって大切な、双翼としての誇りを示す歌…………

「聞こえますか、激情奏でるムジーク」
「天に」
「と・き・は・な・て!」

 歌詞の名前は『逆光のフリューゲル』、2人が組んでいるツヴァイウィングの代名詞とも言える楽曲である。2人でこれまでに何度も歌ってきたその歌詞は、例え戦いながらであっても寸分タイミングがズレる事無く歌う事が出来る。

 まるで歌に鼓舞された様に奏がアームドギアを力強く振り下ろせば、リヴァイアサンはそれを銛で受け流し行き場を失った槍はそのまま遺跡の床を粉砕した。本来であればそれは大きな隙であり、事実攻撃を受けなかった方のリヴァイアサンは槍を突き立てたばかりの奏を横から突こうと銛を持つ腕を引き絞っていた。

 しかしそれは翼が許さない。奏は翼がフォローしてくれることを信じて全力で攻撃したのだ。その期待に応えるように、翼が奏に攻撃しようとしていた方のリヴァイアサンに斬撃を放ち後退させる。

「くっ! 小癪な……!」
「その程度で……!」

 勢いを取り戻した奏と翼に一瞬押されそうになったリヴァイアサン達は、盛り返そうとするように何度も銛を振るい逆に2人を追い詰めていく。
 その間も2人の口からは歌が止まる事無く紡がれていた。

「遥か……」
「彼方……」
「星が……」
「音楽となった 彼の日!!」

 魔力によるブーストを受けているのか、リヴァイアサン達の振るう銛は信じられないほど重く2人は踏ん張ることも出来ず後ろに下がらされる。防ぐのに使っている武器が砕けてその後ろにある腕にも痺れが走る様な痛みが走る中、それでも2人の歌には狂いが生じる事無く舞台の上で歌っているのと何ら変わらない歌声が周囲に響き渡っていた。

 それもまた一つのユニゾンであった。ギアに使われている聖遺物に頼らない、2人の心が生み出した心からの歌が共鳴し合い2人に無限の力を与えてくれる。その力の前には、魔力だけを頼りにしたリヴァイアサンの力などちっぽけなものでしかなかった。

 戦っている内にそれを察したのか、リヴァイアサンの心にも焦りが浮かぶ。それを振り払うように一際力強く銛を振るい、奏と翼を後退させるとリヴァイアサン達は2人を挟む様に対角線に位置するように立ち同時に強力な魔法を放った。

「例え心を合わせようともッ!」
「ワイズマン様の為ならば、その程度の障害乗り越えてみせるッ!」
〈〈イエスッ! バニッシュストライク! アンダスタンドゥ?〉〉

 左右から同時に放たれた強力な魔力球。咄嗟に分かれて回避しようとした2人だったが、気付けば周囲には魔法の鎖が張り巡らされており逃げ場を失っていた。

 動けない2人を押し潰す様に左右から魔力球が襲い掛かり、ぶつかり合った魔力が大きな爆発を起こした。ウィザードに変身した颯人であっても耐えられないだろう一撃を喰らって、無事で済む筈がないとリヴァイアサン達は安堵に息を吐いた。

 だが安心したのも束の間、爆炎を切り裂くように光が溢れ出し、炎の翼が爆炎を吹き飛ばした。

「「なッ!?」」

「Yes, just believe……」

 放たれる光は、翼のアメノハバキリから放たれるアマルガムの光。そして爆炎を吹き飛ばしたのは、ウィザードギアブレイブとなった奏のギアから放たれる魔力であった。

「神様も知らない ヒカリで歴史を創ろう!!」
「逆光のシャワー……」
「未来照らす……」
「一緒に飛ばないか!!」
 奏が双刃となった槍を構え、翼がその名が示す様な広げられた翼の様な形状の大剣を構える。青い炎を纏った翼の大剣が空気を焼きながら振り下ろされ、奏が魔法で火炎を放ち攻撃を仕掛けると、2人のリヴァイアサンは慌ててその場を転がる様に回避しやり過ごした。

 だがこれで完全にリヴァイアサン達の連携は崩れた。元より思考が同じという事は、突発的な事態への対処も同じという事。予想を超える奏と翼の攻撃に焦ったリヴァイアサン達は、後先を考えるよりもまず回避を選んでしまいそれが勝敗を分けるカギとなった。

「涙で濡れたハネ 重くて羽撃けない日は Wish」

 リヴァイアサンが体勢を崩している間に、奏と翼は力を合わせた大技を放つ準備を整えていた。奏が槍を掲げるとその先に烈火の如く赤い炎で形作られた鳥が現れ、槍を振り下ろすとその鳥がリヴァイアサン達に襲い掛かる。更に翼が大剣を振るうと、放たれた青い炎の斬撃が奏の放った鳥を乗せる様に合わさった。

 迫る青い炎に乗った不死鳥の姿に、リヴァイアサンの判断は驚くほど速かった。

「チッ!」
「あっ!?」

 所詮相方は魔力で作られた分身。やられても戦力に影響はないとリヴァイアサンは隣に立つ分身の背中を乱暴に押してバランスを崩させ、その隙に自分は近くの扉から通路に飛び出した。肉盾にされた形の分身は扉から出ていった本体の背を一瞥し、そして迫る炎の壁を前に両手を上げて防御の体勢を取るしか出来なかった。

「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!?」
[双翼ノ情熱《-PAIRWING FLAME-]
「二人でなら 翼になれる Singing heart!!」

 分身のリヴァイアサンの断末魔の叫びが、炎の中に掻き消えていく。視界を覆う程の炎が威力を失って消えた時、そこには焼け焦げてボロボロになった遺跡の内部以外は何も残っていなかった。リヴァイアサンが分身を盾にして自分だけ逃げた所はチラリと見えていたので、まだ完全に安心はできないだろうが少なくとも直近の脅威は去ったと2人は安堵し互いに笑みを浮かべながら見つめ合いハイタッチを交わしてギアを解除した。

「へへっ……!」
「ふふっ……」

 2人が安堵していると、出し抜けに少し離れた所の壁が吹き飛んだ。まさかもうリヴァイアサンが反撃を仕掛けてきたのかとそちらを見れば、そこにはメデューサを押し倒して踏み付け、首筋にウィザーソードガンの刃を押し当てている颯人の姿があった。壁に開いた穴からはその後に続きファウストローブを纏った未来の姿のシェム・ハも出てくる。2人も無事である様子に奏と翼はそちらに向かい2人と合流した。

「颯人ッ! 未来ッ!……じゃなくて、今はシェム・ハか?」
「ん? おぉっ! 奏ッ!」
「そちらも無事みたいですね」
「我が居るのだ、当然だ」
「聞こえてたぜ、2人の歌。お陰でこちとら全開だったぜ!」

 戦っている内に颯人達と奏達は気付かぬ内に近付いていたらしい。壁を挟んだ先から聞こえてくる奏の歌声に、颯人は調子を上げていきメイジ達を叩きのめすとそのままの勢いでメドゥーサをも追い詰めていたのだ。
 そして今、メドゥーサは首筋に刃を押し付けられチェックを掛けられた。颯人とシェム・ハを相手に奮闘したが、流石に分が悪かったのかもうこれ以上の抵抗が出来るようには見えなかった。

「さ~て、年貢の納め時だぜメドゥーサ。お前らの企みは阻止させてもらう」

 管制室はマリアとガルド、セレナの3人が押さえており、今さっき入った通信で響達と調達も合流したらしい。管制室を完全にS.O.N.G.側が制圧しているこの状況では、ジェネシスの連中にはどうしようもない。
 そう思って颯人が勝ち誇れば、メドゥーサはそれを小馬鹿にしたように笑っていた。

「ふ、ふふふ……さて、それはどうかしら?」
「何だと?」

 不敵なメドゥーサの言葉に颯人が首を傾げていると、突然シェム・ハが焦りの声を上げた。

「なっ!? ま、まさか……!?」
「どうしたシェム・ハ?」
「え?」

 らしくないシェム・ハの様子に颯人達がそちらを見れば、肝心の彼女は何故か上を見上げている。釣られて3人も頭上を見上げると、そこには信じられない光景が広がっていた。

「な、何だあれ……!?」
「ち、地球が……」
「赤い……?」

 本来であれば青く輝く惑星である筈の地球。しかし今、彼らの故郷である水の惑星は怪しい赤い光を放っているのだった。 
 

 
後書き
という訳で第257話でした。

原作では遺跡でユニゾンを見せたのはマリアと翼ですが、本作ではツヴァイウィングの2人が本領を発揮してくれました。折角奏と翼が揃っているんですから、こういう2人のユニゾンも見せたかったので。
自分は基本小説の中に歌詞とかは必要以上に入れないんですが、この話だけは例外的に気合入れて逆光のフリューゲルの歌詞をモリモリにしました。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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