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無限世界

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第二章

「お亡くなりになった時もです」
「お顔がですね」
「とても穏やかなのですね」
「そうなのですね」
「そうです、お顔はです」 
 これはというのだ。
「お亡くなりになった時に全てを出します」
「その方がどういった方か」
「そのことをですね」
「出すのですね」
「そうです、おそらくあの方は」
 その亡くなった人はというのだ。
「涅槃に至っています」
「悟りを開かれ」
「解脱され」
「そうしてですね」
「そうです、お亡くなりになった時に」
 まさにその時にというのだ。
「そうなられたのです」
「そうなのですね」
「それがお顔に出ておられた」
「そうですか」
「思えば悪い人はお亡くなりになっても」
 そう言うべき者達はというのだ。
「悪いお顔ですね」
「確かに」
「徳も何も感じられない」
「卑しい顔だったりします」
「悪徳が浮き出た様な」
「そうです、そのことを見ますと」
 そうすると、というのだ。
「あの方が解脱されたことがわかります」
「人は死んだ時にわかりますか」
「解脱したかどうか」
「そのことが」
「長い間解脱について考えていました」
 そして僧侶として生きてきたがというのだ。
「ですが今日それがわかりました、ではこの生をです」
「生涯賭けてですね」
「修行され仏門を学ばれ人を救われますね」
「そうされますね」
「そうしていきます」
 こう言ってだった。
 赤心は僧侶としてそうした行いに励んで生きていった、そうして遂に彼もこの世を去る時がきたが。
 その時にだ、彼は枕元にいる弟子達に静かに微笑んだ、そのうえで目を閉じたが。
「何とよいお顔だ」
「実に安らかだ」
「何も曇りもない」
「澄み切ってさえいる」
「これ以上の往生はない」
「間違いない」
 弟子達の誰もが思った。
「老師は悟りを開かれた」
「解脱された」
「無限の輪廻から抜け出された」
「このお顔が何よりの証だ」
 その何の恐怖も憂いもない悟りきった顔を見て口々に言った、そうしてこの話を世に伝えたのだった。人は死んだ時に涅槃を脱していればそれが出るのだと。


無限世界   完


                     2024・11・11 
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