下手な哲学書
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第七章
「実際はね」
「何もない」
「自分がよく思われたいだけね」
「そう思うと本当に何もないわね」
「下手な哲学書ってね」
こう聡子に話した。
「下らないものね」
「哲学だから凄いか」
「考えてみたら違うしね」
「誰だって人のこと考えたら」
「それで哲学だしね」
「そもそも哲学自体偉くなくて」
聡子も言った。
「他の学問と同じで」
「本としてもラノベや純文学と変わらない」
「漫画ともね」
「というか面白い漫画、しっかりした漫画は」
美利は真面目な顔で言い切った。
「下手な哲学書なんかね」
「めじゃないわね」
「面白くてわかりやすくてね」
「しかもしっかりした中身がある」
「そうだからね」
それでというのだ。
「こっちの方がね」
「読むといいわね」
「下手な哲学書読むより」
それよりもというのだ。
「面白いラノベや文学を読んで」
「漫画も読む」
「その方がずっといいわね」
「じゃあ今読んでる哲学書どうするの?」
聡子は美利に尋ねた。
「それで」
「もういいわ」
聡子はあっさりと答えた。
「読むの止めるわ」
「何もないから」
「そう、文章下手で説明もそうでしかも中身がないうえにね」
「全く面白くないわね」
「そんな本読むだけ時間の無駄だから」
それ故にというのだ。
「読まないわ」
「その方がいいわね」
「ええ、だからね」
それでというのだ。
「もう読まないでね」
「本買ったの」
「図書館で借りたのよ」
そうだというのだ。
「実はね」
「けれどもう返すわね」
「そうするわ」
あっさりとした口調は変わらなかった、そして実際にだった。
美利はその本を返した、そうして哲学書を読むことはなかった。だがそれで困ったことは人生で一度もなかった。
下手な哲学書 完
2025・5・27
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