車椅子の大統領
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第二章
「ルーズベルトさんね」
「二人いなかった?ルーズベルトさんって」
勉強熱心な千佳はこのことも知っていた、兄程ではないが学校の成績はかなり優秀なことで知られている。
「確か」
「そう、二次大戦の頃の人だよ」
「最初の人は日露戦争の頃の人ね」
「そうでね、二次大戦の方の人はね」
フランクリン=ルーズベルトはというのだ。
「小児麻痺にかかったことがあって」
「それでなの」
「足が悪くてね」
「それで車椅子に乗っていたの」
「乗ることもあったんだ」
そうだったというのだ。
「公ではひた隠しにしていたけれど」
「お身体が弱いって思われなくて」
「やっぱり大統領は健康でないとね」
寿はこの現実を話した。
「駄目だからね」
「それでなのね」
「そう、イメージダウンになるから」
足が悪いことがというのだ。
「それでね」
「隠していたのね」
「そうだったんだ」
「成程ね」
「けれど車椅子を使っていたことは事実で」
「そうした大統領もいたのね」
「けれどちゃんと」
身体のハンデはあったがというのだ。
「大統領の責務は全うしていたよ」
「お仕事はしていたのね」
「そうだよ、足が悪くても江夏さんも投げたし」
「ルーズベルトさんも大統領を務めたから」
「足、身体が悪くてもね」
それでもというのだ。
「関係ないよ」
「身体がどうでもね」
「江夏さんを観ても思ったし」
甲子園での彼の始球式をというのだ。
「ルーズベルトさんもそうだったし」
「身体は関係ないわね」
「ハンデがあってもね。人は変わらないよ」
「そうね、それに私達も何時どうなるかわからないわね」
「事故でも遭えば」
寿はそうなればとすぐに答えた。
「ハンデが出来るよ」
「そうなるわね」
「足とか手が悪くなってね」
「身体の他の部分も」
「そうなって」
それでというのだ。
「本当に誰でもなるよ」
「事故にでも遭えば」
「だからね」
それでというのだ。
「車椅子でも何でもね」
「身体を壊すとね」
「ハンデが出来ることは覚えておかないとね」
「ええ、本当にね」
千佳は北別府学、ずっと好きだったカープの大エースのことを思い出しながらそのうえで兄の言葉に頷いた。
「覚えておくわ」
「そのことがわかったよ、僕もあらためてね」
今日の始球式でとだ、こう話してだった。
二人はそれぞれの部屋に入って彼等の時間に入った、だが彼等の心にはハンデについて確かなものが宿ったことは同じだった。
車椅子の大統領 完
2025・5・25
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