イクラとキャビア
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第二章
「こうして食べるんだ」
「パンやお魚の上に乗せて」
「それで食べるの」
「そうして食べるんだ」
こう娘達に話した。
「じゃあいいな」
「うん、それじゃあね」
「頂くわ」
娘達も応えてだった。
二人揃っていただきますを言ってからキャビアを使った料理を食べた、父はパンもカルパッチョも食べた娘達に尋ねた。
「美味しいか?」
「ううん、美味しいけれど」
「それでもね」
娘達は微妙な表情で答えた。
「イクラの方が美味しいわ」
「そうよね」
「イクラをご飯にかけた方がね」
「イクラのお寿司とかね」
「そっちの方がいいわね」
「そうよね」
「そうか、まあお父さんもだしな」
父もキャビアを食べつつ応えた。
「イクラの方が好きだな」
「そうなのよね、珍味っていっても」
妻も言ってきた。
「それでもね」
「イクラの方がいいな」
「あっちでもイクラ食べるのよね」
「ロシアだとキャビアは魚の卵全体だったな」
それを総称してキャビアと呼ぶというのだ。
「だからな」
「イクラもキャビアね」
「あっちじゃイクラは何でもないものみたいだが」
「キャビアの方がずっと好かれていて」
「けれどな」
それでもというのだ。
「ご飯に合うしな」
「日本じゃイクラね」
「そっちの方がいいな」
「そうなのよね」
「うん、イクラの方がずっと好きよ」
また真子が言ってきた。
「イクラ丼最高よ」
「あっちの方がずっといいわ」
陽子も言う。
「お寿司だってね」
「わかった、それじゃあな」
「今度からイクラにするわね」
両親揃って娘達に告げた、そして実際にこの家では二度とキャビアを買うことはなかった。二人は成長してもイクラは好きだった、だがキャビアに興味を向けることはなかった。
イクラとキャビア 完
2025・5・17
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