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外道戦記ワーストSEED

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断章1話 黒髭と呼ばれた男(中編)

 四田・カイ(ヨツダ・カイ)の人生は、とある時期まで平々凡々な日々であった。

 だらだらと過ごす学校では、成績も並、運動も並。

 世の中を斜に構えてみて、政治家の陰口をたたき、嫌いなセンコーの話題でちょい悪な仲間とつるみ、仲間内で徹夜で麻雀したり、大人な読み物や飲み物を嗜んでみたりしていた。

 そんな日々が終わったのは、中学三年で近所に越してきた『ミハル』という少女に出会ってからであった。

 「申し訳ないけど家が貧乏でね。弟や妹の面倒みる必要があるから、あたいは部活も委員会も出来ないんだ。だけど仲良くしてくれると助かるよ!」

 転校初日にそういってクラスメイトに頭を下げた少女は、綺麗な顔立ちと相反して、なんとも勿体ない風体であった。

安いヘヤゴムで髪を2つに束ねた髪型。

 化粧もリップを差す程度で、洗剤で手が痛むのか、香水の代わりに市販の薬用ハンドクリームの香りが香る少女であった。

 だが、カイにはそれが『ツボ』だった。

 貧しさや忙しさに折れない、凛とした花のような美しさ。

 それに、カイは心から惚れてしまった。

 そう、思春期によくある『恋』とかいう小っ恥ずかしい奴である。

 まあ、『はしか』のように、殆どの恋は蕾で枯れる、そんな程度のものである。

 だが、彼は本気だった。

 仲の良いクラスメイトに頭を下げ、彼女の家が軍人上がりの土建屋の家だと聞けば、慣れないガテン系のアルバイターとしてその会社の下請けを手伝い、湿布だらけで悶絶した。

 学業の合間に、弟と妹の手を引いて、買い物をする彼女を見たカイは、彼女にますますぞっこんになった。

 だから彼は、母親に正気かと疑われながらも、料理、洗濯と家事を手伝い、彼女との話題を作った。

 そうやって、努力して半年。

 ミハルより先に仲良くなった弟と妹に見守られながらの告白の結果は……

「ここで断ったらわたしゃ悪人じゃないか。全く、こんな貧乏女に惚れるなんて見る目がないね……嬉しいけどさ」

 カイは嬉しさのあまり家まで全力疾走し、2階の自分の部屋に上がる階段でコケて足を捻挫した。

 最初のデートは、彼女が笑いを堪えながら自宅に見舞いにきてくれたことを、未だに覚えている。

 そうやって、彼女と一緒に、慎ましく暮らしていきたかったカイの人生を、激化するプラントと地球の仲と、コーディネーターとナチュラルの戦争が台無しにした。

 エイプリルフール・クライシスは致命的なきっかけに過ぎない。

 その前から、静かに、だが確かに日常は壊れ始めていた。

 親父さんがミハルや子供達を『コーディネーター』にしたのは、亡くなった妻の要望だったらしい。

 『自分と違う丈夫な身体を子供にあげたい』

 そんな『祈り』であったはずの処置は、世間の諍いや圧力によって差別の温床となった。

 あいつの家、プラントに内通しているらしいぞ……

 そんなくだらない噂で、親父さんの仕事が減った。

 コーディネーターならば飢餓にも強いはずだと、滅茶苦茶な理論で市役所からの配給も減った。

 それとなく、だが確実に地球圏でのコーディネーター差別は各国に蔓延し。

 最後の仕上げとばかり、コーディネーターが地球の全世界規模の窮乏の原因となった『エイプリルフール・クライシス』が差別を『正当化』するのを助長してしまった。

 なんせ、コーディネーターがわざわざ犯行声明まで出してくれたのだ。

 叩くネタになるのに、これ以上のものは無かった。

 勿論、突然仲が良い皆が皆豹変するようなホラーなことはなかったが。

 ゆっくりと、遠くから締めるように『差別』は生活を締め付けた。

 実際、エイプリルフール・クライシス後、あまりの外的圧力にかなりの数のカップルが破局したと聞くが、カイは違った。

 目をつけられている義父とミハルの代わりに、ナチュラルの自分が配給を貰い、皆に配った。

 就職した新聞社の取材で食品工場の視察に行くときは、責任者に頭を下げ、密閉に失敗した缶詰や期限切れの缶詰を貰い、ミハルやその家族の腹を満たした。

 ミハルや義理の父から離縁を提案されたが蹴った。

 自慢じゃないが、恐らくこの国でヤミ米、ヤミ食料をこの時期稼いだのは自分だと自負できるほど、カイは働き、成果を食料に変え、家族全員を飢えさせなかった。

 だが、足りない。

 育ち盛りを二人抱え、自分の家族も含めると大人が6人。

 今は辛うじて乾燥食料を貯められても、いずれ近いうちに足りなくなるのは自明の理だった。

 飢えは、病気や体調不良を誘発し、働く事に支障をきたす。

 一気に稼ぎたかった。

 その時、『その仕事』がうちの街にも舞い込んできた。

『ザフト機動兵器視察兵』

 そう題された、実際はカメラ一つで連合が相対する、ザフトの情報を抜いてくる文字通り『死兵』

 完全出来高制、しかし目が飛び出る報酬につられ、どう考えても死亡フラグ満載な俺が生き残れたのは、単純に運が良かったからだ。

 運命の女神の慈悲か。

 一発目で『大西洋の死神』の部隊に合えたのだから。

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 かなりの頻度で往復を行っていたため、かなり時期は曖昧だが。

 世界樹防衛戦が終わり、世界樹コロニーの基地や住居部分の再建が進む中、ジョンは何処にいたかというと、地上に降りて、大西洋連邦を中心に、未だザフトの勢力下にない地域を積極的に回り、地上に降り立ったザフトのジンを中心としたモビルスーツ戦力の破壊、拿捕を行っていた。

 何故、こんなドサ周りが必要か?

 サイクロプスによる自爆戦術で下士官の信頼を大きく損なったからである。

 勝利と引き換えに宇宙軍の中堅の2割が死亡。1割がサイクロプス事変で休職、退職を余儀なくされた宇宙軍は、平均年齢下がってよかったね、と皮肉られるくらいルーキーの比率が増えた。

 じゃあ、地上はというと撤退戦で損耗を続け、こちらも新人だらけ。

 不信を抱き、新人の面倒でストレスフルな下士官達に、目に見える形で連合上層部の『努力』を見せる必要があった。

 だからモビルスーツ操縦などのノウハウの蓄積がある我々の部隊が、ある程度モビルスーツの教導や現地のザフトの脅威を自戦力で取り除く事で、地球連合全体に蔓延する『不信感』を払拭する必要があったのだ。

 そんなに急いで各国を回る必要があったのか?

 あった。何故なら、現状の軍のキルレシオに差がありすぎたから。

 無論、サイクロプスでプラントの戦力も相当数焼いたので地上に下ろすザフト側の戦力も予定より減っている筈だが、残念ながらじゃあ具体的な数は?と聞かれても誰も調べていなかったし、現状、最も戦場で有用である機動兵器のキルレシオは連合:ザフトで1:5。

 この数字は、対策を立てなければ、地球連合は小数のザフトの機動兵器で壊滅することを示していた。

 どれだけ金を積もうと、兵器を揃えようと、それを使う『人』がいなければ話にならない。

 流石に、ブルーコスモスにかぶれた上層部もそこは理解してくれたらしい。

 連合の勢力の中では一番の大西洋連邦の佐官とはいえ、どさくさにまぎれて、コーディネーターやハーフコーディネーターの軍籍を回復の手続きを地球連合軍に上奏し、可決できたのは、なんのこともない、もはや上層部もなりふり構ってられなくなったからである。

 勿論、ハルバートン少将以下、いわゆる中立派閥に話を通しておいたのはそうだが、恐らく有事でなければ上奏段階で却下されていただろう。

 だが、この期に及んでブルーコスモスの差別は著しく。

 特に地球軍のモビルスーツ関連のパイロットをコーディネーターにすると、露骨に嫌な顔をされる。

 ならどうすれば良いのか?

 その矛盾を、無理やり解決する手法が『これ』であった。

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「えー、ジョン・レイス中佐の尽力により、我が隊の一部がナチュラルの身でモビルスーツ操作が可能となった。それを称え、協賛のアズラエル財団より寄与された地球連合謹製のモビルスーツを与えるものとする」

 この『喜劇』に冷めている自分を自覚しながらも、努めて笑顔で、ジョン・レイスは眼の前の新任少尉に、賞状を渡した。

「おめでとう!よく頑張ったね」

(こんな真似をしなければ、彼らをモビルスーツに乗せられないとは)

 彼、彼女らがコーディネーター、もしくはハーフコーディネーターだから、努力をしていないわけでは決してない。

 むしろ、彼らは地上のコーディネーターに降りかかる差別を払拭させるために立った、立派な人間であった。

 だが、連合の根強い差別主義者の妨害にあい、今はアズラエル財団に雇われた、外部協力者として連合解雇→アズラエル旗下で戦時雇用という形で雇われている。

 ナチュラルという偽装付きでだ。

 その無意味さに内心ため息をつきながら、自分たちの写真をとる、遠征で一番の『成果』を見て心身の平静を保っていた。

 『四田・カイ』

 事情を聞けば、東方の連合の基地司令に利用されていたらしい。

 聞けば家族のために金が必要とのことなので、きっちり処分を伴う抗議を中枢に進言してからこちらの下に移籍させた。

 自分に火の粉がかからないように金で釣って、偵察を民間人に委託とか、正気じゃないだろ(連合から認可を得たかのようなポスターも作っていたらしいので、これも公文書偽造で追加報告しておいた。カイ君のカメラにデータがあったので)

 まあ、仕事熱心で優秀な人間を潰される前に保護しただけでも、良しとしよう。

 そう自分を納得させ、壇上から降りて広報課に引き継いだ後ろに、苦虫を噛み潰したかのような顔のイヴがいた。

「……言いにくそうだけど、次は何?」

彼女は答えた。

「旧国境近く、一部の街が防衛計画から漏れてる、多分襲われてる」

……くそっ!

 こちらも神様ではない。

 ニュートロンジャマーのせいでレーダー等の索敵が難しい以上、取りこぼし無しはありえないが、人為的ミスで民間人を危険に晒すのは本当に嫌になる。

 セットした七三分けを手で崩しながら、頭をフル回転させる。

 セレモニー中に言ってきたということは、かなり危機的状況なのだろう。

 なら、ごたごた言ってる暇はない。

「理由は後で聞くが、その位置なら事前に渡された基地司令の地図に掲載されていない。詰問案件だ。大西洋連邦の戦艦クルーに、防衛任務放棄と偽装の罪で司令を一時拘束させた後、叙勲したパイロット含め出せる戦力纏めて出撃する。……『嫌な感覚は強いか?』」

「うん。だけど、事前に聞いた所によると、山岳が入り組んでいるみたいだから、私が先導して案内するわ」

 そう話し、2人分のモビルスーツを手配する彼女を横目に、まずは我々のやりとりを見て察してくれ、準備してくれているアズラエル財閥の社員に話をしにいく。

 ……本当に世も末だよ。

断章1話 黒髭と呼ばれた男(中編) 了

  
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