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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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Part2/誰も知らない二人の再会

シュウとタバサ。実はこの二人には面識があった。それは今から数か月前…キュルケとともにオリヴァンの不登校を直すという任務よりも前のことだ。

平民向け舞踏会準備に勤しむサイトたちを語る前に、その時のことを明かそう。

数年前より、ガリア王家内で起きた父オルレアン公の派閥と、叔父である現ガリア国王ジョセフの派閥の政争の果てに、父を亡くし没落したことをきっかけに北花壇騎士の『人形7号』として危険な任務を任されてしまうようになったタバサ。
ある日タバサはガリア国内のとある場所で暴れていたとされる魔物『ミノタウロス』と戦うことになるのだが、この戦いはあの意地悪な従姉妹の王女イザベラからの依頼ではなかった。
タバサとシュウの現状誰も知らないその共闘の詳細を今からここに綴る…

ガリア国内のとある煉瓦造りの城壁に囲われた、城壁と同じ煉瓦の宿場街。主要な街道から外れているためかここを利用する馬車や旅人は少ない。
その町の一角にある一軒の酒場。そこに、一人の青い髪の女性が入店した。その格好は、ちょっとまずいものであった。体がすっぽり入るくらいのマントを羽織って、それをベルト代わりの蔦で固定している。露出度で言えばバスローブ並みだ。それを、まだ幼い少女のようなあどけなさを残した、それもスタイルの良い美少女が恥じらいもなくしている。どこぞのよからぬ男に狙われるかもしれないし、ここにサイトやギーシュがいたら鼻の下が伸びているかもしれない。
「へいらっしゃい。…へぇ、別嬪さんがお客か」
店内は粗末なテーブルが三つ、客として老婆が一人、行商人の二人組、加えて青年が一人。今入店した女性に声をかけたのは、奥のカウンターに立っていた中年の太った店長だ。
「別嬪!シルフィが別嬪…ふふん、当然なのね!なんたってシルフィは……ごふん」
シルフィと名乗った女性は容姿を褒められて得意げになるもんだ何かを言いかけて思わずしまったとでも言いたげに口を覆ってわざとらしく咳払いした。
「…で、注文は?」
「お肉なのね!」
店長はシルフィの言いかけた言葉を敢えて聞かず、注文を聞く。
「はいよ。んじゃ別嬪さん、お勘定」
ほれっと、手を出して金をせがむ店長。シルフィは二度目のしまった!と言いたげな表情を浮かべる。
「お金、持ってないのね…」
「お客さん、悪いが金がねぇなら、いくら美人でも飯はくれてやれねぇな。ってか、あんたよく見たらひでぇ格好だな。金がねぇのはマジらしいな」
店長は、シルフィの格好を見て、浮浪者なのだろうと捉える。こんな乱れた格好をしているのならお金がないほど困窮しているのかもしれない。
「そ、そこをなんとかお願いするのね!シルフィお腹がもうぺこぺこなのね!」
「ダメだダメだ。食わせて欲しけりゃ金を持って来てくれや。金のない奴に作る飯は無ぇ」
しかしこちらもこれで商売している身だ。特別扱いなどできない。金が払えないなら追い返すだけだ。店長はシルフィの物乞いじみた懇願はもう聞き入れまいと厨房へ引っ込んでいってしまう。
お金がないのならどうしようもない。シルフィは結局腹ペコなのを我慢して、いったん店を出るしかなかった。
「うぅ、お腹空いたのね」
外へ出るや否や、ギュルルル…と腹の虫が鳴り響く。一曲何か奏でられそうなほどだ。こうなれば、『あのお方』に小遣いをせびるしかない。脳裏をよぎった、『自分の主君』の元へ歩き出す。
「けどあの青い小娘め…シルフィのお腹を満たすお金は中々出さないくせに、自分は腹の足しにもならない黴臭い本なんかのためにお金を使うばっかりなのね。シルフィの一族がどれだけ凄いのかも本気で分かってないのね」
街を歩きながらぶつぶつと、自分の主君に対する文句を述べていくシルフィ。
「お嬢さん、何か困っているようだね」
そんな彼女の前に、男性がシルフィの元へ歩み寄ってきた。
「叔父さんは?」
何者かを問うシルフィ。そんな問いかけをした際だが、彼女は何となく嗅覚に違和感を覚えた。どこかで嗅いだことがあるような、獣臭い匂いだ。
(なんだか動物臭い匂いなのね、でもこれ、シルフィの匂いじゃないのね)
だが、そのにおいのもととなるような何者かの気配はない。自分も匂いとも異なる。だったらどこが発生源なのか。
「私は、旅の傭兵メイジさ。主に魔物討伐の依頼を引き受けている。良ければ私が奢ろう」
メイジを名乗るその男性は、名乗っている通りメイジの証とされる立派なマントと、それを固定する五芒星の印がある。メイジといえば貴族、安泰な暮らしをするなら実家にいれば問題ないはずなのだが、家督争いや金銭面での事情等で貴族の名を失い各地を放浪とする話はある。彼もその一人かもしれない。
「奢ってくれるのね!?」
その男の身なりの良さもあり、シルフィは、そのメイジがなぜ自分の金銭面の窮地を救ってくれようとしているのかを怪しむこともなく、奢ってもらえる…正確には飯にありつける喜びに溺れた。
「ではちょっと待っててくれ」
男は自身の手荷物袋に手を突っ込み、財布を探る。だが、いつになっても彼は財布を取り出せず探り続けている。
「おじさん、どうしたのね?もしかして…お財布無くしちゃったのね?」
「済まない。ちょうどお金が切れてしまっていたようだ」
「えぇ~!どうするのね!それじゃご飯食べられないのね!」
喜びから一転して絶望の声を上げるシルフィ。
「幸いあそこの路地裏を通ればすぐに銀行に行けるはずだ。悪いが付いて来てくれるかね」
「本当にお金は大丈夫なのね?」
「これでも貴族だ。貯金のない貴族なんて格好つかないものだろう」
男は苦笑しながら、
「ちょっと待て」
そんな二人を引き止める声が聞こえてきた。
「そこの女をどこへ連れていく気だ」
その青年は、アルビオンにいるはずのシュウだった。
「なんだ君は?連れていくだなんて、まるで私が彼女に、人には言えない何かをやろうとしているように聞こえるじゃないか」
「銀行ならこの街にはない」
シュウはバッサリ切り捨てるように言った。
「最近、この街とその一帯に点在する区域にて、主に若い女や子供を中心とした行方不明者が多発している。もしや、あんたがそれなのか?」
シュウがなぜここにいるのか。それは彼が当時アルビオンのウエストウッド村を拠点に、各地で発生した怪獣やスペースビーストの脅威を超能力で察知し、ストーンフリューゲルで飛び回って対処していた。
この時もそのために、この街を訪れていた。
「…あぁ、済まない。各地での傭兵暮らしが長引きすぎて、各地域の情報に疎かったな。誤解を招いたことを謝罪する。私は断じて、人攫いのつもりで彼女を連れまわしていたわけではない。どうも彼女、ずいぶん空腹の用でね」
ギュルルル…とまたも良いタイミングでシルフィの腹の虫が鳴る。
「見ての通り、シルフィお腹空いてるのね。おいしいお肉がないと力が出ないのね…もうお姉さまの元まで戻るには元気が足りないのね」
イルククゥは、早くこの男にどこかへいくか、あるいは奢ってもらうかどちらかして欲しいと切に願った。もう腹が減るに減りまくって、もうそこら辺のものにすらかぶりつきたくなるほどの空腹であった。
「金ならある」
そう言ってシュウは、自分の財布袋を見せつけた。




チャリンとカウンターの上に銀貨が数枚転がった。
あの後、シュウに連れられ、シルフィとメイジの男は、シルフィが追い返された飲食店へと戻ってきていた。
「これでいいか?俺たちの分もセットで頼む」
当時ウエストウッド村で暮らしていた彼はマチルダやテファの事情を鑑みて、自分や子供たちを養うためにも時折日雇いのアルバイトもやっていた。今のお金は、アルビオンで短期のバイトをしていた時の給金と、マチルダがくれた小遣いの一部。
「…そこのにいちゃんに感謝しろよ。んじゃ、少々お待ちくだせぇ」
店長はそう言いながらシュウから金を頂き、お釣りの銅貨を返したところで厨房へと向かって調理し始める。
「ありがとうなのね!見ず知らずのシルフィのために奢ってくれるなんて、あなたたちいい人なのね…って」
子供のようにはしゃぎながら感謝を述べて来たシルフィはシュウの顔を見てあ!と声を上げる。
「そういえばあなた、前に会ったことあるのね!確か…」
「おや、知り合いだったのかね?」
「俺はお前の顔など見たことないが?」
今のシュウの言葉を聞いて、またもシルフィはしまったと口を覆う。これで3度目だ。元よりプロメテの子であるシュウは記憶力が優れている。彼の記憶する限り、シルフィの顔は見たことがなかった。
「あまり騒ぐと他の客の迷惑になるな。ひとまず座ろう」
メイジの男はそう言いながらシュウの隣のテーブル席へと座り、料理の配膳を待つ。シルフィはとりあえず奢ってもらったので、シュウと同じテーブルに同席した。
シュウは料理を待っている間、この町の周辺を記した地図を眺めていた。地図にはいくつかバツ印や丸印やら描かれている。
「なにやってるのね?ここはご飯を食べる場所なのね。野暮なことはしないほうがいいのね」
「お前には関係のないことだ」
テーブルマナーについて問うてくるシルフィだが、シュウは適当な返事を返して地図を眺め続ける。
「君、少女を相手に、その言い方はどうなのだね?」
メイジの男は肩をすくめながら言ったが、シュウは地図に目を向けるばかりで聞いていないようであった。
しばらくして、二人の料理が運ばれてきた。肉や野菜を大いに盛った料理の山にシルフィの目が輝き、いただきも言わずに自分の分の皿に手をかけ肉を頬張る。
「むっふ~♪お肉おいしいのねぇ!」
「ずいぶん肉料理が好きなのだね君は」
「もちろんなのね!お肉に勝る食べ物なんてこの世にないのね!」
シルフィは、食べっぷりをメイジの男に見られ恥じらうこともなく頬張り続けた。行儀はあまり良くないがとても甥緋想に喰らうその姿は、見る者によってはまるで野生児のようにもとれるかもしれない。
「まぁ肉が好き、というのは私も同意だ。塩をかけてから食らいついた時の口に広がる肉汁と塩の絡み具合、あれは最高だ」
「叔父さん話が分かる人なのね!ねぇねぇ、お兄さんもおいしいって思わない?」
「…」
シュウも料理に手を付けるが、地図を見ながら片手のままで、だ。シルフィはシュウを見てちょっとと声をかける。
「………」
「もしもし?聞こえてる?ごはんを食べてる間くらい地図を閉じるのね。地図が汚れちゃうのね」
「………」
「…まるであの青い本の虫の小娘みたいなのね。せっかくかっこいい顔してるのにもったいないのね。もっと愛想よくする方がいいのね」
「………」
再度シルフィに声をかけられてもシュウは何も言わず、飯を食いながら地図をずっと眺め続けている。つまんない男だと思ったシルフィは、シュウを放って料理を平らげていくことにした。
「…おい」
「ごちそうさま!…なんなのね」
ちょうど食事を終えたシルフィは、さっきまではこちらの言葉に耳も貸していなかったのに、そっちから声をかけるのは良いのかと、私腹の一時に水を差されて気を損ねる。
「この辺りで暴れている怪物の話は聞いてるか?」
「怪物?なんでそんなこと気にするのね?」
「探しているんだ。この辺りにいることだけはわかっているが正確な場所を知りたい」
「ほう、君も魔物退治を生業としているのか?」
シュウが怪物を探していると聞いて、メイジの男は彼が討伐依頼を受けてここへ来たのだろうかと推測
した。
「あんたもか?」
「あぁ、同業者とこうして会うのは久しぶりだな。しかし若いな。それに君は見たところ貴族でもメイジでもないようだが」
「メイジでなければやってはならない理由もないだろ」
「それもそうだが、魔法も使わずに魔物と戦うなど、よほど勇敢でなければ行えないことだ。君はきっと勇気ある者だ」
「俺は、後悔したくないだけだ。できることがあるのに何もせずにいると、無駄に後悔する」
すると、二人の会話を聞いて別席に座っていた老婆が立ち上がった。
「あんた…もしかしてラルカス様かい?」
「む…」
メイジの男が老婆に反応する。
「おぉ、やはりそのお顔、ラルカス様じゃ!
生きておられたとは!またこうしてお会いできるとは…これも始祖ブリミルのお導きじゃ!!」
老婆はメイジの男…改めラルカスの顔を見ると、相当待ち望んでいたのかいたく感涙していた。
「ご老人、もしや…私と以前どこかでお会いしたのか?」
「あぁ、失礼をいたしましたのじゃ。わしはドミニクという者です。以前わしの村…エズレ村を救ってくださった恩、昨日のことのように覚えておりますのじゃ」
「エズレ村…おぉ、思い出したぞ。あの村の」
「思い出してくださいましたか!」
ラルカスは、老婆…ドミニクの言葉を聞いて、彼女や村のことを思い出した。ドミニクは思い出してくれたことにますます喜んだ。
「あれからご健勝のようでよかった。村もあれから良くなったのではないか?」
ラルカスが、ドミニクの村の調子を尋ねるも、そこでドミニクは喜びから一転して、暗い表情を浮かべ出した。
「お婆さん、もしかしておなかすいてるの?」
「違います!わしは物乞いではございませぬ!ラルカス様に今一度もどうしてもお願いしたいことがございますのじゃ!」
ドミニクはシルフィの言葉に対し首を横に振ると、店長が老婆を見てその肩を掴んできた。
「婆さん、商売の邪魔だ!そういうのはよそでやりな!大体そこのお方は貴族様だろ!顔見知りみたいだが、厚かましいったらないぜ!」
「お前さんには話しとらんわ!…ごほっ!」
ドミニクは相当鬼気迫っているようで、老いた体を顧みずに店長を振り払ったせいで酷くせき込んでしまう。
「お婆さん!」
崩れ落ちて膝をつくドミニクを、シルフィとシュウの二人が支える。
「店主、グラスを」
「大丈夫」
ドミニクの顔色を伺ったラルカスが店長にグラスを求めると、新たに出た小さな声がそれを阻むように飛んできた。
中空に水球が現れ、それは水流となってひとりでに、他の皆を避けながらドミニクの口の中に入り込んでいく。ドミニクはその水を飲むと、顔色に落ち着きが戻っていく。
「はぁ、はぁ…あ、ありがとうございますじゃ」
ドミニクはシュウに肩を借りながら、椅子に座り直った。
「遅い」
「お姉さま!」
小さな声と共に、カツカツと歩み寄ってくる声の主。その人物を見て、シルフィは声を上げた。


「ごめんなさい。私の連れ…『イルククゥ』が迷惑をかけた」
タバサはシルフィ…改めイルククゥを横に歩かせ、後ろでドミニクをおぶりながら着いて来るラルカスとシュウに謝罪する。ドミニクは見ての通りの老人であまり体力もないため、それを慮ったラルカスがおんぶすることを引き受けた。
イルククゥは気まずそうに縮こまっていた。二人は顔見知りらしい。
「大丈夫だ。少し騒がしかっただけだ」
「大丈夫に聞こえないのね…ぎゅい!?」
「この子も反省してる」
シュウの言動にイルククゥがポツリと呟くが、途端に彼女の顔が苦痛で歪む。シュウの視点からは見えなかったが、今の彼女はタバサに尻を抓られていた。痛みに耐えるイルククゥの横眼には、なぜか窓から差し込む逆光でメガネのレンズの向こうに見えるはずのタバサの青い瞳が全く見えなかった。
「うぅ…お姉さま、いくらなんでも今回はまずいのね。ミノタウロスの退治なんて無謀なのね」
イルククゥは抓られた尻をさすりながらタバサにそう言った。
「よもやと思っていたが、まさかミノタウロスとはな」
ラルカスは、イルククゥの口にした魔物の名を口にして唸り出す。
今、シュウたちはエズレ村へと向かっていた。ドミニクがシュウたちに依頼したのは、エズラ村の洞窟に住み着いたという『ミノタウロスの退治』。
「そんなに恐ろしい怪物なのか?」
「恐ろしい、の一言で済むものじゃないのね!」
シュウは、ギリシャ神話に登場する怪物としてミノタウロスの名前くらいは聞いたことあるが、この異世界で実在する魔物だと聞き、興味を示した。イルククゥにはそんなシュウが呑気すぎると取れた。
ミノタウロスの討伐と聞いて、イルククゥはタバサに断るよう必死に訴えた。
彼女曰く、ミノタウロスは異常な生命力を持ち、その証拠として首を刎ねられたとしても動ける上、それ以前にその皮膚は鋼鉄並みの固さを誇る。そのくせ洞窟に引きこもっておいそれと外には出てこない。その環境下だと風魔法は十分な威力を発揮できない。しかもタバサは切り裂いたり突き刺したりする魔法を得意とし、身軽さも駆使しているため、系統魔法や地の利に加えてフィジカル面においても、頑強なミノタウロスとはあまりに相性が悪いことは想像に容易かった。
「知ってる」
タバサは淡々と答えた。
「知ってるならやめた方がいいのね。お姉さまの魔法じゃミノタウロスに挑むなんて自殺行為なのね。大体これ、あの意地悪な姫の依頼でも…いぎ!?」
余計なことを言うなと、タバサは再びイルククゥの尻を抓る。今はキュルケに知られてはいるが、他人であるシュウやドミニクにホイホイ喋るようなことではない。イルククゥはどうやら、タバサの秘密についても深く知っているようだ。
「この少女が懸念するのも致し方ない。実は10年前にエズレ村を訪れた際も、ミノタウロスが村付近の洞窟に隠れて、村人の若い少女を食らっていた」
ラルカスが、かつてエズレ村を訪れた時のことを思い出しながらそう言った。ドミニクがそれに続くようにタバサたちにも説明していく。
「ええ。村の者たちはその時も今回のように、ミノタウロスを退治してくれる騎士様を探し、ある日ラルカス様と出会いました。このお方は、街を通りがかったところで私たちの事情を聞き、快く引き受けてくださったのです。このエズレ村は貧しく、金も多くなかったにも関わらず…
最終的にミノタウロスはラルカス様の手で退治されました」
「おじさんがあの化け物を退治したのね!?」
イルククゥは、以前ラルカスがミノタウロスを倒したと聞いて目をギョッとさせた。
「ですが…あの後ラルカス様が戻って来られることはありませんでした。てっきりその時のお怪我が原因で後ほど亡くなられたと…」
「心配をかけたな。察しの通りミノタウロスが往生際の悪いことに、今際の攻撃を仕掛けてきて私は大怪我を負ったのだ。何せ奴の住処だった洞窟内を爆破させるという、我ながら貴族らしくないやり方で退治したものだから精神力も切らし、回復したのはミノタウロスを退治してもう随分と時間がかかった頃だった」
ラルカスは、ミノタウロスを退治した当時のことを振り返りながらその後のことを語った。
荒技を用いて、あのミノタウロスを退治して見せたラルカスを、イルククゥは驚きの目で見つめた。タバサも口にも顔にも出さなかったが、たった一人でミノタウロスを倒すほどの偉業を成し得た、彼のメイジとしての技量に内心では関心を抱いていた。
「本当にあのミノタウロスを退治するなんて…おじさんすごく強い人なのね!きっとそれだけのことをしたんだから、きっと美味しいものをたくさん食べられるだけのお金も貰ったのね?」
「何、たまたまさ。あのような手は二度も実行できんよ。それに報酬は頂かなかった」
褒め称えるイルククゥに、ラルカスは謙遜を示しながら笑った。
「エズレ村は貧しい村だ。ミノタウロス事件で酷くやられていた村人たちに追い討ちをかけるような真似をしたくなかったのだ」
「ラルカス様、貧しいわしらを慮ってなんと慈悲深い…」
エズレ村の懐事情を考慮したラルカスに、ドミニクは涙を浮かべた。
「ですが、それはそれで申し訳が立ちませぬ。せめて何か、村を訪れたらお礼をさせてくださいませ」
「無理をするなドミニク。君の村はまたもミノタウロスの災厄に見舞われたんだ。今は村のことを考えなさい。私への返礼はそれからでも遅くはない。
ところで此度の件、領主にはもう訴えたのか?」
「領主のエメルダ様には既に訴えておりますが、エメルダ様は多忙を理由に断ったのですじゃ。全く、年貢は絞るだけ絞るくせに、いざとなるとナシのつぶて…わしらの村なんてどうなってもいいってことだわさ」
ラルカスはドミニクに尋ねるが、ドミニクはそう答えて無念そうに目を伏せる。
「…その領主は確か、最近この付近で多発しているという、子供の誘拐事件のせいで多忙らしいと聞きました。断られたのはそのせいでしょう」
イルククゥと合流する前に、シュウは領主エメルダがドミニクの村の願いを聞き入れられなかった理由について、町で聞き込みを済ませていた。
「…それは気の毒だとは思うけどね、どうしようもないのね。あれはもう、トリステインでも最近よく出てくる怪獣とさして変わらないのね」
イルククゥはミノタウロスを、怪獣とある種の同列の存在として認知していた。本来どちらも人の手に負えるような怪物ではない。
「どうか後生でございます!金は村中からかき集めてきておりますので!孫娘が嫁に行くこともないまま死に行くなどあっては、この老いぼれは死んでも死に切れませぬ!」
ドミニクは、村の皆から集めたという金の入った袋をタバサとシュウ、そしてイルククゥに向けて突き出す。だがその袋の中は3エキューにも満たないはした金しか入っていない。そもそもいくら金を集めたとしても割に合わない。イルククゥとしても、ドミニクの必死の頼みを断るのは良心が痛むものがあるが、タバサの身の安全を考慮すると頷くことはできなかった。
「わかった。すぐ村に向かおう。一度戦ったことのある私が行くべきだ」
ラルカスはドミニクの申し出をほぼ即座に引き受けた。
「ラルカスさん。その件ですが俺も行きます」
だが引き受けたのは彼だけでなく、シュウもだった。そもそも彼がアルビオンからはるばる(といってもストーンフリューゲルの力でひとっ飛びだが)ここへ来たのも、この地で発生したビーストらしき存在への対処のためだ。自身の持つ『光の力』と、プロメテの子としての超能力で人外の脅威に対する探知能力を持つ彼は、エズレ村付近にて人間が襲われているというヴィジョンを見た。スペースビーストによって誰かが危害を加えられているとみてここまで来たが、シュウにとってそのミノタウロスは、本物のスペースビーストではないにせよ無視できない存在となった。
「…私も行く」
しかも、シュウに続いてタバサまでもがこの危険な依頼を引き受ける意向を示してきた。
「え、ちょ…」
イルククゥは予想だにしないシュウとタバサの対応に目を丸くした。
「二人とも。悪いことは言わない。ここは私に任せて手を引きなさい。ミノタウロスの恐ろしさは私が一番よく知っている」
当時ミノタウロスと戦ったラルカスだからこそ出た言葉だろう。
「ラルカスさんの言う通りなのね。お兄さん、お婆さん、お姉さまも甘く見てるとしか思えないのね。なのでイルククゥは提案します。ラルカスさんに任せて、イルククゥたちはこのまま帰ることを勧めるのね」
面倒なことはラルカスに丸投げし、自分たちは手を引くことを勧めるイルククゥ。みっともないかもしれないが、命を粗末にしてまで倒すメリットはタバサにはない。元より北花壇騎士の危険な任務もあるのだ。タバサがわざわざ危険に飛び込むなど使い魔としても捨て置けない。
しかし、そんなイルククゥとは逆に、シュウは…。
「だったら、なおのこと断るわけにはいかないな。放置すれば被害は広がっていく…そうですね?」
ミノタウロスの討伐にますます乗り気を見せた。
「え…ええ、実際村の若い娘たちを生贄に要求しているのです…しかも今度の生贄にわしの孫娘が選ばれてしもうたのですじゃ…」
なるほど、それなら必死こいて助けを乞うのも納得だ、とシュウは思った。
「ひとまず村までお送りします。そこでお話の続きを聞かせください」
イルククゥは、シュウが明らかにこの無謀な依頼を引き受けると捉えられる様子に、怪獣と引き合いにしつつも、改めて人間の力では勝てないのだとミノタウロスの恐ろしさを訴える。
「ちょ、正気じゃないのね!お姉さまだけでも考え直すのね!」
イルククゥはタバサにもやめさせるように告げるも、タバサはドミニクを背負い続けるシュウに着いて行き始めた。
「ああもう!あのちびすけに加えて、不愛想な男まで加わって、イルククゥは厄日続きなのね!」
イルククゥは仕方なく村へ向かうタバサたちのあとを後ろから着いて行くのだった。




エズレ村は、ドミニクが道中で貧しい村と語っていたが、その言葉通りであった。鬱蒼した森を背に置いた、小さな小川の傍にわずかな畑が配備されている寒村だった。一方、村の中央にある立派な像が目立っている。石でできた、立派なマントを羽織った体格の良い男…ラルカスの石像だ。何か立派なことを成し遂げた。過去の偉人なのだろうか。その割には雨風の影響を受けきっておらずまだ真新しい。
「これ、おじさんじゃないのね?」
イルククゥがその像の顔と、ラルカスの顔を見比べながら言った。
「あぁ、この姿は確かに…10年前の私だ。私の石像を作ってくれていたとは驚いたな」
「ええ、ラルカス様を忘れぬよう、村の者で作りました。最初は他の貴族様に作成をお願いすることも考えてましたが、村の復興と維持のためもあって、自作で作ったのです。申し訳ありませぬ、この村に十分な蓄えがあれば、凄腕の土のメイジの方にもっと良い出来栄えのものをご用意できたでしょうが」
「はははは!こうして私の像を作ってくれただけでも嬉しいよ。しかし、こうも持ち上げられるとなんだかこそばゆいな」
石像制作の経緯をドミニクから聞いて、ラルカスはくすぐったそうに笑った。
「おい、見ろよ!あれ、ラルカス様じゃないか?」
シュウたちの一団をたまたま見かけた村人の一人が、ラルカスの姿を見て声を上げた。その一声を通じて次々と村人たちが家から飛び出してラルカスの元へと集まり出した。
エズレ村に到着したシュウたちは、村人たちの歓迎を受けた。かつてミノタウロスを退治した英雄ラルカスの影響が大きい。一方で、ラルカス同様にドミニク婆さんが連れて来てくれた、妙な格好(地球での普段着)をした青年と、寡黙な子供と、マントを羽織った変な女には怪訝な目を抜けていた。ミノタウロスを退治してくれると言うものだからごっつい戦士か、身なりの良いメイジが来るとでも期待したのだろうか。
「なんだ、子供と若造…?」
「ラルカス様ならまだしも、あんな若いのが…」
「ラルカス様の足を引っ張るんじゃないの?」
期待外れだと、村の人たちはラルカスとの再会を喜ぶ一方で、タバサとシュウには目もくれず、ラルカスへの挨拶を終えると各々の家に引っ込んでしまった。
「村の者どもがとんだ無礼を…」
「気にしてない」
ドミニクは村人の対応を詫びたが、シュウとタバサも気持ちを察した。
「おぉ、ラルカス様!まさかこうして再びお会いできようとは!」
ドミニクの案内で4人は村の外れにあった彼女の家に案内された。土を焼いて固めた素朴な造りの家で、扉を開くとドミニクの家族が出迎えてきた。村の人々と違い、ドミニクの一家はシュウたち4人を心から歓迎してくれた。
「ラルカス様、本当にお久しぶりです!お元気そうでよかった!」
同じく、その家にいた、ちょうどルイズやハルナくらいの年頃の少女も喜んでいた。
「………」
名を呼ばれたラルカスだが、すぐに返事をしなかった。すぐに思い出せず、何とか記憶をたどろうとしているのか、ただジジをじっと見ている。
唾でも飲み込んだようで、わずかに喉が躍動した。
(…?)
シュウも横目で見て、ラルカスの沈黙に目を細める。
「ラルカス様?…あぁ、もしかしてやはり、覚えてらっしゃらないですよね?私なんてあの時、まだほんの小さな子供でしたし」
「む?あぁ済まない。君は…もしや10年前にこの村にいた姉妹の妹か」
ラルカスは少女の顔を当時の記憶を辿ると、一人思い当たる子がいたのを思い出した。同じ髪色をした二人の姉妹、その片割れのまだ幼かった子供の姿。今は、その記憶の中の姉そっくりの姿に成長している。
「はい、ジジです。覚えてくださってたんですね!」
「済まないな。あれから随分大きく、そして美しくなったな。もう立派な女性と言えるだろう。着飾ってしまえば貴族の令嬢にも引けは取るまい。すぐに気づけなかったよ」
「ラルカス様ったらそんな!平民の私がそのような…恐れ多いことです!」
ラルカスの世辞にジジは照れ臭くなる。
「本当に来てくださってありがとうございます、騎士様方!どうかジジを…娘を救ってください」
「私からもどうかお願いいたします。娘を、村を救うためそのお力を…!」
村を…何よりジジを救えるただ一つの希望。藁にも縋る思いだった。ジジの母と父がそれぞれ深く嘆願した。



「では、まず…そのミノタウロスが生贄を要求した件についてお話を聞かせてください」
早急な事態解決のためにも、まずは詳しい事情を聴く必要がある。ジジの家に招かれ、シュウはこの事態に至った経緯について詳細を問う。
「まずはこの手紙をご覧になってください」
ジジの父は一枚の獣の皮をテーブルに置いた。
シュウはその皮を手に取って見ると、血文字が書かれている。地球では馴染みのない、ハルケギニアの共用語であるガリア語だ。この時期のシュウはまだハルケギニア語には慣れていないため、すぐに解読できなかった。
「『次に月が重なる晩、森の洞窟前にジジなる娘を用意すべし。さすれば村を滅ぼさずに我が支配下に置くことを許す』」
タバサが、シュウに代わって手紙の内容を読み上げた。
「ラルカス様は覚えておいででしょうが、10年前のことです。ミノタウロスがこの村に現れ洞窟を根城にしておりました。毎月一人ずつ、娘を要求して…この子の姉も、その時に…」
ジジの父が当時のことを語っていくうちに、ドミニクたちの間の空気が鬱屈としていく。
「この時、その話を聞いた私がこの村に来てミノタウロスを退治したんだ」
「ええ、あの後はミノタウロスがいなくなったことで恐怖に怯えることなく安泰でした。でも少し前に、またもミノタウロスが現れたのです。
ただ…最初は、以前現れたミノタウロスよりも小さかったのです」
「小さい?どれくらいの大きさだったのだ?」
「2メイルくらいでした。大男一人程度です」
ラルカスの質問に対するジジの父の返答に、ラルカスもそうだがタバサも違和感を感じた。通常のミノタウロスはもっと大きいものだ。ミノタウロスと言っても、現れたのは所謂幼体…子供たったのだろうか?そう思ったのだが、そんな次元の話ではないことが、次のジジの父の言葉で悟らされる。
「それくらいなら村の者だけでもなんとかできるのではと思って、村の男たちを集め退治に向かいました。ですが、皆で退治に向かったあの時、とてつもなく大きな姿だったのです」
「大きな姿?」
「ええ、それはもう…まるで、立派な貴族様の御屋敷ほどの大きさかそれ以上にも見えました。」
ラルカスの手でミノタウロスを退治してもらって以来、もう二度とミノタウロスに怯えることはないと思っていたのに、あの時の…いや、あの時以上の恐怖を植えつけられた。ジジの父は、その時のことを思い出して身震いした。

城のように巨大な、空を覆い尽くすのではと思える、角を生やした巨大な牛の化け物の悍ましい姿を。

「その夜、ジジの同年代の近所の娘や、子供たち、その子たちを守ろうとした村の大人たちがミノタウロスにやられて…」
ジジの一家はそこまで語ったところで、その日の夜のことを思い出して悲しみや恐怖が入り混じった陰鬱な表情を浮かべた。
「それから程なくした頃でした。この手紙が送られてきたのは」
改めて、ミノタウロスから送られた皮の手紙を見せるジジの母。
「あの時と同様、ミノタウロスは洞窟に今も住み着いて、全くどうして…あんなところに何度も出るのやら…」
先の不安と恐怖、現実を思い出し、ドミニクは深くため息を漏らした。
「ところでそちらの方々は、なぜこのお願いを聞いて下されたのですか?もちろん助けてくださるのは非常にありがたいのですが」
先ほどイルククゥも忠告した通り、ドミニク一家はシュウとタバサが、はした金に見合わない高度な依頼にも関わらずこれを引き受けたことについて解せないものを覚えていた。
「自分は、この手の魔物を専門とするハンターです」
「私は修行中」
シュウとタバサはそれぞれそう答えた。嘘は言っていない。
「は…?」
思わぬ回答にドミニクたちから呆けた声が漏れ出た。
「まさか、あのような化け物と戦ったことが…!?いや、そんなまさか…」
「嘘をつく理由はありませんので。既に実績があるからこそ、隣にいる彼女もご覧の通り、功績を証となっているマントを授与しております」
きっぱりと言い放つシュウに応え、自分の腕前はまやかしなどではないのだと暗に告げようとタバサはわざとマントを広げて見せる。
「…ところで、一点気になることがある」
ふと、タバサはミノタウロスについて一つ気になることがあった。
「10年前も、こうして生贄の娘を指名してきたの?」
タバサはラルカスや、ジジの両親にそう問う。
「いや、あの時はそんなことはなかったな」
「ええ、その時はただ、若い娘をと…その時は、くじで決めておりました。…くじで当たってしまった娘たちには申し訳ないことではありましたが…」
ジジの父は苦しそうに答えた。娘を持つ父として、他の家の娘が生贄に出されていく様を見て罪悪感があったのだろう。自分の娘じゃなくてよかった、でも他の家の娘が犠牲になってしまった…それに安心してしまった自分の醜さが疎ましい…と。当時の時の記憶がずっと反芻し続けていたのだ。くじで決めたのも、誰が指名されても互いに恨み合わずに済ませるための、かろうじてできた手段だったはずだが、それでも罪の意識が付きまとい続けていた。
「妙だな、ミノタウロスは若い者なら、特に女性ならば誰でもよいはず。ジジ一人を指名するなど」
ラルカスは訝しんだ。彼も今回のミノタウロスの生贄指名に違和感を感じていた。



その夜、シュウはディバイドシューターのメンテナンスを行っていた。ジジの家は部屋が一つしかなく、家族全員で一つ屋根の下のたった一つしかない部屋で寝ている。
暖炉の火に照らされる中、ディバイドシュータ―の部品やバレットが山吹色の色合いに染まったように光った。一度分解したそれを組みなおしていく。
(ミノタウロス…話の通りなら、まさに異世界のビーストか)
ミノタウロスに対して、シュウは嫌悪を覚えた。人間が他の生物の肉を食わなければ生きていけないのと同様の、生物としての致し方ない本能かもしれない。しかしそれでも、わざわざ未来ある若い娘を好んで食らうという偏食傾向に、スペースビーストに似た一種の悪辣さすら感じた。
「ねぇ、本当にやるつもりなのね?」
イルククゥが改めて、これで何度目になるか分からない問いかけをする。
「彼女の心配も尤もだ。君たちは本当にミノタウロスと戦うつもりかね?」
ラルカスはシュウやタバサに、改めて今回の以来を降りる気はないのかと問う。一度戦ったことがあるからこその懸念だろう。それに、少し前の時間、ラルカスはタバサから特異な系統魔法の確認を取っていた。風と水…それを応用した氷の魔法。イルククゥが幾度も引き留めていた通り、ミノタウロスとは相性が悪い。シュウなんて、妙な武装こそ持っているがメイジではないので、言い過ぎかもしれないが論外という見解であった。
「そのミノタウロスが人食いの怪物なら、駆除する以外にない。話を聞いた以上、野放しにすれば、夢見が悪くなるだろ。何度もその手の怪物を駆除してきた身としては猶更だ」
しかしシュウは躊躇も無く言った。イルククゥは幾度も、きっと聞き違いなのだ、よく聞こえてなかったのだと思い込んでいた。ミノタウロスを相手に人間が銃で勝てるものではない。タバサ以上に不利なはず。だというのに…この男は本気で、戯言としか思えないことを言っている。
(正気の沙汰じゃないのね。『前にアルビオンで見た時』は変わった人にしか思ってなかったけど…異常過ぎるのね)
イルククゥはシュウが、一種の狂人のようにも見えてきていた。
「……作戦はある?」
「ミノタウロスが洞窟内に引きこもっている生態だとするなら、滅多に外には出てこない。俺としては、洞窟もろとも吹き飛ばす方が確実だとは思う」
「以前の私もそれが妥当と考えて、当時のミノタウロスをその作戦で討伐した。本当にミノタウロスが相手なら、その作戦でも問題はないし、あの時のミノタウロスとは別個体だから同じ手は食らわせられない、などという心配もないだろう。でも…おそらくジジを狙うミノタウロスは…」
「なるほど、そういうことか」
「何を納得してるのね。イルククゥにも納得のいく説明を求めるのね」
なぜかお互いに、以前から分かり合った知己のような会話にイルククゥは、ミノタウロス相手への対抗策も含めて納得のいく言葉を求める。
「…ふと思ったんだが、そういうお前こそ彼女とはどんな間柄だ?」
「え?!」
「以前アルビオンでこの子の顔を見た時、お前の姿はなかった」
「ほう、君はアルビオンにいたのか。随分と長い旅をしてきたのだな。その時にこの二人とあっていたのかね」
一方でシュウも、タバサと顔を見せ合う場では一度もイルククゥの姿を見ていない。にも関わらず、あの赤い髪の女…キュルケ同様イルククゥがタバサと気の知れあった間柄のような…。ラルカスも少なからず興味を惹かれて話に耳を傾けてくる。
「えっと…イルククゥはその…」
「従者」
スパッとタバサはイルククゥのことをそのように言い切った。そのきっぱりとした言い方は、それ以上は話すつもりがないという意思をシュウに伝える。
「わかった。俺も君たちに自分のことを大して喋ってるわけじゃないからな。不躾な問いだった、済まない」
「気にしてない。それより3人とも、作戦がある」
シュウの詫びを受け入れつつ、話題をすり替えるタバサ。彼女はチラッとイルククゥの方に目を向ける。
「え?」
シュウとタバサの視線を受け、イルククゥは首を傾げながら自分を指差す。

 
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