秋の滝
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第三章
「こうしてでごわす」
「よかものを見るのもいいでごわすな」
「そうでごわす」
こう言うのだった。
「それもまた」
「そうでごわすな、人は切った張っただけでないでごわす」
「よかものも見るでごわす」
「和歌にあるものも」
「こうしてでごわす、いや全く」
滝から川に流れ落ちさらに流れる紅葉の葉達を見つつ言った。
「奇麗でごわすな、だから」
「だから?」
「おはんも見るでごわす」
木々の間に目を向けて言った。
「奇麗でごわすよ」
「ガウ」
「あれは」
中村は西郷に応え木陰から出たものを観て身構えた、それは。
熊だった、熊は西郷の言葉に驚いた様になって出て来た。西郷はその熊に対して笑顔でさらに言った。
「よかでごわす、一緒に観るでごわす」
「ガウ」
「西郷どん、あれは熊でごわすが」
中村は西郷にいつも刀を抜ける姿勢になって言った。
「よかでごわすか」
「熊もよかものがわかるでごわすよ」
西郷はその中村に笑って告げた。
「だからでごわす」
「熊も一緒にでごわすか」
「この紅葉を観て楽しむでごわす」
そうしようというのだ。
「ここはでごわす」
「それでは」
「一緒に楽しむでごわす」
「それもまたよしか」
大久保は西郷の言葉に微笑んで述べた。
「なら熊も一緒に」
「紅葉狩りをするでごわすよ」
「この滝で」
「そうするでごわす」
「ガウ」
熊はそんな西郷の言葉を器に感じ入ったのか、嬉しそうにだった。
西郷達の傍に来て滝から川を流れる紅葉達を観た、そのうえで。
西郷が帰ろうと言うと自分も木陰に戻り振り返った、西郷はその熊に手を振って言った。
「また一緒に観るでごわすよ」
「またここに来れば」
「そうするでごわすよ」
大久保に応えつつ熊に言った、そうしてだった。
熊は西郷達の前から姿を消した、西郷はそれを見届けると帰路についた、そのうえで都に戻ると紅葉狩りを肴にして酒を飲んだ、その酒は実に美味かった。
秋の滝 完
2024・12・12
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