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エターナルトラベラー

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番外編 【ネギま編】その②

 
前書き
魔法世界編です。 

 
夏休みが半分ほど過ぎた頃、明日香はネギま部の付き添いでイギリスはウェールズからゲートを潜り魔法世界へ。

片田舎にあるストーンヘッジのようなアーティファクトで一瞬で転位してきたようだ。

入国手続きをしている間外を見学しに行くネギま部について明日香も外へ。

「へぇ、ここが魔法世界」

空飛ぶ乗り物が行き交い、石造りの建物等まるでファンタジーのような世界が広がっていた。

「いや…ファンタジーはもう経験していたわ…」

とトータスの事を思い出す明日香。

魔法世界にやってきたネギま部員はネギ、明日菜、木乃香、刹那、のどか、夕映、はるな、和美、さよ、茶々丸、小太郎、古菲、楓、千雨にネギの幼馴染のアーニャと明日香を加えた総勢15人と多い。

ここは魔法世界の巨大国家の一つメガロメセンブリアと言う所らしい。

何事も無ければ良いけれど、と言う明日香の願いは到着直後に泡となって消えた。

ドーンと言う爆音と共にネギたちの出てきていないゲートのある建物が今まさに崩れ去ろうとしていて、転位魔法の暴走だろうか、ネギま部員を巻き込んでランダム転移に巻き込まれてしまったからだ。

大量の魔力による暴走と強引な転位に流石の明日香も飛ばされてしまい、この魔法世界の何処とは分からない場所に投げ出されてしまう。

「えーっと…ネギくん達は……あれ?」

猿神の献身(ザ・ブリーズ)の権能の能力は捜索対象までの位置を把握し転位できる権能なのだが、どう言う訳か反応が無い。

試しに導越の羅針盤を取り出したがこちらもネギ達を捉える事は出来ず。

修正力や運命神による介入なのか、ゲートの事故で時空が乱れているのか分からないがとりあえず最悪な状況だった。

「わたしに何をさせたいのかしら…本当に…」

回りを見渡せば未開のジャングルのようで、原生生物だろうか、15メートルほどもある巨大なドラゴンがこちらを見下ろしよだれを垂らしていた。

「えー…いきなり冗談のような展開に…」

「ギャォオオオッ!」

相手は明日香を食べ物と認識したようで、その巨大な顎で噛みついてくる。

明日香は最近では手に馴染んできた白夜を取り出すとドラゴンの首を薙ぐ。

「魔法障壁?」

一瞬野生の動物…魔法生物?も魔法障壁を張る事が分かったが、白夜の前では紙切れも同然で、油断も有ったのだろうがそのドラゴンは一刀で首を斬られて絶命した。

「これでしばらくは肉には困らないだろうけれど」

ドラゴンを時間凍結庫にしまい込む。

「まさかまたサバイバルとかはヤダなぁ…」

風火輪を取り出すと空へ。

眼下はジャングルが広がっていた。

ブオォオオオ

「ん?」

潮の吹き出す音に振り返るとそこには巨大な羽の生えた巨大なクジラが口を開けていた。

「さすがファンタジー。何でもありだ」

白夜を振ってクジラを解体。やはり魔法障壁を張っているよう。

「鯨肉ゲット」

「………ぃっ!」

「ん?今何か聞こえたような。下かな?」

「徳永先生」

白い羽で空を舞ってきたのは刹那。

「あ、刹那さん。良かった無事みたいだね」

「徳永先生、それは…」

風火輪を見た刹那が何かに気づく。それはいつか蚩尤を倒した神殺しと呼ばれている人が使っていたものでは無かったか、と。

「……………ぃ!………ーーーーん」

「下に誰かいるみたいだね」

大声が下から響いていた。

「明日菜さんとはすぐに合流出来ましたから」

なるほど、下に居るのは神楽坂明日菜であるらしい。

「……降りましょうか」

「そうだね」

降りなければ明日菜の喉が枯れそうだ。

「二人とも、もっと早く降りてきなさいよっ」

明日菜が吼える。

「ただ飛んでいた訳じゃないよ。あっちの方に小さいけど村があるみたい」

と明日香。

「良く見えましたね」

私には見えなかったと刹那。

「目は良い方だから」

カンピオーネになって以降、夜目は効きまた千里眼ほどではないが遠視も行える。

何もないジャングルから切り開かれた人工物を探し出す程度の事は容易だった。

「そうと分かれば空から一直線にっ」

「とは行かないんだよね」

「ど、どうしてですか徳永先生っ!」

明日菜が問いかけた。

「空に上がっただけでドラゴンやら空飛ぶクジラやらに襲われたから…人の生存圏内までは徒歩で行った方が面倒が無いと思うよ」

「ま、まぁ流石にドラゴンはねえ…」

何かを思い出したように眉根を寄せる明日菜。

「とは言え徳永先生は苦も無く倒してましたが」

呆れる刹那。

「えぇ!?徳永先生どんだけですかっ」

「だけど今の二人ならそう苦労しないと思うけどな」

「そうでしょうか」

謙遜する刹那だが彼女たちの技量はもはや数か月前とは別物だろう。

とは言え無用な戦闘を避けるべく陸路を走る。

「やっ、せいっ!」

ハマノツルギで襲ってきたイノシシのような魔獣を一刀両断する明日菜。

「お見事です。明日菜さん」

「まぁ、これくらいはねっ!」

それより、と明日菜。

「さっきから倒した魔物はどこにしまわれてるのよーっ!!」

「どこって、そりゃあ、冷蔵庫?」

倒した魔物はかたっぱしから明日香が時間凍結庫へとしまい込んでいた。

「魔法の世界じゃ普通なの!?」

明日菜が刹那に問いかける。

「いえ、さすがにこれ程の事は専用の施設が無いと難しいかと…」

「じゃあ徳永先生が普通じゃないって事ね」

納得と明日菜。

「それで、その魔物はどうするんですか?」

そう刹那が問いかけた。

「もちろん食べるのよ」

「「はい?」」

明日香のこの言葉には流石の二人も驚きを隠せないようだった。




明日香がどこからともなく取り出した調理器具とドシンと音を立てて現れるドラゴンやクジラ。

それらを慣れた手つきで捌いていく。

「慣れてますね」

とは刹那の言葉だ。

「すごーい…スパパと解体されていくわ」

明日菜も感心していた。

「と言いますか、明らかに硬そうな角までそんな簡単に…」

「コツがあるのよコツが。刃の通りやすい道ってのがあるのよ」

「いったいどう言う人生を送ってくればコツをつかめると言うのでしょうか…」

刹那は若干引いていた。

「こんなに堂々と火を焚いて大丈夫でしょうか…あと匂いも」

獣を焼く匂いが漂っていた。それよりも火を一切使わずにフライパンで熱が通っているのはどういう理屈だろうか。

「獣が焼かれる匂いで逆に寄ってこなくなるわね。ほら、家で焼き肉パーティとかすると猫とか寄ってこなくなるでしょ?」

人の気配はしない。

「そうですか?よくわかりませんが…」

「まぁ襲ってくるのなら食材が増えるだけだし、良いんじゃないかしら」

こんなジャングルの深いところで野党も無いだろう。

「はい、どうぞ」

「い、いただきます」「いただきます…」

「せ、刹那さん先にどうぞ…」「明日菜さんこそ…」

こそりと水面下の戦いが繰り広げられていた。

「毒とかは大丈夫よ。わたしの特殊能力で無毒化されているから、例えどんな強力な毒でも食べられるものに変わっているはず」

「「………………はぐっ」」

二人同時に覚悟を決めてドラゴンステーキを口に運ぶ。

「あ…美味しい…」「ほんとう…こんな肉食べたことない」

「そりゃドラゴンだもの…うーん、久しぶりのドラゴン。確かに美味しいわ」

こそと明日菜と刹那が言葉を交わす。

「久しぶりと言いましたか」「言ったわね」「本当にどう言う経歴があるのでしょうか」「そんなの私たちが気にしてもしょうがないでしょう」「それはそうなのですが」「別に私たちに害を与えてる訳じゃないし、むしろ」

次の日、どうにか人のいる町へと到着。

「はぁー、やっぱりベッドはいいなぁ」

明日香が宿屋のベッドに倒れ込む。

この世界の通貨は最初に換金していた物はあの転位のどさくさで無くなり、仕方がないので森で狩ってきたドラゴンとかの角を売りさばいて手に入れたお金で今日の宿を借りたのだ。

まほら武闘会で1000万円稼いだはずなのにまたお金で苦労している明日香だった。

意外にもドラゴンの角は高く売れたのだが…肉類は全く売れなかった。

ボケっとテレビのような物を見ていると、そこに見覚えの有るような青年の姿が映った。

それは拳闘大会を映したもので…

「あれ、この人達って…」

「ちょちょっと徳永先生っ!」

バンと扉が開かれる。勢いよく入って来たのは明日菜で、その後ろに刹那も居るようだ。

「何?」

「町の人に聞いたんだけどっ!」

「まぁまぁ少し落ち着いて」

「これが落ち着いていられるかーーーーっ!!」

怒髪天を衝く。明日菜の鼻息が荒い。

「ドラゴンの肉を食べる人なんて居ないって町の人に聞いたんだけどっ!てゆーか食うと死ぬって聞いたんだけどっ!!」

「あー」

やっぱり。

「まぁ、死んで無いから良いじゃない」

「よくなーーーいっ!…いえ、良いのかしら?アレ?」

流石にバカレンジャーと言われるだけは有る慌てぶり。

「ですが、納得のいく説明を求めます」

そう刹那がおずおずと言葉を発した。

「わたしの超能力の一つだよ。食えない魔物も美味しく食べれるように調理できるの。あ、間違わないでほしいんだけど、わたしが調理した物以外を食えば、たぶん死ぬから」

「「……………」」

「それと、体の調子が前よりも上がってるんじゃない?」

「どうしてそれを」

「わたしも経験…いや、わたし…じゃ無いわ。わたしは元々だった…はぁ……。…知り合いも経験してね。体が魔物に寄るからどんどん常人離れして行くはず」

「ちょ、ちょとどうしてくれるのよっ!」

と明日菜が明日香を揺さぶる。

「とは言ってももうここは非日常だよ?弱さは罪だと思うけど」

「う…」

先日の皆が飛ばされた事件。明日菜は自分が弱かったから傷だらけのネギを守れなかった。

その後悔が言葉を詰まらせた。

「それと偶にモンスタースキルを使えるようになる…かもしれないわ」

そちらは確認していないから分からないと明日香。

「本当に大丈夫なの?」

「経験的に、死ぬような事にはならないはずよ」

二人とも骨格強度が竜種よりに強化されているようで、耐久値が上がっている。

「そんな事より、ほらアレを見て」

そう言ってテレビの方を指をさす明日香。

「あーーーーーーっ!!」「ネギ先生?」

そこには青年の姿になっているがネギと小太郎が映っていた。

全国に放送されることを逆手にとって離れ離れになった仲間たちにメッセージを送っているらしい。

オスティアと言う所で合流する事にしたようで、これを見ていれば仲間たちはみなオスティアに向かうだろう。

拳闘大会の決勝に合わせてオスティアに入れればOKのようだ。

町に来て知った事だがどう言う訳かネギま部の人達に懸賞金が掛けられているらしい。

容疑は転位施設の破壊らしい。

フェイク映像と言うものの審議はその精査が難しいもののようで、やっていなくてもどこかから入手したらしい施設を破壊していると言う映像証拠から指名手配されているようなのだ。

なので町を出れば現れるのは賞金稼ぎの人達。

「もう、次から次へとっ!」

明日菜が嫌そうな声を上げている。

今もまた数人の賞金稼ぎを返り討ちにして金品を巻き上げていた所だ。

「都市部は避けた方が良いかもしれませんね」

とは刹那の言葉。

「それが無難かなぁ」

余計ないさかいを避けるため、オスティアまでの道のりは主要都市部を避け比較的閑散とした町々を通って南下する事に。

「そう言えば、神鳴流を使ってきた賞金稼ぎが居たみたいだけど」

と明日香。

実際その賞金稼ぎの剣は明日香の咄嗟に張ったとはいえ権能・黄金の炎をほんの少し斬り裂いていた。

これには明日香も驚いた。まさか斬り裂かれるとは思ってなかったからだ。呪力の差から本気を出せば斬られることは無いだろうが、一体どういう事だろう。

「昔、分派の人達が異界に行ったと聞いたことがあります。その一派は不死狩りを生業としているとか」

そう刹那が答えた。

「不死狩り…なるほど、それで」

刀で不死を概念的に調伏するようだ。

つまりあの賞金稼ぎは不死をも殺す技術の持ち主だったらしい。

町でほんの少し情報を集めれば桃源神鳴流と言う不死狩りを生業とした集団が居るようだ。

しかし、明日香が認識した事により武芸百般で桃源神鳴流の技も問題なく使えるようになったので、この先不死不死身の化け物との戦いはほんの少し楽になるだろう。

「それより、自力の強化が必要かな」

「うぇ、まさかまたドラゴンを食わす気!?」

と明日菜が唸っているが、毎食それと知らずに食べているが気が付いてなかったのかな。

「さっきこの町で食材を買い込んでいた時に仮契約屋って言うのを見つけてね。明日菜さん達の地力を上げられないかと思って」

「それは、私達と先生が仮契約するって事ですか?」

顔を赤くして一応確認する刹那。一番簡単な契約方法がキスだからだ。

「ダメダメダメっ!いくら女の子同士だからってキスなんてっ!」

明日菜も大きい身振りで否定する、

「一応キス以外の方法もあるって」

そう仮契約屋さんも言っていた。男同士でキスはこの世界でも敬遠されるらしい。

「そ、そうなの…じゃ、じゃあっ」

それならばやって損は無いかもと明日菜。

「ただ時間がかかるらしいから、わたし達みたいなお尋ね者は無理かな」

「そう、じゃあ別にしなくても…」

「だけど、今のままじゃネギくんからの魔力供給は出来ない訳だし」

いくら究極技法である咸卦法が使えるからと言っても二人とも明日香に比べればまだまだった。このままではもっと強い賞金稼ぎが現れた時に命が危ない。

「うーうー…でもぉ、ねぇ刹那さん」

刹那に助けを求める明日菜だが…

「いえ、やりましょう。ここはまず皆無事に合流する事が先決です」

相手が木乃香でないのなら実利を優先する刹那に明日菜が根負けし、仮契約。

しっかりとアーティファクトカードを引き当てた。

「来たれ(アデアット)」

新しいアーティファクトを確認する。

「えっと、アイアスシールド?」

明日菜のはエネルギー障壁を張れる腕輪のようで飛び道具にはめっぽう強い硬さを誇る盾のようだ。

「刹那さんのは?」

「えっと黒天洞…鏡のようですが、どうやらこれも防御アーティファクトのようですね。明日菜さんのよりも継続防御は短いですが、その分相手の魔力を吸収するようです」

「やっぱり二人とも防御系かぁ」

従者の資質が大きく出るとは言え、明日香本人の資質はカチカチの防御系。その従者に渡るアーティファクトも似たものになるだろうと予想はしていた。

とりあえず、物は試しと町で巨大芋虫の討伐を受け、森の中を歩く。

ネギま部が関わらなければ転位は出来ないが、導越の羅針盤や猿神の献身の索敵の効果は問題なく発揮されるのでターゲットまでは一直線だ。

「ひぇぇ…気持ち悪い…どうしようっ!刹那さんっ!」

「……依頼された以上…やるしかありませんっ!」

人よりも大きい青虫が何十匹と禿げ上がった木の上からこちらを威嚇する。

「ほらほら、このままだと森林は禿げ上がるらしいし、成虫になると毒をまき散らすらしいんだから」

と明日香が村人たちから聞いた情報を再確認させる。

「分かってるけどー…気持ち悪いんだものっ!」

それは分かる。だが、そうも言ってられない。相手はもう臨戦態勢で、どうやら魔法も使ってくるらしい。

巨大青虫の口に魔力が集まっているのが見える。この距離で準備に入っているのだから恐らく射撃系なのだろう。

「契約執行 180秒 明日香の従者 神楽坂明日菜 桜咲刹那」

二人同時に契約執行を行い地力を上げる。

「う…何度経験してもこそばゆいのよね、これ」

「たしかに、少し気持ちい…いいえ、慣れませんねっ」

初手の青虫の糸を吐く魔法攻撃を明日菜はアイアスシールドで弾く。

「わ、確かに便利かもっ!」

今まではハマノツルギで受けていた物を肩代われるのは強い。

「なるほど…では」

と刹那も黒天洞で相手の吐く糸を魔力に変換し、咸卦法を用いて青虫を狩る。

斬撃武器で狩った為、あたり一面青い血で染まっている。

「ねぇ、刹那さん」

「はい、なんでしょう」

戦闘が終わってから明日菜が神妙な顔で刹那を呼んだ。

「これって今日の夕飯に出るのかしら?」

「………………」

刹那も苦虫をつぶしたような表情を浮かべていたが、答えない事が答えだった。

何故なら目の前で明日香が青虫を回収しているのだから。

「どうしてアレがこうなるのかしらね…」

アレがこうとは目の前に並べられた美味しそうな夕飯の数々だ。

「はい…やはりこの光景だけは未だに慣れませんね…」

と明日菜に同意する刹那。

本日の夕ご飯は例に漏れず青虫尽くしだった。

ぐっと意を決して口に運ぶ明日菜達。

「美味しいから性質が悪いの」

わかる、刹那さんと明日菜が言う。

「わかります。材料さえ知らなければこれ程の贅沢は無いでしょう。ええ、材料さえ知らなければ」

重要な事だから二度言ったらしい。

市街地から離れると、昔の建物が撃ち捨てられていたり、偏屈な魔法使いが自分の財を守るために要塞化したりしたものが残っている。

それらを探索してお宝を集める命がけの職業もこの世界にはあるらしい。

一般的にはトレジャーハンターと言うらしいのだが、ここは一発お金稼ぎと未踏破であるらしい地下迷宮の攻略へと赴いた。

ジャングルの奥深くに隠された旧時代の遺跡だ。

「咸卦法は切らさないようにね。各種耐性が大幅に上がるんだから」

と明日香。

「それは大丈夫だけど、徳永先生は大丈夫なんですか?」

咸卦法を使っている気配がないので明日菜が心配したようだ。

「わたしの場合各種耐性がもともと高いから」

「まぁ、徳永先生は確かに何をしても死ななそうですね…」

なんて事を言いながらもそれぞれ武器と防具を構えてダンジョンの中へ。

迷宮とはよく言ったもので、迷って出られなかったのだろう白骨死体が散見される。

もしくはモンスターに食われたか、だ。

「ほら、来たわよ」

巨大なワニのようなモンスターが地面を張ってこちらに突進して来た。

「ここは私が『繰糸』」

そう言うと刹那は最近覚えたらしい気で出来た糸を繰るスキルを使って複数のワニを縛り上げる。

これは青虫を食って得たスキルだ。まほら武闘大会でエヴァンジェリンにやられたことが幸いしてかうまく使いこなしていた。

「ありがとう、刹那さんっ!」

そう言うと明日菜がハマノツルギで硬そうな皮を斬り裂いていく。

明日菜は小技は覚えなかったが、瞬間的に、ほんの数秒だがドラゴンのような怪力が使えるようになったらしい。

「うん、力の一号、技の二号って所かな」

「何か嫌な言われ方なんですが…」

心外だ、と刹那。

「あ、明日菜さんそこは…」

「え?うきゃあぁ!?」

明日菜が何かを踏んだらしい。

左右から無数の矢が飛んでくるが、咸卦法の防御力を上回る事は出来ず。と言うか、ドラゴンのような頑丈さも得ているようだ。

「いったー…くはないはね」

「今の明日菜さんなら鉄球に潰されてもピンピンしてそうです」

「さすがにそこまでじゃないわよぉっ」

たははと笑う明日菜だが…

「それはフラグって言うんじゃ?」

今まさに弓矢が放たれた左右の壁をぶち破る様に巨大な鉄球が左右から明日菜を挟み込む。

「明日菜さんっ!」

「大丈夫、わたしの魔力も渡したから」

「ペッペ…口の中じゃりじゃりするよぉ」

契約執行で明日香の魔力を受け取った明日菜は粉塵の中から無傷で出てきた。

「ふつう血の味がすると言う所では?」

刹那も若干引いていた。

「この頑丈さに魔法無効化能力もあるんだから、ある意味理想の壁よね」

自分の事は棚上げである。明日香はハジメ達にどう見られているのか自覚した方が良いだろう。

「ちょっと徳永先生、酷いですっ!」

そんなこんなで数々のトラップを潜り抜け…と言うか、トラップに嫌な思い出のある明日香は容赦なくトラップ事破壊しながら中心部を目指す。

そして最深部に到着する明日香達。

黄金に輝く財宝を守護するように巨大な黄金の騎士甲冑が剣を構えている。

中の人は恐らくいないだろう。一種のゴーレムのようだ。しかし対魔法の術式は強固のようで並みの魔法使いでは無力化は難しいだろう。

「行くよ、刹那さんっ!」「はい、明日菜さん」

二人がハマノツルギと白夜を構える。

「契約執行 300秒 明日香の従者 神楽坂明日菜 桜咲刹那」

二人に明日香の力が上乗せされた。

「はやいっ!!きゃっ」

「明日菜さん…ぐっ!」

瞬動で距離を詰められて振るわれた大剣に明日菜はどうにかハマノツルギでガードしたが咄嗟の事に力負けした吹き飛ばされ、それをつい目で追った刹那も初撃を受けてしまう。

「いたた…」

「大丈夫ですか、明日菜さんっ」

「兵器。ゴーレムみたいだから私のハマノツルギが通れば一撃なんだけど…」

「いいえ、なかなかに手ごわい」

ゴーレムの剣技の技量が素晴らしく高い。

どうやらこの甲冑、作成当時の最強の騎士の魂の一部を封じ込めているらしく、その剣技は神掛かっていた。

更には魔法剣士であったようで…

「くぅ…距離を取れば魔法の矢ですかっ」

と刹那。

「それなら私が…放出系の魔法は全部キャンセルしちゃうから…って!!」

いつの間にか持っていた剣が弓矢に変わっている。

引き絞られた弓から一射で三本の弓が明日菜に迫る。

「ちょっとこれは消せないわよっ!アイアスっ!」

二つ目のアーティファクト、アイアスシールドでその矢を弾く明日菜。

並の魔法使いの魔法障壁などは容易く貫通する障壁貫通の矢であったが、明日菜のアーティファクトの方が勝ったようだ。

「はっ!」

しかしその隙に刹那が距離を詰める。

再び剣に形を変えた弓矢。その大剣で刹那の白夜を受け止めていた。

「やはり強い…っ」

刹那が攻めあぐねている。

「見よう見まね、斬岩剣っ!」

追いついた明日菜の攻撃が地面を砕く。

その隙に一度刹那は明日菜と入れ替わり、今度は明日菜が甲冑を攻めていた。

「雷鳴剣 弐の太刀」

刹那がバリバリと剣に電気を発生させ振り下ろすと切っ先から稲妻が奔り、明日菜を通り抜けて渦中を襲う。

「やったか」

「だからそれはフラグ」

確かに封じられていた魂は今の攻撃で浄化されたが、防御プロテクトが外れて暴走状態に入ってしまった。

「ちょちょっと手が付けられなくなっているわよっ!」

助けて刹那さんと明日菜が叫ぶ。

「ここからが正念場ですか…くっ…」

何処からともなく複数の巨剣が空中から何十と降り注ぐ。

剣自体は明日菜のハマノツルギでバターのように斬れるので魔法で作られた物のようだが、物量が凄まじい。

刹那も白夜で切り払っていてやはりバターのように斬り裂かれている。白夜にも破魔の効果が有るためだ。

「ちょっとこれはシャレにならないわよっ!!」

「明日菜さん、ここは私が道を開きますっ!」

「ええっ!?大丈夫なの?」

今は二人で均衡を得ているのだ。明日菜が驚くのも当然だった。

「はい、だから明日菜さんはあの甲冑に一撃を入れる事だけを考えてください」

覚悟を決める刹那は強く白夜を握っていた。

黒天洞を大きく展開し、数秒剣の攻撃を無効化しその魔力を吸収。咸卦法の純度を上げると最大限に高める。

「百花繚乱っ」

刹那が振り下ろした白夜から放たれた気が直線状に降りかかる相手の数十の武器を一気に吹き飛ばした。

「今ですっ!」

「はああぁあっ!」

明日菜は瞬動で一瞬で甲冑との距離を縮め、一閃。

「おわった…?」

遂に明日菜のハマノツルギが甲冑を斬り裂いた。

相手が魔導兵器である以上明日菜の攻撃は必殺だ。

甲冑との死闘は終わってみれば五分にも満たない。

カランカランと音を立てて大剣が地面を転がった。

その大剣は形を変え、ガントレットのような物へ。

「はぁ…はぁ…ちょっとは明日香先生も手伝ってくださいよ」

明日菜が涙目で訴える。

「そんな事をしたら二人の為にならないじゃん。百の訓練よりも一の実戦の方が勝る事が多いよ」

「たしかに、そうかもしれませんが…死ぬかと思いました」

刹那も肩で息をしていた。

明日香は転がっているそのガントレットを持ちあげた。

「金銀財宝よりもこれが一番価値が高いかなぁ」

と明日香。

「銘は…」

ガントレットの横に彫ってあった名前を読む。

「ヴィシュヌ・バージュー……偉大なる者の腕、かな」

「それをどうするんですか?」

と刹那が問いかける。

「刹那さん使う?お金は後ろの奴を売れば問題ないだろうし」

「そうですね…籠手は有って困るものではありませんが…」

「あーいいなぁ、私も欲しいなぁ」

と明日菜。

「じゃあ明日菜さんにお譲りします」

「え、いいよいいよ、言ってみただけだし」

譲り合ってしまう明日菜と刹那。

「じゃあこうしよう。オリジナルはわたしが(オルタの為に)貰うから、レプリカを作ってあげるよ」

この籠手は武器に属する。人の手で作ったものである以上兵主神の権能で複製が可能だ。

「えー…」「やっぱり徳永先生が一番バグってると思う」

失礼な事を言う明日菜だが、渡された籠手はしっかりと着けたようだ。

「お揃いね」

「少々恥ずかしいですね」

「えー、良いじゃない。ってうわぁっ!」

籠手が明日菜の体を包み込むと鎧へと変化する。

それは麻帆良祭で明日菜が着ていた西洋甲冑に似ていた。

「へぇ、面白いですね」

そう言った刹那は日本の軽甲冑に変化したようだ。

この偉大なる者の腕は今はジャック・ラカンの持つアーティファクト千の顔を持つ英雄を越えようと敵対する太古の国の魔法使いが作り出した物だ。

効果が似ているのはその為である。

それから紆余曲折会ってこの地下迷宮に封印されていたのだ。

それから戦利品をあさっていると、明日菜が部屋の端で立ち止まると下を向いた。

「あれ?まだ下があるよ」

どうやら地下への階段を発見したようだ。

「ここより高価な物がある、とか?」

階段を降りて行くと、そこは魔法がまだ生きているようで、半径二メートルほどの球体で、何やら地球儀のようなホログラフが浮かんでいた。

「これは…」

何か分からないが訝しむ刹那。

「なんだろう、刹那さん」

明日菜も刹那に問いかけるが当然答えは無い。

「ん-」

明日香が昇華魔法でその球体の情報にアクセスし、閲覧。

「魔力循環装置みたいだね」

「なんですか、それは?」

と刹那。

「さあ?でも未完成みたい。最後のパーツが無いようだね」

「何か分からないけど使えないって事?」

と明日菜が言う。

「動かせるものでもないし、戻ろうか」


地下迷宮を出てお宝を換金するとさらに南下。

途中、路銀には困ってないのだが、力試しにと竜種の討伐の依頼を受けた明日香達。

片方の角を折れば生え変わるまでは隠れて過ごすらしく、角を折るだけで報酬がもらえるらしい。

「とは言え、竜肉のストックが無くなりそうだから」

と明日香。

「普通は食わないんだけどね…でもまあ美味しいから」

明日菜も仕方ないと同意。

「徳永先生がおかしいだけで、本来食ったら死ぬらしいですよ」

そう明日菜と刹那が言う。

「んー?もう一匹の反応が遠くなっていく」

「もしかして誰かが退治したんじゃないですか」

と刹那。

「そうかもね。どのみち村の近くには居ないわ」

討伐した竜種の角を討伐証明として持って村へと戻る。

咸卦法を使っているからか自分の二倍ほどもある角を明日菜は軽々と背負っていた。

村に戻ると先客が居たようで。

「この…」

「せっちゃーーーんっ!」

ガバリと刹那に抱き着いたのは近衛木乃香だ。

「そちらは三人でござるか。合流出来て良かったでござるよ」

長瀬楓がそう安心したように話しかけてくる。

どうやら二人もこの村で竜退治を引き受けていたようで、ちょうどいいタイミングで戻って来たらしい。

討伐証明の角もちゃんと有るので間違いは無いだろう。

皆がオスティアを目指しているのなら、こう言う事も有るだろう。

「明日菜どのと刹那どのは実力を上げたようでござるな」

刹那は木乃香にくるくると回されている。

「分かる?」

明日菜がどうよと返事をした。

「なんかこう…人外の卦が出てるでござる」

ぞわわとすると楓。

「ええ!?」

「いや、拙者の勘違いでござろう」

あながち間違ってないのが恐ろしい。

オスティアまではあと少しだった。


一方その頃ネギはと言えば…

無事に茶々丸、長谷川千雨、犬上小太郎と合流したネギは密航した挙句に奴隷契約をしてしまった和泉亜子、大河内アキラ、村上夏美の三人を救い出すために古都オスティアで開かれる拳闘大会の優勝賞金獲得を目指していたのだが、力不足を感じ、ネギの父親の戦友であるジャック・ラカンに弟子入りし、今ネギは精神世界でエヴァンジェリンが開発した闇の魔法(マギア・エレベア)の習得に励んでいた。

「ちっ…どんどん傷が増えていきやがる…なんとかなんねぇのかっ」

精神世界での負傷が現実のネギの体を傷つけていて、ただ一人付き添っていた千雨は薬草を煎じてネギの傷口に塗っている。

「くそ…いったいどれほど…なにか…何かないのかよっ」

口は悪いが心底ネギの事を心配しているようだ。

「これは…?」

ネギのズボンのポケットから仮契約カードが落ちる。その中から一枚、光り輝いているカードがあった。

「ネギ先生のカード?」

何故そんなものが?仮契約カードは千雨のような従者の絵柄が掛かれているはず。

「ええい、ままよ」

何を考えたのか、千雨はこのカードが状況を打開する一手に思えてそのカードに手を添えてネギの手を握る。

「先生、負けるなよ…これは!?」

千雨が驚くのも無理はない。カードがひと際強く光ったと思ったらネギの傷が治り始めたのだ。

カードに宿っていた明日香の呪力をネギがマギア・エレベアで取り込んだのだった。

「ネギ…先生…?」

「はい…千雨さん」

ネギの意識が覚醒する。

「だ、大丈夫なのか…その…修行の方は」

上体を上げたネギは二コリと笑った。

「ええ、問題なく。最後の方は徳永先生に助けてもらった感じで少し恥ずかしいのですが」

「は?なぜそこで徳永先生が出てくるよ」

「でもそれもこれも千雨さんが居てくれたおかげです。ありがとうございます」

ネギが天然ジゴロをはっきして千雨に笑いかけた。

「ばっ…ちげぇ、私は何もしてねぇよ…」

照れ隠しで否定する千雨。

「いいえ、そんなことありません」

真剣な表情でネギが迫る。
 
「おう、坊主。どうやらマギア・エレベアは習得できたようだな」

そうラカンがタイミングを見計らったかのように声を掛けた。

「えと…」

「なんだ、渋い顔をして」

「いえ、何でもありません。闇の魔法自体はたぶん会得できたと思います」

「……?」

何かネギ自身は腑に落ちていないようだった。



お尋ね者なので変装して古都オスティアへと上陸。

獣人が普通に歩いている世界なので、猫耳猫しっぽを付ければ途端に獣人に早変わり。

オスティアは空を飛んでいる大地の上に栄えた都市だ。

心配していたネギ達との合流は結構あっさりと出来、ラカンと言うネギの父親の戦友を紹介された。

飲食店の一角で互いに自己紹介。

「ほう」

ラカンの視線は明日香にのみ向いている。

この場で誰が一番強いのか、分かっているようだ。

瞬動、そしてラカンパンチ。

「ちょ、とんでまうー」

「お嬢様っ!」

吹き飛ばされる木乃香を刹那が抱きかかえる。

「ちょ、ちょっとラカンさんっ!?」

ネギの戸惑いの声。

拳の衝撃波で座っていた椅子が吹き飛ぶほど。

「いったい何事でござるか」

楓も耐え切れず吹き飛んでいった千雨を抱きかかえている。

「た、助かったぜ」

千雨が安堵の声を上げた。

常人が受ければミンチになっているほどの攻撃だが、明日香は一ミリも動いていなかった。

黄金の炎がラカンの拳を止めていた。

つーとラカンの頬から冷汗が流れる。

カンピオーネでもおかしくないほどの豪放磊落(ごうほうらいらく)さだ。

剣闘士であった過去からくるしっかりとした戦闘練度。拳の威力に総魔力量。どれを取っても超一流の人間だろう。

間違いなくこの世界で五指にはいる強者だ。

武の練度では明日香が負けているかもしれない。

だけど惜しいかな。人間なんだよね…

明日香が内心でごちる。

「だ、大丈夫ですか?徳永先生」

とネギが見当違いの心配をしていた。

「気が済みましたか?」

「おーいてて。まるで岩を殴ったみたいだ。いや俺様の拳は容易く岩を砕くんだがな」

がははとラカン。

「岩を砕く拳を受けて平気とは…徳永先生っていったいなにものだよ」

とこの中で一番の常識人である千雨が呟く。

「恐らくでござるが…いや、今は語る場ではあるまい」

楓が口をつぐんだ。

「なんだよ、途中まで言っておいて」

言うなら最後まで言えと千雨。

「おーうちょっとこっちこい坊主」

「な、なんですか」

ガシとネギの首に腕を回して内緒話を始めるラカン。

「おい、あいつはヤベーぞ。この間の強さ表を覚えているか」

「は、はいっ」

とネギが返事をする。

自分の実力を数値で評価され、目下の打倒目標である敵のフェイト・アーウェルンクスとの実力差にショックを受けた表の事だ。

「あの表で、俺様がこの位置だとして」

床に何やら書いているラカン。ラカンの実力はネギの何倍もある。そして上限の下に二本線を書いてその上に神と書いて丸で囲った。

「か、かみーーーーっ!?」

ゴンとネギの頭に拳を落とす。

「あだっ」

「冗談だ。忘れろ」

「ほ、冗談ですか」

なんだと純粋なネギは納得したようだ。

廃都オスティアにはまだ稼働しているゲートが有るようで、現状そのゲートのみが地球に帰れるただ一つの手段だとネギが言う。

その探索に刹那と楓が向かう。

刹那は明日香が直々に鍛えてあるし、何かあれば念話も届くだろう。

明日香はこのオスティアで始まる終戦二十周年のお祭りを楽しんでいたのだが、その裏でネギ達は色々な事に巻き込まれたらしい。

一番は悪の親玉であるフェイト・アーウェルンクスとの邂逅だろうか。

ラカン曰く彼の目的はこの魔法世界の滅亡らしいが、そんな事が可能なのだろうか。

そのフェイトにこれ以上自分たちに関わらなければ無事に地球へと返してあげると言う甘言に明日菜の言葉もあったがしっかりと断って来たそうだ。

明日香はえぇーと言う感想を述べるにとどまる。

しかしだからこそ明日香はこの世界に来た理由を見つけ始めていた。

たくましくも一人で商売をして中古であはあるが飛行魚を自力で調達してオスティア入りした早乙女ハルナ。

その空飛ぶ金魚のような見た目のグレート・パル様号に明日香も感心していた。

「へー、すごいね」

「へへ、でしょ先生」

ブイと胸を張るハルナ。

「でもお尋ね者には貧弱かな」

「そこは仕方ないでしょう。普通のキャビンタイプなんだからっ」

「まぁね。だから今回はわたしが魔改造してあげるわ」

「………はい?」

パル様号からネギま部を追い出すとまず始めたのが内部の拡張。

「ウソ…部屋が増えてる!?通路も広いよっ!」

とパルが驚く。

空間魔法の応用で、内部の空間を広げたのだ。

この辺はダイラオマ球を見た事が経験になった感じだ。

キッチン回りは特に最新式にリフォームしてある。

個室も麻帆良の女子中等部の学生寮と同程度の広さで、圧迫感はまるで感じられない。

空間を広げた為内部動力が足りなくなったのでエンジン部分を軍事用大型艦の物を裏ルートのバイヤーから入手し取付。

これで戦艦並みの出力を出せるようになった。

金魚の口元には太陽光収束レーザーヒュペリオンを搭載。金魚の尾ひれを広げると太陽光を集めエネルギーに変える。

普段のエネルギーもこれを魔力に変換して運用しているので、日中に充電できないと夜間の航行は通常エンジンに切り替わり大幅にダウンしてしまうが、何とかなるだろう。

そのエンジンも常時聖絶を全面展開できるほどの高出力に昇華魔法を使ってチューンアップしてある。

前後にミサイル発射管を取りつけ甲板デッキの左右にはガトリングレールガンを四丁。

装甲には特殊な薬品を塗布しラカン・パンチであっても一撃は防げるほどの強度を持たせた。

「ちょちょっと!流石にソーラーレイとかやり過ぎだってっ!確かにロマンではあるけどもっ!」

パルがうれしいのか戸惑っているのか分からない悲鳴を上げた。

「最後にこれを」

「なにこれ、指輪?」

「宝物庫って言うアーティファクトで、このくらいの戦艦なら丸ごと入るよ」

「戦艦って言ったーーーっ!って…入るの?この指輪に」

「そう」

試しにグレート・パル様号を宝物庫にしまう明日香。

「ふふふふふっ…きた…キターーーーーーーッ!ついに人類の長年の夢、手ぶらで旅行が出来る時がっ!これでコミケで手荷物が多くて買えないなんてこともなくなるっ!」

「ハルナさんに宝物庫を預けたのははやまったかもしれない…」


拳闘大会に出るネギと小太郎の前にジャック・ラカンがエントリーして立ちはだかると言う事態が発生。

亜子たちの奴隷解放に拳闘大会の優勝賞金を当てにしていただけに一転かなりヤバイ状況のようだ。

困っていたネギに彼の父親の知り合いが三人ほど駆けつけ修行を付けてくれる事になったそうで、ダイラオマ球を使い三日を一か月に引き伸ばして修行するらしい。

困ったときに必要な物が与えられる…これは…

『英雄』

明日香が考え込んでいる内にいつの間にか明日香もダイラオマ球の中へと連れてこられていた。

「え、なんで?」

「そりゃ先生はネギ先生のマスターだからだろ」

責任は取れと千雨が言う。

彼女が明日香の手を握ってダイラオマ球に入ったらしい。

「ほれ」

と千雨が見せたのはネギの従者カード。よく見れば明日香の従者と書いてある。

「いつの間に!?」

「知らなかったのかよ…」

千雨が若干呆れた声を出した。

だが仮契約はキスだったかと修学旅行を思い出した明日香は納得した。

「す、すみません徳永先生。言うのを忘れてました」

とネギが謝る。

「まぁ、便利なものだし良いんじゃない?」

見ればアーティファクトカードのようだった。

接近戦はリカードと言う筋肉質のおじさんが、魔法はセラスと言う魔法学校の校長が手助けしてくれるらしい。

ダイオラマ救を貸してくれたのは大国であるヘラス国の王女テオドラだ。

この三人の協力でネギと小太郎をギリギリまで鍛えるらしい。

明日香の役目はネギへの魔力供給と…

「仮想ラカンかぁ」

「どうなんだ、出来るのかっ」

と千雨が怖い顔で問い詰める。

ラカンの過去の拳闘ビデオを見て居るのだが…

「えっと、この千の顔を持つ英雄って言うのを肉眼で見れればなぁ…」

兵主神でコピー出来るのに。

「は?」

「いや、問題ない…か?最近手に入れたアーティファクトが似たような効果だし」

それに…

「武器を雨あられと撃ち出される恐怖は一番知ってるし…ね」

神崎さん然りラーマ然り。


さて、ネギ、小太郎との模擬戦である。

「小太郎君」

「大丈夫やネギ。あのねーちゃんには女は殴らんちゅー主義を返上して本気でいくで」

小太郎は前回一撃でノックアウトした苦い経験がある。ネギも決勝戦はただの指導組手だった。

「あれから僕たちも強くなってる」

「そうやで、ネギ」

明日香とネギ、小太郎はちょうど闘技場のスタート位置程離れている。

「大丈夫なのか、あの女子は。ネギのマスターみたいだが…」

とテオドラが心配そうに言う。

「確かにな。闇の魔法、あれはヤベーぜ。それに接近戦も俺の指導でかなりレベルアップしたしな」

そうリカードも言う。

「ネギくんの魔法力は父サウザンドマスター譲りのもの。この魔法世界でも彼に並び立つものは少ないでしょう」

セラスも厳しいんじゃないかと言葉を発した。

「さて、どうだかな」

千雨だけは明日香がどれだけ化け物なのかを冷静に分析していた。

千雨はラカンのでたらめさを間近で見ていたことも有る。そのラカンが神レベルと言った相手だ。弱い訳がない。

そして練習開始の笛が鳴る。

明日香は一度大きく地面を蹴った。

「ラカン適当に右パンチっ!」

「ええええっ!」「バカ、ネギよけーや」

見よう見まねで打ち出したラカンの技。

明日香の掛け声が馬鹿っぽかったからなのか、突き出した右手から放たれたただ大量の呪力による圧をネギは避けることが出来ず…

「へぶぅっ!」

ネギが一瞬発動に遅れた瞬動。その為ネギは明日香のパンチに押しつぶされて地面にめり込んだ。

闇の魔法は魔法を取り込む性質上、開始の合図以前の発動は大会規定に引っかかる。

どうしても詠唱して取り込むまでにかかる時間はどこかで捻出しなければならず大会とは若干相性が悪かった。

「ちょと、彼女本気なの!?」

慌てた声を出したのはセラスだ。

「うーむ…ラカンより強くねーか?」

とリカードも冷や汗を流す。

「はっ、あのラカンのおっさんが神とまで評価したんだぜ。これくらいの事は出来て当然だぜ」

信じたくねーけどよ、と千雨。

「ネギっ!」

瞬動で避けた小太郎がネギを振り返るが、助けに行くほどの余裕はない。

「まずは一人」

そして…

「偉大なる者の腕」

虚空から巨剣が降ってくる。

「な、あれはラカンのアーティファクトっ!なぜじゃっ!」

借りれるものでもないじゃろ、とこれにはテオドラも驚きを禁じ得なかった。

だがその問いに答えられるのはこの場では明日香のみ。

「おいおい、本物かいなっ!」

瞬動をうまく使い避けてはいるが、小太郎も防戦一方だ。

「いえ、偽物だね。いやある意味では本物ではある」

手に持った大剣で小太郎に斬りかかる。

「そんな見え見えの攻撃」

「だよね…でもっ」

十重二十重と飛び交う巨剣が小太郎の逃げ道を塞いでいく。

「はっ!?」

気づいた時には後の祭り。明日香の大剣が小太郎の首元で止められていた。

「く…降参や…くそ」

その言葉で明日香は偉大なる者の腕を消す。

「おら、起き」

ドンとネギに蹴りを入れる小太郎。

「うーん…はっ!小太郎君…試合は…」

「能天気に寝てよーからに。負けや負け。前衛のオレがさばけんかったのも悪いが、それでも初撃はかわさな」

「ごめん、小太郎君…」

二人でダメだった所を反省している。

「そのアーティファクトはラカンから借りてきたのか?」

テオドラがたまらずと明日香に駆け寄り質問した。

「いえ、オスティアまでの道のりでついでに攻略したダンジョンにありました」

「えー…ついででダンジョン攻略しちゃうんだ…」

テオドラが若干引いていた。

「あんた、まだそんな隠し玉を持ってたのかよ」

と千雨の目端が吊り上がった。どうやら怒っているらしい。

「だがまぁ、確かに仮想ラカン戦としては申し分ないわけだな」

リカードがどうにかポジティブに和ませる発言で場を濁す。

「続き、お願いしますっ!」

ネギの戦意は折れていないようで、二回戦目が始まる。



「はぁ…はぁ…はぁ…」

「あかん。偉大なる者の腕が強すぎる」

ボロボロのネギと小太郎が肩で息をしている。

物量に任せた質量攻撃に魔法も体術も使う隙をなかなか見いだせず苦戦をしているようだ。

特にリングと言う試合空間に制限がある拳闘大会においては無類の強さを誇っていた。

「と言うか、なんでねーちゃんそんなにうまいねん」

小太郎が愚痴る。

「そりゃ、わたしもこう言う攻撃に散々苦しめられたことあるからね」

自分もやられた事があり今回とても楽しいと明日香。

「ネギ、何とかならへんのかアレ」

「うん。幾つかは考えが浮かんだんだけど」

ネギが息を整えてから答えた。

「へぇ、どんなんや」

「でもちょっと気乗りしないんだよね」

「そう言うのはもっと強なってから言うもんやで。今のオレらはなんにしがみついてでもラカンのおっさんに勝たなきゃならんねん。じゃなきゃ夏美ねーちゃんが助けられんのや」

主義主張を言っている場合とは違うと小太郎。

「…そうだね。僕が間違っていた」

そう言って取り出したのはネギの仮契約カード。

「それは…お前のカードなんか?」

コクリと頷いてから始動の言葉を唱える。

「来たれ(アデアット)」

明日香と契約した仮契約カードで明日香と対峙すると言う矛盾に使うのをためらっていたのだろう。

出てきたアーティファクトは千の絆。

その効果は自身の従者のアーティファクトを呼び出して使えると言う物。

千の顔を持つ英雄は一種の魔法であるため、ハマノツルギの魔法無効化の効果で打ち消せる。

「へぇ、じゃあわたしはもうお役御免かな」

後の指導はリカードとセラスに任せておけば大丈夫だろう。

「あ、そうだ。はい、これ」

とネギを呼び出すと懐からあるものをネギに渡す。

「何ですか?って仮契約カードじゃないですか…それもアスナさんと刹那さんのっ!」

「もちろんコピーカードだけどね」

「マスターは…徳永先生?いったいどうしたんですか?」

「保険の為に一応仮契約したのよ。何か有用なアーティファクトでも出れば儲けものだったし」

「それで、これを僕に渡してどうしろというんですか?」

ネギがぽかんとした顔を浮かべている。

「千の絆で使えるんじゃないかと思って」

「え、千の絆は僕の従者のアーティファクトを使えるアーティファクトなんですが」

「そのアーティファクトカードのマスターはわたしでしょ?だから使えるんじゃないかと思って」

「確かに…」

盲点だったとネギ。

千の絆で二枚目の明日菜のカードを使ってみる。

「使えちゃいました…」

「良かったじゃない」

「はい…ですが…少し複雑です」

どこかズルをしていると言う気分になるのだろう。

「そういう感情も大事だけど。まずは目的を間違えないように。じゃないと後悔する事になるから」

「…はい…分かりました」

千の絆のポーチに二枚の仮契約カードをしまう。一瞬逡巡したようだが、最後は吹っ切れたようだ。



一対一でネギと対峙する。

小太郎はリカードとタイマンを張っていた。

さて、ネギの一番の攻撃方法と言えば最近修得した闇の魔法(マギア・エレベア)

「契約により我に従え 高殿の王 来たれ巨神を滅ぼす 燃ゆる立つ雷霆……」

詠唱が長い。魔法使いが砲台と言われるのがこの為だ。

無詠唱や詠唱破棄はやはりどこか威力に劣る。最大威力を出したければやはり詠唱は必須。

「解放 固定 千の雷 掌握 術式兵装」

ぐっと手の前で発動した魔法を握りつぶすように取り込んだ。

「雷天大壮っ!」

千の雷を取り込んで、まるで雷を纏ったかのよう。

「行きますっ!」

バリバリと自身の体を雷に変えて明日香に迫る。

彼の努力で手に入れた移動技、雷速瞬動だ。

明日香はそれを瞬動で横に避ける。

「え、あれ?」

ネギ自身からも驚きの声。

二撃、三撃とも瞬動で避けられていた。

「おい、ネギ先生のほうが速いのにどうして徳永先生は避けれているんだっ!」

と千雨が叫ぶ。

「彼女の反応速度は確かに異常だ。だが、これはそう言う事では無ねぇな」

そうリカードが顎に手を当てて呟く。

「どう言う事よ」

セラスが横目でリカードを催促した。

「ネギの攻撃は確かに速い。だが、速いと言う事は少しのずれが目標を外れてしまう。ほれ、百メートル先を狙い撃つようなものだ」

銃身が少しでもブレれば的を捉えることが出来ないだろうとリカード。

「当たらない……」

「ようやく神速の世界に入門した新米に負ける訳にはいかないでしょう」

それに、と明日香。

「神速はこうやって使うんだよ」

バリバリと帯電する明日香。

「は、速いっ!ぐはっ!?」

次の瞬間ネギの真後ろに移動した明日香が肘うちをネギに食らわせ、ネギが地面に沈む。

「くっ…」

ネギが完全雷化しても、明日香も自身を雷化して干渉され無効化されてしまう。

「まだですっ」

それでも雷速瞬動で走り回るネギ。

「ぐ…」

急に胸を押さえて倒れ込んでしまった。

「お、おい先生ッ!ネギ先生っ」

千雨が駆け寄るが、とても苦しそうだ。

「はぁ…はぁ…ぐぅっ…」

呼吸が荒い。

「神速の使い過ぎ。あれは熟練者でも5分も全開で回せば頭痛がするし、15分もすれば体にガタが来る。ネギくんはまだ初心者だから限界も早い」

雷天大壮も切れる。

「神速も達人には普通に防がれる事もあるし無敵じゃない。まぁふつうそんな事を出来る人なんて居ないけど、残念ながらあのラカンって人は出来る人の部類だね」

人間かどうかも怪しいほどにラカンは常人離れしている。

「それなら、いったいどうすれば…」

まだ体が辛いだろうがどうにか上体を起こし明日香に問いかけるネギ。

「わたしがどうやって戦っていたか見てないの?」

「………オンとオフの切り替え…一瞬だけ雷速瞬動で動いて反動を最小限にする…」

ほんの少しのヒントで答えにたどり着くネギは本当にセンスが良い。

「なあ」

こそっと千雨がリカードに声を掛けた。

「ネギ先生ってこの魔法界でどれくれーつえーんだ?」

「大戦以来姿を見せない紅き翼のメンバーを抜かして今の魔法界では確実に10指には入るだろう」

格闘術ではまだまだ自分には及ばないだろうが闇の魔法アリだと勝てなさそうだとリカードが笑う。

「そのネギ先生をまるで赤子のように捻ってるんだがうちの徳永先生は」

どんだけだよ、と千雨が引く。

「あの明日香と言う女子、ネギに指導を付けているだけで自身の戦闘スタイルを全く見せておらんじゃろ」

テオドラが目を細めて言った。

「あら、じゃあ何。まだ隠し玉が有るって事?」

「と言うより、何も見せてねぇって事だ」

セラスの言葉にリカードが冷汗を垂らしながら答えた。

リカードほどの強者なら誰着一番危険かは察知できる。その中で一番戦いたくないのが明日香なのだ。

「ま、何にせよ一番機嫌を損ねてはいけないヤツが分かっただけでも儲けものじゃろう」

やれやれとテオドラがため息を吐いた。


模擬戦が終了するや否やネギが地面に倒れ込む。

「大丈夫なのか?」

もはや定位置と千雨がネギを抱き起していた。

ネギの意識レベルは低い。

「闇の魔法の反動が出ているね…魂魄が大分傷ついているみたい」

呼吸も浅く回数が多い。

「なっ!?そいつはヤバイのか!?」

「わたしは専門家じゃないよ。だけど魂が傷ついて大丈夫な訳はないよね」

闇の魔法は掌握した魔法に自身の魂を喰わせて強引に融合しているのだ。元からまともな技じゃない。

この技に適応すると言う事は人間をやめると言っているような物だろう。

「だけど、あまりいい状態じゃ無いのは確かだから…」

ネギに手をかざす明日香。

「何をやっておるのじゃ」

とは心配になって歩み寄って来たテオドラの言葉だ。

「魂魄を治療する魔法を使ってる」

「それはまた奇跡みたいな力じゃな…」

魂魄魔法の効果はあったようで、ネギの呼吸が落ち着きを取り戻す。

「治ったのか?」

心配そうな表情を浮かべた千雨が明日香を見上げた。

「完全に治る事はないよ。これも応急処置に過ぎないわ」

「なっ!?そんな…」

「完治させると言うのはネギくんに闇の魔法を捨てさせると言う事だもの」

「くそっ…そう言う事かよ」

悪態を吐く千雨。彼女は分かっているのだ。この小さな男の子は闇の魔法を手放さないだろう、と。

「だが、先生が居れば回復は出来るんだな?」

「見た通りね。だけど、ネギくんが無茶をするたびに彼の傍に居るとは限らない。それに…わたしはこの世界に長く居ないわ」

「……まるで二度と会えないような言葉だな」

「そうね。多分魔法世界から帰ったら二度と会えないわ」

「…………マジなんだろうな」

明日香がとんでもない存在だと言う事は千雨もなんとなく理解している。その彼女が言っているのだからそうなのだろう。

「心配なら本契約してしまうと言う手もあるぞ」

そうテオドラが爆弾発言。

「はぁ!?どういう事だよ」

千雨が食って掛かる。

「本契約すると相互に影響を及ぼす事がある。不死者と本契約をすれば寿命が延びる、とかな。従者が老衰しては何かと不便じゃろう?」

長命種の従者をする為に主と同じ時を生きられるようにすると言う事らしい。

「呪いじゃねーかっ!」

「じゃが、遠くない未来、ネギはもっと過酷な状況に変化するかもしれんしのう。それほどまでに闇の魔法は危険なのじゃ。そもそも不死者が作った魔法じゃぞ。最適化すると言う事は…おそらく…」

「うっ…」

テオドラの言葉に負けて気圧される千雨。

不死者の魔法に最適化すると言う事の意味は何となく分かるだろう。人間では扱えないのなら人間でなくなればいい。

「やってみる価値はある…のか…」

だがと千雨。

「その前に、先生。あんたは何者なんだ…ああいや、違うな…。いったいどういう存在なんだ?」

千雨の視線が真剣なものに変わり明日香を射抜く。

「そうじゃな。妾も気になっておった。妾が提案したのもお主がただ者じゃないと見込んでの事じゃしの。じゃ無ければ本契約してもおそらくネギの状況は変わらん」

そうテオドラも追随する。

千雨の真剣さに明日香は降参のポーズ。そしてあまり広げないで欲しいのだけどと言って口を開いた。

「わたしは神を殺した存在。神殺し、ラクサーシャ、魔王。最近はカンピオーネと呼ばれる事が一般的らしい」

「カンピオーネ?」

「聞いたことも無いんじゃが…と言うか神を殺したことがあるのか…」

「超能力と言っていた物も本当は神を殺して手に入れた神の権能なんだよね」

「………」「…………」

千雨もテオドラも理解が追い付いていないらしい。

「だからまぁ、わたしと本契約すれば良いか悪いかは別として影響は出るとは思うよ、確かに」

たぶんね、と明日香。

「今より悪くなる可能性は?」

「そんなのは分からないけど。わたしが持っている力でマイナスに働くものは無いかなぁ」

明日香自身が認識している限りはマイナスは無い。明日香自身がまだ若く、寿命に関しての認識にズレが有る事を除けば、である。

古強者のカンピオーネなどはとっくに人の寿命を超えている。

「でもきっとネギくんは望まないんじゃないかな。この子は自分で全てを抱え込む性格をしていると思うよ。頭でっかちとも言うけれど」

本人に確認すればおそらく本契約など結ばないだろう。

「そんなのは分かってんだよっ!ネギ先生はそう言う人だ。…だからっ!」

千雨が一度深呼吸。

「今のうちに本契約をしてしまうってのは、どうだ?」

千雨が震えながら言った。

「はい?」

「ネギ先生の説得…いや、責任は私が取るからよ…これ以上ネギ先生がボロボロになるのを見たくねぇんだ」

千雨は一度闇の魔法の修行で全身を血で染めたネギを見ている。常人なら確かにトラウマにもなるだろう。

「それも有りかもしれんのう。何にせよ良い方に転がればよいのじゃが」

テオドラも消極的同意。

魔法なんてほとんど関係ないスタンスの千雨の真剣さに最終的に明日香が折れた。

テオドラの手を借りてネギと本契約をする明日香。

「きっと大丈夫だからな、ネギ先生」

ネギを膝枕しながらぎゅっとネギの手を握る。

「愛じゃな」「愛ね」

「ちげぇっ!?」

千雨が吼える。

「こいつはまだ10歳のガキだぜっ!誰が…だれが…っ…」

言葉に詰まり顔を真っ赤にする千雨。

「気づかないのは本人ばかりなのが定番じゃの」

「そうだね」

「あーーーっ!もう良いからさっさと本契約してしまおうぜ。ネギ先生が起きちまう」

千雨に急かされ本契約を結ぶ。

「なんで私のカードも出てきてんだよっ!」

「そりゃ千雨も魔法陣の中におるのじゃから、当然じゃろ」

「え…」「え?」

当り前とテオドラの答えに明日香と千雨が困惑顔。

だが本契約は無事に完了し…

「落ち着いたようじゃの。先ほどより安定しておる。魔力の質が変わったようじゃな」

ネギの体に刻まれた闇の魔法(マギア・エレベア)の呪紋。その色が闇夜をかたどった漆黒から金色へと変化している。

ネギの中で何かが致命的に変革したのだろう。だが良い変化だった。

「千雨の方は何か変ったかの」

テオドラが千雨にどうだと問いかける。

「あー…幾つか神代魔法ってのを覚えたみてーだ…ちっ…これで私もファンタジー世界の住人になっちまったぜ…」

「神代魔法じゃと?」

テオドラが明日香に視線を送る。

「何を覚えたの?」

明日香は千雨を見つめる。

「あー…ちょっとまて」

千雨が少し集中して自身の感覚に問いかける。

「昇華魔法、魂魄魔法、再生魔法の三つだな」

「なるほど、愛ね」

「ちげぇっっつーのっ!」

再び赤面。

それに取り合わず明日香は説明を続ける。

「わたしが七つ持っている神代魔法の内の三つが千雨さんに刻まれたみたいだね」

「またとんでもない情報に理解が追い付かないのじゃが」

テオドラが少し困惑気味だが、説明を続ける。

「魂魄魔法はさっきわたしが使ったから何となくわかるでしょ。ネギくんの魂を回復させたやつね。でもこれの本質は生物の持つ非物質に干渉する魔法なのよ」

「最初から意味が分からねーんだが…魂を回復させる魔法じゃねーって事か」

「魂にも干渉できる魔法って事ね。応用次第で思考の分割、なんて事も出来るわ」

千雨もテオドラも虚無を浮かべていた。

最初の魔法からチート臭いのだ。他の二つはあまり聞きたくない。

「昇華魔法は魔法とかの威力を最低一段階強化する魔法」

「ちょ、さすがにそれはチート過ぎないか?メラがメラミかメラゾーマになるって事だろ?」

的確な物の例えを出した千雨。どうやら多少ゲームにも精通しているようだ。

「なんでドラクエ…まぁそうよ」

「メラが何か分からぬのじゃが、魔法が強化されるって事よの?それは流石に…」

テオドラも渋い顔をした。魔法自体を強化する魔法の存在に驚きを隠せないのだろう。

「とは言え、その本質は存在するものの情報に干渉する魔法なのよ」

「は?」

「魔法を強化するのはその一端でしかない、と?」

そう言う事とテオドラの問いに明日香が答える。

「チートじゃねえかっ!」

「まぁ、そうね」

そういう物だもの、と明日香。

「じゃあネギに傷を負ってほしくない千雨の愛が手に入れた再生魔法と言うヤツも生物を回復させる魔法と言う事じゃないのじゃろうな」

「だからちげぇっって!しつけーぞ姫さんっ!」

からかわれて真っ赤になる千雨だが、テオドラも彼女をからかって気を紛らわせたかっただけだ。

「再生魔法を定義づけするならば時間に干渉する魔法になるかな」

「時間と来たか…もう驚かねーと思ってたけど、やっぱ驚いた」

千雨が遠い目をしていた。理解を放棄したいのだろう。

「そんな恐ろしいものを後四つも隠し持っておるのじゃな…これは流石に…」

テオドラも神妙に呟いた。

「とは言え、千雨さんの場合もともとの魔力が少ないから、そう大きなことは出来ないかな。もっと体を鍛えないと」

「うるせー」

ほっとけよと千雨。根っからの現代人で明日菜などとは違い身体能力がずば抜けて高いと言う事は無いのだ。





「うっ……ちさ…め…さん?」

ネギが覚醒する。

「起きたか、ネギ先生」

「は、はいっ!す、すみません。すぐに退きますねっ!」

しかしなかなか起き上がれずふらつくネギ。

「良いからもう少し寝とけ。千雨さんの膝枕だぞ」

千雨はぐっとネギの頭を押し込んで制止する。

「…いや、私はいったい何を言っているんだ…くっ…相手は10才だぞ…」

ブツブツと千雨が何かと葛藤していた。

「で、だ…あー…ちょっと先生に謝んにゃきゃいけない事があって…その…言いづらい事なんだが…」

言いよどもう千雨。視線もあちこちと忙しい。

「いえ、なんとなく聞こえていました。本契約ですよね」

夢うつつのネギだったが、千雨たちの会話は聞こえていたらしい。

「悪かったな…先生…」

「いいえ。これは誰が悪いとか言う問題じゃありません。それでも悪者を探すのなら僕が一番悪いんです」

「そんな事はねーよ…それだけは、…絶対に無い…だから、な?」

あまり自分を責めないでくれ、と千雨が言う。

「……はい。それに本当に悪い事ばかりじゃないんです。少し悔しいのですが」

今度こそスクと立ち上がったネギは精神を統一し、闇の魔法(マギア・エレベア)を発動。

「ネギ先生、…それは」

黄金がネギを包み込んだ。

「僕が徳永先生と本契約した事でマギア・エレベアが徳永先生の昇華魔法で強化されたんだと思います。それと徳永先生の魔力の性質を多く受け継いでしまったみたいで…これはもう闇の魔法とは言えませんね」

「なんかあったかい感じがするな。闇の魔法はもっと魂が震えるような感覚だったのだが…これは真逆と言っていい」

そう千雨が本質をとらえた感想を述べた。

「はい。闇の魔法が負の感情と清濁を併せ持つのに対し、この魔法は正の感情がベースになっています」

「確かにもう闇の魔法とは言えねーな」

「はい、なので」

と一拍おいてネギが続ける。

「黄金の魔法(マギア・アウルム)とかどうでしょうか」

「マギア・アウルム。良いんじゃねーか?闇の魔法なんかよりよっぽどネギ先生に似合ってるぜ」

千雨が率直に返す。

「そ、そうでしょうか…」

そう言ったネギが照れたように笑った。

「お、おう」

その表情を見た千雨が自分の事の用意なぜかこそばゆかった。

「僕の事よりも千雨さんの事の方が重要です…あの…」

「いいんだ。あれは事故みたいなものだったしな。ネギ先生が責任を感じる事じゃねーよ。別に害はねーんだからよ」

「で、ですが…千雨さんは魔法に関して敢えて近寄らないようにしているように感じました」

その事に関しネギは責任を感じているようだ。

「ま、その辺に関しては遅かれ早かれだな。ネギ先生に責任がねーとは言わない。それはネギ先生の為にならないからな。だが、それでも後悔はしてねーんだ。あんまり気にしないでくれよ」

とネギを励ます。

「はい…はい。絶対に僕が千雨さんを守りますっ!」

「ばっ!そう言う事は本屋とか綾瀬とかに言う言葉だろっ!」

「もちろんのどかさん達も僕の大事な生徒です。ですが、今は千雨さんしかいませんから」

ナチュラルジゴロを発揮するネギ。

「………そう言う所がタチわりーっていうんだ」

顔を真っ赤に染め下を向く千雨。

「どうかしました?」

「どうもしねーよ」

千雨は怒鳴る事で恥ずかしさをごまかした。


明日香がネギからのフィードバックで覚えたのは『黄金の魔法(マギア・アウルム)』だ。

「掌握 固定 魔力充填 術式兵装」

掌に集めた重力魔法を取り込む。

「事象の地平線(イベント・ホライゾン)」

「わ、凄いです。僕が苦労して習得したと言うのに…」

とネギ。

試しに右手を振り下ろしてみるとドコンと音を立てて砂浜が抉れた。

重力魔法の適性が高まり、その拳はやすやすと巨岩を砕くだろう。

だが、真の能力は別にある。

「え、徳永先生どこに消えたんですか?」

「目の前に居るよ」

むしろ一歩も動いていない。

「ええ!?」

「消えている訳じゃないかな。ただ、認識するための情報すらネギくんに届いていないと言う事だと思う」

ブラックホールが光や伝達物質すら飲み込むように、存在しているがその存在を相手が感知できない。

今は声だけは届けているのでどうにか居ると言う事を認識できているが視覚的には全く見えていない。

明日香が居るはずの空間は空白のまま何の異常もないと認識してしまうのだ。

ただ、さすがに神や神殺しの直感をも誤魔化せるかと言われれば難しいだろう。

「まぁ、面白ビックリ芸って所かな」

「えー…そんなぁ」

酷いです、とネギが言うが開発者のエヴァンジェリンすら弱かったころに作った技と言っている。

どうしても魔に寄る性質が有るため、魔に特攻の有る魔法や技に弱くなる傾向が強まるようだ。

神鳴流の斬魔剣なら容易に斬り裂けるだろう。


ダイオラマ球を使い修行と対策をする時間を得た事でどうにかラカン戦の勝ちを拾う事に成功し、亜子たち三人を奴隷から解放する事に成功した。

その間にネギま部のクラスメイト達は続々とオスティアに集結。

記憶を失っている様だが夕映も発見し、これで未発見のネギま部と密航者を含めたメンバーはアーニャだけどなった。

彼女の反応は旧オスティアに有るようなので、地球に帰るついでに回収できれば良いのだけれど。


終戦記念式典には当然メガロメセンブリアの高官も参加する。

メガロメセンブリアはゲート破壊の主犯としてネギ達に懸賞金をかけている国で、そんな所の高官と鉢合わせれば一触即発待ったなしだ。

ネギは鉢合わせしたメガロメセンブリア元老議員であるクルト・ゲーエルとひと悶着の後、なぜか彼が開く舞踏会に招待されることに。


その舞踏会が始まる前、明日香は今ネギがテオドラから借りたダイラオマ球の中に居る。

砂浜のようなそこに居るのは明日香を除けば呼び出したネギ、そして千雨と茶々丸の四人。

「で、わざわざこんな所に呼び出した理由は?まぁ内緒話と言うくらいしかないだろうけれど」

と明日香。

「そうだぜ。それにしてもなぜ私がいんだよ」

めんどくせーと千雨が愚痴る。

「え、千雨さんにはいつも一緒に居て欲しいので」

「ちょ、バカっ!そう言う事はもっと別のヤツに言ってやれっ!」

「ネギ先生、千雨さん。痴話げんかはそこまでにして本題を」

そう茶々丸が窘めた。

「ば、痴話げんかじゃねえよっ!」

「ま、ほんとほどほどにしなさいよ。で、さっさと話しを戻すわよ」

本題はなんだと明日香。

「はい。徳永先生は僕の主人(マスター)ですから。話しておこうと思って」

とネギが神妙な顔をした。

「まず、この魔法世界。ここは火星を触媒にした異界です」

のっけからまたすごい爆弾発言だった。まさかここが火星とは…

超さんや茶々丸さんのデータから推察したとネギ。

「そして超さんが居た未来は大変な事が起きたと言っていました。おそらくそれはこの魔法世界の崩壊」

「なっ!」

千雨が素直に驚いたらしい声を上げた。

本当に未来人である超が自称していた火星人と言うのが本当であれば今すぐに魔法世界がどうこうと言う訳でも無いだろうが、そう遠くない未来で起こる惨事なのだろう。

「そして僕はその未来で起こる魔法世界の崩壊を止めようと思います」

「…………………」

明日香が黙ってネギを見つめた後言葉を発する。

「どうやって?」

「それには僕も考えがあります」

まず、魔法世界の崩壊はその世界が維持されるに必要な魔力が枯渇すると言う事が考えられる。

ならばどうするか。魔力は自然の生命力だ。

なので火星をテラフォーミングして草花の生えた大地に変えてやれば自然と魔力が満たされると言う事らしい。

「ばっ!?テラフォーミングなんて…そんな事っ!!」

千雨が大声を上げた。

「多分大丈夫だと思うんです。今の内から宇宙事業を開拓して、軌道エレベーターの建造、その延長上で火星のテラフォーミングの実施。最終的には魔法を世界に認知させる事が目標です」

なるほど、子供ながらに真剣に考えたのだろう。

「どうでしょうか」

どう思うか、とネギが真剣な表情で明日香を見つめた。

「すぅ……」

軽く息を吸い込むと、明日香はいつの間にか手に持っていた黒塗りの鞘に納められた刀でネギの頭を叩く。

「あいたっ!?」

「ちょ、徳永先生っ!」

頭を押さえてうずくまるネギと何をしたんだと非難の目を送る千雨。

「あ、ネギ先生。大丈夫ですか」

茶々丸もネギを心配して傍に寄った。

「再考しなさい」

と明日香。

「な、どうしてですかっ!」

ネギが食って掛かる。自分のプランに自信があるのだろう。

「この世界を救うためにこれから不幸になる人の事も考えろって言っているの」

「…え?」

「徳永先生。ネギ先生はまだ子供だぜ、もう少しきちんと言ってやらねーと。世の中ってのはそうは出来てないってな」

千雨は明日香の言葉の真意に気が付いていた。

しょうがないと明日がが続ける。

「まず、人間一人が全ての人類を救済するなんて大それたことは出来ない。これは絶対のこの世の理。これを否定する事は絶対に出来ない。これを受け入れられないならもうネギくんは何もしない方が良い」

「な、…いくら何でも」

ネギの言葉を最後まで言わせず。まず、と明日香が言葉を続ける。

「地球の宇宙産業に革新を齎せば、経済がそちらへと傾くことになるわ。その結果いくつかの産業はたちいかなくなり倒産する会社も出てくるでしょう」

「そうならないように、考えてるつもりです」

そんな事は不可能だろうが、明日香は続ける。

「第二に軌道エレベーター?まぁ昔アニメで見たわ。要するにエネルギー産業にもテコ入れするって事よね?太陽光発電かしら。つまりそうなれば石油産出国の貧困が加速する。それはどうするつもり?もう国単位よ」

「うぅ…石油産出国はお金を持ってますから…」

ネギが答えに詰まる。

「それを資本にすると?じゃあその資本が用意できない国は?資本主義は平等ではないんだよ?初期投資されない国にエネルギーを分配する事を認めると思う?」

「うぅ…」

経済の事など専門でも何でもないネギ。当然解決方法などを今の段階では提示できず。

「最後。魔法の認知について。これはもう最悪。この魔法世界ですら魔法の軍事利用が加速しているのよ?それを地球に持ち込んでみなさい。遅れている分大国がこぞって研究するでしょうね。そして大概良い事にはならないのは歴史を見れば明らかよ」

軍事転用されて戦争による貧困が加速するだろう。

ほらと明日香。

「簡単に考えただけで不幸になる人が多いネギくんのプラン。それでも地球にはこれっぽちも関係ない火星人の為に彼らに不幸になれと言える?」

「うぅぅ…」

「3─Aのクラスの人達が不幸になってもそれは仕方がない事だったと胸を張って言う事が出来る?」

「それでも…僕は…」

と何かを決心しそうになった瞬間、明日香は黒塗りの鞘から刀を抜いてネギの首を跳ねる。

「なっ!ネギ先生っ!!」「ネギ先生っ!」

慌てて首を触る千雨と茶々丸だが、ネギに特別異常は無い。どうやら脅しだったらしい。

「僕は……出来ません。出来ないです…だから、もう一度考えてみます」

そう言って暗い顔をしたネギは砂浜を歩いて行く。少し一人になりたいようだ。

「ネギ先生」

茶々丸は心配そうについて行った。

「徳永先生あんた、何を斬ったんだ?」

残った千雨が明日香を睨みつけている。

千雨は直感で明日香が何かを斬ったと感じ取っていた。

「この刀はキュプイオトと言って定められた運命を断ち切る力を持っているの」
 
「運命?まさか本当に断ち切ったのか?ネギ先生の運命を…?いったいそれは何だっ!」

運命なんて言われては千雨も落ち着いてはいられなかった。

「恐らくそれがこの世界にわたしが来た理由。本来だったら生まれるはずのない英雄を殺す事」

「なっ、どういう事だ?生まれるはずの無い、なんて…」

「本来、ネギくんは英雄に何てならなかった。だから魔法世界は滅んで、超さんが居る未来になっている。これが本来の世界。だけど、この世界はそうはならなかった。超さんがこの世界に来た事で未来が変わり、今まさに世界は英雄を獲ようとしていた。だからわたしはこの刀でその運命を斬ったって訳」

「じゃぁ…魔法世界は滅ばなきゃならないって事か?」

それはあまりにも、と千雨。

「うーん…わたしもこんな結末は気に入らないからね」

「……?」

「ここからはわたしも好きにさせてもらうつもり」

依頼は完了したが、反運命の力はそれすらも覆させる。

「魔法世界を憂いていたのはネギくんだけじゃないって事なのだろうし、火星に住む人の願いがわたしをまだここに居させるのだと思う」

「つまり何が言いてーんだよっ!」

結論を言え、と千雨。

「ここに来るまでに見つけた遺跡に面白いものが有ったんだよね……」

「面白い物?」



戻って来たネギにその話をすると、ようやく彼に笑顔が戻った。

「確かにその装置が使えるなら、地球に迷惑を掛けずに火星を救えるかもしれませんっ!!」

「まだ使えると決まった訳じゃないし、まずは皆で地球に帰る事を優先する。これは大前提だよ?」

「はい、それでも、ですっ!」

ぱぁと子供特有の笑顔に皆この笑顔が曇らなくてよかったと安心していた。


そして舞踏会。

レンタル衣装でおめかしをして敵地へと乗り込む。

とは言え、クルトが用事が有るのはネギで他はオマケ兼人質のようなもの。

メガロメセンブリアが出した懸賞金を取り下げると言うエサでネギを招待したのだ。

招待理由はネギの勧誘。

ネギと従者、千雨、茶々丸、和美の三人だけ同伴が許され、20年前の…ネギの父と彼の仲間達『紅き翼』の話を聞く。

当然盗聴手段を講じた和美の手腕で会談内容は筒抜けだったのだが。

色々な情報が目白押しで大分混乱する。

ネギの母親がこのオスティアの元女王で罪人である事や、ネギの父、ナギが倒したラスボスっぽいやつとか。

だがそんな事はどうでもよくて、クルトの真の目的はこの魔法世界で唯一現実へと渡航可能な人間、6500万人の救済。これのみだ。

この為だけにネギを仲間に引き入れたいと言う事らしい。

だがネギはこの魔法世界全てを救える手立ての可能性を掴んでいる為交渉は決裂。

それでは力づくでと言うクルトに…

「あー…ほんと嫌になるぜ…この昇華魔法ってやつは」

今ネギ達が囚われている幻想空間。ネギの魔法でも容易には抜け出せないそこにジョーカーが潜んでいた。

「千雨さんっ!」

ネギの嬉しそうな声。

彼女のアーティファクト、力の王笏。そのステッキに宿る電子精霊である電子ネズミのような形をした千人隊長七部衆を昇華魔法で強化。

強化された千人隊長はクルトが行使している幻想空間をハッキング。事も無げにクラッキングする事に成功。

ネギ達は現実世界へと戻り、皆で脱出する。

行先はもちろん旧オスティアにある稼働状態のゲート。

魔法世界のあれこれよりもまずはクラスメイトの安全な帰還が優先される。

後はグレート・パル様号に乗って逃げ切る、とは問屋が卸さないようで。

パーティ会場の外で大量に召喚される魔族。

「今度は何!?と言うか、第三勢力ね」

クルトがこんな事をしても利が無い。と言うかメガロメセンブリアの船も大型の魔族が襲っていた。

「どうするのよ、徳永先生っ!」

明日菜が明日香に指示を仰いだ。

「皆で合流して逃げるわよ。わたしの事は気にしないで」

「あー…うん。徳永先生の事は信頼してるっ!」

ビシっと親指を立てると他のクラスメイトを探して会場を駆けて行った。

海魔とでも言うのだろうか。巨大なクラーケンのような化け物まで多数召喚されている。

どう言う理屈か、ヘラス帝国の守護竜すら一撃で無力化されてしまっていて、戦力が圧倒的に足りていない。

この状況で明日香の第二の権能が使用可能になった。

「迦楼羅」

明日香を包み込むように鳥頭の巨大な武人が姿を現す。

背に生えた翼を羽ばたかせると空を飛びクラーケンに迫る。

目前で迦楼羅は横笛から刀を抜いて一閃。

「うぉおおおっ!なんだあの巨人はっ!?み、味方かなっ!?」

グレート・パル様号を操舵しながら映るモニターに興奮しているハルナ。

「今はそんな事を気にしている場合じゃないと思いますーーーっ!」

幽霊のさよがツッコんでいた。

「無駄口でも叩いてないと、わたしだっておっかないのよっ!」

状況は緊迫していた。

この状況で何とかクラスメイトの全員を収容してこの場から逃げなければならない。

迦楼羅が刀を振るたびに、魔族の大小を問わず斬り裂かれ還っていく。

「このくらい減らせば後は大丈夫かな。混乱に乗じてわたしも金魚に行かないと」

迦楼羅を消すと人の大きさまで縮んだ翼で空を駆ける。

グレート・パル様号の甲板に着地すると背中の翼も消し去った。

グレート・パル様号はクラスメイトを収容し急いで旧オスティアへと飛んでいる。

武闘会会場の襲撃は完全なる世界と言う第三勢力の介入によるもので、その親玉はフェイトと言うネギのライバルらしい。

彼らの目的はこの魔法世界を破壊する事。

そして今回どういう魔法を使ったのか大量の人間を消し去ってしまっていた。

しかしその魔法も地球出身者には効かず、その為3─Aの生徒たちは無事だった訳なのだが。

逆に言えば魔法世界出身者の殆どを一撃で無に還す力を敵は所持していると言う事だった。

とは言え、それは魔法世界の住人。地球人にしてみれば夢や幻。ゲームのNPCとなんら変わらない。

ただ相手に意思があり、言葉を交わし、感情を交換出来たと言うのが性質が悪い。

皆知り合いが消されてしまい落ち込んでいた。

しかし、敵の親玉から元に戻せる手段を聞き出せたらしく、実行出来ればおそらく皆元に戻るだろうとの事。

決戦は旧オスティア。

それとは別に、明日菜が敵に捕まっていて先ほどまで会話をしていた明日菜は偽物だったようだ。

ネギくんの機転で、穏便に偽物と断定できたのだが、本物はフェイトの所に居ると言う。

結局オスティアでは激戦が予想されていた。

甲板に立って浮遊している大陸を見る。

「なぁ、徳永先生はうまく行くと思うか?」

心配になったのか千雨が一人甲板にやって来て明日香に問いかけた。

「まぁ、わたしが居るし?本気になればどうとでもなるよ」

「まぁあんたは公式チートだものな」

「公式チートって……あっ…忘れてた…」

「どうしたんだいきなり」

「いやぁ…」

ネギの運命を斬った事で第五の権能が使用可能になっている事に今さらながらに気が付いた。

「ザジっ!?どうしてここに?」

それを告げる前にどうやってこの甲板に現れたのか、地球に居るはずの千雨のルームメイトでありクラスメイトのザジ・レイニーデイが目の前に現れ、その非現実に千雨が驚きの声を上げた。

「徳永明日香。あなたが一番危険ポヨ」

「ポヨ?」

その語尾に呆気に取られている内にザジの転位魔法をくらってしまう明日香。

「先生っ!?」

手を伸ばす千雨だが、間に合いそうにない。

「大丈夫だからっ!心配しないでっ!」

その言葉はどこまで千雨に届いただろう。

一瞬後、明日香はどことも知れない空間に居た。

「ここは裏金星。魔族と言われる者たちの世界ポヨ」

「ザジさん…じゃあ無いね」

「私はザジで間違いないポヨよ」

「そう言う事じゃぁ無いのだけれど…」

回りを見渡すと、巨大な異形の集団に囲まれている。

「召喚された魔族は死んでも還るだけって聞いたけれど、ここで死んだら死ぬのかな?」

「ここでは皆実体を得ているポヨ」

ザジが肯定する。

「へぇ、ならば死ぬ覚悟が出来たものからかかって来ると良い。今のわたしは一種のチートモードだから、不死でさえ殺してみせるよ」

そう言って白夜を取り出し、構える。

背中には火焔光背。迦楼羅の権能は発動条件は厳しいが、発動出来ればしばらくの間なら無条件で再使用できる。

明日香の蹂躙劇が始まった。

………

……



「これほどとは…完全に見誤っていたポヨ」

倒れ込むザジに白夜を突きつけている明日香。

他の魔族は粗方始末されていて、死屍累々の光景だ。

バアルとか言っていたか、吸血鬼の真祖とか言っていたやつも明日香の持つ黒刀キュプイオトでその不死性すら斬り裂かれては二度と復活も出来ないだろう。

巨体も矮躯も関係なく切り刻まれている。

彼女がまだ生きているのは単純に彼女がザジの姿とうり二つだったから手心を加えたに過ぎない。

「でもネギくん達はどうかしらね。この空間は火星よりもゆっくりと時間が流れているポヨ」

「はっ!?」

明日香の体感時間はそれほど長くは無い。しかし火星では数時間が過ぎようとしていた。

猿神の献身を使いすぐさまネギの傍へとジャンプ。

転移した先は麻帆良で、ネギ達は今最大の敵と戦っている最中だった。

敵の名前をライフメイカー。最初の魔法使いと言い、不死の魔法使いで、フェイトとは別に世界の破壊をもくろむ存在だった。

「おせーぞ、徳永先生っ!」

千雨が安堵の声を上げる。

ネギくんもボロボロだ。他の生徒も生きてはいるが戦闘継続は難しいだろう。

重傷者は千雨が拙い再生魔法で回復し、それでも誰一人として死んでいないのは奇跡で、だからこそ明日香は自分の不甲斐なさに怒っている。

「あんた達…」

明日香の目の前には創造主ライフメイカーとその使徒たちが多数。

「ぐっ…徳永先生…」

ネギくんは千雨が今まさに再生魔法を使っている所だった。

傷を見れば不意を打たれたのだろう。

パチンと右手をスナップ。

「これは…」

「ちっ…私なんかよりもやっぱ練度がたけぇ…くそ」

ネギの傷を瞬時に再生。千雨が悔しがっていた。

「お、これはどういう事アルか?」

「傷が…」

古菲と刹那の傷も元通りに再生。その他傷ついていたクラスメイトはその服すら元通りになった。

「なんだぁ?回復魔法使いが前に出てきて何をしようってのかねぇ」

学生服を着ているチンピラのような使徒が魔法で明日香を狙う。

「千の雷」

雷鳴が轟き明日香に直撃。

「はははっ魔法使いが先頭に立つから…ってなにぃ!?」

粉塵が晴れるとそこには無傷の明日香の姿が。

黄金の炎を纏った明日香の姿は神々しかった。

オスティアと麻帆良のゲートの暴走で行き来可能になった為か遅れて麻帆良の魔法使いが転位してくる。

「ちっ…やはりあいつだったか」

「エヴァちゃん!?なにがあいつやの?」

転移して来た事に驚いた木乃香だが、まずはエヴァの真意を問うた。

「カンピオーネ…神殺しの魔王だよ」

再び明日香に放たれる魔法は雷、炎、水の最上級魔法だ。

「なにぃ!?」「ば、馬鹿なっ!?」

そのどれも明日香に傷一つ負わせることは無い。

手に持った白夜を構え、バリバリと帯電したかと思うと神速を発動。次の瞬間には使徒の首が三つ飛んだ。

「ぬぅんっ!」

巨体の使徒が明日香にその巨腕を振り下ろす。

明日香はかわしもしない。

その拳は確実に明日香の頭部を穿ったが、一歩下がらせることも出来ず。

「斬魔剣」

振るった白夜で一刀に斬り伏せられた。

「おいおいおい、こいつはどういう状況だよ」

「ラカンのおっさん、あんた死んでたんじゃねーのかよっ」

と千雨がどこか安堵したかのように言った。

「気合で戻ったっ」

実際ラカンは魔法世界の住人で、造物主相手には呼吸をするようにいとも容易く消されてしまう存在で、先ほどまでは確かにその存在を消されていたのだが、バグと言うのはどこにでもいるらしい。

「まぁ、あの嬢ちゃんが出張っている以上、俺の出番はねーわな」

「これはいったい…」

「むぅ徳永先生か…」

「あ、おとーさん」

「お嬢様っ!」

木乃香が援軍に駆けつけた父とその隣に居る祖父へと駆け寄った。刹那も慌ててついて行く。

「ほれ、面白いものが見れるぞ。この世界には存在しないはずの神殺しの戦いだ」

私は見るのは二度目だがな、とどこか楽しそうにエヴァが言った。

「くっ…」

苦し紛れに大量の魔族を召喚するローブを着込んだ使徒だが…

「もう飽きているよ」

一瞬迦楼羅の上半身を顕現させ仕込み刀からの抜刀術でその全てを斬り裂く。

「はははっこれではどちらがラスボスか分からんではないか」

とエヴァンジェリンも上機嫌に笑っていた。

更に明日香は偉大なる者の腕と兵主神(ブラック・スミス)の権能と昇華魔法を使い上空から刀剣類を無数作成し撃ちおろす。魔力に物を言わせて際限など無いのではないかと言う物量を放っている。

今の明日香は迦楼羅の権能で100倍強くなっていてその為このくらいに強引な力技も問題なく行使できた。

「ば、馬鹿なっ!しょうへ…」

「障壁が効かない…だと…ぐはっ」

戸惑いの声を上げている使徒達。

明日香はいつかのラーマの救世の雷よろしく武器を撃ちおろしていた。

「俺の千の顔を持つ英雄でもこれほどのでたらめは出来ねぇな」

がははとラカンが笑っていた。

白夜をデッドコピーしている為魔法障壁などものともせず使徒を殲滅しつくした。


「これが神殺し、カンピオーネの権能の一端か。吸血鬼などかわいいものでは無いか」

エヴァンジェリン暗い笑いを浮かべていた。

「彼女は味方なんですよね」

「むぅ…」

木乃香の父、詠春が隣の木乃香の祖父で学園長である近衛門に問いかけたが、明確な返事は無い。

「逃げるか」

明日香の呟き。

残りはライフメイカーのみと言うまでに追い詰めたが、不利を悟ったようで転位魔法で逃げていく。

追おうにも今はこの騒動を終結させることが先決だし、明日香の権能ならどこへ逃げてももう追える。

ライフメイカーが転位するその刹那、風に揺れたフードがはがれ中から青年の顔をのぞかせた。

「な、あいつはっ」

千雨の戸惑いの声。

「と、とうさん…とうさーーーんっ!」

ネギが叫ぶがその声は届かない。

「いったいどういう事だ、おいっ!」

エヴァンジェリンは隣の近衛門を締め上げていた。

「説明はするが、今はこの状況をなんとかする方が先決じゃないかの」

ライフメイカーの素顔がネギが長年追い求めていた自身の父親であるなどど、何の冗談だ。

「ちっ!」

エヴァンジェリンは悪態を吐いた後クラスメイト達を集める。

「おい、さっさと神楽坂明日菜を起こせっ!このバカげた騒動を終わらせるぞ」

そう言ってエヴァンジェリンが先導し、明日菜の力を使い魔法世界全体を揺るがせた魔力喪失事件をいったん終わらせる。

その時ネギま部が火星で知り合った人たちもほぼ元通りに復活出来て一応のハッピーエンドを迎えるのだった。



後日、明日香はネギま部の面々を連れてナギ・スプリングフィールドがライフメイカーと対決をした地にやって来た。

「こんな所に来てどういうつもりなんです」

ネギくんが落ち着かないのか明日香に問いかけた。

「ネギくんの父親とライフメイカーとの戦いで何があったのか。それが分からなければライフメイカーへの対処方法が分からないでしょう」

「だが、それとこんな所に来た意味がわかんねーんだよ」

千雨が少し苛立たしげに言った。

「まぁ、再生魔法の応用かな。過去、ここで起こった事を再生投影させる」

「なっそんな事が可能なのかよっ!!」

「まぁ、日時が分からなければ延々と検索を掛けると言う面倒な事になるからピンポイントで再生出来るのは難しいのだけどね」

今回は日時の特定が比較的容易だった為、過去のナギとライフメイカーの戦いを覗き見る。

「ナギ…」

「父さん…」

明日菜とネギが何とも言えない郷愁の声を漏らす。

「本当に人間でしょうか…」

「ほんまになぁ…でもうちの徳永先生には及ばへんのとちゃう?」

刹那と木乃香が映像を見て呟いた。

確かにナギとライフメイカーの戦いは人間離れしていた。

「どうやら決着のようアル」

古菲が言うように今まさにナギがライフメイカーに止めを刺した所だった。

「何か出てきたようでござるな」

長瀬楓が打倒されたライフメイカーの体から出てきた異形を見つめている。

その異形がナギに重なって行く。

「ナギさんの体の中に入って行くです」

夕映が驚愕の表情を浮かべている。他のネギま部のメンバーの表情も硬い。

そしてついにナギの乗っ取りが完了されてしまう。

「これが真相…父さん…」

「ネギ先生」「ネギ」「ネギくん」

クラスメイトから心配の声が寄せられた。

「報復型憑依能力ですか…」

夕映が自分のアーティファクト世界図絵でライフメイカーが使ったであろう呪法を検索、何か対策は無いものかと調べていた。

「夕映?」

のどかが夕映を呼ぶ。

「不死ではないが、不滅の存在。倒した相手の精神を乗っ取る…こんなやつ、どうやって倒せばいいんですかっ」

「んー」

と明日香。

「まぁ、倒すだけ、相手を消滅させる事ならわたしが出来るよ」

「「「「はぁっ!?」」」」

「これだから公式チートだってんだよ」

回りからの総ツッコみ。

「でも、それじゃネギくんのお父さんは救えない」

ナギの体ごとライフメイカーを消し去る事は明日香には容易だった。

「ならばどうにかして父さんとライフメイカーのつながりを切れれば…」

とネギが真剣に考えこむ。

「ダメだ…そんな奇跡みたいな魔法なんて…」

ブツブツと考え込んでいるが答えが見つからない。

「分離する方法もわたしが持ってる」

「「「「えぇ…」」」」

流石の無法ぷりに周りのネギま部一同あきれ声が漏れた。

「ネギくん、マギア・アウルムを使ってみて」

「え、はい。分かりました」

ネギの体に千の雷が取り込まれる。

「掌握 固定 魔力充填 術式兵装」

雷と化したネギの体に明日香はデコピン一発。

「あうぅ」

ふらりとネギが倒れ込む。

「ね、ネギくーん」「ネギ先生っ」

「なっ…一発で解除させちまいやがった…」

「今のはいったいどうやったアル」

「昔、鬼畜げ…師匠に教えてもらったのよ。覚えておいて損は無いって言われてね」

あまり得意じゃないから習得にかなり時間がかかったと明日香。

「何をしたんですか?」

とネギ。

「スピリットの強制分離」

この技はトータスに行って以降、反省として覚えた技なのだ。あの時覚えていればユエをもっと簡単に助けられたはずだからだ。

「なになに?もしかしてピッコロさんとネイルさんも分離できちゃうって事?ポタラ合体も?」

「まぁ、そう言う事かな。よく知ってるね、ドラゴンボール」

「まぁ、私みたいな職業だと専門じゃなくても必須知識よ」

そうハルナが胸を張る。彼女は同人作家活動をしていて、その技能を活かし魔法世界でグレート・パル様号を買えるまでの資金を集めた猛者なのだ。

「まぁ…だから…」
       「僕にその技を教えてもらえませんか?」

心配しなくてもと続けようとした明日香だ、ネギの言葉がかぶせられる。

「これはどちらかと言えば『気』に属する技だからネギくんには不向きだと思うけど…」

「それでも……それでもお願いします」

男の子の意地、かな。

「……分離をネギくんが担当してくれるのは助かるわ。だけど、修行は厳しいし、身に付けられるかも分からないよ?」

「はいっ!大丈夫です。必ず習得して見せますっ!」

グッと拳を握り込み意気込むネギ。

「しっかし、せっかくネギ先生が手に入れた最強魔法もしっかりメタされるって。やっぱ真のバグキャラは明日香ちゃんな訳か」

そう和美がうんうんと頷いている。

「せやね」「そうですね」「満場一致でしょうか」

「皆酷くない?」

魔法世界消滅の危機は明日香が見つけた遺跡の装置を完成させれば恐らく問題は無い。

現在各国の研究員が装置の解析と補習、最後のピースの研究を行っている。

数百年前の技術で作られたものだが、今の魔法世界の技術を総動員すれば完成させられるだろう。

一致団結して事を成せば助かる状況に利権だのなんだのと戦争するような世界ならば滅んでしまえば良い。

自助努力で助かる道を示しただけで十分だろう。

ネギの修行はダイラオマ球を使って行っている。これは明日香がこの世界に居られる時間が残りわずかでしかないためだ。

気合で誤魔化しているが、世界の方がもう明日香に用は無いとばかりに召還を促している。


「ここで間違いないの?」

とはグレート・パル様号の作戦室にあるモニターに映した天海図にある小惑星の事だ。

ネギま部のメンバーが一同に会していた。

「あれ、ネギくん背が伸びた?」

そう言って自身の頭に掌を当てて確かめたのは佐々木まき絵だ。

あの火星での一件以来暫定的にネギま部として扱われている密航者組だ。

「そうですか?自分ではよく分からないのですが」

「けっこう身長が伸びてるわよ。もう見下ろさなくても視線が合うもの。あなた、ダイラオマ球でどれほどの時間修行しているのよ」

そう明日菜が続ける。

「えーっと…」

答えづらい質問のようだ。はっきり言ってかなりの時間を、それこそ身長が誤魔化し切れないほどの時間をダイラオマ球で過ごしているからだ。

「コタくんも一緒になって修行しているんでしょう?」

「ネギに置いて行かれるわけにはいかんからな」

夏美が身長が伸びた小太郎に少しドキっとしながら問いかけると、ライバルだからと返された。

「あんた達は良いけど、それに付き合わされる徳永先生の事も考えなさいよね」

「うぅっ……分かりましたぁ」

明日菜にたしなめられてネギは表面上だけは反省したようだ。

ライフメイカーの居場所は明日香の猿神の献身と導越の羅針盤の両方で調べたがどちらも同じ場所を示した。

「火星と木星の間のアステロイドベルト、ですね」

と夕映。

「実際にはそこにある小惑星に召還された異界と言う事だと思う」

反応が裏火星に近かった。

「敵の本拠地と言う事は当然かなりの戦力が有るとみて間違いないでござるな」

にんにんと楓が呟く。

「はい。それにこれは父さんの事を抜きにしてもライフメイカーは倒さなければならない相手です。なので、魔法世界の人達を巻き込もうと思って」

「あなた本当にネギなの?そんな大胆な事を言うなんて」

信じられないと明日菜。

「そうですか?」

「そうよ。ほんとどうしちゃったのよ」

「僕も…いつまでも子供のままじゃいられないと思いまして」

自分に出来る事をしっかりと客観的にとらえられるまでに成長したと言う事なのだ。

先の魔法世界の崩壊を止めた英雄としてネギが要請すれば何とかなるだろう。

「それと今回はフェイトも協力してくれるはずです」

フェイトと言うのはラスボス前の中ボス、言わばバラモスだが、ライフメイカーに反旗を翻してネギと友達になったらしい。

彼の目的自体は魔法世界を救う事と一貫している。その手段が相いれないだけだったのだ。

魔法世界が救われるのであれば自身の造物主であるライフメイカーの方が邪魔だとネギとは悪友のようなポジションに収まったらしい。

フェイトがライフメイカーの真の目的を知っていたからこそここまでネギも大胆な事を言っているのだ。

ライフメイカーの真の目的は太陽系内全部を完全なる世界に取り込み現在過去未来から苦しみを無くす事だった。

それは永遠の幸福かもしれないが、今を生きる人類には当然認められる事でもなかった。

「それで、奥の手はしっかりと覚えたのかしら」

と言う明日菜の確認にしっかりとネギは明日菜を見つめ返し…

「はい。もちろんです」

力強く答えた。

「ねえ、千雨ちゃん、本当に大丈夫なの?」

「なぜ私に聞く」

「えー、心配で度々ダイラオマ球に入って行ってるの知ってんだからね」

「ばっ!!くっ…」

「千雨ちゃん…真っ赤になってる。やっぱり千雨ちゃんもネギくんが好きなのかな?」

佐々木まき絵が呟く。

「おいまき絵、何でもかんでも恋愛に結び付けんじゃねー。そう親愛とかあるだろっ!」

尊敬はしていると逃げる千雨。

「おっと待ちな。オレっち調べのラブ数値表の最新版がこれだっ!」

「ヤメローッ!!」

「めぽっ!?」

そう言って何か巻物を開こうとするカモをいつの間に身に付けたのだろうか、瞬動で駆けた千雨が握りつぶす。

「な、いつの間に瞬動を身につけたでござるか」

「むむ、なかなかの踏み込みだたアルね」

楓と古菲が千雨の瞬動を称賛していた。

実際は火事場のバカ力的な何かだったのだが。

「ちょっとっ!親愛ならばいいじゃないのっ!」

まき絵が取り返そうと手を伸ばしていた。

わいのわいのと騒がしいネギま部の面々だった。




惑星アガルタ その異界

そこに火星からの艦隊が集結しつつあった。

「うひゃー、まさにスターウォーズもかくやの宇宙戦争がはじまりそうだねぇ」

グレート・パル様号の操縦桿を握るハルナが興奮気味に呟いた。

「ちょっとノー天気過ぎるわよ」

と明日菜がハルナを窘めた。

「とは言いますが、実際この船が一番強固です。ハルナさんが安心するのも無理からぬことかと」

茶々丸がサブシートに座って計器類を操作していた。

「まぁ、この船に限って言えば徳永先生が魔改造してるからね…ほんとバグキャラよバグキャラ」

「魔法無効化と言うバグを持っている明日菜が言うと感慨深いわね」

「ちょっとパルッ」

ハルナが明日菜をからかってシシシと笑った。

「それじゃ、私も甲板に行くわ。操縦、しっかりね」

「このパル様に任せておきなさいって。茶々丸さんも居るしね」

「はい。どうかご安心を」

二人に見送られて明日菜も甲板へ。そこにはネギま部の皆が集結していた。

「始まるわね」

「はい」

明日菜の呟きにネギが答えた。

「お父さん、救い出すわよ」

「はいっ!」

気合も入ったと後は開戦を待つばかり。

「何度も言った通り、わたしはこの船から動けないから露払いは任せたわよ」

「お任せください。徳永先生には指一本触れさせません」

刹那も白夜を握って静かに闘志を燃やしていた。

「いや、そこまでじゃないんだけど」

今回の作戦はネギがナギに取り付いているライフメイカーを引き離した瞬間、明日香がその本体を魂も残さずに葬り去る。

その為には明日香が戦いに参戦する訳にはいかなかったのだ。

「む、あちらもこちらに気が付いたようでござるな」

楓が潮目が変わったと呟いた。

その呟きの通り、小惑星から無数の魔力砲が放たれる。

「始まったで」

「うん。それじゃ打ち合わせ通りに」

まずネギと小太郎が突っ込んでいくらしい。

魔力砲を避けつつ惑星に接近すると、今度は召喚された魔族が数えるのもばからしくなるくらいあらわっる。

「今回は僕も彼の味方だ」

フェイトが駆けつけ敵を石化させていった。

「はよ親父さんの所に行き」

「うん、ありがとう小太郎くん」


「こちらも、来ますっ」

「ここは絶対に通さないわよっ!」

刹那と明日菜が明日香から魔力を供給されて獅子奮迅の活躍を見せ、グレート・パル様号にはネズミ一匹通さない。

宇宙戦争でも見ているように、仲間の艦隊が沈んでいく。

「主砲発射用意」

「主砲、撃てます」

グレート・パル様号の艦橋でハルナと茶々丸が明日香が魔改造した主砲をチャージ。

「目標アガルタっ…てーーーーーーっ!」

「主砲、発射」

ドゥンと集めた太陽エネルギーを主砲に乗せてアガルタを撃つ。

その攻撃はすさまじく、アガルタの半分を吹き飛ばしたようだ。



「強くなったな、ネギっ!」

「はいっ!僕の仲間達のおかげです。そして、だからこそあなたを助けられる」

惑星アガルタ表面でネギとナギが殴り合いを主体をした攻防を続けていた。

「助けるなんて考えている内は勝てねーぞ」

「いいえ、勝ってあなたを助けますっ!」

殴り合いに持ち込んだのはネギが接近戦を得意としている事も有るが一番の理由は…

「なっ…これは……」

ライフメイカーの支配が弱まっていく。

そう、スピリットの強制分離は相手を殴らなければその効果を得られないのだ。ネギにしてみればまさに両得。

殴り合いの最中隙を見て少しずつライフメイカーの魂を引きはがしていったのだ。

「これでっ!」

そして最後の一撃がナギを貫き、完全にライフメイカーが引き離される。

おぞましい本体がアガルタに顕現。

「キタキタキタっ!一世一代の見せ場だねっ!」

ハルナが魔力砲をかわしながら今まさにアガルタへと接近。ライフメイカーの直上へと船を進めていた。

「徳永先生っ!」

ハルナが叫ぶ。

「神々の王の慈悲を知れ…絶滅とは是、この一刺し」

明日香の手に黄金の槍が現れる。それはどんな武器よりも神々しく輝いていた。

「日輪よ、死に随え…ヴァサヴィ・シャクティっ」

投げ放たれた槍がライフメイカーを貫き、炎上。

魂を欠片まで燃やし尽くし、ライフメイカーはついに討伐された。

「やりましたね、徳永先生っ!」

一番近くで明日香を守っていた刹那だがその異変に一番最初に気が付いた。

「な…体が透けて…いったいどうして…」

「時間切れ、かな。わたしはわたしの世界に戻るわ」

ライフメイカーを討伐した事でそれこそ残りの時間を使い切ってしまったらしい。

「徳永先生…あなたは…」

「皆によろしく伝えておいて。平行世界から君たちの幸せを祈っているって」

「……わかり、ました」

もうどうする事も出来ないと悟った刹那はまるで遺言でも受け取るかのように神妙に頷いた。

そうして明日香は元の世界へと戻っていった。


「もう最後は宇宙大戦争もかくやって感じだったのよ」

と明日香が都内のカフェで向かいに座っているエリカに愚痴っていた。

「それは…また…大変だったわね」

エリカもまさかそんな事態になっていたなどとは露ほども知らず。

「大変だったのよ」

と明日香も紅茶を啜った。

「それで?わたしが苦労していた分しっかりと楽しめたのかしら?」

「それはもう抜かりなく…と言いたいのだけれど…護堂もカンピオーネですもの」

騒動は向こうからやってくる、とそう言う事らしい。

「まぁ、それでもいつもよりはゆっくりとした時間が取れたわよ。その点は明日香には感謝している」

「まぁその感謝は今度他の事でもらう事にするわ」

そしてお互いにフフと笑った。

何のことも無い平和な午後のティータイムのひと時だった。



・兵主神(ブラック・スミス)

蚩尤を倒して手に入れた第七の権能。

明日香が一度見た事の有る兵器ならば魔力で作り出せる。

神造兵器はランクは下がるもののコピーは可能。



・幻燈世界(コード・オブ・ライフメイカー)

明日香がヨルダ・バォトを倒して奪った第八の権能。

相手に都合の良い夢を見せて酔夢の世界に封印する封印術。

また、封印されたモノのデータを再生する事によって生前その人物が使えた技ごと現実世界にアバターとして召喚して操る事が可能。

とは言え基本的に明日香より強い存在を封印できることは珍しく、ほとんど意味の無い能力である。



・黄金の魔法(マギア・アウルム)

魔法を自身に取り込んでそれを魂に同化させて燃焼させる。

太陽の金を由来とした魔法。

効果的には闇の魔法(マギア・エリベア)と同等だが、魂の侵食は無く中毒性も少ない。

明日香は重力魔法を取り込んで見せた。



・神鳴流

チート剣術。

門下生は十歳で岩を斬るらしい。

明日香はアルビレオ・イマが完全再現した青山詠春から武芸百般(ガンダールヴ)の効果で習得した。

後に桃源神鳴流と魔法世界で相まみえた事によりアップデート。不死狩りも使えるようになった。 
 

 
後書き
UQ HOLDERにはどうやっても続かない感じですね。そもそも原作からして平行世界、ネギが失敗した世界ですし。
魔法世界の救済は、本来のネギまの世界よりずっと前に分かたれた平行世界で、魔法世界の真実に気が付いた誰がが残した遺跡、と言う事でお願いします。
UQ HOLDERは二次に向かないのでたぶん続きません。 
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