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幽霊が見える

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第二章

「色々聞くな」
「日本で魔王っていうと」
 キリスト教では悪魔達の君主を指す、有名な魔道書グリモワールでは七十二の彼等が書かれている。
「人間がなるものよ」
「人間が怨霊になってな」
「そうよ、怨みでね」
 この感情を抱いてというのだ。
「憎しみに心を支配されて」
「心が人間じゃなくなるな」
「そして身体から出て」
 その心即ち魂がというのだ。
「そうなってよ」
「怨霊になってな」
「それが並の怨霊以上になったら」
「魔王になるな」
「それが日本の魔王で」
 そうであってというのだ。
「あんたの言う通りにね」
「この世でだよな」
「一番ね」
 こう言っていいまでにというのだ。
「恐ろしい存在になるのよ」
「そうだよな」
「けれどね」
 百合子はそれでもと話した。
「そこまでなる幽霊はね」
「流石に滅多にいないな」
「ごろごろいたら日本滅んでるわよ」
 真顔での言葉だった。
「もうね」
「そうなるよな」
「いないからね」
 滅多にというのだ。
「それでよ」
「ふわりが幽霊見てもな」
「特にね」
「気にしなくていいか」
「そうよ」 
 こう息子に話した。
「安心しなさいね」
「それじゃあな」
 洋介はそれならと頷いた。
「いいけれどな」
「殆どは普通の人や生きものと同じよ」
「霊は」
「身体がないだけよ」
「本当にそれだけだな」
「後は何も変わらないわ」
 息子に言うことは変わらなかった、そしてだった。
 洋介はふたりにだ、こう言った。
「ふわり、遊ぶか?」
「クゥ?」
 そう言われてだ、ふわりは洋介に顔を向けた。洋介はその彼にゴムのボールを出して楽しそうに笑って言った。
「取って来い」
「ワンワン」 
 ふわりは投げたボールに向かって走り咥えた、そのうえで彼のところに戻ってボールを手渡した。その彼女を見て洋介は百合子に言った。
「幽霊よりもボールの方が大事か」
「そうした幽霊だったのよ」
「本当に虫か何かの幽霊か」
「そうだったみたいね」
「じゃあ何でもないな」
「お母さんの言った通りでしょ」
「ああ」
 母の言葉に頷いた、そうしてだった。
 ふわりにまたボールを投げた、するとふわりはまたボールを追いかけて咥えた、もう幽霊は見ていなかった。


幽霊が見える   完


                2025・4・23 
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