ルーズなラーメン屋
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第一章
ルーズなラーメン屋
奈良市のとあるラーメン屋の店長小田切譲はいい加減な男だ、店にはいつも決まった時間に来て仕事に入るが。
「店長、さぼらないで下さい」
「ちょっと気分転換してるんだよ」
店員の居蔵晋太郎に開店前の店の席でスポーツ新聞を読みつつ返す、中年の茶髪でバタ臭い感じの顔で一七〇位の背で黒髪は癖がある。居蔵は高校を出専門学校を出てこの店で働いており切れ長の二重の目ですっきりした顎にショートの黒髪を持っている。背は一八〇はあり痩せている。
「別にいいだろ」
「よくないですよ、ちゃんと掃除して下さい」
「居蔵君がしっかりしてるからな」
スポーツ新聞から手を放さず言う。
「俺は楽出来るよ」
「まずお掃除ですから」
居蔵は笑って言う小田切に怒って返した。
「ちゃんとして下さい」
「仕方ねえな。じゃあやるか」
「それが終わったらですよ」
「仕込みだな」
「はい、やりましょう」
「ああ、今日もな」
ゆっくりと腰を上げて働きはじめる、だが。
目を離すとさぼるので居蔵はその都度注意した、だが小田切は笑って返すばかりだった。だが開店すると。
店には多くの客が来てだ、彼等は笑顔で言った。
「今日も美味いな」
「最高のラーメンだよ」
「やっぱりここのラーメンは違う」
「滅茶苦茶美味いぜ」
「ははは、そう言ってくれるならサービスだ」
小田切は客達の言葉を聞くとだ。
チャーシューやもやし、客が好きなものをすぐにサービスで出した。ラーメンを作る手際は見事で味もよく。
客足は絶えなかった、そんな中で。
かなり細い如何にも病み上がりといった感じの青白い顔の女の子が店に入った時にだ、彼は無言でだった。
その娘が注文したラーメンを出したがそのラーメンは。
「多くないですか?」
「気のせいだろ」
小田切は女の子に笑って返した。
「お嬢ちゃんのな」
「麺も具も」
「たんと食えば元気出るぜ」
女の子にこうも告げた。
「だからな」
「このラーメンをですか」
「食ってくれよ、あとな」
小田切はさっと大蒜を数粒焼いてだ、それを小皿の上に乗せてそのうえで女の子に差し出したのだった。
「これはサービスだ」
「大蒜ですか」
「精がつくぜ」
「ラーメンだけじゃなくて」
「ああ、たまたま大蒜が余っててな」
それでというのだ。
「よかったら食ってくれよ」
「有り難うございます」
女の子は一礼して山盛りのラーメン、具も多いそれを焼いた大蒜と一緒に食べた。そして小田切に礼を述べて勘定を支払ったが。
女の子が出てからだ、居蔵はそっと彼に囁いた。
「あのお客さん確か」
「ああ、前に来た親子連れのな」
「娘さんですね」
「覚えてるさ、それで親御さんが前にな」
小田切は居蔵に応えて話した。
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