山葵は見えないが

　　　　　　　　　　　　　　　山葵は見えないが
　幼馴染が働いている寿司屋に入って握りを食べてだ、江上仲達四角い眼鏡をかけた面長で黒髪をセットした一七〇位の背の痩せた彼は言った。家は県内でも有名な会社を経営していてそこの重役である。
「今度接待に来ていいかな」
「ああ、来てくれよ」
　その幼馴染みの辻元彬はすぐに答えた、長身で整った顔立ちをしていてやや面長である。身体はすらりとしている、江上がカウンターに座り辻元はその中で寿司を握っている。
「是非使ってくれよ」
「ここのお寿司美味しいからな」
「お前いつもそう言ってくれるな」
「実際美味しいからな」
　鳥貝の握りを食べつつ答えた。
「ネタもシャリもいいしな、お茶だってな」
「お茶も言うのがわかってるな」
「まずはお茶三年だよな」
「寿司はな」
「それでだよ、それで山葵もな」
「ああ、仕入れ先を選んでるんだよ」
「山葵もだな」
「ネタもシャリもでな」　
　それにというのだ。
「勿論お酢やお砂糖だってな」
「こだわってるな」
「それでだよ」
「山葵もだな」
「うちは所謂高級店だろ」　
　辻元は店ことも話した。
「だからな」
「こだわってるんだな」
「腕だけでなくな」
　職人のというのだ。
「素材もだよ」
「それで山葵もだな」
「ああ、だからな」
　それでというのだ。
「そっちもわかってくれるならな」
「有り難いか」
「そうさ、接待の時もな」
「山葵もだな」
「期待していてくれよ」
「今食べてるのだって」
　江上は今度はハマチを食べて話した。
「効いてるしね」
「いい具合にだな」
「うん、期待しているよ」
　辻元に笑顔で話した、そしてだった。