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だからってなんだよー 私は負けない

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5-8

 旅行から帰ってきた次の日。池浦さんチにお土産を届けるので訪れていた。

「これ 信州の取引先にご挨拶に行ってきましたので、お土産です。いつも、丁寧に炊いて、並べていただいてありがとうございます」と、硫黄泉の素 ゆの花、朴葉味噌、わさび漬け。

「おぉー これは これはー・・・今晩は温泉かぁー 今年は、すくい漁もあんまり採れんでな 120Kgしか確保できなかったんじゃア すまんこったのー」

「いえ 向こうの店長さんも 無理の無い範囲でって おっしゃってましたからー」

「いやのぉー 漁師も値段のとこは渋っておってのーぉ しょうがなくてのー 上げさせてもらったんじゃ 申し訳ない けんどぉー 6月と残りはお盆前に振り込んでくれて、助かったわー それにの 去年までは、売れるかどうかわからんものを炊いとったんじゃけんとーぉ 今年は、年内に全部出て行くから、冷凍庫も電気止めれるけんのー 電気代も助かるんじゃ」

「うん 去年のものは、特別に安くしてもらってたから、仕方ないですよー それは、向こうもわかって下さってますからー 池浦さんとこのものは、柔らかくて骨まで食べれるって、年配の方も楽しみにしてくださってるんですよー」

「そーいってもらえると 炊いていても やりがいがあるさなー 11月頃になると氷魚が採れるんじゃが、年々 減ってきちょるからなー・・・」

「うん それも おいしそーだね」

 家に戻って、シャワーを浴びてから、サーモンピンクのフレァーなスカートと赤いTシャツに着替えて、篠田さんチに卵とチーズに生クリーム、バターを抱えて向かった。約束した夕ご飯を作るためだ。

 貫次が珍しく、ブロック塀に向かってボールを投げていた。

「珍しいことやってるヤン」

「なんも 珍しくないよ! 運動してないから、身体が訛ってるみたいでなー ちょうど いいやー キャッチボールの相手してくれ!」

「えーぇー そんなん やったことないよー」

「だから やってみるんだよー ほらっ グローブ はめてみろよー」

「はぁー でも 貫次は?」

「お前のへなちょこボールなんて 素手で受け取れるよ まぁ 投げてみな」

 そして、やってみたんだけど、まるっきしダメでボールを投げようとするんだけどちょっと先でポトンと・・・

「あー 全然 だめぇー いいか 肘を曲げてボールはやや後ろで頭の横 胸を張って左手は真直ぐ前に伸ばして、投げる時には、左足を前に出して、投げたときは左足でふんばるんやー やっみな!」

 言われた通りにやってみると、まぁ まぁ なんとか・・・

「うーん もっと 腰の位置をこう開いてー」と、私の腰を触って来て

「なにすんのん やーらしいなぁー どさくさに紛れてー 触って来てるやろー」

「ちゃうってー こーやるんやってー教えてたんやー」

「そんなん お尻も触ったやろー 正直に言え!」

「うん まぁ ちょっと ずれたかなぁー すまん」

「よし! 正直でよろしい まぁ これで やってたら なんとかなるか?」

「あぁ とりあえずはな 恰好つくわ それで やろかー」

 そして、しばらくは二人で投げ合っていたのだ。私は、そのうち面白くもなっていった。

「まぁ まぁ そまになってきたのー すぐり 案外 素質あるかもよー」

「そう? 指導が良いからね」

「うん オレンジ色のとみかんの柄も見せてもらったしなー」

「・・・見えてたんか まぁ ええんやけどー」

「そらぁー あんなふうに かがんだり 跳んだりしてたもんなー」

「見ても どうってことないやろー」

「うん そー 言われたら どうってことないなぁー でも 俺は 見慣れてないからなー 一応・・・ それに・・・まぁ 裸 ちゃうしなー」

「あほっ 調子に乗るな! 貫次にだけは特別なんやからな! いっつも 助けてもらってるしー」

「おっ 今日は しおらしいヤン なんか あったんか?」

「いいやー 私が こんな風に出来ているんも みんなに助けてもらってるからやなーって つくづく 感じるんやー」

「へぇー すぐりも大人に近づいてるんやなー でも 俺は いつも すぐりの側に居るでー」

「貫次・・・お前って奴は・・・」

「すぐり 臭い芝居はやめろって! 泣いた振りなんかしやがってー」

「ふふっ さぁー すぐりシェフ特製のご飯作るからね」

 ご飯を炊いたり、仕込みをしていると、貫一兄ちゃんが帰って来て

「すぐり 来てくれていたんか?」

「うん 貫一兄ちゃん 練習?」

「まぁ 練習と勉強 クラブのほうは とりあえず 夏休みいっぱいな 後輩の相手」

「そーなん 秋になると受験のほうも追い込みなんやろー?」

「まぁな すぐり そーやって エプロンして、髪の毛も今日は巻いて上げているやろー なんか 色っぽく感じるのー」

「えへっぇー そう? 私 色っぽい?」

「そーやってるとな 子供や思っとったけど、最近 成長したのぉー 親父がお得意様やってゆうから 余計にすぐりが大人になったみたいでのー」

 ご飯が炊きあがって、先にバターライスをとりあえず作って、慣れないので少な目の2人前で

「うん うまい このふわふわの卵とキクラゲの食感 最高!」と、貫次が感激してくれて、貫一兄ちゃんも

「うん レントランだね すぐりも 案外やるのー」

「そう よかったぁー 今ね 卵キッシュつくるからー そして、もう一度 バターライスね あなた達 今のじゃぁ 足んないでしょ!」

「なんやー? その 卵キッスって」

「あほっ キッシュ! まぁ 食べたらわかる」

「うまぁ~い ふっくらしていて 椎茸とか枝豆が入っているのか すぐり 天才!」

「貫一兄ちゃんに喜んでもらえて 良かったぁー 私 貫一兄ちゃんに、何にも、恩返ししてなかったもんねー」

「なんやー その恩返しって?」

「だってさー 小さい時 いつも、私を守ってくれたやんかー 男の子にいじめられていると、すーっと現れて (すぐりは篠田の妹やどー いじめたら 俺と貫次が相手になるからな! そのつもりでな!)って それに、休みの時でも家に連れて行ってくれて、自分のご飯とかおやつを分けてくれていたのよ ウチが貧乏だったのに、全然 構うことも無く・・・嬉しかったの」

「なんじゃー そんなことか・・・当たり前やろー 兄妹のように遊んでたんやからー」

「その 当たり前に 私は ほっとしてたの! だから 恩がえし」

 — — — * * * — — —

 そして、間もなくして、高山でお世話になった神林さんから、連絡があって、披露宴会場で使いたいからと・・・不定期なのだけど、日程が事前にわかるので、平日に送り出す時には、健人さんに頼んだり、私と貫次が学校から帰って来て、用意したりして対応していた。そして、神林さんも知り合いに紹介してくれていたりしたもんだから、取引先も広がっていったのだ。 
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