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鰻のタレ

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第一章

                鰻のタレ
 船場の老舗の鰻屋である、この店はそれだけに味に自信があった。昔ながらの店なので鰻の前に鮒の刺身が出る。
 それから鰻となるが昔からの常連客である山本雄大白髪の老人の彼は連れて来て一緒に食べている孫の英雄自分の若い頃そっくりの顔で引き締まった顔立ちに細い目とセットした黒髪で痩せた長身の彼に言った。
「美味いだろ」
「ああ、鮒からはじまってな」
 郵便局に就職したばかりの彼は答えた。
「肝吸いもかば焼きもな」
「鰻丼もだろ」
「全部美味いよ」
「これが本物なんだよ」
 孫に笑って話した。
「生きているのを捌いてそこから炭火で焼いてだ」
「タレに漬けてか」
「料理するのがな」
「本物の鰻か」
「そうだ、まあ炭火はあるけれどな」  
 今もというのだ。
「こだわる店はな」
「炭火だと独特の味になるからか」
「しかしな」
「しかし?」
「やっぱりタレだ」 
 これだというのだ。
「鰻はタレがないとな」
「駄目か」
「この店のタレはまた絶品だからな」
「余計に美味いんだな」
「そうだ、寿司でも鰻はタレを使うな」
 こちらをというのだ。
「ひつまぶいだってな」
「タレを使うな」
「それがないとな」
 それこそとだ、祖父は孫に店の二人用の席で向かい合って座って最後のお茶を飲みながら話をした。店の中は言うまでもなく和風である。 
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