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ソードアート・オンライン 守り抜く双・大剣士

作者:涙カノ
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第55話 =黒幕の正体=

 
前書き
ちょっとおかしいところがあるかもしれません
 

 

「……何もいねぇじゃねぇか」

クラインの言うとおりこのドーム状のフィールドにはボスの姿は無かった。…そして俺たちが入ってきた扉の姿も…。なるほど
ね、これじゃあどんな打撃攻撃でも鍵開けスキルでも開かないわけだ…。その扉自体が無いんだから。

「おい…」

いま、ここにいる誰かがもう耐え切れない…とでも言わんばかりに声を上げたその時…

「「上よ!!」」

これまたどこかにいるアスナと隣にいるユカが同時に叫び、その声にはっとして全員が頭上を見上げる。ドームの天井部には白
くとてつもなく巨大で長い胴体を持ったものが。

「百足…!?」

思わず誰かが呟いた百足とは俺も見たときに思った。でも現実にいるそれとは明らかに違うところがいくつもある。
本来百足にありそうな小さい頭…ではなく人間のようで人間のものではない頭蓋骨でそれには2対4つの鋭い目がついておりその顎の骨には鋭く光る牙がいくつも、さらに両脇からは鎌上に尖る骨の腕が大きく突き出していた。黄色いカーソルが骸骨百足の頭上に表示され同時に名前も出現する。
《The Skullreaper》……骸骨の刈り手…それがこいつの名前か…。


「みんな、散らばって!!!」

「キューー!!!」

名前を確認した瞬間、前にいたシリカとピナが呆然としたすべてのプレイヤーの警戒心を一気に高め距離をとろうとし、それと
同時に骸骨の刈り手という名前の百足が落ちてくる。
この中で呆然としていたのはシリカよりも年の上のプレイヤーばっかなのにその状況をみて言葉を放つことが出来るとは本当に
さすがとしか言いようがない。
だが、頑固な大人がいるのかただ単に自分のリーダー以外の言うことは聞きたくない、といったプレイヤーたちの動きが一瞬遅
れてしまいどちらに行こうか迷っていた。

「こっちだ!!」

キリトの声に呪縛が解けたように一目散に走り出す数人のプレイヤーだが百足が落下した瞬間、地震が発生したかのごとく俺た
ちの立っているこの床が大きく震えた。そのせいでその数人のうちの3人がそのゆれに足を取られ動けなくなってしまう。そこ
に向かって人の身長以上の鎌のついた腕が振り下ろされた。さすがは攻略組、ということで背後から攻撃を受けないように前を
向き盾を構えたが、その3人はそのまま吹き飛ばされてしまっていた。

だが(タンク)役の人なので言い方は悪いがどこまでダメージを受けるのか…思わず見入ってしまった。どんどんどんどん
そのHPバーが減っていき黄色に、止まることを知らないかのように次に赤へと変わり…

「…嘘だろ……」

あっという間にあっけなくそのバーの中身は透明になり空中にあった3人の体は無数のポリゴンを散らしながら破砕した。

「……そんなっ!」

隣でサチが声をあげポリゴンが数個残っている空を見上げている。その光景はここにいるすべての人の目に焼きついたと思う。
…一撃で死亡という最悪の結果を残したのだから。
レベル制のゲームならそのゲームでもレベルが上がればステータスが上がり強くなる。HPの最大値が上がったり攻撃が上がった
り硬さもより硬くなる。どれだけゲームが下手でもレベルさえ高ければ死ににくいのは確かだ。今回のボス戦は今まで以上の高
プレイヤーで結成されたパーティだったためたとえボスの攻撃でも壁役なら数発、攻撃役でも1,2発は耐えられる…そう思って
いたのだが…それがたった一撃で…。

「…無茶苦茶だぞ…こんなの…」

無意識に俺の口から今の状況を否定したいような願望が出ていた。

「…わぁぁぁーー!!!」

一瞬で3人を殺した百足は巨大な上半身を持ち上げて轟く雄たけびを上げるとものすごい勢いで新たなプレイヤーの一団に向け
突進し、その方向にいたプレイヤーは恐慌の叫びをあげ皆が逃げようとして統率が崩れた。

だが、そこを救ったのは真紅の鎧を装備した最強戦士、ヒースクリフさんだ。その巨大な盾で鎌を迎撃している。

「……俺だって!!」

俺にはヒースクリフさんみたいな英雄として、頂点に君臨することなんて出来ないし俺自身したくもない。さらに言えばキリト
みたいな全員を救う主人公にすらなれてはいないだろう。それでもその英雄や主人公の前にあるはずの道は創れるはず…いや、
俺が作るんだ!

あの気色の悪い百足には鎌が2つ。なのでヒースクリフさんに抑えられたと判断した途端、抑えられた方を捨てたようにその逆
側でプレイヤーを襲っていく。そしてその一振りが1人のプレイヤーに当たろうとした途端…その時にはすでに俺の足は宙を跳
んでいた。

「…ぐっ!」

そして十字に剣を交差させその巨大な鎌を受け止める。だがその重さゆえに完全には受け止めきれず少しずつだが抑えきれなく
なり後退してしまう。

「……ぐがが……」

…やっぱり、俺には力が足りないのか…?

「…何考えてるのよ……」

その瞬間、聞きなれた声とともに背中に誰かの触る感覚が…。

「そうだよ。リクヤは一人で抱えすぎなんだよ…」

「もっとわたし達にも頼ってください」

さらにその隣にはさらにもう2つの感覚、さらにフワフワとした毛皮の感覚も…。誰なんていわなくてもすぐにわかる。ユカに
サチにシリカ、それにピナだ。…どっかからリズの声が聞こえそうだな…「一人で戦ってるなんて考えちゃだめ」とかな…

「私たちの…小さな力だけど……」

「重ねれば大きなものになるよ!」

「だから、リクヤさん!!」

「きゅー!!」

その声を聞いた途端、3人と1匹にさらに力が加わったのか、その全員の筋力値が俺に付加されたのかは知らないけどジリジリと
押し返し始めてきていた。それと…戦場ではなかなか得ることのない安心感も。

「……だな……負けて……たまるかぁぁ!!!」

渾身の力を使い外側へその鎌を弾き飛ばす。

「あの鎌は俺たちが受けきってみせる!!……行け!!キリト、アスナ!!」

そして託す……あの最強の夫婦なら何とかしてくれるだろう…俺は俺に出来ることをやるだけだ!

「……赤信号、皆で渡れば怖くない…てか…」

昔、どこかで聞いたことのある言葉をふと、今思い出した。そんなたいした意味なんて無かったはずだけどな…

「…サチ、シリカ、ユカ…それにピナも……生きるぞ!!」

「うん!」「はい!」「えぇ!」「キュー!!」

皆ならアイツの攻撃なんて全部防ぎきれる…。確信なんて無いけどう自然とそう思えていた…。






―――――――――――――――――――――


あの百足がポリゴンとなり消滅するのがわかった瞬間、喜びの声を上げる間もなく俺の体は地面へと吸い寄せられるかのように倒れていった。隣ではサチがヘナヘナと座り込んでいる。

「……死、死ぬかと……思った…」

「ほんと…だね……」

今回の戦いはあまりにも激戦だったせいかあまり記憶には残っていない。ただ覚えてるのはとにかく鎌を防御し続けたり鎌の標的となった他のプレイヤーの盾になったりとバリバリ壁役をやっていたことくらいか…。

「……無茶しすぎ…とは、怒れないわね…」

「…それくらい…しないと……無理でしたよ……」

シリカの声にピナも力なく地面へへばりついている。俺たちのHPバーは揃って赤色、使い魔でHPを回復させる《ヒールブレス》を扱えるピナでさえあと一撃、誰かから攻撃を食らったら小さな羽根へと姿を変えるだろう。
今回俺たちは《共鳴》を使っていない。なぜならあれの欠点は少しの動作でもソードスキルが発生し攻撃に転じてしまうから。
そのせいで死にかけたこと…はさすがにないが少々危なくなったことは結構ある。

「……アスナは!?」

気持ちの整理が落ち着いたのかユカは大事な妹の名前を叫び辺りを見渡していた。さすがにやられた、なんて考えたくもないけど気になって俺も捜してみる。すると、結構近くでキリトとアスナで背中をあわせて座り込んでいた。

「…大丈夫、あそこにいる…」

そう指を向けるとあの戦いの疲れはどこにいったのか…よろよろと立って歩き出しアスナに飛びつくユカが。その飛びつかれたアスナは「やめてよ」と言いながらもそれをうれしがっている様子だ。

「……大丈夫か、キリト」

「まぁな……そっちは…」

「大丈夫、全員無事」

互いの無事を確認しあうと強烈な安堵感に襲われかけたが、クラインの聞いた被害報告で俺たちに再び緊張が走った。
…なんと死者数は10人。仮にもここに集まっているのは1層前の調子に乗った軍プレイヤーではなく攻略組のトッププレイヤーばかりなのだ。クォーターポイントのボスはその層プラス20の強さだと思ってもいい。それでもここのボスは100にはたどり着いていない。それなのにこんなにも死んでしまった人たちが……。
そんな酷い状況の中、ただ一人立っているのは恐らく一番の活躍をしたといってもいいヒースクリフさんのみだった。さすがだな…なんて気楽なことを口にしようとした瞬間、その人の視線が他の人とは違うということに気がついてしまった。

他のKoB団員を見下ろしている暖かいいつくしむ様な目は自分と同じ人間を見る目ではない、身分の低い者どころか…道具もしくは実験体に注がれる眼…。

その瞬間、今まで何かが引っかかってた疑問がすべて繋がってしまうのが俺の意識の中にあった。

「……ユカ、借りる」

「え?」

承諾も聞かずユカの太ももにあるホルダーから投剣を数本ひったくるように抜き出すと俺の使える投剣術の1つをその騎士に向かって放つ。

神雷招(サンダーボルト)……!」

偶然といわんばかりにその俺の狙っている相手の周りには人がいない。その技は放射的に投剣を投げつける唯一筋力値でも補正が効く技だ。それと同時にキリトも走りだし黒刀でソードスキルを発動させようとしている。

「…何っ!?」

やはり最強なのか俺の投げた投剣をすべてその盾で弾き返すという芸当を見せてくれた。だが、その次に襲い掛かるキリトには盾が間に合わなかったらしくその体に片手用直剣専用ソードスキル『ヴォーパル・ストライク』が決まる……はずだった。


「……っ!?」

だがキリトの剣はヒースクリフさんを貫くことは無く、代わりにあまり見かけることのない紫色のウィンドウが壁のように出現していた。そのウィンドウは…《Immortal Object》。運命の鎌の攻撃からユイを守ったものとまったく同じもの…「システム的不死」を可能にさせる唯一のものだった。

「リクヤ、何してるの…!?」

「…見ろよ…あれ…」

あれが出なければ俺たちはただ単に攻略組がいっぱいいる中で犯罪を犯した…それだけですんだ。だが、今回はそれどころかヒースクリフさんの絶対に隠し通さなければいけない秘密を暴露してしまったのだ。サチも俺を咎めようとしたがその紫色のウィンドウを見て凍りつく。駆け寄ったアスナも同じような感じだった。

「システム的不死…って……どういうことですか……団長」

「…伝説の正体…だ…。俺だって信じたくは無かったけどな…」

そう全員に聞こえるように神雷招を放った勢いで倒れてしまった体を起こしながら言う。慌ててサチに支えられるがそれでもその場に立つとさらにユカとシリカ、ピナも立ち俺の近くへとやってくる。そして俺の言葉を引き継ぐようにキリトが口を開く。

「この男のHPはどうあろうと注意域(イエロー)にまで落ちないように保護されているのさ……不死属性を持つのはNPCでなけりゃシステム管理者以外ありえない。だがこのゲームには管理者はいないはずだ。…ただ一人を除いて」

この男、と呼ばれた目の前の騎士は無言でさらにキリトの言葉を聴く。

「……この世界に来てからずっと疑問に思っていたことがあった……。あいつは今、どこから俺たちを観察し、世界を調整しているんだろう…ってな。でも単純な真理を忘れていたよ」

ゲームをやったことのある子供なら誰でも知っている…いや絶対に感じたことのある心理。

「「《他人のやってるRPGを傍から眺めるほどつまらないものはない》……」」

「そうでしょ、ヒースクリフさん…いや、茅場晶彦」


俺の言葉に周囲が静寂に満ちた。それもそうだろう…最強の仲間でありリーダーがこの鉄の城という名前の牢獄に俺たちを閉じ込めた真犯人だったからだ。

「……団長…本当……なんですか…」

驚愕に満たされながらもアスナは力を振り絞ってその答えを聞く。だが、それには答えず目の前の騎士はキリトへと言葉を発した。

「…なぜ気付いたのか参考までに教えてもらえるかな……?」

「……最初におかしいと思ったのは例のデュエルのときだ。最後の一瞬だけ、あんたあまりにも速すぎたよ」

「やはりそうか……あれは私にとっても痛恨事だった。君のあの動きに圧倒されてついシステムのオーバーアシストを使ってしまった…リクヤ君はどこなのかな?」

まさか俺に来るとは……

「そうだな…俺がおかしいなって思ったのは第50層…あなたが神聖剣を初めて出したときだった」

あの時、前線で戦っていた俺とともに『共鳴』を発動させた。別に『共鳴』を知ってるってことがおかしいって思ったことではなくて……その時に発動した『共鳴ソードスキル』の1つである『トリッキーチェンジ』という不思議なスキルを使用したときだった。その技は共鳴した相手に自分の武器を投げつけその間にいる敵に斬撃やら打撃やらを与えるちょっとギャグも入った技だった…がその分威力も強く、俺とヒースクリフさんは1度だけ使った。

「その時にその盾と剣をキャッチしたんだけど……『重すぎた』…でもあなたはユカと同じくらい…とはいかないまでも敏捷値が高くないと動けないくらいに動いていたんだ」

ユカはその時絶賛引きこもり中だったけど…あのときから敏捷一択じゃないと今のスピードは出せないだろう。
周りの人たちの中で速さでたとえるならユカ>>サチ≧アスナ≧シリカ≧キリト>ヒースクリフ>クライン>>>>>俺
だと思う。

「ほう…」

「それで後々気になってアルゴに調べてもらったんだ。めちゃくちゃ金取られたけどさ……でもおかげでわかったことがある。あの時点での最高の筋力値をもつプレイヤーは他のすべてを上げずに筋力だけを上げてた…俺……そうアルゴは言ったんだ」

そんな俺が『重すぎる』と感じる武器をあんな軽がると動かせるのはチート、もしくは管理者権限でしか無理、一般プレイヤーには他を捨てるなんて恐ろしいことは普通不可能だ。ま、その恐ろしいことが出来たのはネトゲに超のつく初心者だからだろうな…。

「…なるほど…君には本当に意外なところで眼をつけられたわけだな……」

ゆっくりと他のプレイヤーを見回し、笑みを色合いを超然としたものに変え、目の前の英雄であり騎士は堂々と宣言した。

「――確かに私は茅場晶彦だ。付け加えれば最上層で君たちを待つはずだったこのゲームでの最終ボスでもある」

その声に隣でサチが俺に寄りかかるのを感じたが視線をそらさず……いや、そらせられないままサチを支える。

「……趣味がいいとは言えないぜ。最強のプレイヤーが一転最悪のラスボスか」

「いやゲームのシナリオとしては面白い分類に入るぜ…?……画面越しにやるゲームなら、な…」

「リクヤ君の言うとおりなかなかいいシナリオだろう?盛り上がったと思うが、まさかたかが四分の三地点で看破されてしまうとはな。……君たちはこの世界で最大の不確定因子だと思ってはいたが、ここまでとは」

今までその顔からは見たことのない不敵な笑みを浮かべるヒースクリフさん…茅場といったほうが正しいか。

「最終的には私の前に立つのは君たち、そう私は確信していた。全10種類存在するユニークスキルのうち《二刀流》スキルはすべてのプレイヤーの中で最大の反応速度をを持つものに与えられその者が魔王に対する『勇者』の役割を担うはずだった」

勝つにせよ負けるにせよ…と言葉を続ける茅場。

「さらにリクヤ君の《特殊二刀流》はその《二刀流》の持ち主と最も深い信頼関係を結べている者に与えられる…。いうなれば『勇者の剣』だ」

「《二刀流》との最も深い信頼関係ってことは……アスナに授けられるんじゃないのか?」

実際2人は結婚までいったのだから。

「……そうだな…アスナ君とキリト君は『愛』という信頼とはまた違ったもので結ばれている。さらにカーディナルの特殊な測定によりスキルが授けられるのだがその時に《二刀流》と《特殊二刀流》の持ち主としてふさわしい…と認識したのが君たち2人なのだろう」

不敵な笑みを消さずに茅場は言葉を続ける。だが、凍りついたように動きを止めていたKoBの幹部プレイヤーの1人が立ち上がり
その朴訥そうな細い眼に凄惨な苦悩の色をにじませながらハルバードを握り締めた。

「貴様が…貴様が…。俺たちの忠誠――希望を……よくも…よくも…よくも―――!!!」

だが、そのプレイヤーよりも茅場のウィンドウ操作のほうが早かった。左手を振りウィンドウを操作したかと思うとその男の体
は空中で停止、次に地面へと音を立てて落下した。

「……麻痺かよ…」

俺が呟く中、茅場は手を止めず次々と画面を操作していき周りの人たちも麻痺状態へとしていく。どうやら使い魔にも可能らし
くシリカと一緒にピナも身動きが取れなくなっていた。

「…ユカ、シリカ!」

「リ…クヤ…」

「サチ!」

どうやらサチにまで麻痺をかけたらしい。サチも地面に膝を突きそのまま上半身が倒れ横向きになっていた。だが、いくら時間
が経っても俺とキリトにはその麻痺が来る気配はない。それどころか茅場はシステム管理者特有のウィンドウをすでに閉じてい
た。
慌てて武器をしまい一番近くにいたサチの体を支える。

「………どうするつもりだ。この場で全員殺して隠蔽する気か……?」

「まさか。そんな理不尽な真似はしないさ」

茅場はキリトの問いに首を横に振ると続けようと口を開く。

「こうなってしまっては致し方ない。予定を早めて、私は最上層の『紅玉宮』にて君たちの訪れを待つことにするよ。90層以上の強力なモンスター群に対抗し得る力として育ててきた血盟騎士団、そして攻略組プレイヤーの諸君を途中で放り出すのは不本意だが、何、君たちならきっと辿り着けるさ。だが…その前に…」

茅場はそう言葉を切るとジャキンと右手の剣を黒曜石の床につきたてる。

「キリト君、リクヤ君。君たちには私の招待を看破した報酬を与えなくてはな…チャンスをあげよう。この場で私と君たちとで
1対2で戦うチャンスを…。もちろん不死属性は解除する。私に勝てばラスボスに勝利ということでゲームはクリア、この世界か
らログアウトすることが出来る…どうかな?」

傍から聴けばいい案ではあることは間違いない。75層でこのゲームがクリアできるってことは通常よりも死者数もこの世界で暮
らす時間も減らすことが出来るんだから…。

「…だめ…受けちゃ……リクヤ……キリト…!」

「…団長は貴方たちを…排除する気よ…」

麻痺で口が動かないながらも警告をしてくれることには感謝することなんだろう…。でも…

「…悪い…俺、やっぱり我慢できないや」

こいつは今なんと言ったのか…血盟騎士団を育てた。きっと辿りつける…?

「ふざけんな!」

じゃあそのために犠牲になった10人…それだけじゃない、今まで死んでいった4000人の意志はどうなるんだ。その中にはケイタ
もダッカーもササマル、テツオも…!どんな思いで死んでいったのか判ろうともしないやつがそんな発言をするのは絶対に許さ
れないことだし許すつもりもない。

「…キリト」

「判ってる…決着をつけよう」

「リクヤ!」「キリト君!」

後ろから皆の悲痛な叫び声が聞こえてきて、揃って俺たちはその2人に視線を落とす。その顔は不安を超えたような悲しみの色
に染まっていった。…まるで大事な人が死んでしまったときのように…。

「…たく、何そんな顔してんだよ」

そんな悲しそうな顔されたら心置きなく戦う、なんてことできないじゃないか…。せっかく存在しなかったはずの近道が自らそ
の存在をアピールしてるのにそれを見て見ぬ振り…は出来ないのは判ってるとは思うけど…。

「大丈夫だって。絶対に死なない」

「……約束よ…!」

さすが幼馴染…俺の気持ちをわかってくれたのか…などと変な考えもめぐるのは危ないかな…

「…さ、やろうぜ…ヒースクリフさん…それとも茅場晶彦って言ったほうがいいのかな?」

キャリバーンの切っ先をその真紅の騎士に向け言い放つ。後ろでは俺たちが一番お世話になった人と言っても過言ではないだろ
う、クラインとエギルが似合わない涙を流して俺たちの名前を叫んでいた。

「エギル。今まで剣士クラスのサポート、サンキューな。知ってたぜ、お前が儲けのほとんど全部、中層ゾーンのプレイヤーの育成につぎこんでたこと」

…そんなことがあったのか…ただの商人兼攻略組じゃなかったんだな。一番、プレイヤーを死なないようにしていた存在が近く
にいたなんて。

「クライン、ありがとうな。お前がいなかったら多分、俺は何も出来ずに死んでたよ」

クラインとはキリトの次に会った友人。俺が初めてソードスキルを放てるようになったのは初心者でもあり見本でもあったクラ
インのおかげだ。それが無ければ第1層でモンスターにやられて今、俺の名前は横線がかぶさっていただろう。

「…リクヤ、てめぇ!!今更…今更そんなこといってんじゃねぇ!!許さねぇぞ!ちゃんと、向こうで飯の1つも奢ってからじゃねぇ
と許さないからな!!」

「ハハ…ラーメンとかあまり高くないので勘弁してくれよ」

豪華なステーキを奢るとかそんなセレブ的なことは出来ないただの学生だからそんなことを軽くいってみる。そんなことをいっ
ているうちにキリトが「アスナを自殺させないようにしてほしい」などという要望を出しており、茅場はそれに同意した。

「君は彼女たちにはあるかな?」

「…そうだな…なら、俺も同じくで…あとは48層で店を構えているリズベットってプレイヤーにもそれを頼みたい」

もし、の話だけど守りたいって一番思ってるやつが死んじゃったら俺たちが犬死になる。それだけは避けたい。背後では泣きな
がらのみんなの絶叫が聞こえてくる。でも振り返っていられない…今から意識はすべて目の前のあの騎士だけに注ぐ。
キリトも同じように二刀を抜いて構える。
茅場の方を見るとウィンドウを操作しており俺とキリト、そしてヒースクリフさんとしての茅場のHPが強攻撃であっけなく死ぬ
レベル…危険域にまで調整された。そして宣言どおり《Changed into mortal object》という不死属性解除のメッセージが表示
される。



…俺は今から躊躇いも無く人を殺そうとしている。それは茅場晶彦がナーヴギアで4000人もの命を焼いた犯人であっても人は人
だ。だから俺も殺人を犯そうとしていることには変わりない…。

「……殺す…」

俺はこの時初めて、殺すということに罪の意識を憶えないままヒースクリフへと飛び出していった。

















 
 

 
後書き
涙「…やばい…VSヒースクリフが全然思いつかない」

リ「アインクラッド編の一番の見せ場じゃね、それ?」

涙「だからこそ…なんだけど…そして今回は長いしね…」

リ「スカルリーパーの戦い、さくっと省略したしな」

涙「秘奥義使わせようかと思ったけど……そこまで大きな隙も作れないだろうさ」

リ「へぇ…あと、ユカって皮装備だけど俺の後ろで攻撃受けてていいのか?死ぬんじゃね?」

涙「そこは自分の解釈だけど…前に人がいれさえすれば自分にはダメージは発生しない…今回は君がいたから筋力だけをプラスしてユカにダメージが行く、なんてことにはならなかったんだ」

リ「ふぅん……」

涙「頑張ってヒースクリフ戦は書きたいと思います…そしてリクヤ君が一番パワーが強いという話ですが俺は50層時点での話で他にも気を配り始めたリクヤ君は残念ながら普通のヒースクリフに負けております…ではっ!!」 
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