蒼と紅の雷霆
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
白き鋼鉄のX
紅白:第一話 スラム街
前書き
トライアングルエディションを見てやる気が再燃してきました。
前の白き鋼鉄のXの話をリメイクしてこちらに移します。
これは、いつかの未来の、ある島国の話。
世界は、異能を宿し、高度に発達した新人類群"セプティマホルダー"に支配されていた。
僅かに残った異能を持たない旧人類は“マイナーズ”と呼ばれ…人類進化推進機構“スメラギ”によって、見つかり次第、殺処分される運命にあった。
そんな時代から遥か昔…ある場所で悲劇が起きた。
向けられた冷たく光る銃口、そして放たれる弾丸。
力が抜けていく全身、そして為す術なく倒れていく者達。
家族のような存在だった者達の倒れていく姿に泣き叫ぶ少女に向けて無慈悲に放たれた弾丸によって少女は糸が切れた人形のように倒れ伏し、それを見た少年はかつてない激情に支配された。
憎い存在が姿を消しても少年の激情の炎は消えるどころか増していくだけ、しかしいくら少年が憎悪を滾らせても体は自由に動かない…その時。
「ソ…ウ…ソウ…ソウ?」
隣から聞こえてきた声にソウと呼ばれた少年はハッとなって振り返ると、ソウよりも年下の少女が心配そうに見上げていた。
「テーラか…すまない…昔のことを思い出していた」
「昔…ですか…」
テーラと呼ばれた少女…パンテーラも過去のことを思い出してか悲しげに表情を歪めた。
「あの時と今とでは随分と変わってしまったな」
「はい、私もあなたも…変わってしまいました…色々と…」
目の前に映る都市も、世界の在り方も…何もかもが変わり果ててしまった。
一部のことはかつての自分達が望んでいたことでもあるが、他のことは2人にとって認められるはずがない。
セプティマが今の名称となるまでのセプティマホルダーの扱いはほとんどの国で酷いものであった。
それがマイナーズに降りかかっているのは自業自得だと言えるが、全てのセプティマホルダーが幸福と言う訳ではない。
実際は優秀なセプティマを持つ者を無作為かつ強制的に徴兵するだけでなく、陰湿な根回しをし後ろ盾を無くさせる…とまるでセプティマホルダーを奴隷としか見ていないような扱いが平然と行われているのだ。
これは能力者の未来と自由を欲していた自分達には認められない世界だ。
「……少々長居しすぎたようだ。“奴”からの刺客だ」
「余程、私達を生かしておきたくはないようですね」
迫ってくる気配に辟易しながらもソウはホルスターから愛用の銃である“プラズマシューター”を取り出す。
銃身下部のマウントラッチには柄のような物がマウントされており、そこから紅い雷撃の刃が発現した。
本来はそれぞれの機能を持っていた銃なのだが、経年劣化と整備性の悪さにそれぞれを独立させることで出力の安定性と整備性の向上に成功している。
つまりこの銃は銃剣だ。
「テーラ、サポートを頼む」
「任せて下さい」
パンテーラも漆黒の剣…宝剣を取り出すと旧・変身現象(プロト・アームドフェノメノン)で姿を変え、そしてソウの隣に寄り添うように浮遊する。
「行くぞ」
「分かりました…あ、分かっていると思いますが無理はしないで下さいね。一度に扱えるEPエネルギーには限度がありますから適度なチャージをして下さい。最近はカゲロウ対策が増えてきていますから雷撃鱗は何時でも張れるように」
「分かっている…何年このセプティマを使っていると思っている?今の俺はお前と力を共有しているから昔と比べればずっと燃費がマシになった方なんだがな」
迫り来るスメラギの部隊。
しかし、手始めに雷撃鱗を展開しながらマッハダッシュで前方の敵を吹き飛ばし、柄から発現した雷撃の刃で周囲の敵を容易く斬り捨てていく。
パンテーラもまた変身現象によって強力になった夢幻鏡のセプティマの力でソウをサポートする。
「私の愛を受け取りなさい。」
「この範囲なら雷撃鱗ロックオンでやれるな」
上空から降り注ぐパンテーラの光弾に気を取られた相手をソウが雷撃鱗を薄く広範囲に展開すると敵が雷撃鱗の膜に触れた敵はロックオン状態にし、その状態で放電するとソウの雷撃を帯電した敵は強烈な雷撃を浴びて戦闘不能になる。
雷撃鱗ロックオンの持続時間は短いものの、多対一の戦闘も難なくこなせるようになった。
敵を倒していくとパンテーラの隣に1人の少女が鏡から飛び出してきた。
それは金色の長髪と黒い衣装、そして真紅の羽と瞳が特徴の少女であった。
『私の歌を…!』
「すまんモルフォ…助かる」
モルフォと呼ばれた少女の歌がソウのセプティマを高めていき、より安定して雷撃を放つことが可能となった。
今回の歌は【霧時計】か。
『気にしない気にしない!さあ!モルフォ・Blackversionの歌を楽しんでね!!』
かつての家族のセプティマである電子の謡精(サイバーディーヴァ)を“紅き雷霆(アームドレッド)”を利用したソウのイメージをパンテーラの“夢幻鏡(ミラー)”で固定化した物である。
元々ソウが電子の謡精のサポートを受けていたからなのか、それとも近縁の能力だからか、このモルフォには明確な自我があった。
彼女達の記憶を持たないので自分達の知るモルフォとは実質別個体と言っても良い。
大きな違いは複製元(オリジナル)と比べてパワーが大幅に弱体化していることだが、元々の複製元が最上位のセプティマであることを考えれば上々だろう。
荒廃したスラム街なので倒壊寸前の建物もあるので迅速に突き進んでいく。
「落石があるが、これならばマッハダッシュで駆け抜けられる」
マッハダッシュはソウのセプティマの紅き雷霆による高出力を利用した空中を高速移動する技術である。
他にも雷撃鱗を展開した際に足場に発生した強力な磁場を利用した一定時間高度を維持し、緩やかに下降していくホバリングもあるため小回りも補えるのでマッハダッシュも含めて空中を自在に飛び回ること可能だ。
「ソウ、足場は気にしないで下さい。万が一の時は私のセプティマの夢幻鏡で空間を繋げてあなたを助けます」
「助かる」
『私にも実体があれば持ち上げて上げられるんだけどね』
マッハダッシュで事故を起こすつもりは更々ないが、パンテーラとモルフォのサポートもあればソウも後ろを気にせずに戦える。
しばらく奥に進むとどこか見覚えのある丸いボディの戦車が見えた。
「こいつは…何て悪趣味な戦車だ…だが、スメラギは“奴ら”から相当の被害を受けていると聞いている…これは奴らへの意趣返しのつもりか?」
「ともかく破壊してしまいましょう。あれは見苦しいです」
『すっごい気持ちの悪いデザインね!!』
パンテーラとモルフォの辛辣な評価だが、ソウは気にせずに頷いた。
「同意見だ…」
戦車は擬似的なセプティマによる攻撃を繰り出してきた。
それはソウが“遥か昔”に倒したセプティマホルダーのセプティマであり、不規則な軌道をする矢にかなり速さを持つレーザー。
更にカメラアイから放たれる石化の光、そして全てを喰らい尽くそうとする蟲の粒子。
時折、空間に穴を開けてそこから擬似セプティマによる攻撃を仕掛けてくるが…。
「こんなガラクタで俺を殺れると思っているのか?不愉快な鉄屑だ。この一撃で決める…迸れ、紅き雷霆よ…眼前の鉄屑を俺の紅き雷刃(ヤイバ)で両断する…!ギガヴォルトセイバー!!」
所詮はAIの単調な攻撃。
回避しながらソウはSPスキルを発動し、銃剣の柄から発現した雷撃刃を大上段で振り下ろし、放った雷刃波で出来の悪い戦車を真っ二つにした次の瞬間に大爆発が起きた。
「ふん、所詮はガラクタだ」
「お見事です」
『さっすがぁ!正に“紅き雷光”ね!!』
銃剣をホルスターに戻すソウにパンテーラが微笑み、モルフォが拍手をする。
「向こうにゲートモノリスがあるな…破壊して先に進むぞ…せめて雨風を凌げる場所があればいいんだが…」
『実体があるとそう言うのが不便よねぇ』
食料に関しては問題ないが、実体のないモルフォはともかく出来れば体を休める場所が欲しい。
スメラギの管理都市に近いここはスメラギと戦うには絶好の場所だ。
ゲートモノリスを破壊して奥に進むと不本意ながら見慣れた人物と物、そして見慣れない人物達が古くなった建物から恐らく物資らしき物を運んでいた。
「……そこで何をしている」
『あらあ?アキュラとポンコツアイドルじゃない』
「ふえっ!?」
物資を運んでいた茶髪の少女が慌てて振り返った。
その幼い姿に懐かしい記憶を刺激されたような気がした。
「貴様は…ソウ…っ!ここで何をしている!?」
「それはこちらの台詞なんだがな…一匹狼を気取っていたお前が保護者の真似事をしているとはな」
4人を守るように銃を構える紅白のアーマーを纏っている少年…不本意ながらパンテーラと同じく長い付き合いとなってしまっている腐れ縁の相手である。
「アキュラ君…」
「コハク、下がっていろ」
不安そうにアキュラを見つめるコハクと呼ばれた少女は3人の子供達を庇う。
「銃を下ろせ。今は互いに無駄な消耗は避けたいはずだ」
『な、何だよ!僕達なんか相手にする価値もないって言いたいわけ!?』
アキュラの横を浮遊する丸型のロボットにパンテーラが溜め息を吐いた。
「少しはそのポンコツなAIを働かせてはどうです?ソウも私もスメラギを狙っています。あなた達と戦ってスメラギの部隊に見つかったら私達はともかくあなた方の後ろの人達は一溜まりもありませんよ?マイナーズの希望の歌姫にしてバーチャルアイドル・ロロ?」
『むうう…確かに…』
『なーに?機械の癖にそんなことにも頭回らないのー?だからあんたはポンコツなのよ~』
『う、うるさいなぉ!腹黒アイドル!!』
ロロと呼ばれたロボットはパンテーラの言葉に一応納得したのか黙ったが、ライバルとも言えるモルフォの挑発に噛み付いた。
「あの…あなたはあの“ソウ”さんなんですか?」
「……お前は何者だ?」
黒髪の少年の問いにソウは答えずに少年の名を尋ねる。
「あ…えっと…すみません…僕はジンって言います…紅い雷撃のセプティマを使うセプティマホルダー。セプティマホルダーでありながら僕達マイナーズを守ってくれている…スメラギからは銃剣を使うから“ガンセイヴァー”と呼ばれているとか、長いから一部では“GS(ジーエス)”とも」
「…ガンセイヴァー?」
「銃剣…銃と剣…なるほど、GunとSaberで“Gunsaber(ガンセイヴァー)”ですか」
『へえー、ガンセイヴァー…マイナーズも中々センスあるじゃない』
まるで懐かしい彼のような名前の由来に気付いたパンテーラが納得したように頷き、隣のモルフォはガンセイヴァーの響きが気に入ったようだ。
「そしてあなたは僕達マイナーズの希望であるバーチャルアイドル“RoRo”と双璧を為す復活した黒衣のバーチャルアイドル“モルフォ”…マイナーズとセプティマホルダー問わずファンがいる…」
『あらー、私も人気になったものねー。サインしてあげようかしら?』
「ふうん、でもモルフォの方は少し雰囲気わりいし、ホントにこいつがあの噂の紅いバチバチのセプティマホルダーのガンセイヴァーなのか…?確かに銃とかカッケェけど髪が長えし女みてえだな」
「こらこら、お兄さんに向かって失礼でしょ?あ、私はコハクって言います。この子達のお姉さん役…かな?あ、こっちの小さい子がマリア…っていない!?」
マリアと言う人物を紹介しようとしたが本人の姿がないことにコハクと名乗った少女は慌てる。
「マリアだったら先に帰っちまったぜ」
「あらら…もう1人、マリアって女の子かいるんだけと人見知りなんだ。」
「そうか…攻撃の意思はないとはいえ、良くセプティマホルダーである俺に向かってそこまでベラベラと話せるな…」
少なくともマイナーズからのセプティマホルダーへの感情は最悪を通り越しているだろうに構わず話しかけてくるのは肝が据わっているのか能天気なのか…もしかしたら両方か。
「え?だってあのお兄さん、良い人なんでしょ?」
『コハクちゃん!あいつ全然良い人じゃないし優しくないよ!?怖いし鬼だし悪魔だし!僕、何回もあいつにスクラップにされかけたんだから…ひぃっ!?』
叫ぶロロだが、ソウの一睨みで黙らされた。
どうやら現在に至る前に何度か戦闘し、何度も破壊されかけたせいでソウがトラウマになってしまったようだ。
『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい…黙りますからスクラップにしないで…』
「人聞きの悪いことを言わないで下さい。そっちが挑んできたんですから返り討ちにしたまでです。そちらの自業自得ですよポンコツアイドル・ロロ」
『あんたねぇ…少しは学習しなさいよ。機械でしょ一応』
悪い人扱いされそうだったのでパンテーラとモルフォは深い溜め息を吐いた直後にソウとアキュラの表情が鋭くなり、同時に銃剣と銃を抜いてある方向にレーザーと雷撃を放つと悲鳴が上がった。
「光学迷彩か…テーラ、そいつらを守れ。話が通じそうな交渉相手だ。大事に扱え、モルフォはサポートに徹しろ」
『了解♪︎』
「分かりました」
パンテーラにコハク達を任せるとソウとアキュラはマッハダッシュとブリッツダッシュで高速で動き回り、光学迷彩で隠れているスメラギ兵を瞬殺していく。
「ソウ、マイナーズを守るとは何を考えている?」
ロックオンした敵を撃ちながら、アキュラの記憶ではソウはマイナーズを嫌悪しているため、ソウがマイナーズに分類されるコハク達を庇ってくれていることに疑問を抱く。
「別に大した理由じゃない。交渉相手になり得る相手を死なせたくはないだけだ」
ソウもすれ違い様にチャージセイバーで斬り裂き、周囲の敵を雷撃鱗ロックオンをしながらアキュラの問いに答える。
そしてソウがロックオンした敵に放電すると、ほんの数分でここ一帯のスメラギ兵は全滅する。
「凄い…あんなにいたセプティマホルダーが全滅しちゃった…」
コハクは目の前で起きたことが信じられなくて目を見開いている。
たった2人の少年によってスメラギのセプティマホルダーが全滅したことに。
「おい、お前。」
「え?な、何かな?」
いきなり呼ばれたコハクは背筋を伸ばしながら言葉を待つ。
「身構えるな、危害を加えるつもりはない…交渉だ」
「交渉?」
「俺とテーラはスメラギを相手にしているんだが、活動拠点が無くて困っていてな…どこかに拠点となりそうな場所を教えてくれれば、それ相応の対価としてスメラギからお前達を護ってやろう…どうだ?」
「え!?良いの?だったら私達の拠点を使ってよ!アキュラ君もいるから凄く心強いよ!!」
「…こいつがか?こいつが役に立つのか?」
「その台詞、そのまま貴様に返してやろう。」
過去の因縁があるソウとアキュラが睨み合い、一気に空気が冷える。
しかしコハクは中々の強者らしく、気にせず口を開いた。
「あ、そう言えばアキュラ君とお兄さんって似てるね。口数が少ないところや全体的なカラーリングとか…仲良しだったりする?」
「「全く違う、仲良しでもない」」
「ほら、息ピッタリ!」
「「………ふう…」」
『ふふ、お礼に私の歌を聴かせてあげようかしら?』
コハクの言葉に2人は互いに忌々しそうに見つめると同時に溜め息を吐き、モルフォは礼の歌を何にするか考えるのであった。
後書き
流石にオリ主側に歌がないのは寂しいと思ったので鎖環のイマージュパルスを参考にしました。
黒モルフォはオリジナルモルフォと違ってやんちゃな性格をしています。
ページ上へ戻る