好色一代男は死なず
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第一章
好色一代男は死なず
世之介は女護ヶ島に渡りそこで遊びの果てにそれが過ぎて死んだと言われていた、だが彼を知るあるお大尽、仮に名前を助平とするがこの者は言った。
「あいつはそれで死ぬかい」
「あの話は間違いですか」
「そや」
大坂の遊郭のとある店の中で若い者に言った。
「おなごで三千七百人か」
「滅茶苦茶ですね」
「おのこも七百人かそこらやぞ」
「十一歳からはじめて」
「それで還暦までや」
「そうして楽しんで」
「ここにもずっと入り浸ってな」
「遊んでましたね」
「そんな奴がや」
それこそというのだ。
「幾ら爺になってや」
「衰えてもですね」
「そんなので死ぬか」
「他のことで死にますね」
「そや、あっちでもな」
女護ヶ島でもというのだ。
「遊び倒してるわ」
「そうですか」
「確かに還暦になって弱なったと言ってたが」
遊びがというのだ。
「そやけどや」
「普通の人と比べてで」
「その還暦になっても毎晩や」
「もっと言えば朝も昼もですね」
「遊んでた様な奴がや」
「それで死にませんね」
「あいつはおなごの上か下では死なへん」
助平は言い切った。
「花柳の病にもなってへんが」
「あれ凄いですね」
若い者も言った、共に飲みつつ話した。
「あれだけ毎日遊郭に通って」
「そうした病気にならへんのはな」
「ええ、普通なりますよね」
「世の中どれだけおるねん」
助平は言った。
「遊郭に通ってや」
「鼻が落ちる人が」
「もうそれこそや」
「あちこちにいますね」
「遊郭通いは極楽と地獄を味わえる」
その両方をというのだ。
「おなごかおのこを楽しんでな」
「そっちが極楽で」
「鼻が落ちてや」
「地獄を味わいますね」
「鼻が落ちてあちこち梅みたいなできものが出来てな」
「瘡蓋になって」
「身体がただれて腐って死ぬ」
そうなるというのだ。
「遊郭通いの常や」
「そうですね」
「そうなるわ、しかしな」
「あの人はならへんで」
「それでや」
そのうえでというのだ。
「あの島に言った」
「そうでしたね」
「それでや」
助平はさらに話した、肴の鯖を焼いたものに鮒の刺身を食べつつ話している。若い者も同じものを食べている。
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