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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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XV編
  第243話:未来捕縛作戦

 変身した輝彦と弦十郎が、訃堂と言う老人と言うにはあまりに強すぎる老人1人相手に苦戦を強いられている頃、キャロルとハンス、翼の3人はダイレクトフィードバックシステムにより洗脳された未来の相手に手を焼かされていた。

 未来が手を翳すと、そこに珠が4つ埋め込まれた丸い鏡のような物が現れる。その鏡に光が集束していくのを見たキャロルは、自身も回避行動を取りながらハンスと翼に警告を促した。

「散れッ!」
「おっと!」
「くっ!」

 キャロルの警告に3人が別々の方へと散開すると、その直後鏡から放たれた薄紫色の光線が3人が居た場所を薙ぎ払う。屋敷の一部が抉れるほどの光線は、その威力もさることながら秘められた効果もえげつなくキャロルをもってしても心胆寒からしめるほどの一撃であった。

「全く、破邪の力を持つ攻撃と言うのは厄介な……気を付けろよ! 一撃でも喰らえば聖遺物もファントムも構わず浄化されるぞッ!」

 シンフォギアの神獣鏡は、そのスペック自体は数あるシンフォギアの中でも最弱と言っても過言ではないものであった。だがそれを補って余りあるのが、ある意味でシンフォギア特攻とも言える聖遺物の力を分解する能力。フロンティア事変ではこの能力のお陰で洗脳された未来の相手は苦労させられ、しかしこの能力のお陰でガングニールに浸食されていた響は勿論洗脳されていた未来自身も助けられる事となった。

 その神獣鏡がファウストローブとなって再び翼の前に立ち塞がる。使われているのはシンフォギアのそれと同じ欠片でしかないが、未来に憑依させられた神の力を制御する為かスペックがシンフォギアの時とはまるで違う。加えてダイレクトフィードバックシステムによる恩恵か、正確無比な攻撃を繰り出してくるため翼達も今の未来相手には苦戦を免れなかった。

「くっ! 小日向ッ! 目を覚ませッ!」

 翼が必死に呼び掛けながら刀を振り下ろす。しかし今の未来に翼の声は届かず、未来は腕輪から伸ばした光の刃で刀を受け止めると逆に彼女を押し返し空中で無防備になった翼に展開した鏡からの砲撃を浴びせようとした。

 出現した丸鏡に光が集束していくのを見て、翼は咄嗟に脚部のギアを展開しブレードにもなるスラスターを噴射させ無理矢理空中で体を捻った。

「ぐぅっ!」

 かなり無理矢理な動きではあったが、お陰で砲撃は翼のギアを僅かに掠める程度に留まった。掠った部分が分解されてしまったが、嘗てのアルカノイズの一撃の様に分解がそれ以上広がる様な事はなくその部分の素肌が晒される程度で済んだ。

 翼への追撃が失敗に終わった未来だったが、彼女はそのまま鏡の向きを変え翼への再度の砲撃を行おうと力を溜める。そこにハンスがファルコマントを纏って高速で接近しダイスサーベルで斬りかかった。

「もらった!」
「!」

 滑空しながらの斬撃に対し、未来は腰の後ろからスカートの様に伸びた先端に鏡の付いた無数の帯を振るう事で迎え撃つ。しなる鞭のように振るわれた帯は見た目以上に硬質であり、刃が接触すると甲高い音を立てて弾かれてしまった。

「なっ!? くぅっ!」

 予想以上の硬度と殆ど背を向けられながらの迎撃に一瞬呆気にとられるハンスであったが、直ぐに気を取り直すと素早い刺突を連続で放つ。翼に比べればハンスの攻撃は苛烈であり、多少は未来が傷付く事を厭わないと言う意思を感じさせる。彼は未来に対してそこまで配慮する程の思い入れが無いのだから当然か。精々五体満足で生きている状態で取り押さえられればそれで良いと言う考えによる攻撃は、翼以上に未来を追い詰めるかに思われた。

 しかし未来は器用にも連続で放たれた刺突をこれまた自在に動く帯で全て受け止めてしまった。それどころか流石にしつこく攻撃されて煩わしくなったのか、翼への追撃を止めた未来が纏めて振るった帯による一撃で逆にハンスの方が吹き飛ばされてしまう始末である。

「うぐぉぉぉぉっ!?」
「ハンスッ!? くそ、小日向 未来ッ!」

 吹き飛ばされていくハンスを目で追いながら、キャロルは背中のバインダーを展開し弦を出現させると、それを震わせて錬金術による砲撃を放った。対する未来も今度は無数の鏡を展開し、光を集束させた砲撃で迎え撃つ。ぶつかり合う黄金の光と薄紫色の光の鬩ぎあいにより、余波で屋敷の一部が倒壊しかける。

「ぐ、くぅぅぅ……!」

 何とか拮抗状態を維持するキャロルであったが、そこからさらに踏み込む事が出来ず呻き声を上げる。ただ相手を粉砕するだけであれば簡単なのだが、この時ばかりはそうもいかない。今回は未来を取り押さえなければならないと言う制約がある。加えて近くの屋敷では未だに八紘たちが訃堂の不正の証拠集めなどで奔走している為、必要以上に周囲に被害を齎す訳にはいかないと言う制約も追加されているのが痛かった。お陰でキャロルは手加減しての戦いを余儀なくされてしまい、それが未来に付け入る隙を与えてしまう。
 周囲を気にしてキャロルの集中が僅かに途切れた、その一瞬の隙に未来は砲撃の威力を上げた。密度を上げた未来の砲撃は、加減しているキャロルの砲撃を飲み込みそのまま彼女自身をも飲み込もうと迫る。

 その光景に翼がアームドギアを大剣に変形させ、これ以上未来に攻撃させる訳にはいかないと斬りかかる。

「止めろ小日向ッ!」

 このままではキャロルが危ないと、未来に人を傷付けさせるわけにはいかないと言う思いから振り下ろされた一撃。これには未来も危機感を抱いたのか、キャロルへの砲撃を中断してホバー機能を用いて空中へと逃れる。砲撃から解放されたキャロルは、その場に膝をつくと珠の様な汗を流して疲労困憊した様子を見せた。

「はぁ、はぁ……くっ」
「い、つつ……! キャロル、大丈夫かッ!」
「ハンス……すまない、魔力を……」
「あぁっ!」

 未来の砲撃を受け止める事に退部魔力を消費してしまったのか、キャロルの体を酷い倦怠感が襲う。このままだとまた想い出や生命力が消費されてしまう為、そうなる前にキャロルはハンスから魔力の補充を受ける事にした。この為にアリスが作ってくれたプリーズの指輪をハンスがキャロルの右手の中指に嵌め、颯人達ウィザードで言う所のハンドオーサーに当たるコネクター部分に接続させる。

〈プリーズ、プリーズ〉

 指輪を通して、ハンスの魔力がキャロルに補充されていく。魔力が流れ込んでいくにつれてキャロルの顔色も良くなっていき、数分と経たず彼女は万全の状態にまで回復した。

「ふぅ……助かったよ、ハンス」
「な~に、これが俺の役目だからな……ぅ、ぉ」
「ハンスッ!?」

 キャロルが万全の状態にまで回復したのは良いが、今度はハンスの方が魔力不足に陥ったのかその場に膝をつく。どうやらキャロルが全力を出せるようにと張り切って魔力を流し込んだ結果、肝心の本人が今度は魔力が足りなくなり立つ事も儘ならなくなってしまったらしい。

「は、ははは……何、気にするな。この程度どうって事……」
「馬鹿、無茶しすぎだッ! 後はこっちで何とかするから、ハンスは暫く休んでいろッ!」

 ハンスをその場に座らせ、キャロルが顔を上げると視線の先では翼が刀や脚部の刃を用いて未来を相手に果敢に接近戦を挑んでいた。

「はぁぁぁぁっ!」

 手足の刃を巧みに用いて、舞うような動きで翼が未来に攻撃を仕掛ける。離れるとその瞬間に鏡を展開されて破邪の砲撃を放たれる為、迂闊に距離を取る訳にはいかなかったのだ。そもそも翼が纏う天羽々斬は接近戦を得意とするシンフォギアなので、真価を発揮する為には近付かなければならない。結果、翼と未来は辛うじて拮抗した戦いを繰り広げる事が出来ていた。

 そこに今度はキャロルも参加する。

「おぉぉっ!」

 右手に糸を巻き付かせて作り出したドリルを装備し、未来に向けて刺突を放つ。抉る様なキャロルの攻撃を未来は帯を使って防ごうとするが、高速回転するドリルには逆に弾かれ隙を晒してしまう。このままではマズイと思ったのか空中に逃れる未来であったが、翼はそれを許さず未来の頭上に飛び上がると手にした刀と両足の刃を使って3つの刃による斬撃をお見舞いした。

「逃がすかッ!」

 高速回転しながら連続で放たれる斬撃。これを腕輪から伸ばした光の剣一本で防ぐのは流石に無理と判断した未来は、腰の後ろから伸びる帯を用いて全力でこれを防ぎに掛かる。まるで回転鋸の様に放たれる翼の攻撃は、未来の纏うファウストローブを削る勢いで彼女を下へと下ろしていく。

 そこで待ち受けるのは、未来を取り押さえる為に待機していたキャロルであった。

「風鳴 翼、離れろッ!」
「! フッ!」

 キャロルの言葉に翼はその場から大きく飛び退いた。その際の衝撃で更に下へと押し込まれた未来の体を、キャロルが伸ばした無数の糸が絡め取り身動きを封じる。

「う、く……!?」
「ふぅ……やっと捕まえたぞ」

 嘗ての戦いでは複数人の装者を纏めて絡め取り動きを封じた程のダウルダブラの糸だ。如何に神の力を宿しているとは言え、未来が1人でこの拘束から逃れる事は不可能である。

――小日向 未来が人類の範疇に収まる人間でいてくれて良かったよ――

 キャロルは藻掻く未来を一瞥し、屋敷の方で未だに戦っている輝彦達の相手に視線を向け小さく息を吐いた。魔法の鎖すら引き千切る訃堂や弦十郎であれば、このダウルダブラの糸ですら引き千切りかねない。改めてキャロルはあの人外と言う言葉がこれ以上ない程相応しい2人に畏怖に近い感情を覚え、同時にその血筋である翼がその域に達していない事に何故か安心感を抱くのであった。

 ともあれ、これでこちらの問題は1つ片付いた。現状未来は拘束するしか出来ないが、本部に連れて帰りアリスや了子、収監しているウェル博士に協力させれば洗脳を解く事も出来るだろう。いや、その前に未来に憑依したシェム・ハとやらをどうにかする方が先決か。あれをどうにかしなければ、洗脳を解いた瞬間神の意識に未来が乗っ取られる。

 等と考えていると、輝彦達が戦っている場所から強い突風が吹いてきた。何事かとキャロル達がそちらを見れば、そこには再び地面に叩き付けられている輝彦と屋敷の壁を突き破った弦十郎の姿があった。

「ぐ……くそ、あの化け物……!?」
「うぐぅ……」
「フン……この程度か、まだまだ温いわ」

 輝彦も弦十郎も最早満身創痍と言った様子だったが、対する訃堂は少し息を乱している程度に過ぎない。弦十郎ですら規格外な上に、魔法と言うある意味で反則な能力を使って戦う輝彦が2人掛りで戦っても圧倒されている様子に翼も思わず声を上げた。

「司令ッ!?」
「く……つ、翼……! お前は、来るな……!」
「その子を確保したなら、君らは早くここから離れるんだ……!」

 輝彦と弦十郎が、ボロボロになりながら翼達に未来を連れての撤退を促した。だがこのまま本当に翼達が立ち去れば、訃堂はこの場に残った2人にトドメを刺すだろう。そんな事を許せる訳が無かった。

「出来ませんッ! これ以上、私の血筋に私の周りの者達を傷付けさせないッ!」

「くっ! あの猪武者め……! 猪はガングニール使いだけで十分だと言うのに……!?」

 弦十郎と輝彦の制止も無視して訃堂と相対する翼の姿に、キャロルも苦虫を噛み潰したような顔になる。出来る事なら自身が代わりに訃堂の相手をしたいが、生憎とキャロルは未来を拘束し続けなければならない。身動きを封じる事には成功したが、生憎とまだ未来は操られたままであり隙あらば拘束から逃れようと尚暴れている。ただ操られただけの彼女であればまだ何とかなるが、神の力を宿した未来を拘束し続けるのはなかなかに骨が折れこの状態を維持する為にキャロルはこちらに掛かり切りにならなければならなかった。
 視線をハンスの方に向ければ、彼はまだ魔力が回復しておらず翼の代わりに訃堂の相手が出来る様な状態ではない。結局、今自由に動ける者の中で訃堂の相手が出来るのは翼だけと言う状況であった。

 翼は訃堂の前で刀を構え、訃堂もまた翼に刀の切っ先を向けている。

「愚かな……誰を相手にしているか、分かっておるのか?」
「全て承知の上です。お爺様……いえ、風鳴 訃堂ッ! あなたの蛮行は、私が止めてみせるッ!!」 
 

 
後書き
と言う訳で第243話でした。

今回は未来の捕縛がメインでした。キャロルが本気を出せば未来をねじ伏せる事も出来たのでしょうが、あまり本気を出し過ぎると必要以上に未来を傷付けてしまいそうだと言う事でキャロルはちょっと手加減を余儀なくされています。この時点ではまだ未来とシェム・ハを分離する術を見出していないので、手加減しつつ捕縛するのが精一杯でした。

一方、輝彦と弦十郎は大分追い詰められています。かなりの窮地に陥ていますが、そこに手が空いた翼が参戦。結局は翼が訃堂と相対する事となりました。次回は翼vs訃堂の戦いをお見せしようと思います。

執筆の糧となりますので、感想評価その他よろしくお願いします!

次回の更新もお楽しみに!それでは。 
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