仮面ライダーネビュラス -Cosmos of the Fighter-
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前編:双星は地球へ落ちた
前書き
紆余曲折あってようやくできあがったオリライSS。
今回お送りするのは、地球へとやってきた二人の物語。
彼らがこの星の戦士と出会うまでの物語。
【それ】は、時空を超えてやって来た。
我らの宇宙にやって来た外宇宙からの来訪者は地球へと降り立った。
物質的な形を持たぬその存在は自分に合う形を選び、生物の宿す情念を読み取って取り込み、そしてこの地球で活動する肉体を得る。
――その名は『オーグマンズ』
取り込んだ生物特徴を増加させることにより、強大な力を得る事を可能とする『非物質生命体』
地球外からやってきた彼らは遥か彼方、地球人類が現代技術では観測できないほどの位置に存在する別時空の宇宙からやって来た彼らは何のためにやってきたのか?
魅力的な地球を手に入れるための侵略目的か? それとも愚かな地球人類が跋扈する邪魔な地球を破壊するためか?
憶測だけでは真実に到達することはできない……。
これからお見せするのは、地球へ逃げのびたとあるオーグマン達の物語。
そして、地球を守る『仮面の英雄』の物語でもある。
~~~~~
地球、何処かの大陸のとある国に存在する街――『オネイロス』。
そこに、夜空を駆けながら二つの流星が街の郊外へと落ちた。
森が生い茂るそこには、二つの流星が地面に大きなクレーターを作りながら不時着しており、舞い上がった土煙の中で爛々と光っていた。
暫くして土煙が収まると、二つの流星だったものはクレーターから浮かび上がると、"それ"は変化を遂げる。
二つの光はそれぞれ頭部や腕に足といった肢体を作り出し、まるで人型の姿を形どっていく。
やがて変化を終えて光が収まると、そこにいたのは……二人の若い少年少女であった。
「ティア、無事か?」
「ええ、ユース。私は大丈夫」
少年は少女の安否を確かめると、彼女に寄り添って手を取った。
マフラーを纏う軍服を身に纏い、短く切った黒髪と水色の鋭い眼つきの少年……『ユース』。
スカート付きの小綺麗な衣装を身に着けた銀色の長髪に赤い瞳の少女……『ティア』。
彼ら二人は自分自身の肉体がこの星に住む知的生命体と変わらぬ外見になった事を悟ると、互いの手を握りしめてすぐさまクレーターから離れた。
初めて地面に足を踏みしめて走る事を実感しながら、ティアは先導するユースへと訊ねた。
「ユース、彼らは追ってくるの?」
「あいつらは間違いなく追ってくる。この宇宙のこの星である地球まで、必ず」
「私は……地球の人を、巻き込みたくない」
「……ティア、今はオレ達にはほかの奴らを助ける余裕なんてない」
ティアの心配そうな表情を浮かべている様子に、ユースは険しい顔を浮かべた。
自分達を追っているであろう"あいつら"はいずれこの星――地球へとやってくる。
それまでに自分達二人が何処まで逃げられるか懸念はあった。
今の自分達にできることは一秒でも長く、彼/彼女と一緒にいる事……そう思ったユースとティアは目の前にある街・オネイロスへと向かっていく。
ユースとティア、別宇宙からやってきた二人の『来訪者』。
オーグマン達が住む星から命からがら逃げてきた彼らはこの地球へと舞い降りた。
この地球が母星で起きた争いの戦火に巻き込まれる事を憂いながらも、自分達の事で精一杯な彼らはせめて彼らがいないところまで逃げるしかなかった。
だが、二人は知らない。既に魔の手はすぐそこまで迫っている事を。
燃えるように輝く赤い星が昼間の空にあった事を。
~~~~
主要都市・オネイロス。
かの極東の島国・日本とも勝るとも劣らない経済都市であるこの街へユースとティアは足を踏み入れた。
何本もの建つ摩天楼の下の元、多くの人々が賑わうこの街に二人は驚きの表情を隠せなかった。
「ひ、人が多いね」
「どうやらオレ達が落ちた場所は、この星における重要な都市の一つのようだ」
「うぅぅ……こんなに人が多いと、はぐれたりしないかな」
行き交う地球人を見て冷静に分析をするユースと、余りにもこの町に住む人々の多さに弱気になるティア。
彼女はユースの片腕にしがみつくと、大切な物を扱うかのようにぎゅっと抱きしめる。
女性特有の肌の柔らかさと温もりが衣服越しに伝わりながらも、異性としてより庇護の感情を強めながらユースは繋いでいる手を一層強く握る。
「大丈夫、俺はお前を離れず守るから」
「……ほんとに?」
「ホントだ。だからもう少し気を緩めていいんだぞ?」
ユースは先程までの仏頂面から少し口角を上げて笑いかける。
普段笑う姿を見せない彼が自分を安心させるために向けたその表情にティアは若干顏を赤らめた……ような気がした。
通りすがる他人からすれば表情の変化が少ない男女のカップルのように思える。
実際、彼ら二人はこの地球における男女の仲というそこまでの関係なのかは不明だが、少なくとも浅からぬ関係ではないのは明白だ。
ユースは片腕にしがみ付いているティアと共に、人混みの中へと紛れ向かっていった。
二人が当てもなく街中を散策していると、そこへいい匂いが鼻についた。
それがすぐに料理の匂いだと気付いたのは、すぐ近くに一つの飲食店があったからだ。
三階建てからなる建物の一階部分には『World famous Davies doughnuts shop』と看板に書かれていた。
その店名を見て、ユースは眉を顰める。
「……なんて店名なんだこれ? 『World famous Davies doughnuts shop』?」
「世界一美味しいってことかな」
「自信満々にもほどがあるだろ。自称を店名にするって……」
「ねぇ……入ってみる?」
「……だな。腰かけて今後の話がしたい」
ユース達はドアを開けて入っていく。
中に入ると、固定式の椅子が設置されたカウンター席に加え、いくつかのテーブル席が存在する。
いわゆるダイナー形式に見えるが、それに反して白と焦げ茶のツーカラーで落ち着いた内装はどこか温かみを覚える。
入店した自分達の存在に気づき、カウンター席の向こう側に立っていた一人の老紳士が声をかけた。
「おや、いらっしゃいませ。お二人でございますか?」
「あ、ああ……」
「こ、こんにちわ」
カウンター席から出てきた老紳士、そこで二人は彼の顏がよく見た。
中央分けにしながら片方へ前髪を垂れ流している形の銀髪、上唇に蓄えた髭、そして皺が刻まれていながらも整えられた顔立ち。
制服を纏いながらすらりと背を伸ばしている老紳士の姿に違和感を感じながら、二人は会話を続ける。
「あの、オレ達ここに来たのが初めてで」
「なんと、オネイロスに初めてやってきたのでございますか?」
「えっと、はい……ここで使えるお金もなくて、途方に暮れていた所にココを見つけて」
「ふむ、訳アリですか。どうしたものですか」
ユースとティアの言葉を聞いて驚いた老紳士は二人を一瞥する。
二人のこのオネイロスの住人にしては似つかわしくない異国風の服装を見て何かを感じ取ると、少し思案する。
そして何かを思いついたように手を合わせると、ユース達へ指を差した。
「アナタ達、困ったときにこの店を選ぶとはとてもいいセンスをしてますね」
「……なんだって?」
「えっ、それってどういう?」
「私、シモン・デイビスと申します。この"デイビス"にて店を営んでいます」
聞き返すユース、戸惑うティア、とそれぞれ驚く二人。
老紳士――『シモン・デイビス』は名乗った後、二人をカウンター席に案内させると、自分が思いついた提案を告げた。
「行くところがないなら、私の所に来ませんか? 住み込みという形で食事付きです」
「えっ、いいんですか?」
「それは……随分と思い切ったな。俺達はまだ初対面だぞ」
「まあそれはそうでしょうが……それ、挨拶代わりの小料理です」
デイビスはカウンターに差し出したのは皿の上にのったパイだった。
こんがりと狐色に焼かれ、網目状に編み込まれた生地と、中身のさいの目切りにされたミンチ肉が見えているそれを見て、ユースは怪訝そうに、ティアは不思議そうに見ていた。
「ん……んん?」
「わぁ……なんですかこれ?」
「ややっ、ミートパイをご存じないとは……美味しいですよ?」
「「……」」
ユースとティアは顔を見合わせると、恐る恐るミートパイを手に持って、口へと運んだ。
塩と胡椒、そしてソースで味付けされた肉の味とパイ生地の触感が口内に広がる。
自分達にとって初めて味わう未知の体験に、二人は驚きと感動に包まれていた。
「……ッ!」
「なんだろう、あったかい……!」
「それが、美味しいという言葉ですね。お二人の口に合いましてよかったでごさいます」
ミートパイを行きよいよく食べている自分達を見て笑顔を綻ばせるデイビス。
あっという間に食べ切り、差し出された珈琲を口にして満足げな表情を浮かべる。
「感謝する。見知らぬ俺達にここまでしてくれて」
「ありがとうございます、デイビスさん」
「いえいえ、見た所訳ありのようですからね。そういう方は放っておけないですから」
お礼を言われたデイビスはミートパイが盛ってあった皿を慣れた動きで片付けると、二人にとある物を渡す。
それは紙で作られた容器のボックスであり、その中入れられている円形状に中央が穴の開いたお菓子―――ドーナツがあった。
ドーナツの入ったボックスをユースとティアに渡すと、デイビスは二人に説明をする。
「早速ですがお仕事です。これを上の階に住んでいる青年に渡してください」
「あ、ああ……これをか?」
「上ってこのお店の上の階ですか?」
「ええ、今頃は屋上にいるでしょうから」
ユースとティアは不思議そうにドーナツボックスを見つめると、彼に言われた通り運ぶことにした。
店のドアを開け、建物に備え付けてあった階段へと登っていく二人すぐさま屋上へと辿り着く。
ただっぴろい屋上には一人の若い青年の姿があった。
「ほーん……なるほどな。昨夜の双子星は吉兆、というところか」
明るくなった空を見上げ、冷静に口に呟く若い青年。
短めに切ったボサボサの髪、今にも眠りそうな寝惚け眼な彼は手に持った小型端末とパラボラアンテナを構え、何かを探るような仕草をしている最中だ。
普通の人から見ても奇々怪々な姿にユースとティアは首を傾げるが、届ける人物がこの人らしい。
二人は屋上へ足を踏み入れるとユースが恐る恐る訊ねる。
「おい、アンタがデイビスが言っていたヤツか??」
「ん?」
誰かに呼ばれた事に気が付いたその青年は振り向いた。
何処となくデイビスや今まですれ違った他の住人とは異なる顔をしながら、見知らぬ少年少女に視線が留まると彼はユース達に話しかけた。
「君達は?」
「えっと、私はティア。隣にいるのはユース。私達はデイビスさんに頼まれてアナタに食事を届けるようにやってきたの」
「ふー、お爺からの差し入れか……サンキュ、そこにあるテーブルに置いといて」
ティアの経緯を聞いてなんとなく悟った青年はすぐ傍に置いてあったテーブルへと指を差した。
二人はテーブルにドーナツのボックスと水筒を置くと、青年へと向き直って少し訊ねた。
「そういやお前、名前なんて言うんだ?」
「お聞きしても大丈夫ですか?」
ユースとティアの二人から名前を尋ねられ、青年は片腕に持っていたパラボラアンテナを下す。
少しだけ横顏を向けて視線を向けると、観察するように二人を見た後に自分の名前を口にした。
「シデン、シデン・エンジョウ。宇宙科学専攻の……まあ、科学者の端くれだ」
自分の素性を説明しながら青年……『シデン・エンジョウ』は二人に名乗った。
これが、ユースとティア――オーグマンと地球人の忘れられない後の邂逅であった。
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