凍らない酒
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第一章
凍らない酒
ナポレオン=ボナパルトはロシア遠征に踏み切った、その報告を受けてロシア皇帝アレクサンドル一世は広い額が目立つが輝かしい美貌を見せる顔を顰めさせて言った。
「何とか避けたかったが」
「最早フランス皇帝の決意は固いです」
「周りも止めたそうですが」
「ロシアに攻め込んできます」
「何十万もの大軍で」
「その様な大軍が来てだ」
皇帝は顔を顰めさせたまま言った。
「攻め込んでくるとな」
「普通に戦っては勝てないですね」
「それではですね」
「やはりモスクワを捨てますね」
「そうしますね」
「その際だ」
皇帝はさらに言った。
「民を去らせてな」
「ものは全て持ち去り」
「街に火を点けてですね」
「何も渡さない様にして」
「彼等を餓えさせますね」
「そうする、正面から戦わない」
それはしないというのだ。
「絶対にな」
「そうしますね」
「絶対に」
「そして冬が来れば」
「その時に」
「動く」
こう言ってだった。
ロシア軍は攻め込んできたナポレオン率いる大陸軍とは積極的に戦おうとはしなかった、そうしてだった。
モスクワも捨てた、街を文字通り廃墟にした、だがナポレオンはその街でアレクサンドル一世と会談をしようと待った。
だが冬が近付き気温が冷えると。
「ワインがか」
「はい、凍ってきました」
「ロシアの寒さの前に」
「そうなってきました」
「それはまずいぞ」
ナポレオンは側近達に言われて眉を顰めさせて言った。
「ワインが凍るとな」
「暖を取れません」
「服も冬用はないですし」
「しかも燃やす木材もありません」
「今この街は焦土です」
「何もないので」
「まずいぞ、これは」
ナポレオンも危惧を抱いた、そうしてだった。
撤退を決意したがそれでもだった。
「ワインが完全に凍ってか」
「飲めません」
「そこから暖を取れません」
「冬用の服も燃やして火にあたるべき木材もありません」
「これではです」
「将兵達がどんどん」
「まずいというものではない」
ナポレオンはその勘からこれまでにない危機を感じていた、このままでは恐ろしいことになると。その彼に対してだった。
ロシア軍は自国での戦いだけあって地の利があった、それに服もロシアの冬のそれであった。しかも。
皇帝は逃れた場所で戦局を聞いて周りに問うた。
「兵達はウォッカを飲んでいるな」
「そうして身体を温めています」
「常に」
「そうしています」
周りの者達は即座に答えた。
「ワインではなくです」
「ウォッカを飲んでいます」
「ワインは凍りますが」
「ウォッカは凍らないので」
「それは何よりだ、ウォッカは欠かさないことだ」
皇帝は周りに告げた。
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