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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その14

いつものように、ヒルゼンさんの家から、山に遊びに行く為に、人に見つからないように、里の裏道を歩いていた時だった。
私はぼやきとも嘆きともつかない愚痴を耳にした。

「それにしても、本当なのかねぇ。雲隠れと停戦するっていうのは」
「そうそう。あの雲隠れがそうそう大人しくなる訳がないじゃないか」
「本当だよ。全く、火影様も人がいいから…」
「確かに、ずっと戦続きってよりは、良いのかも知れないけどねぇ…」
「卑怯者の雲隠れの事だから、絶対火影様の裏をかいて、うちの里を引っ掻き回そうとしてくるに違いないよ。あたしゃ、今から心配だよ。何か悪い事が起きなきゃ良いけどね」
「本当にねぇ…」

遠ざかって行くオバサン達の会話の内容から知った事実に、私は束の間呆然となった。

雲隠れと木の葉って、確か何かあった気がする。
何があったんだったっけ。

「あっ!」

思い出した私は思わず大声をあげてしまった。
そして、慌てて口を噤む。

せっかく人に見つからないように裏道に居るのに、声をあげたりしたら見つかってしまう。
里の人に私が見つかると、とても面倒だ。
私は慌ててその場を離れた。

駆け足で山に向かいつつ、私は本気で考える。

これってきっと、『日向』の話だ。
このままだと、日向ヒアシが犠牲になる。
里的にはありかもしれないけど、日向的にはそれは嫌だよね。
どうしよう…。

悩みながら歩いていたせいか、気がつくと知らない場所を歩いていた。
というか、道どころか何処かのお屋敷の中庭っぽい場所だ。
綺麗に開けていて、整えられた植木がまばらに生えてます。

じわり、と汗が滲んでくる。
これは不法侵入です。
私の立場的に非常にまずいです。
誰かに見つからないうちにとっとと退散しないと、何が起こるか分かりません。

せめて、身を隠そう。

思わず辺りを見回して、身を隠せそうな植木の陰に入ろうとした時でした。

「何者だ」

閉ざされた襖の奥から、誰何の声が届いてきました。
思わず身が竦みます。

ど、どうしよう…。
何て答えるべき!?

あわあわしながら、自分の取るべき行動に迷っていた時でした。

「ここが日向の館と知っての狼藉か」

続けられた言葉に私は思わず叫びました。

「ここが日向なら何で誰も私が入り込んでるのに気付かないの!?」

あれ?
何か、ちょっと口走っちゃったような…。

いやいや、私に声をかけて来た人は、私が入り込んでる事に気付いているから誰も気付いてない訳では無いけれど。
少し、やっちゃったかもしれません。

「ふむ…。そういう見方もあるか。確かにここは日向の館。ここに居るのは日向の血を持つもののみ。なれば、鼠が紛れ込むのを許した日向が弛んでおるとも取れるよの」

いえ、そんな大層な指摘をした訳では無いのですが。

「えと、あの…」
「して?ここまで入り込んできたのは何故だ?三代目の養い子よ」

さり気なく身上を指摘されて、その上で静かに追求された私は、小さくなって誤りました。

「ごめんなさい。ぼんやりして歩いていたら、気がついたら入り込んでました。どうやって此処に来たのかも分かりません…」

申し訳なくて、小さくなってしまいます。

「ふむ…。成る程な。確かに、誰も気付かぬのは問題だな。弛んどる。弛み過ぎとる! どれ、一族の気の緩みに気付かせてくれた礼に、わしが門まで案内してやろう」

親切な申し出に、素直に受けるべきか断るべきか私が逡巡しているうちに、襖の奥から偉そうなおじさんが出て来てしまった。

思わず沈黙してしまう。

もしかして。
もしかしなくとも。

この人って、ヒアシさんとヒザシさんのお父さんなんじゃ?

白眼はもとより、漂う威厳と威圧感が半端無いです。

「儂に着いてきなさい」
「あ、は、はい。ありがとうございます」

先導してくれるおじさんに逆らわず、素直に着いていく。

「時に、日向をどう思う」
「へ!?」

突然、何の前触れもなく声をかけてきたおじさんの背中を、私は思わず見つめてしまった。
一体この人は何を言い出してるんだろう。
私、まだ4つです。
そんな問い掛けをされても困ります。

「え、えっと、日向は木の葉で最強なんだって聞きました」

とりあえず、どこかで聞いたような事を言ってみる。

「そうか」

その途端聞こえてきた微妙に嬉しそうな声に、ほんの少し意地悪な気持ちになってしまう。

「でも、最強って、何が最強なんですか?」

思わず私は問いかけていた。

「うん?」

怪訝そうなおじさんに、私は問いかけていく。

「力だけ強くても仕方ないし、心だけ強くても仕方ないと思います。両方持ってるから最強なんですか?でも、心の強さなんて誰にも測れませんし、臆病である事も、また一つの強さですよね?頑なである事も一つの強さだし、柔軟である事も強さですよね?日向の強さって何が最強なんですか?」

私の問いに、おじさんは歩みを止めて私を振り返った。
真剣なその眼差しに、私は少し失敗したと思う。
子供らしくない問い掛けだった。
真摯な表情のおじさんが私を見据えて口を開く。

「…日向の最強たる由縁はこの白眼の能力にある。故に日向は木の葉で最強である!」

でも、そんなおじさんの頑な言葉に、かちん、と来る。
記憶の中にある日向ネジの姿が反感となって言葉になった。

「最強である為に縛りがある最強は最強じゃないです。本当に最強なら、なんにもしなくても最強です。あるがままの姿で最強だと思います。最強である為に犠牲があるなら、そんな最強って最強なのか不思議だし、それにこだわる意味ってあるんですか?」

敢えて小首を傾げて、子供らしさをアピールしながら問い掛ける。

おじさんの顔色は物凄い物になっていた。

赤くなって青くなって、呆気に取られて呆けている。
ちょっと、予想外の反応に不安になってくる。

日向は最強!を押し出して来たり、子供には分からんと返されたりするとばかり思っていたのに、何、この反応。

「あの…?」
「日向は木の葉の道具と言いたいか!」

良く分からない事を言い出したおじさんに混乱する。

「えっと、日向は木の葉の忍びですよね?」
「当たり前だ!」
「忍びって、道具ですよね?」

私の問い掛けに、お爺さんは更に無言になって凝視してくる。

「忍びが道具じゃ無いなら、何なんですか?」

心の底からの私の疑問に、お爺さんは更に呆気に取られたような表情になった。

「僕の認識、間違ってますか?」

不安になって尋ねてみる。
長い沈黙に居心地が悪くなった時、おじさんは深い溜め息と共に首を振った。

「いや、間違いではない。間違いではないが…」

間違いじゃないというおじさんの言葉にほっとする。

「木の葉の養い子よ」

ん?

何か、私に対する呼びかけが変わりました。
何だろう。

「確かに忍びは道具でもある。しかし、忍びは道具に非ず。それだけは忘れてはならん。我らは木の葉の火の意志を持った忍びである。お前もそれを良く覚えておきなさい」

何で急にこんな事を言われなくちゃならないのか、いまいち良く分かりませんが。

「はい」

おじさんが真剣な表情なので、素直に頷いておきます。
何だかおじさんに憐れみの混じる複雑な表情で見下ろされました。

憐れまれた!!!!

そ、そりゃあ、私の境遇はあんまり良いとは言えないし、白眼を持ってるなら九喇嘛の事も分かるだろうけど、憐れまれる由縁はどこにも無いですよ!?

「僕、一人ですけど、一人じゃないです」
「ん?」
「会ったこと無いけど、僕は父さんと母さんの子供です!」

私の叫びにおじさんが再び虚をつかれた表情になりました。

「会ったことなくても、僕の父さんと母さんが居る限り僕は一人じゃないです!」

おじさんを睨み付けるように主張していると、呆気にとられていたおじさんが破顔しました。

「はっはっはっはっ!そうか!!いや、流石は木の葉の養い子!良い心構えだ!気に入った!はっはっはっ!」

そしておじさんは非常にご機嫌な様子で私の肩を叩いて笑顔を振りまいてます。

何が何やらさっぱり分かりませんが、一体、何だと言うのでしょうか…。

意味不明なやり取りの数々に首を捻っているうちに、屋敷に詰めてる一族の護衛の人達に引き合わされ。
そこから仕事中のヒルゼンさんの所に連絡が行き。
訳の分からないうちにヒルゼンさんの家に引き取られていました。

そして今。

「ナルト。何故日向の屋敷に入り込んだんじゃ?」

私はヒルゼンさんに問い詰められています。

素直に白状したほうが良いでしょうね。

「あのね、いつもみたいに山で遊ぼうと思って歩いてたら、戦いなくなるのは良いけど、雲隠れは卑怯だからちゃんと仲直りできるか不安だねって言ってるおばさん達が居て、何がいけないのか考えてたら、気がついたらあそこに居たの」

私の言葉にヒルゼンさんは絶句します。

ついでに、私の心配もヒルゼンさんに伝えておこうと思います。

「あとね、相手を信用しなくちゃいけないとは思うけど、念を入れるのは悪い事じゃないと思うの。木の葉の里に暮らす全ての人達を守るのがおじいちゃんの仕事なんでしょう?戦い止める為にお仕事ちゃんとしてないって思われるのは、やっぱり良い事じゃないと思うんだ。だからおじいちゃん、大変だけどお仕事頑張ってね!」

激励した私に、ヒルゼンさんは曖昧な表情になりました。

「そうじゃな。ありがとう、ナルト」

微妙な顔になりつつ、私の頭を撫でてくれるヒルゼンさんに、私も微妙な気持ちになります。
そして、微妙繋がりで昼間出会った日向のおじさんを思い出しました。

「ねえ、おじいちゃん」
「なんじゃ、ナルト」
「日向のおじさんって、変な人なの?」
「何じゃと?」
「なんかね、日向をどう思うかとか、日向は木の葉の道具と言いたいのかとか聞かれたんだけど、私、どうすれば良かったのかな?」

困惑した表情でヒルゼンさんを見上げると、ヒルゼンさんも目を泳がせた挙げ句、深い溜め息をついて微笑んだ。

「それはナルトが考える必要のない事じゃ。忘れなさい」
「はい」
「今日は疲れたじゃろう。ゆっくり休みなさい」

ヒルゼンさんはそう言って私に促した。

確かに、今日は初めて会う慣れない人達といっぱい接して少し疲れました。
素直にヒルゼンさんの言葉に甘えよう。

「うん。おじいちゃん、おやすみなさい」
「おやすみ、ナルト」

穏やかに送り出された私は、それっきりその出来事は忘れてしまいました。

後日、聞くところによると、私が日向に迷い込んじゃった件は、日向の侵入者に対する警戒を強めるきっかけになり、日向に忍び込んで日向ヒナタを攫おうとしていた雲隠れの忍び頭を無傷で捕らえ、木の葉を優位にして木の葉の日向は最強との名前を強める事に繋がったとか。

私は何も悪くないと、思います。 
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