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仮面ライダーZX 〜十人の光の戦士達〜

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聖地の鉄人

 悠久の大陸と呼ばれ長い歴史と独特の文明を誇るインドはその中に多様な民族と文明を内包している。他の国の人々には理解し得ないものも多くそれが多くの人々を惹き付けてやまぬインドの魅力ともなっているのである。とりわけ宗教に関してはインド程多様かつ複雑な国もないであろう。
 仏教がインド発祥であるのは有名であるがその他にも厳格な戒律で知られるジャイナ教やシーク教、ムスリムのジハードによりもたらされたイスラム教、ヨーロッパ人達も布教したキリスト教等大小で無数にある。
 その中でも特に大きな勢力を持つのがヒンズー教である。インド古来の神々に仏教等他の宗教の要素やドラヴィダ人、アーリア人の哲学、文化を取り入れたこの宗教は将にインドそのものを表わしているといっても過言ではないであろう。
 カースト制や穢れの思想、創造、調和、破壊のサークル、輪廻転生、多くの今も生きる神々、それはインドの人達の心にたゆまなく流れる大河のようなものである。
 そのヒンズー教において聖地とされるのが古都ベナレスである。本来の名をヴァーラーナシィーというこの街はかってクーシー=光の都と呼ばれた。聖なる河ガンジス河の中流に位置し多くの信者達がこの聖なる河へ沐浴しに来る。
 この街はまたの名を『火葬場の街』ともいう。聖なる河に流されこの世での終わりを願う人達が集まる為この名がついたのであり、この街で死を待つ人達も集まっている。
 街は大小様々な路が入り組んでおり巨大な迷路の様になっている。石炭が採れる為車がひっきりなしに大路を走っている。その脇で商人達が店を開いている。富める者も貧しい者も行き交い路で寝起きする者もいる。犬や羊豚も路にいるがとりわけ多いのはヒンズーにおいて神の使いとされる牛である。牛は人と共に生き人と共に死ぬ。それもインドなのである。

 そのベナレス近郊のある古ぼけた寺院の地下に彼等はいた。
 「そうか、やはりこの地に来たか」
 暗い一室でテーブルを前にして車椅子に座した老人が呟いた。
 白のタキシードとズボンの上に裏が赤地の黒マントを着た白髪の一種独特のダンディズムが漂う老人である。彼の名は死神博士、かってショッカーみっての天才科学者として悪名を天下に轟かせた人物である。
 スペインアンダルシアのセビリアに生まれた。幼い頃より神童と謳われ医学、化学及び工学で天才の名を欲しいままにする。だがその反面占星術やオカルトにも造詣が深くやがて錬金術にある『賢者の石』を欲するようになる。様々な試行錯誤の末その謎を解明するに至るがそこでショッカーにその才を買われ招かれる。
 それまではいささか風変わりな人物として知られていながらも悪評や中傷とは全く無縁であった彼が何故ショッカーに入ったのかは誰にも解からなかった。一説には錬金術を学ぶ過程で様々な生体実験を執り行ない、それにより狂気に走ったとも言われている。
 その生体実験と錬金術の研究の成果であろうか。ショッカーに入ってからは改造人間開発の権威となり大幹部に抜擢される。その過程で賢者の石への関心は人を人にあらざるものに造り変えるという背信の錬金術へとなってしまっていた。
 スイスと日本でライダー一号と、日本と南米においてライダー二号とそれぞれ死闘を演じた。残忍にして冷酷、優れた改造人間をもってダブルライダーの宿敵であり続けた。
 「うむ、先程俺の配下の者達から報告があった。表向きはあの街の取材ということらしいがな」
 死神博士の前に山の様に大きな身体を持つ男が立っていた。下半身は黒ズボンとブーツであるが上半身は鋼鉄に覆われている。兜の様な頭部からは二本の水牛の様な角が生え指には鋭い爪がある。両肩には二本ずつ管があり左手には鎖で繋がれた巨大な鉄球がある。彼の名を鋼鉄参謀という。
 北欧にある魔人の伝説がある。全身が太陽の様に眩く輝く男だ。彼は白夜に現われ雪の中を歩いていく。そして目の前にる物をその光の熱で全て焼き尽くしてしまうのだ。
 彼の行く所は焦土のみである。跡には何も残らずかって人や家だった炭が残っているだけである。彼の名は黄金魔人、北欧を焼き尽くす魔王であった。
 彼の正体は炎の巨人であった。世界の滅亡の時にその全てを焼き尽くすと言われている炎の国の住人であった。
 やがて彼を倒さんと天界から一人の神が舞い降りた。雷の神トゥールである。
 戦いは長きに渡った。そして最後は雷神が勝った。その鎚を掲げ彼は雄々しく叫んだ。
 その子孫が彼である。デルザー軍団きっての猛者と言われた男である。
 「我々がこの地にいる事を察しているな。相変わらずカンのいい奴だ」
 「ならば話が早い。すぐに俺が出向いて奴を一撃で粉砕してやる」
 「待て。事を急ぐ必要は無い」
 拳を振り上げ力説する鋼鉄参謀を右手に持つ乗馬用のそれに似た鞭で制した。
 「今私が再び甦らせた改造人間達が目覚めようとしている。ゾル大佐が奴等を率い貴様の手勢とで二正面作戦を仕掛ける。これならば如何に奴とて持ち応えられまい」
 「奴さえ倒せば後はどうとでもなる。このインドが我等の手に落ちるのだ」
 「うむ。インド制服の前祝いとしよう」
 そう言うと指を鳴らした。すると戦闘員達が無言で赤ワインと二つの銀の杯を持って来た。
 コルクが抜かれ杯に酒が注がれる。紅のその色はルビーを溶かした様である。
 「私の故郷の酒だ。一度飲むと病みつきになるぞ」
 「有り難く頂こう。悪の勝利の為に」
 「うむ。悪の繁栄を期して」
 二人の大幹部は杯を交わし合った。くぐもった暗い笑いが地の底から響いてくるようであった。

 昼ガンジス河で沐浴する人達の中に彼はいた。沐浴をするのではなくカメラで彼等一人一人の顔や姿を撮っている。
 濃い青の半袖シャツに茶のスラックス、首に赤いスカーフを巻いている。身体はそれ程大きくはないが何かしら格闘技をやり込んでいるらしく全身の筋肉が発達している。黒い髪と瞳、独特の目鼻立ちから彼がアジア系であると解かる。陽気で人なつっこい顔立ちであり何処か都会的な洗練された趣を感じさせる。
 彼の名は一文字隼人、仮面ライダー二号としてその名を知られている。
 ロンドンで日本人の両親の下に生まれその地で育った。両親が亡くなると日本へ渡り親戚の下に身を寄せた。そして大学を卒業後フリーのカメラマンとなった。日本で学業と共に柔道と空手を教わり柔道は六段、空手は五段の腕前を誇るようになる。その格闘能力をショッカーに目を付けられる事になる。
 当時仮面ライダー=本郷猛の前に苦杯を嘗めさせられ続けていたショッカーはライダー打倒が緊急課題となっていた。そのライダーを倒し彼に替わる新たなショッカーの改造人間として彼は白羽の矢を立てられたのだ。そして彼はショッカーに拉致されたのであった。
 改造は順調に進んだ。最後に脳改造を残すのみという段階で全てがするった。この改造計画を察知した本郷猛がライダーに変身して改造が執り行なわれている基地に侵入し彼を救出したのだ。
 この直後欧州においてショッカーの動きが活発化している事を感じ取った本郷はかの地へ渡り、一文字は彼の替わりに日本のショッカーと戦うことになる。中東から招かれたゾル大佐や欧州から派遣された死神博士との激闘を経て死神博士を追う形で強化怪人達の魔窟と化していた南米へ向かう。南米全土で死神博士率いるショッカー南米支部、そして日本のそれに比肩する凶悪な複合怪人達を擁するゲルショッカー中南米支部と戦い続けた。そして日本において本郷と共にゲルショッカーを壊滅させた。それ以後も常に世界各地で悪の組織と戦ってきた伝説の戦士である。本郷猛のライダー一号が『技の一号』と称せられるのに対し彼のライダー二号は『力の二号』と称されている。
 「良い写真が撮れたな」
 一文字は河へと降りていく階段の一番上で笑みを浮かべた。大きな陽が光を反射する銀の河で満ち足りた表情で沐浴する人達の顔は何にも替え難く素晴らしいものである。一文字は夕陽を見ながらまた笑みを浮かべた。
 「あの夕陽もいいな」
 特別にフィルターをしたカメラを取り出し撮影する。赤と橙が混ざり合ったその夕陽は神が世を照らす為に創造したかの様に神々しく美しいものであった。
 河と夕陽だけではない。このベナレスには古く由緒ある寺院が多数ある。そして入り組んだ雑多な街並みと様々な人々がいる。あたかも人がこの世に生まれ出た時から存在しているかの如き悠久の感覚を覚える。ベナレスはそんな街だ。
 ベナレスだけでなくインドは全てがそうであった。民主的な政治が行なわれているが旧態依然とした制度も残っている。豪奢な宮殿に住み財宝と美女に囲まれている者もいれば森や路で生活し、ありのままのものを食べそれで満ち足り何不自由なく生きている者もいる。路を牛や犬が普通に歩きその隣に自動車や戦車が走る。果てしなく広がる砂漠があれば絶ゆ間無く流れる大河もある。何処までも見渡す限りの平原と天を支えるかと思われるまでにそびえ立つ山々がある。聖なる神と邪なる神が共存する。その聖なる神は時として全てを破壊し、邪なる神が世界を救う。秩序と混沌、創造と調和と破壊、過去と現在と未来、生と死、その全てを内包しているのがインドなのである。人々が無意識に持つ底の無い無限の世界、それこそがインドではなかろうか。
 「何時来ても不思議な国だな、ここは」
 一文字は夕暮れの街を歩きながら呟いた。ロンドンに生まれ日本に渡りそれからは世界各地を転戦してきた。あらゆる国を回り最早ほとんどの国を見てきた。その中でもインドは特別だった。
 何か遠い昔に忘れ去ったものがインドという国にはある。そしてインドのその悠久の時を感じ取った後母国へ帰る。すると今まで気が付かなかった母国の素晴らしさに気付くのである。
 ある店に入った。あまり高くない大衆的な日本でいう食堂のようなものだ。インド商人特有の愛想良さとサービスが売りの店だ。無論味もいい。ただ油断するとすぐ値段をボッてくるので気が抜けないが。
 店に入る。十程のテーブルが並べられている。手前のテーブルに着く。先客がいた。そこにいたは彼が良く知る顔だった。
 「よお」
 鶏と野菜のカリーを右手の三本の指を使って食べている男が挨拶をした。赤のシャツに黒のズボンを着たパーマの男は一文字のかっての戦友だった。
 「滝!どうしたんだこんな所で」
 「御前がここにいるって聞いたんでね。丁度この辺りで仕事があったんで立ち寄ったのさ」
 カリーを食べ終えテーブルの脇に置かれている木のコップで指を洗いながら答えた。
 「そうだったのか。どうだ、一緒に食べないか?」
 「おいおい、今食べたばかりだぞ」
 向かいのテーブルに着く一文字に困った様な笑みを浮かべて答えた。
 「何言ってんだよ。それだけじゃ足りないだろ」
 「ははは、まあな」
 そして二人は料理を注文した。カリーやタンドリーチキン等インドの家庭料理である。二人は心ゆくまでそれ等の料理を堪能した。
 その夜は別のホテルに泊まった。一文字の泊まっているホテルが満室であり滝は別のホテルにしざるをえなかったからだ。
 次の日の午前に二人は市場で落ち合った。それぞれの店が開店の用意をしている。
 「いいねえ、活気があって」
 滝はガヤガヤと明るい喧騒の中仕度をする人達を見ながら目を細めた。
 「だろ?市場のこの雰囲気は何処へ行っても変わらない。俺はこういった人の明るい活気が好きなんだ」
 カバンからカメラを取り出した。
 「それにいい写真が撮れるしな」
 カメラを向けられた人がニコリと笑う。そこへ子供達も寄って来る。
 子供達は一文字の周りに集まりヒンドゥー語で色々と語り掛けてくる。一文字も同じヒンドゥー語で返す。滝も多少ならヒンドゥー語は理解出来る。物を乞うているのではなく一文字に何やらせがんでいるようだ。どうやら一緒に遊んで欲しいと言っているようだ。
 「相変わらず子供に人気があるな」
 「まあね。写真も撮らせてもらってるし色々と教えてもらう事もある」
 「教えてもらう事?」
 「ああ。子供は感受性が強いからね。それを感じ取って写真に撮っていくんだ」
 「成程ねえ。俺も日本じゃ子供達にいろんな事を教えてもらったな」
 滝は日本にいた時の事を思い出した。彼はその時少年ライダー隊の隊長として子供達と共にショッカー、ゲルショッカーと戦った。その時子供達に教えられ助けてもらう事が多々あった。子供の強さと賢さを実感させられていたのだ。それは滝にとって忘れえぬ思い出だった。
 「子供達か。そういやライダー隊のチビ共も元気にしてるかな」
 「皆元気にしてるよ。立派な若者に成長しているよ」
 一文字が子供達と遊びながら答えた。
 「そうか、ならいい」
 滝は笑った。北東の方を見る。そこには日本がある。そこにいるかっての同志達に思いをはせるのであった。

 市場の後は死と戦の女神カーリー神の寺院へ入った。破壊神シヴァの妃パールヴァティーの化身の一つであるこの女神は恐ろしい外見をしているが正義の為邪悪なる者を討ち滅ぼす荒ぶる神なのである。
 昼食をとった後市内を見て回る。カルカッタやデリー等と比べるといささかのどかな街だというがそれでも路には人や牛や車が溢れかえっている。
 街の外れにある空き地に来た。そので滝は一文字に尋ねた。
 「なあ隼人」
 「何だ?」
 「御前写真を撮る為にこのベナレスへ来たって言ったよな」
 「ああ」
 「そえも目的だが本当は別の目的で来たんだろう?」
 「・・・・・・・・・」
 一文字は答えなかった。だが滝は続けた。
 「ここに何か人々にとって良からぬ連中がいる。それを感じ取ったから御前はこのベナレスへ来たのだろう?」
 一文字はまだ黙っている。
 「当たっているだろう」
 その言葉に対し一文字は口と目で笑って答えた。
 「やっぱり知っていたか。流石に鋭いな」
 一文字は口を開きはじめた。
 「その通りだ。タイでカメラマンの仕事が一段落した時インドで怪物が出たっていう噂を聞いてね。ほら、御前も新聞やニュースなんかで見た事あるだろう?」
 「ん、あれか!?」
 その話は滝もアメリカで聞いた事がある。インドで猿と人の合成獣の様な未確認生物が夜の街や森を徘徊して人々を襲っているという噂だ。
 その時は猿人か、得体の知れぬカルト団体か何かだろうと考えておりさしあたって動かなかった。現地の警察に連絡し何か不可思議な点があったらインターポールまで連絡してくれるよう言っただけだった。すぐに話が沈静化したので結局単なる都市伝説と思い他の任務に当たった。その任務こそがドイツでの狼男騒ぎだったのだ。
 「ちっ、こんな事ならこっちにも人を送っとくんだったな」
 そう言って歯噛みした。自分の見解の甘さが悔やまれる。
 「そういえば滝、ドイツでデルザー軍団のオオカミ長官と遭遇したらしいな」
 「んっ、何だ知っていたのか」
 「本郷から連絡があった。何でも地獄大使とブラック将軍まで姿を現わしたそうじゃないか」
 「ああ、本郷が言ってたんだ。間違い無い。それに前の組織の改造人間や見た事の無い戦闘員もいたらしい。俺は戦闘員の方しか知らないがな」
 「そうか。今までの組織と同等いや遥かに巨大な組織かもな」
 「多分な。あの三人だけじゃないだろう、他にも地獄から舞い戻ってきた奴が大勢いる筈だ。隼人、今回も辛い戦いになるぞ」
 「それはいつもの事さ。慣れてるよ」
 一文字はそう言って滝に微笑んだ。そして一言付け加えた。
 「ただな・・・・・・」
 真摯な顔になった。
 「ただ、な・・・・・・?」
 「何の罪の無い人達、特に子供達は巻き込みたくはない。俺はその人達を守る為に戦っているんだからな」
 「隼人、御前・・・・・・」
 滝は一文字のそういった性格を良く知っていた。例えどの様な状況においても自分の身より他の者の、とりわけ子供達の事を案ずる。それが一文字隼人という男なのだ。だからこそ彼は戦い続けるのであり決して屈したりはしないのだ。そんな一文字だからこそ滝も共に戦い助けてきたのである。
 二人は空き地を出た。ガンジス河で沐浴する人達を写真に撮り次に街外れのイギリス風の古い屋敷の前に来た。
 かっては植民地時代この地を統治していたかなり身分の高いイギリス人の屋敷だったのだろう。左右対称の見事な庭園跡と煉瓦、そしてガラスで造られた邸宅がある。だが今はそのガラスもわれ庭の噴水等も壊れ壁も所々破損し往時の美しさを偲ばせるものは何も無い。
 「こういうのも是非撮ってかなくちゃな。絵になるし歴史的にも意義あるものだし」
 一文字がカメラを取り出そうとしたその時だった。得体の知れぬ一団が一文字達の前に現われた。
 「むぅっ!?」
 それは黒のスーツと赤のプロテクターの一団だった。滝と本郷がシュバルツバルトやローマで戦った者達だった。
 その中心に男はいた。鋼鉄の上半身を持つ巨人、デルザー改造魔人の一人鋼鉄参謀である。
 「一文字隼人だな」
 魔人は一文字を指差して問うた。
 「だとしたら?」
 あえて名乗らなかった。
 「知れた事。死んでもらう」 
 そう言うやいなや左手に持つ鉄球を放り投げてきた。
 一文字はそれをかわした。再び鉄球を繰り出そうとする。だがそこに一文字はいなかった。
 「むっ、何処だ!?」
 鋼鉄参謀も戦闘員達も辺りを見回す。すると上から笑い声がした。
 「そこかっ!」
 屋敷の上の方を見る。そこに一文字はいた。だが彼はすでに変身を遂げていた。
 深緑の仮面に赤い両眼、黒いバトルボディに緑が混ざった暗灰色の胸、そして赤い手袋とブーツ。仮面ライダー二号であった。『力の二号』とも称される正義の戦士である。
 「流石はデルザーの改造魔人、派手なご挨拶だな」
 「ぬかせっ、さっさと降りて来い!」
 「言われなくとも降りてやろう。行くぞ!」
 戦闘員達の中へ降り立った。向かい来る戦闘員達を拳と蹴りで次々と倒していく。
 残るは鋼鉄参謀一人となった。鉄球を構える鋼鉄参謀に対しライダーは完全に変身する直前の拳を造ったポーズでファイティングポーズを作る。
 ジリ、ジリジリ、と両者は間合いを詰める。ライダーが一歩踏み出そうとした。その時だった。
 「ムッ!?」
 新たな一団がライダーと滝の周りを取り囲んだ。
 それは新手の戦闘員達だった。彼等だけではなかった。改造人間もいた。四体いる。
 アフリカより来たショッカーの火炎怪人サイギャング、ゴッドが誇る豪力怪人ヘラクレス、このインドで生まれたネオショッカーの突進怪人サイダンプ、ゲドンの鋏怪人カニ獣人、そのいずれもがかってその豪力をもってライダー達を苦しめた猛者達であった。
 「やはり出て来たな、怪人達」
 「そうだ、貴様を倒す為に甦ったのだ」
 輪の奥から声がした。声の主が前に出て来た。その姿を見てライダーも滝も驚愕した。
 「き、貴様はっ!」
 声の主は金の顎止めや帽章の付いたジャーマングレーの軍帽とそれと同じ色の軍服、白いズボンと手袋を着け黒のブーツを履いている。腰のベルトには拳銃が架けられ右手には棒状の鞭がある。口髭を生やし左眼には眼帯をしている。この男の名をゾル大佐という。
 ゾル大佐、ショッカーに関わった者でこの名を知らぬ者はいない。ドイツケーニヒスベルグに生まれ軍人となる。ナチス政権下で頭角を現わしナチスのユダヤ人弾圧の実行者として知られるようになる。ハイドリッヒ等と共にヒムラーの懐刀として辣腕を振るう。彼の手により多くの者がアウシュヴィッツ等で苦しみ悶え死んだ。喉を掻き毟り眼球を飛び出させて死ぬ様を彼は笑みをもって眺めていたという。
 ナチス崩壊後追われる身となるがアルゼンチンに潜伏しその地でショッカーに入る。ショッカーにおいてもナチス時代そのままの辣腕を振るい世界の火薬庫とも言われる中近東の支部長に任命される。多くの諜報機関やテロリスト達が跋扈するこの地において主に少年少女やダブルスパイを以って実行した誘拐や洗脳によるテロ作戦で功績を挙げる。それによりショッカーで最大の権限を持つに至る。完璧主義者にして厳格、冷徹、一文字隼人の宿敵であった人物だ。
 「久し振りだな、一文字隼人。いや、仮面ライダーよ」
 「やはり生き返っていたか」
 「貴様をここで倒す為にな。その為に怪力を誇る怪人達を集めてきたのだ。貴様の力を凌ぐ程のな」
 「くっ・・・・・・」
 「そして俺もいる。ライダー二号よ、このベナレスが貴様の墓場となる」
 鋼鉄参謀がそう高らかに言った時だった。
 戦闘員の一人が鋼鉄参謀の下へ駆け寄り何か囁いた。
 「何ィッ、それは真かっ!?」
 急に鋼鉄参謀の顔色が変わった。
 「ゾル大佐」
 ゾル大佐の方へ顔を向けた。
 「申し訳無いがこちらで緊急事態が起こった。俺は自分の基地へ引き返らせてもらう」
 「どういう事だ!?」
 「基地が何者かに襲撃を受けたらしい。それを収め次第再び作戦に参加させてもらう」
 「むう・・・・・・」
 二号の方を見る。鋼鉄参謀あってのライダー打倒作戦だったのだ。彼抜きでは作戦成功の見込みが立たないのは火を見るより明らかだった。
 「止むを得ん。ここは退くぞ」
 鋼鉄参謀が戦場を離脱していくのを見つつゾル大佐も決断した。右手の鞭を振るい指示を下す。
 戦闘員と怪人達がライダー達と闘いつつ順次撤退したのを見届けるとゾル大佐も退きはじめた。
 「待てっ!」
 ライダーと滝が追おうとするが腰に下げてあった拳銃を取り出し一発放つ事によりライダー達の動きを止めた。
 「今はその命預けておこう。だが今度会う時はそうはいかん」
 そう言い残しゾル大佐も戦場を離脱した。後にはライダーと滝だけが残っていた。
 「どういう事だ?」
 「何か基地が襲撃を受けたとか言っていたが・・・・・・」
 二人は顔を見合わせた。
 「他のライダーがここに来ているのか?」
 「いや、他のライダー達は皆世界に散っている。インドにいるのは俺だけの筈だが」
 滝の言葉に変身を解き一文字隼人に戻りながら言った。
 「だとしたら・・・・・・。仲間割れでもしているのか?」
 「有り得るな。デルザーの改造魔人達はその実力とプライド故に反目し合っていた。何者か鋼鉄参謀の作戦遂行の妨害をしようとしているのかも知れない」
 滝と一文字は互いに思案する眼で言った。
 「そうだとしたら誰が?」
 「それまでは解からないな。だがこれで敵の作戦目的が俺自身の抹殺だという事がはっきりした。そして敵に隙が生じている。今のうちにこちらも対策を練ろう」
 「うむ」
 二人は古ぼけた洋館を後にした。そして誰もいなくなった。

 鋼鉄参謀は報告に来た戦闘員を釣れ自分の基地へと帰って来た。岩の中に巧妙に隠された階段を降り地下へと入って行く。
 足早に、ガシャーーン、ガシャーーンと金属音を立てながら自身の基地の中を進んでいく。進むうちにおかしな事に気が付いた。
 「どういう事だ、何も荒らされてはおらんではないか」
 顔を顰め訝りながら進んでいく。奥にある指令室に入った時最も合いたくない顔がいた。
 「久し振りだな、鋼鉄参謀」
 「貴様か、一体何をした!?」
 見れば自分の配下の戦闘員達が全員拘束され床に転がされている。十名程の戦闘員達を後ろに従えた男は鷲の頭に赤地に黄の十字が入った胸当てとズボンを着、右手には斧、左手には大盾を持ち背には赤い大きな翼を生やしている。彼もまたデルザー改造魔人の一人、荒ワシ師団長である。
 十一世紀勢力を伸張し続けるイスラム教徒達に対し東ローマ帝国への援軍という形で十字軍が結成された。それから約二百年間計七回に渡って派遣された十字軍は聖都エルサレムの回復という大義名分を掲げてイスラム教国と戦った。聖地の回復、といえば聞こえはいいがその実態は暴虐で残忍な侵略者以外の何者でもなかった。
 十字軍を主導するローマ=カトリック教会も兵を送る国王や領主達も己が権勢や栄華、名誉、領地等を欲しているのみであり聖地エルサレムもそこにいるキリスト教徒達もどうでも良かったのである。その証拠としてエルサレム解放の時にはキリスト教徒達もイスラム教徒達と同じ様に虐殺し、援軍を要請した同じキリスト教を信奉しり同志である筈の東ローマ帝国ですら攻撃し帝都コンスタンティノープルを攻め落としその地で略奪の限りを尽くす有様であった。
 十字軍の行くところ殺戮と暴虐の嵐が吹き荒れ幼な子は火の中に放り込まれ喰らわれ腹を割かれた者が悶え死に腐乱した屍と粉々に砕けた白骨が砂漠に転がり風が血煙を乗せて四方をその身の毛もよだつ悪臭と瘴気で支配した。彼等は将に鮮血と屍肉に飢えた人ならざる異形の獣達であった。
 そう、獣であった。心が人でなくなった時姿形も人でなくなってしまうのであろうか。
 この時十字軍を指揮していた一人の領主がいた。彼はその残忍さ、非道さにおいて十字軍の他のどの者よりも怖れられ、砂漠の死神と呼ばれるようになった。だが彼も最後には英雄サラーフ=アッディーン、すなわちサラディンの軍に破れサラディン自身の手により首を刎ねられる。
 だが彼は甦った。砂の中から這い出、刎ねられた首を捜し求めたが得られずハゲワシの首を取り付けたのだ。同時にワシの能力をも身に着けた彼は空を飛翔し人を襲う魔人と化して人々を苦しめた。彼の心は完全に魔物のそれとなっており例えかっての同志達であろうが躊躇なく襲い掛かり殺戮した。彼により中東の砂漠は死の砂漠となってしまった。
 その子孫が荒ワシ師団長である。祖先から空を駆る力と残忍な性質を受け継いだ彼は同時に狡猾さも併せ持っており祖先と同じく『砂漠の死神』と称せられた。その天空を支配する力を活かした奇襲攻撃と空中戦をもって知られる男である。
 「別に何も。ただ貴様に急に会いたくなったのでな」
 「ぬかせ、ならばこの行いは何だ!」
 鋼鉄参謀は床に転がっている自分の部下達を指で示し荒ワシ師団長を責めた。
 「何、少し聞き分けが悪かったのでな。少し大人しくしてもらおうと思ってこうしたまでよ」
 「ぐっ、早く解け」
 「よかろう」
 荒ワシ師団長は部下の戦闘員達に鋼鉄参謀の部下達の縄を解かせた。ようやく解放された彼等は鋼鉄参謀の方に集まり彼を守る様に囲んだ。
 参謀はそうした部下達を手で制すると前に出た。かってデルザーで覇を競った二人の改造魔人がここに対峙する。
 「それで一体何の用だ?大体貴様は今ペルーにいる筈ではなかったのか?」
 「何、少し小耳に挟んだ事があってな。ここにいるのは仮面ライダー二号だそうだな」 
 「それがどうした」
 鋼鉄参謀は一歩前へ踏み出した。
 「まあ待て。相変わらず血の気の多い奴だ。今日は貴様に贈り物があるのだ」
 「贈り物?俺に?」
 「そうだ。いい物だぞ」
 荒ワシ師団長が斧を振り上げ持って来るよう指示を出した。それに従い数名の戦闘員が子供達を引っ立てて来た。ベナレス
の市場にいた子供達だ。
 「この子供達は?」 
 「ベナレスの市場にいた子供達だ。何でも一文字隼人に懐いているらしい」
 「ふむ、この子供達を使ってライダーを誘き出せ、というわけだな」
 「そういう事だ。これならば有利な状況でライダーと闘えるだろう」
 「うむ、そうだな。礼を言う」
 「礼には及ばぬ。では俺はこれで失敬させてもらう」
 「うむ」
 荒ワシ師団長は配下を従え出て行った。鋼鉄参謀もそれを見届けると部下達に指示を出し子供達を手土産としてゾル大佐と死神博士のいる基地へと向かった。
 この時彼は気が付かなかった。遠くから彼を見る白い影に。
 
 ベナレスの人々に『青の寺院』と呼ばれるその石造りの寺は既に誰もいない廃院であった。街のすぐ外れに位置している為人も近寄らず廃墟と化していた。その地下深くに彼等はいた。
 「ふむ。子供達を囮として誘き出そうというのだな」
 指令室の円卓で車椅子に座す死神博士が同じく円卓に座す鋼鉄参謀に問うた。
 「そうだ。俺が指定した場所に子供達を連れて行かせた。何も隠れる所の無い丘の上にな。そこで取り囲んでしまえば如何にライダーとて逃れられぬ」
 透徹参謀は自信に満ちた声で豪語した。ガラガラと笑い鉄の身体が大きく揺れる。
 「ふむ。では俺の改造人間達ももう少ししたらその場へ動かしておくか」
 二人と同じ様に円卓に座すゾル大佐が言った。
 「頼む。では俺は作戦の用意があるからこれで失礼させてもらう」
 鋼鉄参謀はそう言うと席を立ち部屋を後にした。ガシャーーン、ガシャーーン、と金属音のする足音が次第に遠くなっていく。
 鋼鉄参謀が去り指令室にいるのはゾル大佐と死神博士だけとなった。まず死神博士が口を開いた。
 「荒ワシ師団長か何かおかしいな」
 「ああ。デルザーにおいてオオカミ長官と並ぶ策謀家と言われた男だ。何か裏があるな」
 ゾル大佐が言った。その隻眼が光る。
 「そもそも奴と鋼鉄参謀は対立しているのではなかったのか。それなのに何故今協力を申し出てきたのだ」
 大佐は更に続けた。かってデルザー内部で繰り広げられた陰惨な権力闘争は彼も知っていた。その中でも鋼鉄参謀と荒ワシ師団長の対立は有名であったのだ。
 「普通に考えてみて荒ワシ師団長が動くとは考えられぬ。おそらく奴の後ろに誰かいるのだろう」
 「後ろに?誰だ」
 「大佐も知っている筈だ。デルザーの状況を。そしてこういう時に影の如く動く男を」
 「まさか・・・・・・」
 「そうだ」
 死神博士はコクリと頷いた。
 「ゼネ・・・・・・」
 死神博士がその名を言おうとしたその時だった。非常事態を伝える警報音が響き渡った。
 「何事だ!」
 席を立ち叫ぶ二人の大幹部。そこへ数名の戦闘員とカニ獣人が部屋に逃げ込む様に入ってきた。
 「大変です、この基地にライダーが侵入してきました。滝和也も一緒です!」
 戦闘員の一人が報告する。
 「馬鹿な、ここの場所は知られていない筈だぞ!」
 死神博士が僅か語気を震わせた。
 「事は気球を要する、全力を以って二人を倒せ!」
 「ハッ!」
 ゾル大佐の命に従い彼等はナチス風の右手を斜め上に出す敬礼で答え部屋を後にした。
 
 通路でライダーと滝はヘラクレスと彼が率いる戦闘員達と闘っていた。
 「ギッ」
 戦闘員の一人が奇声を発し棒をライダーに向けて振り下ろす。ライダーはそれを右手で受け止め左フックを浴びせその
戦闘員を倒した。
 「ガウウーーーー」
 ヘラクレスが棘の付いた棍棒でライダーの頭を打ち砕かんとする。ライダーはそれをかわすと蹴りを怪人へ見舞った。
 だが怪人はそれを盾で防ごうとするしかし盾はライダーの蹴りにより粉々に砕かれヘラクレスの腹を直撃した。
 怪人はそのまま通路の壁まで吹き飛ばされた。そして沈み込むとそのまま動かなくなった。
 そこへ前からカニ獣人、後ろからサイダンプがそれぞれ手勢の戦闘員を引き連れて現われた。
 「滝、戦闘員は頼む」
 「解かった」
 滝はそう言うと戦闘員達の方へ向かった。ライダーは前後から挟み撃ちにせんとする二体の怪人と対峙した。
 「グオゥッ」
 サイダンプが鉄拳を浴びせる。ダムすら一撃で決壊させる強烈な一撃でありこれにより数々の破壊作戦を成功させてきた。
 その拳をライダーは掴んだ。そして怪人を両肩に担いだ。
 そして思いきり地面に叩き付ける。柔道にある大技の一つ『肩車』だ。
 背を叩き付けられた怪人に対し止めにエルボードロップを落とす。みぞおちに一撃を受けたサイダンプは倒れた。
 「ギィーーーーッ」
 カニ獣人がその口から白い泡を吹き出す。
 「むっ!」
 それを受けたライダーの右腕が動かなくなった。この泡は人の動きを止めてしまうのだ。
 そこへ両手の鋏が襲い掛かる。まるで薙刀の様に巨大な刃が対になっている。これの直撃を受ければライダーといえどもひとたまりもないだろう。
 だがライダーはまず右の鋏を蹴り上げると左の鋏を動かない右腕で払った。そしてもう一方の左腕で怪人に対して連打を浴びせる。
 かって多くの怪人達を葬ってきたパンチの連打を浴びさしものカニ獣人もその甲羅を破られた。カニ獣人はオレンジの体液を吹き出し床に崩れた。
 「行くぞ滝」
 「おう」
 怪人達を倒した滝とライダーは更に奥へと進んでいく。そして最深部の一室へ辿り着いた。
 「来たぞ鋼鉄参謀、子供達は何処だ!」
 「鋼鉄参謀?残念だがここにはおらん」
 暗い部屋で誰かが言った。
 「何ィ!?」
 「その声は!?」
 「フッフッフ、流石だな。やはり察しがいい」
 青く弱い光が下から声の主を照らし出した。赤い壁を背にゆっくりとこちらへ振り向いてきたその男を二人はよく知っていた。
 「死神博士!」
 「やはり貴様も!」
 「そうだ。貴様達を倒す為に地獄からこの世に帰って来たのだ」
 光に照らし出されるその顔は不気味な笑みを浮かべていた。
 「仮面ライダー一文字隼人よ、貴様にはこのベナレスで死んでもらう。我等が世界制覇の為にもな」
 そう言うとゆっくりと兆手を頭上へ上げた。その手に大鎌が現われた。
 「しねぇい!」
 大鎌をライダーと滝へ向けて振るう。二人はそれをかわし逆に攻撃を仕掛けようとする。だが博士は不意に姿を消した。
 「何処だ!」
 ライダーが叫ぶ。
 「ここだ」
 後ろから声がした。鎌が横に薙ぎ払われる。二人はそれも跳んでかわす。ライダーはそのまま空中で後方に回転しその頭上へ踵落としを浴びせんとする。それに対し死神博士はまたもや姿を消した。
 「くっ、またか!」
 ライダーと滝が身構えつつ部屋を見回すが死神博士の姿は無かった。気配すら完全に消え去っていた。
 “ライダーよ、子供達は街の外れにあるヴァルナの丘にいある。鋼鉄参謀も一緒だ」
 死神博士の声だった。
 「何、本当か!」 
 “嘘は言わぬ。それに言ったところで貴様は丘には辿り着けぬわ”
 「それはどういう意味だ?」
 “ここを出れば解かる。そして貴様は苦しみ抜いて死ぬ事になろう。フハハハハハハハハハ・・・・・・”
 死神博士の高笑いは暫く部屋に響いていたがやがて消えていった。
 「消えたか・・・・・・」
 二人は基地を出ると新サイクロンとバイクで丘へ向かった。ライダーは変身を解いていない。一路ヴァルナの丘へと向かう。
 広い道へ出た。左手には禿た小山がある。そこへ前からバイクの一団がやって来た。その先頭にはサイギャングがいる。
 「来たな」
 サイギャングとその部下の戦闘員達はライダーと滝のバイクを取り囲んだ。そして円を描きつつ狼の様に三四騎単位で襲い掛かって来る。
 二人はそれをバイクを巧みに操りつつかわす。襲撃が一段落付くとこちらから反撃に転じた。
 ジャンプすると戦闘員に対して急降下を仕掛ける。戦闘員はそれを避けられず押し潰された。
 着地するとすぐ側にいたバイクの側面に体当たりを仕掛ける。戦闘員が吹き飛ばされる。
 バイクの数は次第に減り遂にはサイギャングのバイク一台だけとなった。ライダーの新サイクロンと互いに円を描きつつ隙を探り合う。
 不意にライダーがマシンを左へ捻った。そしてサイギャングのバイクを横に倒した。
 サイギャングはバイクを降りた。ライダーもだ。二人は一騎打ちをはじめた。
 「ケケケケケケケーーーーッ」
 奇声を発しつつ口から炎を出してきた。ライダーがそれをかわすと額にある角で突進してきた。
 「ムゥッ」
 ライダーは間一髪でそれを左手で掴むと右手で怪人の頬に拳を入れた。そして間合いを離すと天高く跳び上がった。
 「ライダァーーーキィーーーーック!」
 先程の基地の戦いにおいてヘラクレスをその盾ごと打ち破った蹴りがサイギャングの胸を直撃した。さしものサイギャングも
断末魔の叫びと共に倒れ爆発した。
 しかしライダーに勝利の余韻に浸る間は無かった。突如として謎の砲撃が二人を襲ったのだ。
 「くっ!」
 その砲撃をかわし二人が砲撃が飛んで来た左手の小山の方を見た。するとそこにはゾル大佐とタイホウバッファロー、そしてショッカーの怪力怪人カブトロングとゲルショッカーの発狂怪人イノカブトンといったカブト虫を基とする怪力を誇る怪人達がいた。
 「よくあのサイギャングを倒した。流石だと褒めておこう」
 ゾル大佐がライダーを見下ろしつつ言った。
 「ゾル大佐、ここで貴様を倒してやる。来い!」
 「フン、生憎私も忙しくてな。貴様の始末はこの連中に任せる事にする。もし貴様が生きていれば今度こそ貴様の命は無い」
 ゾル大佐はそう言うと踵を返し戦線を離脱した。
 「待てっ!」
 追おうとするライダー、そして滝だがそれを阻む者達がいた。
 「ギギギギギギギギ」
 「ウェエエオーーーー」
 タイホウバッファローの援護射撃を受けつつカブトロングとイノカブトンが丘の上から飛び降りてきた。二体共その左手の巨大な鋏を禍々しい形をした角でライダーに襲い掛かる。
 「ライダー!」
 滝が助けに入ろうとする。だが戦闘員達の相手をせねばならずとても救援に入れない。二体の猛者達にライダーは取り囲まれた。
 しかし今まで幾多の死闘を勝ち抜いてきたライダーである。とりわけその力は岩山すら叩き壊す程であり全ライダーでも彼に比する力の持ち主はそういなかった。その力がここでも発揮された。
 イノカブトンの角を掴み地に倒すと今度はその両足首を己が両脇に入れた。そしてタイホウバッファローめがけ思いきり投げ付けた。
 「ライダァーーーハンマァーーーーッ!」
 本来は一号の持ち技の一つだが力技を得意とする彼も会得する事が出来たのである。タイホウバッファローはかろうじてその攻撃をかわしたが頭から地に叩き付けられたイノカブトンは爆発四散した。
 援護射撃が怯んだのを好機にライダーは残る怪人カブトロングへ攻勢を仕掛ける。
 次々に拳が繰り出されこれにはさしものカブトロングも劣勢に追い込まれた。そこへライダーの蹴りが顔を直撃した。
 そして両肩を掴むとライダーは怪人の腹を再び蹴り巴投げを浴びせた。背と後頭部を叩き付けられカブトロングも爆死した。
 「バーーーフーーー」
 仲間を次々に打ち倒されたタイホウバッファローがライダーめがけ砲撃を再開する。最早それは照準すらろくに定めぬ乱れ撃ちであり所々で爆発が起こった。
 その中でライダーは跳んだそして空中で激しく回転を続ける。
 「ライダァーーー回転キィーーーーック!」
 空中回転によって生じた遠心力によりその質量を増した脚部から放たれた一撃が厚い装甲で覆われた怪人の胸を突き破った。
 だがそれでも立ち上がる。だがすぐに片膝を着いた。そして爆死した。
 「行こう、子供達が心配だ」
 滝を促し再びマシンに乗る。爆音を響かせ二台のマシンが再び走りはじめた。

 「ゾル大佐め、遅いな。一体何をしているのだ」
 鋼鉄参謀は丘の上で仁王立ちして顔を歪めて言った。その後ろでは配下の戦闘員達が縄で縛られた子供達を取り囲んでいる。
 約束の時間はとうの昔に過ぎている。夜が明け空が白くなりはじめようとしている。流石に苛立ちを隠せない。
 「何かあったとでもいうのか?」
 「鋼鉄参謀、バイクが二台こちらに向かって来ています。かなり速いです」
 「誰だ!?」
 部下の報告を聞き双眼鏡でその二台のバイクを見る。一瞥しただけで鋼鉄参謀の顔は見る見るうちに変貌していった。
 「一文字と滝だ、総員戦闘配置!」
 素早く指示を出す。それに従い戦闘員達が己が持ち場に着いた。
 (どういう事だ?一文字達のみここに来たという事は時間的に見ても基地が襲撃されたからか。だとすればゾル大佐の部隊は全滅している。しかし何故だ?基地の場所は一文字達にはまだ知られていなかった筈だ)
 鋼鉄参謀がこの状況の原因に対し考えを巡らせているうちにライダー達が丘の上にやって来た。そしてバイクから降り鋼鉄参謀の前にやって来た。
 「鋼鉄参謀、残るは貴様だけだ。子供達を返してもらおう」
 鋼鉄参謀の予想は的中した。やはり基地は襲撃されていた。だとすれば考えられる原因は一つしかない。
 (荒ワシ師団長め・・・・・・)
 内心危惧はしていた。だが実際に策にかけられはらわたが煮えくり返る思いだった。
 (覚えておれ、この借りは何倍にもして必ず返してやるからな)
 だが今は目の前の敵と闘う方が先だ。内心のその様な感情はおくびにも出さず一文字達に対して言った。
 「フン、子供達ならすぐに返してやるわ」
 「本当だな?」
 「俺は嘘は言わん。貴様さえ倒す事が出来ればそれで良いのよ」
 そう言うと手で合図して子供達を前に出し縄を解かせた。子供達は恐怖と不安から解放され安堵の表情で一文字達の方へ駆け寄って来た。
 「滝、子供達を安全な場所へ」
 「解かった」
 滝はそう言って頷くと子供達は連れて後方へと退いていった。後には一文字だけが残った。
 鋼鉄参謀と対峙する。一文字を戦闘員達が取り囲む。どの者も手に鎖を持ちそれを振り回している。
 「行くぞ」
 構えを取った。中央に赤い風車を持つベルトが現われた。

 変ッ
 右手を肩の位置で横に垂直に伸ばし左手をそれに並列に添わせる。そしてその両手をゆっくりと頭上で右から左へと旋回させる。それと共に手の先から下へと黒のバトルボディに包まれる。手袋とブーツが赤になる。
 身ッ
 右手は肩の位置で胸と並行させ垂直にし拳を作り、左手は上へ九十度垂直にし拳を作る。すると顔の右半分がダークグリーンに紅い眼を持つバッタの様な仮面に覆われ左半分も同じ様に包まれる。
 トオッ
 そして天高く跳び上がった。風車が白く強い光を発する。光が一文字、いやライダーを包んだ。

 仮面ライダー二号が姿を現わした。それを合図に決戦が始まった。
 戦闘員達が一斉にその鎖をライダーに向けて放つ。ライダーはその鎖で両手両足をがんじがめにされた。
 戦闘員達は鎖を引いた。ライダーを引き千切らんとする。
 しかし引けなかった。戦闘員達がいくら鎖を引こうともライダーは微動だにしなかった。
 「ムンッ!」
 ライダーが力を入れると鎖は全て引き千切られてしまった。その力に蒼ざめる戦闘員達。
 次々に襲い掛かるがもとより敵ではない。一人、また一人と倒されていく。
 「やはりな、戦闘員では相手にならぬか」
 鋼鉄参謀が左手に持つ巨大な鉄球を頭上で振り回しはじめた。そしてその遠心力でもってライダーにぶつける。
 直撃を受ければライダーとてひとたまりもない。ライダーはそれを側転でかわした。
 「ほう、やるな。だがこれはどうだ?」
 返ってきた鉄球を左手で受け止めると今度はそれをヨーヨーの要領で直線の動きで繰り出す。ライダーはそれに対し攻撃を避けるだけである。
 斜めから来る鉄球を跳躍でかわす。着地したところに頭上から襲い来る。後ろに跳ね返りそれもかわした。
 「やりおるな。だがよけるだけでは何にもならぬぞ」
 矢次早、縦横無尽に鉄球を繰り出す。ライダーはそれに対し巧みな身のこなしで避けるのみである。
 前から来た鉄球をジャンプでかわす。そして伸びきった鉄球を繋ぐ鎖に手刀を加えた。
 「ライダァーーーチョーーーーップ!」
 手刀を横に薙ぎ払う。鎖は断ち切られ鉄球が地に落ちた。
 「成程な。そうくるか」
 武器を失ったにも拘わらず鋼鉄参謀は全く動じるところが無かった。左手から鎖を取り外して不敵に笑った。
 「来い」
 両者は互いに突進しぶつかり合った。鋼鉄参謀の鋼の拳が唸り声をあげライダーに襲い掛かる。
 「ぐぅっ!?」
 それを防いだライダーの腕に鈍い痛みが走る。その巨体に恥じぬ凄まじいまでの重さと力だった。
 「ライダァーーーパァーーーンチッ!」
 逆に鋼鉄参謀の胸へ攻撃を入れる。基地での戦いでカニ獣人を倒した強烈な右の拳の一撃だ。
 だがそれも効かなかった鋼鉄の打撃音を響かせライダーの拳の方が弾かれた。
 「グッ!」
 ダメージを受けたのはこちらであった。右手を押さえ思わず呻き声を出した。
 「ククククク」
 鋼鉄参謀はそれを見て自身に満ちた笑い声を出した。
 鋼鉄参謀は再び攻撃を出したライダーはバックステップでそれをかわす。そして高く跳躍した。
 「ライダァーーーキィーーーーック!」
 一号のそれと同じく多くの怪人達を葬ってきた必殺の一撃である。それが鋼鉄参謀の胸を直撃した。
 「グァァッ!」
 しかしダメージを受けたのはライダーの方であった。必殺の一撃は無残にも弾き返され地に倒れ込んだ。
 「愚かな、俺を誰だと思っている」
 鋼鉄参謀はグッグッグッ、と笑った。
 「俺はあの黄金魔人様の子孫にして鋼鉄の身体を持つ者だ。これしきの攻撃なぞ蚊が刺した程にも感じぬわ」
 「むぅっ・・・・・・」
 起き上がったライダーに対し鋼鉄参謀は金属音を響かせながら近付いて来る。
 「かの改造人間達と俺がこの手で鍛え上げた部下達を倒した事は褒めてやろう。せめて苦しまずに死なせてやる」
 そのプレートメイルの様な巨体が迫る。そう、プレートメイルの様な。ライダーの脳裏に何かが閃いた。
 ススス、と前に出た。そして鋼鉄参謀の胸に再度拳を繰り出す。
 「馬鹿め、何度やっても同じ事だ」
 だがそれは拳ではなく掌打であった。それが胸に打ちつけられると鋼鉄参謀の動きが止まった。
 「むぅっ!?」
 一見当てられただけであったが思いもよらぬ衝撃が身体に浸透した。もう一撃加えられ片膝を着いた。
 「今だ!」
 両手でライダーの身体を掴むと天高くジャンプした。そしてその身体を頭上で仰向けにし激しく駒の様に回転させた。
 「ライダァーーーーッきりもみシューートォーーーーッ!」
 二号だけでなく一号も使うライダーの大技の一つであり数多くの怪人を倒してきた技だ。敵を回転させて大地に投げ付ける絶大な破壊力を誇る技であり『力の二号』の称号に相応しい技である。
 大きく重い音を立てて鋼鉄参謀は背から大地にたたき付けられた。普通の怪人ならばまず即ししている程のダメージであったが流石はデルザーきっての豪勇を誇った男である。足下をふらつかせながらも立ち上がってきた。
 「やはりな。まだ立ち上がれるか」
 「くっ、何故だ、俺の鋼鉄の身体がこれ程のダメージを受けるとは・・・・・・」
 立ってはいるが最早戦闘能力を奪われているのは明らかだった。指や腰等各部が破損しバチバチと音を立てていた。
 「攻撃を内側に浸透させたのだ」
 「浸透?」
 「そうだ。確かに貴様の身体は強い。鎧そのものだ。どんな拳や蹴りも通用しないだろう。しかし広範囲に広がる衝撃には比較的脆い。鉄の鎧と同じくな」
 「ぐう・・・・・・」
 「だからこそライダーパンチを使わず掌底を出したのだ。掌底は内部に衝撃を伝える。これで貴様の動きを止めきりもみシュートを使ったのだ。これならいく貴様が強靭な肉体を持っていようとも衝撃には耐えられぬ。将にその通りだったな」
 「フッ、流石は伝説とまで謳われた力の二号、見事な戦いだ。俺の完敗だ」
 鋼鉄参謀は敗北を認めた。
 「行くぞ、止めだ!」
 ファイティングポーズから攻撃に移ろうとするその時だった。ライダーの足先に何かが飛んできた。
 「ムッ!?」
 それはトランプのカードであった。ライダーの足下に突き刺さると不意に爆発した。
 「ハッ!」
 それをジャンプでかわす。着地したライダーの周りを何枚かの巨大なトランプが取り囲んだ。
 『仮面ライダー二号よ』
 何処からか声がした。太く低い男の声だ。
 「誰だっ!?」
 『いずれ解かる。その時まで敢て名乗らないでおこう』
 声の主、その声からだけで相当な力量を持つ者である事がわかる。
 『鋼鉄参謀は死なせるわけにはいかぬ。ここは退いてもらおう』
 「黙れっ、この仮面ライダー決して悪は見逃さぬ!」
 『フフフ、そうか。ならば腕ずくでも退いてもらおう』
 巨大なカードが全て炎上した。そしてそのままライダーに近付いて来た。
 『そのまま焼け死ぬか。それともどうにかして避けるか』
 笑いながら言う。それに対し二号は後者を取った。
 「くっ、サイクロン!」
 カードの一枚を突き破り新サイクロンが姿を現わした。ライダーはそれに乗ると側面のカウルからサイクロンカッターを出しマシンをジャンプさせた。
 「サイクロンジャンプ!」
 サイクロンはライダーを乗せたまま上に大きく飛び上がり空中でとんぼ返りをした。そしてカードへそのまま急降下する。
 「サイクロンカッター!」
 螺旋状に急降下しそのまま燃え盛るカードを全て切り裂いた。アクセルターンをしつつサイクロンを停止させると目の前に鋼鉄参謀はいなかった。
 『見事だ。ではまた会おう、仮面ライダー二号、いや一文字隼人よ』
 「くっ・・・・・・」
 『フフフフッハハハハ』
 高らかな笑い声と共を残し声の主の気配も何処かへ消え去った。それと共にベナレスにおける仮面ライダー二号、一文字隼人と滝和也の死闘も幕を降ろした。

 「そうか、死神博士まで出て来やがったか。こりゃあ増々とんでもねえ事になりそうだな」
 滝はニューデリー国際空港のロビーで一文字の話を聞いて言った。
 「ああ、おそらく奴等は世界中で暗躍をはじめている。俺はこれから世界を回り奴等を倒しに行く」
 「そうか。で今度は何処へ行くんだ?」
 「ボンベイだ。あそこでも何か妙な生物が報告されている。おそらく何かしらの関係があるんだろう」
 「俺は中東に行く。あそこでちょいと仕事が入っているんでな。じゃあこれで暫くの間お別れだな」
 滝はそう言って手を差し出した。
 「ああ、元気でな」
 一文字はその手を握り返した。
 「ああ、またな」
 二人は逆の方向へそれぞれ歩きはじめた。戦士達は出会い、別れ、また出会い、そして暫しの別れから再び共に戦う日が来るのを感じつつ新たな戦場へ向かうのだった。

聖地の鉄人  完


                                  2003・11・26

 
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