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仮面ライダーアルカナ

作者:地水
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第1話:金色の出会い

―――タロット。

太古の昔に発祥されたこの世の物事を体現した0~21の合計22枚から連なる仙術用のカード。
魔術師、教皇、皇帝といった具合に種類は様々で、正位置と逆位置によりカードに秘められた意味も変わってくる。
占いを生業とする者達はタロットを用いてカードの意味を読み解き、人々の運命を導いてきた。
特に鍛錬によって実力や霊力、魔力といった兼ね備えた者は、人の未来だけではなく先の未来に起こる事件や災害を予言し、時には国の政治の方針さえ左右したという……。

そして限られた占い師が使うことができる、22枚の特殊な現象を引き起こす力を秘めた神秘のタロットカード……その名は『アルカナカード』。
アルカナカードの所有者は人々に降りかかる『災いの存在』からの魔の手を払い除け、人知れず影ながら平和な世界を守っていた……。



東京、某所。


「ハァ…ハァ…ハァ…!!」

長髪の十代後半の少女が【何か】から逃げていた。
小奇麗な服に跳ね返った泥や埃で汚れていることを気にも留めず、彼女は足を止めず走り続ける。

「【アレ】って一体なんなの!?人間じゃない!!」

彼女……星詠真依は自宅へ帰る途中、たまたま通りかかった道で人間ではない【ソンザイ】に遭遇してしまい、その後は命辛々逃げていた。
何処にいるのか分からず、彼女はただ目の前の道をひたすら逃げる……。
だが何不意に真依の足が止まる。

「あ……」

『…!!』

脅える真依が見るその視線の先に現れたのは、甲冑を纏った兵士の姿をした異形達。
三つ葉の模した面貌の兜に、両の籠手に握り締めた槍の矛先を彼女に向けてる。
真依は逃げ出したくても恐怖のあまり足が竦んで動けなくない、甲冑の兵士達は槍を向けてジリジリ迫る。

「いやぁ、助けて……」

『グルォォォォ!!』

「いや……いやっ!!」


「―――ハァッ!!」

真依の頭上から現れた人影が通り過ぎ、甲冑の兵士達へ突っ込んでいく。兵士達はなす統べなく激突し、後列の兵士達も巻き込んで爆発を起こした。
突如の出来事に真依はゆっくりと目を開くと視界に飛び込んできたものは……。

―――腰に紋章のようなベルトを巻いた金色の瞳の黒い仮面の戦士…。

それを最後に目にした後、真依の視界はゆっくりと傾くと同時に真っ暗となった。


――――


「うぅぅ……あぁぁぁぁ!!あ……あれ?」

魘されるように真依が目覚めると、そこは自宅の自室の光景。
見慣れた光景に胸を撫で下ろした真依は、先ほど見た光景について振り返る。

「なんだ、夢か……にしても怖い夢だったな。まるで本当にあったような…」

さっきまで見ていた怪奇体験を夢だと言い聞かせる真依。
だが思い出すとあの時味わった感覚が蘇る。

「一体なんなのよもう……あーもうやめやめっ!かんがえるのなし!」

自分の頬に手で叩いて気を付かせると、着替えて身支度を整える。
活発で運動が好きな彼女には少々邪魔に感じるほどの豊かな胸が露になる。
男子からは人気、女子からは嫉妬と羨望の目で見られて得なことはあんまりない。
むしろ買えるブラジャーの大きさが限られて大変だ。

「はぁ……また買い換えないと」

ため息をつく真依。
そんな憂う彼女を見つめるのは…一匹の小さな蜘蛛だけだった。

――――


とある街角にひっそり佇む喫茶・星詠。
そのラウンジでは豆を燻ぶる作業を行う大柄な壮年の男性……星詠仙一。
店長兼マスターでもある彼が長年やってる珈琲の準備を行っていると、店の奥にある二階の階段から真依が目を擦りながら降りてくる。

「おぉ、真依。おはよう、随分遅かったじゃないか」

「おはよう……お爺ちゃん…」

「そういやお前、お客さん待たせてるぞ」

「お客さん……誰なの?」


「ハロー、いい天気だね。かーのじょっ」


カウンター席の隅っこの椅子に座る、見知らぬ黒髪の青年。
彼は仙一が入れた珈琲を口に含んだ後、こちらに爽やかな笑顔を向ける。

「えっと誰……?」

「統人、御崎統人。よろしくね真依さん」

「あぁ、よろしく……ってあれ、私名前教えたっけ」

青年……御崎統人(ミサキ・トウト)は二コリと笑みを返しす。
不審な男に訝しむ真依は仙一の基までやってきて訊ねる。

「昨日夜遅くになんでも気を失って倒れてた真依をソイツが連れて帰ってきたんだ」
「えっ……気絶していた?」
「お前も運が良かったの。うちの自慢の看板娘が危険な目に遭わなくて。それを考えたら統人は恩人のようなものだな」
「アハハ、こんなに美味しい珈琲頂けるなんて。なによりこんな美人と知り合えてよかったよ」

にっこりとほほ笑む統人に何とも言えない渋い顔をする真依。
どうせ下心あるのだろうと思い、そっけなく接していく。

「あの、助けていただいたのはありがとうございます。でももう私大丈夫なので」

「ああちょっと待って、まだ話が……!」

「いいですって!見知らぬ誰かに助けられるほど私弱くないんで」

「待って待って!あぁおじさんこれお駄賃!また来ますんで」

怒って出ていく真依と、それを追いかけていく統人。
取り残された仙一は飲み干された珈琲を見ながらひとり呟く。

「いやぁ、青春だなぁ。君たちの青春に善いことありますように」

―――――


「ちょっと待って!待ってね!」

「しつこいです、いい加減にしてください!」

追いかけてくる統人を自慢の走りで距離を話していく真依。
成人男性顔負けの速さに追い抜けられるも必死についていく統人。

「いい加減してよ」

「やっと……話を……聞く気になった……んだね」

暫くして、息の上がる統人。
ため息を吐きながら真依は彼の話す言葉にしたかがなく耳を傾け始める

「その、なんていうか……何かおかしなことなかった?」

「おかしなことって」

「そのなんていうか……よくない事おこらなかった?例えば……変な夢を見たとか」

「変な夢、そんなのわるわけが……」

ドキリ、と図星を刺された真依は言葉を詰まらせる。
一瞬戸惑ったのち、必死にはぐらかす。

「そんなわけないですよ」

「あ、図星だ」

「むぅ……だったらなんなんですか!」

「放っておくわけにはいかない。変な事言うかもしれないけど……僕が君を守るから」

開き直って怒り交じりで怒鳴る真依、だが遮るように紡ぐ統人。
先程までの軽薄そうな言葉を言っていた彼とは別人のように真っ直ぐな言葉を放つ彼に一瞬驚く。
その真剣な眼差しに頬が熱を籠らせつつも、だまされるものかと言葉を打ち切って再び去ろうと背中を向ける……その時だった。

「危ない!」

「きゃああ!」

統人が庇って覆い被さる。
すると目の前に爆発が起き、砂塵を巻き上げる。
何事かと統人が見やれば、そこに『爆発を巻き起こした人物』が姿を現す。

「ようやく見つけたぞ」

三つ葉の仮面の兵士達を率いる蜘蛛の姿をした赤い怪人。
背中に蜘蛛のような細いの足を四本を生やし、八つ目にむき出しの牙の頭部。
蜘蛛の怪人と仮面の兵士達の姿を見て真依は驚いた。

「あの時の怪物に、蜘蛛の化物…!?」

「化物といえば化物なんだけど……どうせ赤い蜘蛛ならヒーローの方がよかったかな?」

「そんな冗談言ってないで!早く逃げなきゃ…」

「すぐに逃げたいさ、でも、周りには逃げ道なし」

統人の言葉に反応して真依は辺りを見渡すと、二人の周囲を兵士達に囲い込んでいる。
逃げ道を失った二人に蜘蛛の怪人は鼻で笑いながら迫る。

「諦めろ、遅かれ早かれ我らの手に掛かり死ぬ運命だ」

「死ぬ……?死ぬって私が……?」

「そうだ、特にそこのお前。まったくあの時邪魔が入らなければ、貴様をやれていたものを!」

「じゃ、じゃああの時の……夢じゃないの…」

絶望に染まりかける真依。
だが彼女の脳裏に一つの違和感に引っかかる。
―――あの時の出来事も、自分に襲いかかって来た怪物達も本当だとすれば、じゃあ自分を助けてくれたあの戦士も夢じゃなくて本物……?
その疑問にたどり着いた途端、敵の兵士の一体が誰かに蹴り飛ばされ、他の兵士達をドミノ対しになぎ倒される。
蹴り飛ばした本人……統人は敵に挑発紛いの行動を行ったにも関わらず真依。

「真依ちゃん、君は僕が助ける。だから安心して?」

「統、人…?」

「占いをしてあげよう、今の君は幸運だ」

「幸運って、ちょっとこんなピンチ待ったら中の状況で……!?」

「うん、それだけは言えるよ。なんたってこれほどいい巡り合わせなんてそうそ合うないからさ」

ニッコリと笑顔を浮かべる統人。
何故かわからない、だが心の底から安心できる、

「貴様我々らを何だと思ってる!舐めてると貴様も同じ目に……」

「確か『ドラウ怪人』、だったよね?」

「……! 貴様を何故その名を!!」

「人を襲って不幸へ引きずり込む謎の怪人……ただ占い師である僕でも、見過ごせないね」

自分達の正体を知っている事に蜘蛛怪人……スパイダー・ドラウは驚く。
統人は先ほどの笑顔とは一転、真剣な表情に変えると奇妙な魔法陣が描かれたバックル……タロットベルトに腰に巻きつけてた、タロットカードの描かれたアルカナカードを翳す。
電子音声が鳴り響きながら、統人は静かにこう言い放つ。

【The・Fool!】

「―――変身」

【Reverse・Fool!】

No.0「愚者ザ・フール」のアルカナカードのカードをタロットベルトに翳すと、等身大の光のカードが浮かび上がって目の前に展開。
光のカードは統人の身体に纏い付いていき、それが黒いボディに灰色の装甲と変わり、やがて変化を終えて現れたのは……金色の複眼を持った仮面の戦士。
真依はあの時自分を助けた人影の正体と気づき、仮面の戦士姿の統人に訊ねる。

「その姿…私を助けてくれた?」

「そう、アルカナっていうんだ。人々からは【仮面ライダー】って呼ばれたこともあったけどね」

「仮面ライダーって……まさかあの都市伝説の?」

――仮面ライダー……。
何処からともなくバイクと共に現れ、仮面で素顔を隠して超人的な力を持った、人知れず悪と戦う謎の戦士達。
ある者は世界を巣食う秘密結社と戦う大自然の戦士、ある者は謎の未確認生命からを人々の笑顔を守り抜く英雄、ある者は愛する街を泣かせる怪人と戦う超人…。
姿形も様々で、時代や場所は違えど人類の自由を守るために戦う彼らは、都市伝説の一つとして語られていた。
真依も仮面ライダーを都市伝説として考えていた一人だが、目の前に本物の仮面ライダーが現れた。

「真依ちゃん、安全な所に逃げてね」

「で、でも……!」

「大丈夫だって、運命なんてどうとでも変えられる。むしろ、変えてやる勢いさ」

「ええい、何をごちゃごちゃと話している!!」

スパイダードラウは口から火炎弾を生み出し、アルカナ達に向けて吐き放つ。
アルカナは真依を抱きかかえて飛び上がり、火炎弾を避ける。
木の近くに真依を隠れさせ、再びスパイダードラウ達の前に戻ってきたアルカナは余裕な様子を見せつけながら彼らに話しかける。

「さぁてと、折角この愚者にふさわしい相手に出会ったんだ。張り切りとしますか!」

「なんだと?どういう意味だ……」

「知ってるかい? フールの逆位置、意味は愚かな行為、軽率、落ち着きが無い……まさに君だね。短気そうだし」

「チッ……余裕ぶっこいてられるのも今のウチだ!!」

人を小馬鹿にした態度を取るアルカナにスパイダードラウは舌打ちを打つと、飛び掛って攻撃を仕掛ける。
スパイダードラウは殴り蹴りの猛攻をかけていくが、アルカナは攻撃を軽業で避ける一方。
やがてアルカナは振りかざしてきたスパイダードラウの腕を掴み取ると、地面を蹴り上げて強烈なドロップキックをお見舞いした。

「ぐはぁぁぁ?!」

「どうしたんだい、まだ始まったばっかりだよ?」

「黙れ……タロン共、行けッ!!」

『グルォォォォ!!』

「おっと!」

槍を構えた兵士達・タロンが大勢となってアルカナ目掛けて一斉に襲いかかる。
一体一体の戦闘能力はドラウと比べて大した事はないが、高い統率力と数が多いタロンは囲まれれば苦戦を強いられる。
何人かのタロンを、タロン達の群れからアルカナは右腰につけられたタロットホルダーに手を忍ばせ、一枚のカードを引き抜く。

【The・Magician】

「んじゃ、いっちょ派手に行きますか」

【Reverse・Magician】

カードをバックルの上に翳すと、アルカナの周囲に浮かぶ四つの球体が出現。炎、水、岩石、風の四つの球体の内、アルカナは風の球体をタロン達に狙って蹴り飛ばしていく。

「ハッ!」

『グルォルォ!?』

「さあて、残り三つはこっちだ!!」

「しまっ…!?」

巻き上がった竜巻に飲み込まれながら蹴散らされるタロン達。
続いてアルカナは残りの三つの球体をスパイダードラウに目掛けて蹴り飛ばした。
先に向かってくる炎の球体に、スパイダードラウは火炎弾を吐いて打ち消し、相殺。
だが間髪入れず放たれた岩石の球体を落としきれず直撃してしまい、怯んでる隙にやってきた最後の水の球体で盛大に炸裂してしまう。

「がああっ!?ぐぅぅ、強いコイツ……」

「どうだい、血が上った頭は冷えたかな?」

「ほざくな……!!」

スパイダードラウは収まっていた背中の四本を展開させ、アルカナを串刺しにしようと次々に突き刺す。
当たればひとたまりもない、避けることしか出来無いアルカナにスパイダードラウは嘲笑う。

「ハッハッハッハッハ!!なす術ないか!まず貴様から始末してやる!」

「まったく邪魔な足だね、だったらこれだ」

【The・Hige Priestess】

【Reverse・Hige Priestess】

先ほどとは別のカードを再びバックルに振りかざすと、次に現れたのは女教皇の絵に描かれた二本柱をイメージとした双剣。
アルカナは黒い剣・ボアズブレードと白い剣・ヤヒンブレードを掴み、襲いかかる四本の足を素早い剣裁きで捌いていく。

「ソイヤッ!ハッ!タァッ!!」

「ば、バカな……!?」

「そこだ、ハッ!」

「ぐあああああ?!」

アルカナの振り下ろした双剣による黒と白の一閃がスパイダードラウの四本の足を切り裂いた。
背中の足を失い、得物を失ったスパイダードラウはもはや手出しはできない…。

「ぐぅ……ここまで追い込まれるとは…」

「さぁ、その運命(さだめ)を告げよう」

【Finalturn……Fool!!】

バックルに再びフールカードを翳し、トドメの一撃を放つ構えを取るアルカナ。
踏み出した右足に光が纏い始め、やがて集結し終えると、空高く跳ぶ。
スパイダードラウに目掛けて右足を突き出しながら、必殺の一撃を放った。

「オリャアア!!」

「ぬぁぁぁぁぁ!?」

アルカナの放った『アルカナ・ライダーキック』がスパイダードラウに炸裂し、スパイダードラウは木っ端微塵に大爆発を起こした。
木の影から一部始終を目撃していた真依は、思わず地面にへたり込む。

「た、倒した……の?」

「大丈夫かい、真依ちゃん?」

呆然と光景を眺める真依に、優しい声がかけられる。
真依がゆっくりと見上げると、そこに立っていたのは変身を解いた統人。
差し伸べられる彼の手に捕まり、立ち上がった真依は統人に感謝の言葉をかける。

「ありがとう……えっと、統人」

「どういたしまして。どう? 運命を変えるなんて難しくないでしょ?」

「うん……ねぇ、なんなのあのドラウって怪物……」

「個人的に隠すつもりはないけど………今回みたいに危険な目に遭うけど、それでもいいの?」

「……正直不安……だけど知らなくて後悔するよりはいい」

「ふぅん。まあ大丈夫さ。『僕が君を守るから』」

「……恥ずかしくないんですか。そんな言葉吐いて///」

「俺は本気さ」

【The・WHEEL OF FORTUNE】

【Reverse・WHEEL OF FORTUNE】

No.10のカードを呼び出し、二輪バイク型専用マシン・フォーチューンホイールダー。
統人は運転席に跨ると、真依に何処からか取り出したヘルメットを彼女に渡す。

「ほら乗って真依ちゃん。帰ってお爺さんの珈琲で気分でも切り替えよう! 話はそれからでも遅くはないよ!」
「ちょっ、ちょっと待ってよ!統人!!」

統人と真依を乗せ、フォーチューンホイールダー走り出す。
『運命の輪』を走り出した彼らを待ち受けるのは、希望ある未来か、絶望ある未来か。
それを占うにはまだ早い―――。


「やっぱり、真依ちゃんっておっぱいおっきいんだね」

「言うなぁッ!!」

「あいたぁ!?」


 
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