シェリー誕生
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第三章
「税金がこんな美味い酒を造るとは」
「確かに」
客も否定せず頷いた。
「そうですね」
「そうだね、しかし」
「しかし?」
「この酒から税金の味がするか」
税金が元で生まれたがというのだ。
「どうかね」
「シェリーの味がします」
これが客の返事だった。
「税金の味でなく」
「私もだよ」
「シェリーの味がしますね」
「琥珀色のね」
色の話もした。
「それがするよ」
「そうですね」
「しかし生んだのは税金だよ」
紛れもなくというのだ。
「そのことは今私が話した通りだよ」
「歴史の皮肉ですね」
「政治のね、まあ今はそんなことは出来ないが」
「日本でも」
「歴史にはそうしたこともある」
「重税が美酒を生む」
「そうしたこともあるよ、それではシェリーに乾杯して」
そうしてというのだ。
「そのうえで」
「シェリ―のウイスキーを飲みますか」
「そうしよう」
「それでは」
「そしてだよ」
吉田はさらに言った。
「税金にも乾杯するか」
「シェリーだけでなく」
「そうしないか?」
「ジョークですね」
「税金は国家の収入だが多過ぎると活力を奪う」
国家のそれをというのだ。
「そして支持を失う」
「重税を課す政権は支持を失います」
「だから考えものだが」
「シェリーにはですね」
「それがこんな美味い酒を生み出してくれたんだ」
だからだというのだ。
「今は乾杯しないか」
「ジョークで、ですね」
「どうだい?」
吉田は客に悪戯っぽく笑って尋ねた。
「今は」
「いいですね」
客は吉田にそれならと返した。
「それじゃあ今は」
「そう、業者さん達に課された重税にね」
「乾杯しましょう」
「今だけは」
こう言ってだった。
二人で税金にも乾杯した、そうしてお互いにシェリーを飲んだ。重税が生んだウイスキーは実に美味かった。
シェリー誕生 完
2024・8・12
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