魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編
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第11話 ヴェリエ・マーセナルの提案
新暦74年7月………
「………何ですかその辞令?」
7月の平日。
書類の片付けに奮闘していた大悟はいきなり自身の部隊長に呼び出された。
書類の山状態なのを知っていながら自分を呼び出す部隊長に『鬼め………』と心の中で呟きながらも立ち上がり、加奈に夕食を奢る約束で書類を手伝ってもらい、渋々隊長室に向かった。
「何ってお前を部隊長にして魔導師の部隊を作るってプロジェクトだよ。そこは少人数ながら魔導師のスペシャリストを育成すると共に魔導師の優秀さをバリアアーマー推進派に見せつけるのが目的の魔導師による魔導師の為の部隊だ」
バリアアーマー推進派とは、全ての部隊の全員にバリアアーマーの装着を義務付けるのを目的とした集団だ。
レジアス・ゲイスを中心に主に陸の人物が多い。
それに待ったをかけたのは空にいる上級官職に付く人物達だ。
キャリアと言っていい彼等にとって実力社会になりうるバリアアーマーが全部隊に配備などとても認められるものでは無く、強く反対していた。
そんな2グループに分かれた管理局の状況にヴェリエ・マーセナル元帥はとある提案を出した。
「バリアアーマーと魔導師、それぞれのスペシャリストを集めた部隊を作り、1年ほど新人の魔導師達をそれぞれ教導し、新人同士で最後に戦い、バリアアーマーの部隊が勝った場合、配備を全面的に進めるのはどうだろう?」
その場の思い付きのような内容に呆れる者も多かったが、ヴェリエは気にせず話を続ける。
「新人については、管理局で働きはじめてから1~3年までの者と後はこの際、民間協力者や傭兵で活動している者も対象にしよう!!これで少しでも管理局に入隊してくれれば更に安泰になる。人数は………それぞれ10人ほど、2グループほど作ればいいだろう」
「いや、いきなりそんな事言われても………」
「そうなると大々的に宣伝して管理局のイメージアップに利用すればまたプラスに………」
「あの………元帥?」
「よし、この案件を来年に行える様にしっかりしたものを作成しておこう。皆もそのつもりでいてくれ」
「何て話があった様だ………」
「元帥やりたい放題ですね………」
「だがあの人の提案はこちらとしても決して悪いものでは無い。上手くいけば推進派の勢いも抑えられるし、一気に小数ながら優秀な人材を育てる事が出来る。なぜなら両方のトップに揉まれる事になるからな」
「そうですね………」
と答える大悟。しかし決して心中穏やかでは無かった。
(トップレベルの魔導師を集めた部隊、本当に機動六課そのものだ………)
「で、どうだ神崎?上もお前を部隊長にと言っているんだ」
「………俺には無理です。人を動かすのが苦手なのは隊長だって分かってるでしょ?教えるのならともかく、指揮をしたりするのは無理です」
「そうか………となると他に誰かいるかな………?」
「………います、魔力ランクも高く、色んな事件を乗り越えてきた人物が………」
「誰だ?」
「八神はやてです」
「ホンマかクロノ君!?」
「はやて、いくらこの部屋に僕とはやてしかいないと言っても管理局にいるときはちゃんとした口調でしゃべれ」
「はっ!失礼しましたサー!!」
「………もういい、君にそれを望んだ僕がバカだった」
ため息を吐きながら座っていた椅子に深く座り込むクロノ。
現在提督とはやてと比べても格上の相手ではあるのだが、前のクロノのイメージが抜ききれないはやてとその他2人は中々敬語ができないでいた。(なのはは途中で敬語での会話にクスクスと笑い始め、フェイトはお兄ちゃんが入る。はやてに関しては完全にわざと)
「安心してええよ、こんな態度とるのはクロノ君位やから」
「いや、安心する意味が分からない。それは僕だけバカにされているように聞こえる」
「………テヘッ」
「はぁ………」
そんなはやての態度に再びため息を吐くクロノ。
「冗談や、クロノ君だけってのは間違い無いんやけど決して舐めてる訳じゃないんやで」
「本当にそうならいいが………」
「睨まんといてやクロノ君………」
睨まれて流石にからかい過ぎたと思ったのか申し訳無さそうな顔をするはやて。
「………で、どうだ?」
「………本当に私でええんか?」
「僕ははやてにとって良い経験を出来る場でもあるし、君がフェイトに話した夢を達成するための通過点になると思ってる」
「フェイトちゃん喋りおったな………でもクロノ君、私は………」
「確かにはやてに関して危険視する上司も居る。だが神崎が推薦したのもあり、話が通った。せっかく貰ったチャンスなんだ、生かさなくちゃな」
「………分かった、私頑張ってみます」
「よし、それじゃあ僕から上に進言する。その内呼ばれる事になると思うから準備をしておくように。それと新人は早めに声をかけておいてくれ。スカウトは早い者順になりそうだからな」
「了解や、クロノ君!!」
「全く………」
敬礼をしながらも相変わらずの口調のはやてに苦笑いしながら呟いたクロノだった………
新暦74年9月………
「ねえねえ聞いたティアナ!?」
朝早く、ティアナとスバルしかいない休憩室でスバルが高いテンションでティアナに話しかけてきた。
「朝から騒がしいわね………さっきまで一緒に救助活動してたとは思えないわ………」
実は2人、午前3時頃に起きた火災に出動しており、ついさっき帰ってきたばかりなのである。
スバルはともかくティアナは心身ともに疲れていた。
「元気だけが取り柄だからね!!」
「まあそうね」
「認めちゃった!?」
「何自分で言ってショックを受けてるのよ………それより話は何?」
「新設される機動部隊の事だよ!!今月から正式に採用を決めていくって!!」
機動部隊の新人の入隊条件としてはやて達の機動六課に関しては推薦だけでなく、試験で募集も行なっており、その試験も申込みが始まっていたのだった。
「ねえねえ一緒に試験受けようよティア!!」
「あれって部隊の人の推薦で決まるんじゃなかったっけ?」
「ギン姉から聞いたんだけど、試験もするって言ってたよ」
「ギンガさんは機動六課に移動は決定してるのよね?」
「うん!はやてさんからスカウトされてた!」
「そう………」
とスバルにも聞こえないほどの声でそう呟き、手に持っているコーヒーを飲む。
「いやぁ~実は私もって少なからず期待してたんだけどね………」
「流石に無いわね。ちょっとした救助活動しかやってない私達が推薦で呼ばれるなんて無いわよ」
「だよね………」
がっくりとうなだれるスバル。
しかしそんなスバルを見たティアナは不敵な笑みを浮かべた。
「………だけどこんなに自分のスキルアップ、そして将来的にも役に立つ肩替えを得られそうなチャンスはもしかして一生ないかも………チャレンジする価値はあるわね………」
「それじゃ!!」
「ええ、チャレンジしてみましょう。私とアンタで」
「おっしゃーーーーーー!!!みなぎってきたーーーーーー!!!!」
「な、何だ!?」
「何かあったのか!?」
かなりの大声で叫ぶスバルに隣の隊舎で寝ていた隊員達が慌てて起きる。
「このバカ!!寝てた先輩達がみんな起きちゃったじゃない!!」
「ご、ごめんティア………」
その後、スバルは先輩方にこっぴどく怒られるのだった………
「本気なの桐谷………?」
「ああ、もう決めた事だ。俺は民間協力者としてはやて達の協力をしていこうと思う」
夜の加藤家。いつもならゲームをしたりテレビを見たりしているのだが今日は重苦しい雰囲気が家の中を包んでいる。
食事をする高いテーブルの椅子にそれぞれのポジションに座り、話をしていた。
「えっ~!!それじゃあ私達はどうなるんスか!?」
そんな空気をぶち壊したのはやはりウェンディだった
机をバンバン叩き、抗議する。
「それは心配するな。なるべくこっちに帰ってくるようにするつもりだ。全てノーヴェだけに任せる訳にはいかないからな」
「でもいきなり何で?」
ウェンディとノーヴェの2人とは違い、冷静に桐谷に問いかけるセイン。
ここでは一番姉として昔の時よりも大人になったと思える………のだが、ウェンディと一緒にバカをやることもあるし、面倒事は躱せるところは躱すようになってしまい、桐谷は素直に喜べないでいた。
要するに手を貸してくれない事があるのだ。
………まあ家族にとって重要な事は断ったりしないのだが。
「お前逹を守るためだ。今になってクレイン・アルゲイルの件や冥王教会の件など地球で事件が多発してきている。そんな中、前みたいにお前逹を危険に晒すのを見ているだけではいられない」
「………桐谷、それじゃあレイと同じだよ。1人じゃ何も出来ないし、私達に心配かけるだけ。それだけは止めて欲しい」
そう言うセインの言葉に桐谷は目を瞑って深く息を吐く。
桐谷自身、これは自分のエゴだとは分かってはいた。零治にとやかく言う資格は無いのだろう。
しかし真っ先に相談した当の本人は………
『そうか………まあ前のあの真面目な顔を見たら大体想像はついたよ』
と全く否定しなかったのである。それよか、頑張れよと背中を押された。
『零治………』
『俺の分もあっちの事を頼む。こっちは任せとけ』
恐らくそれが本音で、妹や知り合いが頑張っているのに何も出来ない………いやしようとすればやれない事も無い。だが家族を巻き込んでしまう。
約束した以上、もう無碍には出来ない。
零治はそんな事を1人心の内で悩んでいたのだろう。
「だが、ここで解決するのを待っているのも出来ない。他人任せに出来る事件でも無いしな」
「だけど………」
そう言ってセインはノーヴェを見る。
そのノーヴェは不安そうに唇を噛み締め、膝に乗せている拳を力いっぱい握り締めていた。
「大丈夫だ、管理局って言っても民間協力者って扱いだし、正式に局員になるつもりはない。ただ零治の代わりに、そして家の家族の為に、障害を取り除く手伝いを出来ればと思っただけだ」
「桐谷兄………」
桐谷は立ち上がり、ゆっくりとノーヴェに近づく。
「だからノーヴェ、いつも以上に負担がかかると思うけど協力してくれ」
頭を撫でながら言う。
「………私は分かんない。今でも充分幸せだし、私達だってただ遊んでた訳じゃない。ドクターに頼んでデバイスみたくそれぞれの固有武装だって呼び出せる様にしてもらった。いざという時は戦えばいいじゃん………それとも私達は信頼出来ない………?」
弱々しい声でしがみつくように服の袖を掴んで桐谷に言うノーヴェ。
「………違うよ。俺は心からお前達には普通の女の子として生活して欲しいんだ。ウェンディみたいに普通に恋して、恋人と一緒に過ごして失恋なんかも経験して大人になって、本当に好きな人と結婚して子供作って………また新たな家族を得て幸せになって死んでいって欲しい。戦闘機人なんて気にならないようなそんな平穏で平凡な生活を」
そんな桐谷の思いを聞いて、ノーヴェはするすると力が抜けるように手を話した。
「だからこそ、血塗られた戦いにお前逹を巻き込みたくない」
桐谷が言って暫く静かな時間が過ぎる。
音はカチカチと針を進める時計のみ。
「………ふざけるな」
そしてその葬式みたいな雰囲気をまたぶち壊したのが………
「ふざけるなーーー!!!」
ウェンディだった。
「さっきから聞いてれば一方通行な桐谷兄の考えばっか!結局自己満足だよそんなの!!私達はそんなの望んでないし、して欲しいとも思ってない!!!」
いつもの口調と違うウェンディに驚くだけでなく、こんな真面目に怒るウェンディに呆気に取られていた。
「そうだよ、1人だけとか本当にバカだよ。例えそれで平穏な日常を過ごせたとしても桐谷だけが傷ついて得た日常なんて私達はちっとも嬉しくない」
ウェンディの変わりように驚く事無く、セインは淡々と語る。
「………桐谷も家族の一員なんだぞ?なのに勝手に話を進めて………私達もいい加減怒るぞ。だけど………」
そう言ってノーヴェはゆっくり立ち上がり桐谷の頬に優しくキスをした。
「ノーヴェ………?」
「私達は加藤家の一員だ。家主の決めた事だし、私は否定しない。だけど私達を巻き込まないって考えは捨てて欲しい。私達の問題は私達で解決するの、じゃないと意味がないんだ。桐谷が居てくれないと本当の平穏で平凡な日常は送れないんだから………」
そんなノーヴェの言葉に他の2人も頷く。
「私達は一蓮托生!死ぬも生きるも一緒っス!!」
「だから困ったら遠慮せずに頼って」
「そしてみんなで幸せになろう桐谷」
ノーヴェに最後に言った言葉、この言葉が一番桐谷の心に突き刺さった。
分かっているつもりで完全に分かっていなかった。自分自身の存在の大きさ、そして家族の本当の意味。
ただ馴れ合うだけが家族ではなく、皆がそれぞれを支え合って生きていく………それが家族。
それなのに自分がコイツらを守らなくちゃと自惚れて1人で突っ走っていた。
(この気持ちが今まで零治を突き進めて来た気持ちなのだろう………それと、コイツらはもうダメっ子じゃ無いな………)
そう思いながら笑みをこぼす。
「………お前達の言う通りだよ。俺が間違ってた、こういうときこそ支え合っていかないとな」
そう言いながら桐谷は無理矢理3人を手繰り寄せ抱き締めた。
「おおっ………何て力強いハグ………」
「き、桐谷………苦しいよ………」
「き、き、き、桐谷!?一体何を!?」
「ありがとう、お前達と出会えて本当に良かった………」
桐谷は3人の感触を確かめながらそう呟いたのだった………
「あの………何で正座させられているのでしょうか?」
有栖家のリビングで正座をさせられている零治。その前に仁王立ちする星達3人とフェリア。
有栖家にとってフェリアが加わった事以外、いつもの光景の一つでもあった。
キャロと優理は一緒にゲーム、アギトは漫画を持ちながらうたたねをしている。3人もすっかり慣れていた。
「………見覚えはありませんか?」
「えっと………あっ、もしかしてこの前会長に誘われて行った映画の件か?確かに内緒で2人っきりで行ったけど別に何も………」
「レイ、何の事?」
「えっ、だってそれ以外………ん?だとフェリアがそこにいる理由が分からないな………」
そう呟くとダラダラと冷や汗が背中だけでなく額にも流れ始めた。
「俺、余計な事口走った………?」
「レイ………?詳しく教えていただきましょうか?」
「あの………その………これにはちゃんと訳を………」
「わ、我等が居て浮気とは………!!」
「やっぱり年上が好きなんだね!!レイの馬鹿ー!!!」
ライに限ってはビンタまでする始末。
まさかのカミングアウトに星達3人の怒りは更にヒートアップする。
「………取り敢えずその話は後回しで頼む。私が怒っているのは桐谷と相談した内容だ」
「相談………?」
3人の怒りが取り敢えず収まった事に感謝しながら零治はその時の事を一生懸命思い出そうとする。
「確か民間協力者としてはやて達に協力するって話だったよな………それがどうした?」
「それが………?」
零治の答えを聞いたフェリアは零治の反応出来ない程のスピードでナイフを投げてきた。
そのナイフは零治の頬をかすめ、その頬から血が流れ落ちる。
「フェ、フェリア………?」
「零治、お前は有栖家でやる家族会議で何も学んで無かったのか?桐谷のその決断もそれはどこから来たものだ?」
「………家族のためだな」
「それなのに何故2人だけで話し、決定する!!ふざけるな零治!!」
フェリアの大声を聞いてゲームをやっていた2人も、うたたねしていたアギトも驚いてこっちを見た。
それだけでなく、怒っていた星達3人もフェリアの大声に驚いていた。
「桐谷も零治の所業を見ていていながら自分勝手にそう決めたのも腹ただしいが、それでも零治自身が何も言わず、肯定したのが私は許せない!!」
声を荒らげながら零治の胸ぐらを掴むフェリア。
「フェリア………悪かった俺が考えなしなばっかりに………」
零治が深々と頭を下げるとフェリアも落ち着きを取り戻し、手を離した。
「………いや、私こそすまなかった。感情的になりすぎた。キャロ達も済まないな」
「う、ううん、私達は大丈夫だよ?」
「………でも話を聞いているとレイだけが悪いわけじゃないよね?だってそもそもの原因は桐谷が家族の事を本当の意味で分かってなかったんだもん」
優理の意外にも的を得ている答えに一同全員声を出せずにいた。
「………あれ?私間違ってる?」
「い、いや、優理が余りにもまともでしかも的を得ていた答えを出したこのに少々驚いていた………」
「………夜美?一応私、紫天の書の盟主だよ?………それにね、私は見てきたから」
そう言って目を瞑り、思い出すように話し始めた。
「私は星達がこの家に住み始めてからずっとあの中から見てきた。最初はぎこちなくて、それでもレイの優しい気持ちにみんなの心が温かくなっていったのが分かった。その内本当に家族みたいになって私もとても嬉しかった。そしてレイの思いを、星達の思いを互いに知って、一緒に乗り越えて皆が本当の家族になった。だからこそ私も一緒になりたかった………ねえフェリア」
「何だ?」
「今回はレイや桐谷が悪いけど、でも一度しっかり考えるべきだったんだよ。私が思うに桐谷は昔のレイだよ。家族と思いながらも本当の意味で理解していない。だから喧嘩しながらでもしっかり互いに話すべきだったんだと思う」
「優理………」
「大丈夫フェリア。桐谷もそうだけどセイン達もみんな桐谷が大事だから本当の家族になれるよ」
そう言うと家の中に拍手が巻き起こった。
「何、何!?」
「いや、私感動しました!!優理も盟主らしい所あるんですね!!」
「カッコイイよ優理!!」
「今度何か買ってあげよう」
「優理のくせに………」
「盟主らしい所もあるんだな………アタシも驚きだぜ………」
そう言いながら有名人を見つけた野次馬の様に優理を囲む3人。
そして遠くから悔しそうに優理を見るキャロと関心するアギト。
「えっ、ありがとう夜美………じゃなくて何これ!?」
「優理を見直したんだよみんな」
俺がそう教えたが、当の本人はかなり不満そうだ。
「今まで私の事どう思ってたの!?」
「「「「「「ブラコン我侭末っ子」」」」」」
「我侭じゃないもん!!」
「ブラコンは否定しないのかよ………」
そんな事を呟きながらフェリアを見ると、どうやら携帯でメールを確認しているみたいだ。
「どうだった?」
「………無事解決したらしい。心配しなくていいよってセインが」
「そうか………」
「………私は過保護過ぎるかもな?」
「フェリア?」
そんな言葉を呟いたフェリアの顔は少し寂しそうだった。
「ダメっ子達をいつまでも姉として見てやらねばと思っていたが、アイツ等も既に立派になっている。私が手を焼かずとも自分達で話し合って自分達で決められる。私も考えを改めなければな」
「………そうだな。俺達もそうだが人は色々な経験をしていって成長していく。俺もフェリア達もな。」
そんな会話を2人でしながらみんなにいじられる優理を見ながら話していたのだった。
「そう言えばお姉ちゃん達、お兄ちゃんの会長さんとのデートの件、詳しく聞かなくて良いんですか?」
「「「あっ………」」」
「はぁ?何で俺が新たに新設される部隊に呼ばれなきゃならねえんだ?」
「スカウトです。今の私達は優秀な魔導師を集めているんです」
夕食、箸をうまく使いヴィヴィオの魚をバラバラにしながらなのはがそう説明した。
「俺には関係無いことだ」
「………バルトさん、お金ピンチなんですよね?」
なのはにそう言われ珍しく飛び跳ねるような反応をするバルト。
実はここに住む前にあった金塊が底をつきそうになっていた。
傭兵だと収入が安定せず、バリアアーマーの普及により大きな事件も無くなった影響で段々と仕事も少なくなっていた。
この際工事現場ででも仕事するかと思っていたバルトにとって渡りに船な話だった。
「だ、だが、家を離れるとヴィヴィオが1人に………」
「宿舎があるから大丈夫ですよ。そこに一緒に住めばいいんです。私もそうしますし」
「し、しかし傭兵をやっていた以上、管理局で働いていた奴等にはそんなに良い印象は………」
「関係無いです。そんなの実力を見せて黙らせれば良いんですから」
「はぁ………」
どうしても引かないなのはにため息を吐くバルトマン。
「どうしても優秀な人員が欲しいんです!!バリアアーマーの部隊の機動七課に負けちゃうとバリアアーマー完全配備になっちゃうんです!!」
どうしても態度が変わらないバルトに勢いで押すかのように立ち上がり、大声で言うなのは。
「それは傭兵の俺にとって関係無いだろう」
「可愛い女の子を助けると思って!!」
「綺麗な女は好きだが、可愛いのは別にどうだっていい」
「言うこと聞かないとバスター撃ちます!!」
「とうとう実力行使か!?面白い………管理局の白い悪魔の実力、見せてもらおうじゃねえか!!」
「バルト、魔王だよ?」
と、ヴィヴィオがなのはのばらしてくれた魚をつまみながらそう指摘するが、2人の耳には入らない。
「俺は女でも容赦しねえぞ?」
「いつも聞いてます。………もし勝ったら私の言う通りにしてくださいね!」
もはや一触即発の雰囲気になるリビングで、ヴィヴィオがいきなり口を開いた。
「そう言えばフェイトお姉ちゃんも機動六課に配属になるってこの前聞いたような………」
「………何だと?それは少し魅力的だな」
「えっ!?」
バルトの言葉を聞いて呆気に取られるなのは。
「それに私また海に行きたい。あの潮風の匂い好きだし、もしかしたら夏にもう一度フェイトお姉ちゃんの水着見れるかもよ?」
「………確かに」
「そんなに悪くない条件だと思うし、1年だけで良いんだから」
「1年か………そうなると本当に悩むな………」
腕を組んで真剣に悩むバルト。
そんなバルトを見つめるなのは。
(やっぱりフェイトちゃんか………私も大人っぽくなってきたのに………)
ゆっくりと自分の席に座るなのは。自分の胸を見てため息を吐いた。
それでも同年代から見れば誰もが羨むプロポーションを持ってはいるのだが、その上の友達の所為でそれがバルトの目に中々入らないでいた。
それ以外にも一日で一緒にいる時間が長いため、見慣れてしまっているという理由もあるのだが、本人はそれに気がついていない。
「あっ!!それと任期を終えた後に管理局に入らなきゃいけないって決まりも無いので、別に魔導師にならなくたって大丈夫ですよ?」
「う~ん………」
それでも中々折れない。
(バルトさんってどうしてここまで管理局を嫌うんだろう………?何か過去と関係あるのかな?)
バルトの様子を見ていたなのはがふとそんな事を思う。
(………まあ今はそんな事どうでもいいや。私もヴィヴィオちゃんと離れたく無いし、バルトさんの実力も欲しい。絶対諦めないんだから………!!)
そう決めたなのはは再び自分に気合を入れ直す。
「バルトさ……」
「よし、決めた!!お前の話に乗るぜなのは」
「えっ!?」
「ん?何だよ、駄目なのか?」
「う、ううん!!ありがとうバルトさん!!」
「まあ、ヴィヴィオの面倒を見てくれる奴もいるだろうし、フェイトも居るからな」
(………結局フェイトちゃんか………何か納得いかない………)
そんな事を思いながらなのはは詳しい話を始めるのだった………
新暦75年3月………
「それでは、機動六課、七課のそれぞれの部隊メンバーを聞こうか………」
本局会議室。
ヴェリエ元帥を中心に互いに向かい合って座っているはやてと七課の部隊長、カーチス・レオルド1等陸佐。
目付きが鋭く、無精髭を顎に、獰猛な雰囲気。
野生感溢れる彼の異名は『鎧の狼』として犯罪者だけでなく、陸の人間にとって知らない人は居ないほどの有名人であり、レジアスの優秀な部下でもある。
「もう一度確認させてもらうが、それぞれの部隊人員は50人まで。ただし新人は10人、新人については管理局の魔導師で任期1年から3年の間の者と、例外として魔導師として管理局に所属した事の無い者であれば編成は可とする。部隊は2部隊を編成し、一年の最後に新人同士で実力をぶつけ合う。その部隊を教導する人物など人数編成は自由で。ただし、機動部隊としてしっかり運用出来る編成であること。出来ないようであれは即時解散になるので気を付けるように。六課はロストロギア等の事件を担当、七課は最近頻発している犯罪者等の事件を主に担当してもらう」
「はい」
「承知しております」
それぞれの部隊長が返事をし、それぞれ手元の資料を開く。
「では、所属する人員のリストを表示してくれ」
ヴェリエがそう言うと後ろに現れたスクリーンにそれぞれの部隊の人員の名前が写し出された。
「では先ず、機動六課から」
「はい!!」
はやては立ち上がり、机の上に備え付けられたマイクを自分の上に向ける。
「部隊長は私、八神はやて二等陸佐、副部隊長には神崎大悟一等空佐が付きます。そして機動六課の部隊、スターズ分隊とライトニング分隊の隊長、副隊長は、スターズ分隊隊長に高町なのは一等空尉、副隊長に八神ヴィータ三等空尉、ライトニング分隊隊長にはフェイト・T・ハラオウン一等空尉、副隊長には八神シグナム二等空尉が付きます」
一回ひと呼吸置くはやて。
そして………
「次にそれぞれの分隊に所属する新人を発表します」
機動六課の新人の発表が始まる………
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