金木犀の許嫁
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第三十六話 織田作之助の街その十一
「この辺りにはね」
「多いんだ」
「そうなのよ」
こう話したのだった。
「これがね」
「織田作さんだけじゃなくて」
「そうなの」
実際にというのだ。
「お寺が集まってるし」
「それでだね」
「けれど怖くないでしょ」
夜空は微笑んで言った。
「この辺りは」
「全くね」
佐京はまさにと答えた。
「むしろ落ち着いた」
「いい雰囲気でしょ」
「ここはね」
こう答えたのだった。
「そう思うよ」
「そうでしょ、お墓もね」
「怖くないね」
「そう、というかね」
夜空はさらに話した。
「人の魂がそこにあって」
「眠っている」
「そうした場所でね」
そうであってというのだ。
「別にね」
「怖くないね」
「佐京君お墓怖かった?」
「いや、別に」
佐京はすぐに答えた。
「むしろ静かで神聖な」
「そんな雰囲気だっていうのね」
「うん」
そう感じるというのだ。
「昔高野山にも行ったけれど」
「ご先祖様達もおられた」
「そう、幸村公がね」
他ならぬこの人がというのだ。
「流されて」
「関ヶ原の後ね」
「大坂の陣までおられたね」
「あのお寺ね」
「俺達のご先祖様もおられたし」
猿飛佐助そして十勇士の面々もというのだ、主君である幸村についていって高野山に入っていたのである。
「それでね」
「あちらに入って」
「お墓見て回ったけれど」
「怖くなかったのね」
「そうだったしね」
「むしろ静かで神聖な」
「そうしたものをね」
「感じたのね」
「そうだったんだ」
こう夜空に話した。
「俺も」
「そうだったのね」
「あそこはね」
高野山はというと。
「弘法大師さんまだ生きておられるってね」
「言われてるわね」
「即身仏になられたらしいけれど」
それでもというのだ。
「まだね」
「生きておられて」
「世界を守護しておられるそうだし」
「その空海さんもおられる」
「そうしたね」
「とても神聖な場所ね」
「あの人は何かとね」
空海という人物はというのだ。
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