金木犀の許嫁
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第三十六話 織田作之助の街その七
「口縄って蛇だね」
「ええ」
夜空はその通りだと答えた。
「こっちじゃね」
「そう言ってたね」
「そしてね」
そのうえでというのだ。
「織田作さんもね」
「この坂通ってたね」
「そうだったのよ」
まさにというのだ。
「あの人もね」
「そうだったね」
「そしてね」
そのうえでというのだ。
「書いていたのよ」
「そうだったね」
「それでね」
夜空は自分達の傍も観て言った。
「ここに織田作さんの文章もあるわ」
「そうだね」
見れば確かにあった。
「ここに」
「こうしてね」
「書いていて」
「それでね」
そのうえでというのだ。
「今もね」
「残ってるのね」
「そうなの」
「織田作さんの足跡だね」
「ええ」
その通りだというのだ。
「ここにもね」
「そうなんだね」
「織田作さんが生きていて」
そしてというのだ。
「こうしてね」
「足跡もあって」
「今こうしてね」
「観られるんだね」
「そうなるわね」
佐京に微笑んで話した。
「この口縄坂も」
「じゃあ今も」
佐京は夜空の話を受けて言った。
「織田作さんは幽霊になっても」
「ここにおられると思うわ」
「そうだよね」
「そう、そして」
そうであってというのだ。
「ひょっとしたらここでね」
「織田作さんに会えるかな」
「そうかも知れないわね」
「それじゃあ」
夜空のその話を聞いてだ、佐京は言った。
「今から歩こうか」
「ええ、この坂をね」
「そうしよう、そして」
佐京はさらに話した。
「この坂の後は」
「神社に行きましょう」
「そうだね」
「生国魂神社ね」
この神社にというのだ。
「そうしましょう」
「そしてその後は」
「楞厳寺よ」
この寺だというのだ。
「上本町で行く最後の場所になるわ」
「そうなるね」
「じゃあね」
「坂を進もうね」
佐京も微笑んで言った、そうしてだった。
二人で坂を進んだ、曲がりくねった坂はまさに口縄即ち蛇であった。その坂を進んでそうしてだった。
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