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コントラクト・ガーディアン─設定&こぼれ話─

作者:tea4
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こぼれ話⑥ガールズトーク?


「うん…、これは────綺麗に染まってるね」

 私は、ラナ姉さんが染めた魔玄を手に取って【心眼(インサイト・アイズ)】で視る。

 それに───見た目が斑なく染まっているだけではなく、魔物の血が鞣革にきちんと融合されている。

「こっちは、ちょっと薄いけど───失敗したの?」

 ラナ姉さんが持ってきたもう一つの布地は───私の“失敗作”と似ていて、満遍なく染まってはいるものの血が足りずに、漆黒ではなく、黒に近い灰色をしている。

「あ、ううん。それ、わざとなの。確かにそっちの成功作より耐久性や強度は落ちるかもしれないけど、それでも普通の布よりは丈夫でしょ。アクセントに使えるかなと思って。それか、逆にこっちを地にして、成功作を所々に組み込むのもいいかなって。デザインを工夫すれば、裂けたりすることは防げると思うのよね」
「なるほど」

「そうしたら、少しは真っ黒じゃなくなるじゃない?」

 あ───私が黒一色の格好なこと、まだ気にしてたんだ…。


「あとね────布を染めるんじゃなくて、糸を染めたらどうかと考えているの」
「布じゃなくて、糸を?」
「そう。それなら、別の色も組み込むことができそうじゃない?」
「ああ、確かに────“チェック柄”とかならできそう」
「え、何それ。どういうの?」

 私は、ラナ姉さんに、前世の世界で存在した“チェック柄”というものについて説明する。

「それ、いいじゃない!創ってみたい!」

 ラナ姉さんは興奮して、眼を煌かせた。その心底から楽しそうな様子に、私も嬉しくなった。

「それじゃ、まずは糸を染めるのを成功させなきゃ。ね───リゼ、糸を染められるようになったら、機織りを習わせてくれない?」

 機織りか。サヴァルさんが抱える織物工房でなら、修行させてもらえるかな。

「解った。あ───でも、まずレド様に許可をとってからね」
「うん!ありがとう、リゼ」


◇◇◇


 ラナ姉さんが【魔力循環】をするのを視て、幾つかアドバイスをした後───私たちは休憩を取ることにした。

 例によって、【遠隔(リモート・)管理(コントロール)】で温かいお茶の入ったポットと作り置きしておいたお菓子を取り寄せる。

 ラナ姉さんは、カップアンドソーサーだと割ってしまわないか心配になるらしく、お茶を楽しめないとのことなので、ラナ姉さんのために創っておいたマグカップを取り寄せた。

「このマグ、いいわね。形も、色も────すごく、いい」
「あ、気に入ってくれた?」
「え───もしかして…、リゼが創ってくれたの?わたしのために?」
「うん」

 ラナ姉さんは自分の持ち物などは、どちらかというと、パステルカラーのような明るい原色より、くすんだ色合いで───形はシンプルなものを好むので、“お兄ちゃん”が愛用していたマグカップを参考に創ってみたのだ。

「そうなの───ありがとう」

 まだ何も入っていないマグカップを両手で持ち上げて、ラナ姉さんは目元を和らげて満面の笑みを浮かべる。


 甘ったるいものが苦手なラナ姉さんのために、お茶請けは、“スコットランド”発祥の焼き菓子───バターの風味を利かせた“ショートブレッド”にした。

 共にいただくお茶は、勿論、紅茶である。

「美味しいわね、これ。何個でもいける」

 そう言って、ラナ姉さんはショートブレッドを次々に頬張る。

 今回作ったショートブレッドの形は、本場のフライパンで作って円形を等分にした三角形のものではなく、一口サイズの長方形なので、余計に食べられるのだろう。

「それは良かった」

 ラナ姉さんが大丈夫ってことは、意外と甘いものが苦手なヴィドも食べられそうだ。孤児院の子供たちにも、作って持って行ってあげよう。

 ちなみに、こちらも意外なことに────ラギは大の甘党だ。


「そういえば────お邸での暮らしはどう?困っていることとかない?」

 ふと気になって訊ねると、ラナ姉さんはショートブレッドを頬張ったまま、首を横に振った。そして、呑み込んでから、口を開く。

「快適!リゼが創ってくれた個室は落ち着くし、それにカデアさんの料理はとても美味しいし────本当に快適よ」

 無理して言っているわけではないようなので、私は秘かに安心する。

「侍女の仕事はどう?」
「楽しいよ。カデアさんも、セレナさんも、いい人だしね」
「良かった」

 元貴族令嬢のセレナさんは、感覚や概念が少し違うこともあるだろうし、人と接することに慣れていないようなので───ラナ姉さんとアーシャと上手く馴染めるか、ちょっと心配だったのだ。

 ほっとする私をよそに、ラナ姉さんは続ける。

「ただ───セレナさんとアーシャと三人で仕事することが多いでしょ。三人って難しいのよね」

 続けられたラナ姉さんの言葉に、私はドキリとしてしまった。
 やっぱりセレナさんと上手くいっていないのかな───と、不安になる。

「セレナさんって、お嬢様だし無口だから、最初、何話していいか判んなくてさ。特に、アーシャと三人で話すとき、ちょっと戸惑ったのよね。でも、共通の話題見つけて、それからは三人でよくしゃべるようになったんだけど」
「…けど?」

 少し緊張しながらも、先を促す。

「ほら、アーシャは“脳筋”でしょ。だから、同じリゼの話でも───冒険者としてのリゼの話にしか興味を示さないのよ」
「はい?」
「だけど───わたしは、魔獣を退治しただの、魔物の集落を潰しただの、そういう話には興味が持てないのよね。リゼが、いかに格好良く魔獣を倒したかとか、いかに格好良く自分を助けてくれたかとか────アーシャとセレナさんが語り合って盛り上がってるとき、ちょっと入り込めなくて」

 え───何それ。この人たち、私がいないところでそんな話してるの?
 というか、“共通の話題”って、もしかしなくても────私?

「わたしはさ、同じリゼの話でも───殿下との馴れ初めとか、どうやって婚約したかとか、どんなデートをしているかとか────あとは、そうね。殿下がいかにリゼを甘やかしてるかとか、そういった話なら興味があるのよ。セレナさんも興味あるみたいで────そういう話だったら、セレナさんと盛り上がることができるんだけど、そうすると、今度はアーシャが話に入ってこなくなっちゃうのよね。あの子ってば、女の子なのに、恋愛とか結婚とか、まるっきり興味ないから」

 ………今、何て言った?私とレド様を肴にして盛り上がってる────と?
 え、ラナ姉さんとセレナさんが?そんな────恥ずかしい話題で?

「だからね、最近はリゼの子供の頃の話をするようにしてるの。それなら、アーシャもセレナさんも食いついてくれるから」
「ちょっ───何話してんのっ?!」
 
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