コントラクト・ガーディアン─Over the World─
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第一部 皇都編
第八章―護るべきもの―#4
まず試すのは────いつものアレである。
「レド様、剣を持ってもらえますか?」
「ああ」
私が【神剣】を渡すと、レド様はそれを大事そうに両手で受け取った。
「【案内】」
私が意識して呼びかけると、レド様と私の足元を覆う魔術式が現れる。
「【ガルファルリエムの剣】にアクセス開始」
────【ガルファルリエムの剣】にアクセスを開始します…………
古代魔術帝国のものではないせいか、いつもより間が開く。
────アクセスに成功しました────
「【ガルファルリエムの剣】の名義を───ルガレド=セス・オ・レーウェンエルダに変更」
────【ガルファルリエムの剣】の名義を、ルガレド=セス・オ・レーウェンエルダに変更…………
【神剣】が光を発し、レド様の全身を包み込む。しばらくして、【案内】のアナウンスが入る。
────名義変更が許可されました────
────名義の書き換えを開始します………
────名義の書き換えが完了しました────
────【最適化】を開始します……
膨大と言っていい大量の魔力が、レド様から【神剣】に向かって傾れ込んでいく。
────【最適化】が完了しました────
【神剣】が放っていた光と、私たちの足元に展開していた魔術式が、解けるように消える。
光が収まった【神剣】は、少し形態が変わり、何だか先程よりも剣身が細くなった気がした。
それに、柄に巻かれた魔獣の鞣革と、同じく魔獣の鞣革で造られた鞘が───光を跳ね返すような光沢を持つ純白の滑らかな───聖騎士の装備に似た素材に変わっている。
柄頭に嵌められていた金具も、シンプルだったガードも、柄に一体化した聖銀の精緻な装飾に変わっていた。
何処となく、私の【聖剣】に造りや意匠が似ている。
まさか、【真なる聖剣】も神竜ガルファルリエムが造った────なんてことはないよね?
◇◇◇
【ルガレドの剣】
神竜ガルファルリエムが造りし【神剣】。斬れないものはなく、【神霊】、【魂魄】、【魔素】すら斬り裂ける。使い手であるルガレドがいる限り、刃毀れもしないし、たとえ折れたとしても修復可能。ルガレドの膨大な魔力を取り込んだため、剣身の聖銀が甦った。
レド様の手にある【神剣】を【解析】で見てみると、名称がレド様のものに変わっていた。
「良かった。成功したみたいです」
「ああ、本当だ。ありがとう、リゼ」
レド様は手にした【神剣】を少し眺めてから、鞘を払った。曇り一つない、まるで鏡のような聖銀の剣身が露になる。
「ルガレド様、その剣は────」
事態に気が付いたジグとレナスが、こちらに寄って来る。
「ファルリエム辺境伯家に伝わっていた───神竜ガルファルリエムが造った【神剣】だそうだ」
「まさか───」
「では…、ファルリエム辺境伯は知らずに?」
「おそらくは」
ジグとレナスも驚愕しているところを見ると、やはりファルリエム辺境伯家には本当に何も伝わっていなかったのだろうか。
「それでは、残りの武具に【防衛】を施してしまいますね」
大剣1本、両手剣2本、片手剣3本、ナイフを含めた短剣が6本。それから、ハルバードが2本。
すべて、ファルリエム辺境伯領に居を構えていた名工───ドルクが造ったものらしく、柄や鞘の装飾など、意匠が似通っていて、レド様の皇子としての個章である、“第一の月”を模った紋章が刻まれていた。
「あ───念のため、もう一度【最適化】をかけてからにしましょうか。レド様、武具の傍に立ってもらえますか?」
「ああ」
私は、レド様と武具を包み込むようなイメージで、【最適化】を発動させる。
あれ?何か────魔力が思ったより持っていかれている気がする…。
魔術式と武具を覆っていた光が消え、私は慌てて武具を確認してみる。
予想に反して、デザインや形状などが大まかに変化しているなどということはなく、私は安堵した。
ファルリエム辺境伯がレド様のために用意した武具だ。レド様も思い入れがあるだろうし、私のイメージで勝手に創り替えてしまうようなことになっていたら申し訳ない。
「では、【防衛】もかけますね」
「ああ、頼む」
【防衛】をかけるのは初めてではないので、戸惑うことなく終える。ちゃんとかかっているかどうか、【解析】で確かめてみると─────
【マーニ・シールズ:ルガレド専用】
名工ドルクによりルガレドのために造られた素体に、超級魔導師リゼラが最愛の主ルガレドを想い、補強と保善を施したため、【霊剣】と成った。ルガレド以外の者が扱うことは出来ない。物質で斬れないものはなく、【魔法】、【魔術】、【魂魄】ですら斬り裂く。超級魔導師リゼラの最上級の魔術によって永久保存が施されているため、刃毀れや損壊は一切することはない。月銀製。
「っ!?」
な、なな何これ…っ。
『超級魔導師リゼラが最愛の主ルガレドを想い』って────いや、レド様を想って、魔術を使ったのは確かだけど────『最愛』って表現いらなくないっ?────いや、確かにレド様が最愛かもしれない────最愛だとは思うけど、でも、こんな────大体、誰がこれ考えてるの!?
「ルガレド様?」
ジグが不思議そうに、レド様に声をかけている。
見ると、レド様は口元を手で覆い、右眼の目元と耳を赤く染めている。レド様も【解析】をかけて────これを見てしまったのだろう。
ただ、ひたすら恥ずかしいだけの私とは違い、レド様は物凄く嬉しそうだ。
ジグとレナスは、私たちの様子を不思議そうに見ている。ジグとレナスが【解析】を使えなくて、本当に良かった…。
「そ、そうだ。ジグとレナスの武具にも、刃毀れや損壊しないように【防衛】を施しておきましょうか」
「いいのですか?」
「お願いします」
まずは、ジグに武具一式を出して並べてもらい、まとめて【防衛】をかけようとして、私は『あれ?』と思う。
どの武具にも、小さく魔術式のような文様が刃の部分に刻まれていることに気づいたからだ。こんなの、ついてたっけ?
またしても、嫌な予感を覚えつつ【解析】をかける。
【暗器一式:ジグ専用】
超級魔導師リゼラが護衛ジグのために創り変えた武具一式。位階は【魔剣】。ジグの【主従の証】と結び付けられているため、何処に置いてあっても感知でき、【遠隔管理】、【換装】で取り寄せることが可能。物質で斬れないものはなく、【魔法】、【魔術】ですら斬れる。星銀製。刃毀れや損壊しても、周囲の魔素を取り込み、自動的に修復される。
「…ジグ、先程、手合わせで【遠隔管理】を使っていましたよね。検証したときに比べて、どうでしたか?」
「え?───そういえば、検証のときに比べ、自然に扱えました。投げた武具が、自分の手の中にあるように感じられたというか…、何も考えずに瞬時に取り寄せることが出来ました」
「そうですか…」
私は、ナイフの一つを手に取り、【転移】で厨房のテーブルへと送る。
「ナイフが何処にあるか、感じられますか?」
「───はい。…厨房のテーブル、ですか?」
「当たりです。では、取り寄せてみてください」
ジグの足元に魔術式が展開し、次の瞬間には、ジグの手の中にナイフがあった。
「…出来ました。────これは、どういう…?」
「先程、私が【最適化】を施したときに、どうもこの武具一式すべて【魔剣】に創り変られてしまったようで…、しかもジグのピアスと結び付けられているらしく、何処に置いておいても取り寄せることが可能みたいです」
ジグが目を見開く。レナスが身を乗り出して、勢い込んで口を開いた。
「では、もしかしてオレのも?」
「おそらく、同じように【魔剣】になっていると思います」
◇◇◇
ジグとレナスの武具一式に【防衛】をかけた後、昼食を摂るために一旦、地下調練場から引き揚げた。午後からも引き続き、鍛練を行うつもりだ。
「今日もまた、午前中だけで驚愕することの連続だったな」
昼食の支度をしながら、レド様がしみじみ呟いた。
「本当に…」
聖剣だけでなく、霊剣、神剣ときて、最後に魔剣。魔剣は割と出回っているが、それ以外は伝説の代物だ。
「だが…、【誓約の剣】についても予め解って良かった。知らずに用いて露見したら、大変なことになるところだった。
それに────【神剣】の使い手になれたこともだ。何かあったとき、リゼを護る手段が一つ増えただけでも有難い」
「レド様…」
レド様の言葉に────私を大切に思ってくれるその気持ちに、嬉しさとレド様への想いで、私は胸がいっぱいになる。
そして────私は、改めて心の中で誓う。
「私もです。【聖剣】に関しては、火種になりかねないので、おいそれとは使用できないと思っていますが、それでも────レド様に何かあったときは自重するつもりはないですから」
私の持てる力を以て─────絶対に、レド様を護り抜いてみせる。
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