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コントラクト・ガーディアン─Over the World─

作者:tea4
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プロローグ
  プロローグ

 無骨で堅牢な石造りの城の一角にある、何もない石畳の広場。

 城主に続いて現れた青年の姿を認めて、広場で整列している兵士たちはざわめいた。


 ルガレド=セス・オ・レーウェンエルダ────

 御年24歳になる、このレーウェンエルダ皇国の第二皇子だ。皇族でありながら、後ろ楯もなく、貴族にでさえ蔑視されているという。

 噂通り、左眼に漆黒の簡素な眼帯をつけている。眼帯を潜って、刃傷が額から頬にかけて刻まれていた。

 聖銀(ミスリル)のように煌く白銀の短髪を後ろに流し、皇族にしては簡素な漆黒のコートとベストを着こなして、堂々と佇む姿は、英雄と称えられた彼の外祖父を彷彿とさせる。

 露にしている右眼の中央で閃く淡紫色の瞳は、皇族にしか持ちえないもので、その切れ長の眼は彼が皇子であることを証明していた。

 そして、鼻筋の通った端正な顔立ちに、意志の強そうな柳眉(りゅうび)と引き結ばれた薄い唇。

 刃傷が多少痛々しいものの、美丈夫と評して差し支えない相貌だ。貴族間で噂される醜悪さなど感じさせない。


 ルガレド皇子より一歩下がった所に、十代半ばを過ぎた年頃の一人の少女がぴたりと立ち止まる。それは、ルガレド皇子を護ろうとも支えようともしているかに見えた。

 ハーフアップにして背中に流した、腰まで届く少女の癖のない艶やかな黒髪が、風で微かにそよぐ。

 少女は、ルガレド皇子に合わせてか、漆黒のショートコートに揃いのベストを着込んでいたが、ともすれば少年に間違われそうな服装も、豊かな胸と細い腰による女性らしいラインのおかげで、(たお)やかな印象をもたらしている。

 ふと、俯き加減だった少女が顔を上げた。若い兵士たちの間で、ルガレド皇子の時とは違うざわめきが起こる。

 長い睫に守られたアーモンド形の眼の中の、濁りのない蒼鋼玉(サファイア)のような双眸。

 そして綺麗に弧を描く眉と程よく上向いた小ぶりな鼻に、柔らかそうな色鮮やかな唇。それらが小さなかんばせに形よく収まっていて、少女は誰の眼から見ても美しかった。

 少女の細い腰には黒いベルトが2本、交差するように巻かれ、左右それぞれに細身の剣が1本ずつ提げられていた。

 その2本の剣は対であるらしく、どちらも弓なりに緩く反り返り、細身で大振りの短剣ほどしか長さがない。巷では見かけない、珍しい形状だ。


「“双剣のリゼラ”……?」

 誰かが呟いた。


 双剣のリゼラ────

 弱冠十代半ばにして、最上位ランクまで昇り詰めたという、冒険者の少女だ。冒険者のみならず、傭兵や商人たちの間でも、彼女を知らぬ者はいない。

 その高名な少女が、ルガレド皇子の“親衛騎士”になったという噂はこの辺境の地にも届いてはいた。

 貴族に匹敵する立場を手にしながら、後ろ盾もなく蔑視されている皇子に何故────という疑問と共に。

 それでは彼女が────と思うも、寄り添う二人の前にそんな疑問など消えてしまった。

 それほどまでに、ルガレド皇子とリゼラが寄り添う姿は、まるでそれがあるべき二人の在り方であるように、自然だった。




 いつの頃からか、この大陸ではどの国も、王族は専属の守護者を一人選び出し、生涯傍に置くという習わしがあった。

 “親衛騎士”、“守護騎士”、“衛士”など───土地によってその呼び名や選出方法は異なるものの、王族がその生涯で唯一人の守護者を持つということだけは変わらない。

 守護者は主を護り抜く誓いを立て───主は守護者を信頼する証として剣を授ける。

 これは、どの地域であろうと、守護者を任命する際に必ず行われる“契約の儀式”だ。

 この風習がいつ頃から始まったのか、どういう(いわ)れで行われるようになったのか、定かではない。

 ただ、今や伝説となりつつある古代魔術帝国がこの大陸を席巻していた時代には、すでに儀式は行われていたという。



 守護者は主に命を捧げ、その生涯において唯一人だけを護り抜き───
 主は守護者に命を預け、その生涯において唯一人だけを侍らせる───

 
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