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金木犀の許嫁

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第三十四話 妹達への提案その六

「だからね」
「それでなのね」
「本当にね」
「気を付けないといけないのね」
「性病自体にね」
「浮気をしないで」
「そう、それでその梅毒とね」
 この病気と、というのだ。
「結核、脚気はね」
「当時の日本だとなのね」
「脚気は織田作さんの頃はかなりなくなっていたけれどね」
 脚気には麦飯がいいとわかってだ、海軍が発見したことである。
「それでもね」
「結核と梅毒はなのね」
「終戦頃までね」
「助からない病気だったのね」
「そうだったのよ」
「危ない病気だったのね」
「今で言うと癌いや」
 真昼は言ってからすぐにその出した言葉を訂正した。
「癌はすぐに見付かったら助かるわね」
「ええ」
 夜空もその通りだと答えた。
「そうよね」
「けれどね」
 それでもというのだ。
「結核と梅毒はね」
「絶対に助からなかったのね」
「それこそなったらね」
 その頃はというのだ。
「確実にね」
「死んでいたのね」
「だから国民病だったのよ」
「そうだったのね」
「命を落とす人が多かったのよ」
「それで梅毒のことも言ったのね」
「そうよ」 
 まさにというのだ。
「そうしてるのよ」
「私達にお話してくれてるのね」
「今は治るけれど」
 それでもというのだ。
「気をつけることよ」
「浮気したら駄目ね」
「絶対にね、離婚沙汰になって」 
 そうしてというのだ。
「そのうえでね」
「そうした病気にもなったりするから」
「それでよ」
「浮気はしないことね」
「くれぐれもね」
「そのこと肝に銘じておくわ」
「ええ、それであらためて結核のことを言うと」
 暗い顔になってだ、真昼は話した。
「織田作さんも亡くなってるし沢山の人が亡くなってるし」
「だからなのね」
「忌まわしいわ」
「若し織田作さんが長生きしたらどうだったかしら」 
 考える顔になってだ、夜空は姉に問うた。
「やっぱりもっと沢山の作品書けたかしら」
「多分ね」
 こう妹に答えた。
「作家さんって急に書けなくなったりするけれど」
「それでもよね」
「織田作さんがそうならなかったら」
 それならというのだ、織田作之助は多作で知られた作家でありそれは死を迎える時まで変わりはしなかった。ヒロポンを打っても書いていた程だ。
「もっとね」
「書いてくれたのね」
「そうだったわ」
「三十四歳なんて」
 夜空は遠い目になって述べた。 
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