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金木犀の許嫁

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第三十二話 大阪の野球その十二

「大阪球場にあった店はないからな」
「がんこ寿司の看板もな」
「ああ、あったな」 
 看板の話になると笑顔になった。
「あれもな」
「バックスクリーンにな」
「でかでかとな」
「あれがあってな」
「実際にがんこ寿司行ったな」
「それで飲んで食ったな」
「そうだったな」
 こんな話もしたのだった。
「あの頃はな」
「南海のユニフォームも懐かしいな」
「緑と白のな」
「今もたまに着てくれるけれどな」
「ソフトバンクがな」
「復刻版でな」
 所謂復刻版ユニフォームである、昨今のプロ野球のチームはそうしたイベントも行うのだ。中にはマニア垂涎のものもある。
「そうだけれどな」
「あの頃はそれが普通でな」
「ノムさんもスギさんも来てたな」
「そうだったな」
「あの人達こそですね」
 佐京は七十代半ばと思われる老人達の話を聞いて言った。
「思い出にしている人達ですね」
「そうですね」  
 幸雄もまさにと頷いて答えた。
「歴史ではなく」
「その目で見て来て」
「昭和三十年代もです」
「思い出ですね」
「そうです、ですが」
「俺達にとっては歴史ですね」
「その場にいなければ」
 そうであればというのだ。
「同じ時代でもです」
「歴史ですか」
「そうです、せめてその目で報道等を観ないとです」
「歴史になるんですね」
「歴史と思い出はまた違うかと」
 幸雄はその老人達が去ったのを見届けつつ述べた。
「やはり」
「思い出は何かですね」
「そのことを考えてもです」
「いいですね」
「そうかと。では」
「はい、これでですね」
「帰りましょうか」
 佐京だけでなく真昼達三人にも声をかけた。
「そうしますか」
「そうですね」
 真昼がそれならと応えた。
「それでは」
「はい、これから」
「帰りましょう」
「それでは」
 こう話してだった。
 五人は南海ホークスメモリアルを後にして駐車場に停めてあった車に乗ってそうして神戸に戻った、すると。
 家に着いてだ、夜空は笑顔で言った。
「楽しかったわね」
「そうね」
 真昼が応えた。
「久し振りの実家だったけれど」
「本当にね」
「楽しかったわ」
「これからもね」 
 夜空は姉にさらに言った。 
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