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東方守勢録

作者:ユーミー
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第九話

 変換『コンバートミラー』その正体は、触れた弾幕のすべてを吸収し俊司のもつ銃の弾へと変換させるものだった。吸収した弾幕を撃った事で革命軍の兵士達の士気は一気に低下。弾幕を避けきることなく次々と兵士が倒れていった。
 自分の弾幕を返され呆気にとられていた幽々子だったが、冷静さを取り戻すと攻撃に入ることなくひたすら弾幕をよけ始める。さすがに自分自身の弾幕となると被弾することはそうないだろう。
 戦況は一気にひっくり返った。相手の兵士達は弾幕をよけながら攻撃することはほぼ不可能と言っても過言ではない。残る戦力は幽々子一人だ。
「なるほどね、弾幕の出し方も知らないしスペルカードに何を込めたらいいかわからない。そんな俊司君の自分なりの考えを込めたって訳ね」
「解釈はあとでもいいだろ?それよりチャンスだぜ?でも、霊夢は結界で体力を消耗してるしな……」
 異変解決の際数々の弾幕を見てきた霊夢なら、弾幕の中を突っ切って攻撃を加えることなんて簡単なことだろう。しかし結界を張り続けていた霊夢は体力も大きく消費してしまったらしく息遣いも荒くなっていた。このまま弾幕の中に飛び込むのは少し危険だろう。
 しかし彼女達の中にはもう一人この役に適した少女がいた。
「ええそうね。でも、こういうときにうってつけの人材がいるわ。記者さん?」
「待ってました!! とう!」
 新聞記者の文はいままで記事にするために大量の弾幕をカメラにおさめてきた。もちろん離れたところで安全に記録したのではく、自ら弾幕を避けてその中で撮影を行っているのだ。そんな彼女であれば霊夢の代役を果たすことなど簡単な事だ。
「自ら飛び込むなんて……自滅するつもり!?」
「残念ですね幽々子さん。私は記者でありカメラマンですよ? どれだけの弾幕をとってきたと……お思いですかっ!」
 俊司達の予測通り、文は持ち前のスピードを生かしながら弾幕を避けて行く。彼女を目で追いかけるのは素人には到底無理だろう。
「くっ!」
 文はたった数秒で幽々子の目の前まで接近していた。彼女の攻撃を恐れた幽々子は扇を構えて反撃態勢に入る。
 しかし彼女の眼中に幽々子は捕えられていなかった。
「すいませんね!今、幽々子さんと戦う気はないんですっ!」
 文は身構えている幽々子には目もくれずに通り過ぎると、そのまままっすぐつっこんでいく。そこにはあたふたしながら弾幕を避ける兵士達の姿があった。
「来たぞ!射命丸文だぁ!!」
「さてとみなさん!たっぷり取材させていただきますよ!!」
 そう言った瞬間文を中心に大きな土埃が舞いあがった。それと同時に聞こえ始めたのは兵士の悲鳴ばかり。状況は確認できずとも中で何が起こっているか予測がつくくらいだった。
 やがて俊司の放った弾幕が消えると同時に土埃ははれ、そこから現れたのは気絶した兵士達とその中央に立つ文だった。
「さてどうしますか?」
 文は笑みを浮かべながらそう言った。しかし幽々子は絶望的な状況になりながらも、強気な姿勢を崩そうとはしない。
「……降伏するわけないじゃない」
 再び扇を構え戦闘態勢に入る幽々子。そんな彼女を見ながら溜息を吐いた文は、何を思ったのか懐から手帳を取り出しあるページを開いた。
「そうそう。文々゜新聞に新しく占いの項目が出来たんですよ」
「何をいきなり……」
 こっちを睨みつける幽々子をよそに文は話を続ける。
「本日の幽々子さんの運勢は……ああ~残念ながら小吉ですね。今日一日はあまり活動しなほうがいいけど、その先には嬉しいことがあるかもですって!なんかあたってませんか?」
 文がそう言っても幽々子は何も言おうとはしなかった。というよりかは不審人物を見るような目でこっちを見ている。
「そんな顔しないで下さいよ!ええっと本日のアドバイスは……」
文は『それ』を口にしようとして気味の悪い笑みを浮かべていた。
「後ろに注意……」
「なっ!!」
 嫌な予感がした幽々子はすぐさま後ろを振り返る。そんな彼女の足元には地面を割いたようなスキマが出来あがっていた。


(幽々子様……私はあなたに使える身です。いつまでもお守りするのが私の役目です。でも、私はあの時あなたを守れなかった……でも幽々子様は生きていた……敵に寝返って。何を吹き込まれてしまったのかはわからない……だけど、主が道を外れようとしてるなら……それを正すのも私のお役目です!)
 スキマの中で覚悟を決めた庭師は、思いっきり地面をけって外へと飛び出すのであった。


 幽々子が足元のスキマを確認した瞬間、中から白髪の少女が勢いよく飛び出してきた。
「スキあり!! せやあ!」
(妖夢!?)
 突然の出来事に反応が遅れてしまう幽々子。そんな彼女に妖夢は躊躇することなく刀を振るう。反応が遅れてしまった分避ける動作が鈍くなってしまった幽々子は、攻撃を避けきれず扇を使ってはじき返す。しかしその反動で幽々子の手から扇がすっぽぬけてしまった。
(しまった扇が!)
「まだまだ!」
 妖夢は着地と同時に体をかがめながら幽々子の足を蹴り飛ばす。足をすくわれた幽々子はバランスを崩して尻もちをつき、完全にスキだらけとなってしまった。
「幽々子様降伏してください……今ならまだ間に合います!」
 妖夢は刀を幽々子の喉仏にむけて突き出しそう言った。
「妖夢……」
「お願いです……幽々子様」
 妖夢は幽々子を睨みつけるどころか悲しそうな顔をしたままそう言った。それをみた幽々子は、何を思ったのか笑みをこぼしていた
「……そうね、だからあなたは……」
 続きを言いかけた瞬間、幽々子はぐっと妖夢を睨みつける。
「つめが甘いのよ」
(!!)
 幽々子は目にも止まらぬ速さで体を翻すと、妖夢の刀のそばを沿うようにして一気に接近し妖夢の体を吹き飛ばした。完全に妖夢の油断をついた不意打ちだ。
「きゃっ!!」
 今度は妖夢が尻もちをつき隙だらけとなってしまう。その間に幽々子は落ちていた扇子を拾い上げると、そのまま妖夢に先端をつきつけた。
「私は敵よ妖夢! だから情けは無用なのよ! そろそろおとなしくしてもらおうかしら!?」
「おとなしくするのは、あんただと思うけどな?」
「なっ……!?」
 怒鳴っていた幽々子の首筋に冷たい何かがつきつけられる。彼女の背後に立っていたのは、学生服を着た外来人の俊司だった。
「いつの……まに……」
「こっちは一人で戦ってるんじゃないんだ……妖夢大丈夫か?」
「はい。すいません、勝手な真似を……」
 申し訳なさそうにする妖夢。そんな彼女に俊司は一言「いいよ」と返した。
(さてと……どうしたものか……)
 俊司が幽々子のそばに来た目的は彼女を問いただすことだった。なぜ革命軍に手を貸しているのかを聞きだすのと、本当に洗脳されているかどうかを確かめたかったのだ。まず何を聞くべきか考えながら、俊司はゆっくりと視線を落として行く。その瞬間俊司はある異変に気がついた。
(えっ……これって……?)
 幽々子の左手の甲には、微かに光を反射する黒い何かがくっついていた。微弱ながらも音も出しているようで、どことなく気味が悪い。
「幽々子さん。左手に付いてる黒いものはなんですか?」
「黒い……もの?……何もないじゃない」
 左手をじろじろとみた幽々子だったが、どうやら彼女には見えていないようだった。見えないということはつまり視覚情報をコントロールされていること。となると彼女は洗脳されているわけでも、ただ単に革命軍の味方をしているわけではないということだ。
(やっぱりな……)
 俊司もこの黒い物体の意味がわかったようだった。となると次にやることは当然決まっている。
「なっ何のつもり!?」
「ちょっと我慢してくださいね」
 俊司は彼女の左手を手に取ると、その黒い物体をつかむみ思い切り引き抜く。火花をちらつかせながら大きく音を上げ煙を出す黒い物体。幽々子は一瞬何をしたのかわからず呆然としていたが、一瞬で狂ったように表情を一変させた…
「ああ……あああああ! いや……いやいやいやいやいやいや!!」
「ゆっ……幽々子様!?」
妖夢は思わず幽々子の元へと駆け寄り、倒れこもうとする彼女を支える。しかし幽々子は妖夢をはねのけると、その場にうずくまりながら悲鳴を上げ続けた。
「うああああ!!!あああああああ!!!」
「幽々子様!!お気を確かに!! 俊司さんいったい何を!!」
 俊司が何か細工をしたと考えた妖夢は、恨んだように彼を睨みつける。敵になったとは言えど、やはり主従の関係は変わらず主人の事を思っているのだろう。
 そんな彼女に俊司は目を閉じながら答える。
「大丈夫だよ。たぶん反動が大きいんだ……そのままにしてあげて」
「ですが!」
「いやああああ!!あああああ……あああ……あ……」
 妖夢が反論しようとした瞬間、幽々子は泣きつかれた赤子のように急に静まり返ると意識を失った。
「幽々子様……?幽々子様!!しっかりしてください!幽々子様!!」
 妖夢が声をかけても幽々子は何も答えようとはしていない。寝息をたてるように軽く呼吸をしてはいるが、顔色は決して良いとは言い切れなかった。
 しばらくして後ろで待機していた霊夢達が駆けつけてくる。そんな中俊司は一人手のひらに乗った黒い物体を見ていた。
「……チップか」
 物体の中央には『対人型遠隔制御チップ タイプA』と書かれていた。遠隔制御ということはおそらくどこかに建てられている基地から直接電波を出し、チップを通じて体内を制御していたのだろう。このチップ事態が脳の役割をしていたと言ってもいいかもしれない。
「俊司君……一体幽々子に何をしたの?」
「これを引き抜いたんだ」
 困惑した様子でたずねてきた紫に、俊司は眺めていたチップを手渡す。紫はまじまじとそれを見つめた後、すべてを悟ったかのように溜息をついていた。
「そういうことだったのね……確かに、幽々子はちょっと天然が入ってるけど……幻想郷を奪おうなんて思うわけないしね」
「ああ。幽々子さんに限らず、全員が幻想郷を守ろうと思ってるはずだよ」
「あの~お二人さん?もったいぶってないできちんと話して下さいよ~」
 他の三人を置き去りにして二人で答えを確かめ合っていると、我慢しきれなくなった文が苦笑いをしながら声をかけてきた。
「え~っと……簡潔に言うと、あやつられてたってことかな」
「あやつられてた……そのチップでですか!?」
 二人はこのチップの名前を言った後、どのようにして彼女を操っていたかを簡潔に説明した。最初は静かに聞いていた三人だったが、徐々に革命軍のやり方に腹が立ってきたのか、拳を強く握りしめ怒りをあらわにしていた。
 特に妖夢の怒りは半端なものではないだろう。自身の主人をこのような方法で無理やり働かせ、さらには幻想郷の人間を攻撃するように指示を与えるだなんて、従者の彼女にとっては怒りだけでなく自分の不甲斐なさを身にしみて感じているに違いない。
 しばらく無言の時間が続いたが、俊司が咳払いをして注目を集めた後話を続けた。
「とりあえずここから移動しよう。いつ兵士が起きてくるかわからないし、幽々子さんをどこかで休ませてあげないと……」
「それもそうね……確か『永遠亭』にはまだ人がいたはずよ」
 話によると避難場所となっているのはここ以外にもあるらしく、紫が言った『永遠亭』にはまだ幻想郷の住人が残っているらしい。
「そこに行こう。ここに革命軍が来たってことは行動を始めたってことかもしれないし、永遠亭も襲撃を受けてる可能性があるし……」
「わかったわ。妖夢、幽々子をお願い」
 妖夢は軽くうなずいて幽々子を背負う。紫は全員の状態を軽く確認し大丈夫だと判断すると、そのまま背後にスキマを展開させた。
「さてと……いきましょうか」
 周囲を警戒しつつ六人はスキマの中へと消えて行く。そんななかで俊司はいろいろ念がこもった溜息をこぼし、静かに汗を拭っていた。


 辺りを見渡せば一面竹が並んでいる。たまに流れてくるそよ風は密集した竹の葉を静かに揺らし、静かな大合唱を作り上げていた。この竹林は幻想郷では『迷いの竹林』と呼ばれており、生きた者がこの竹林に入り込むとほとんどが出口を見つけられずさまよい続けると言われている。
 そんな竹林のある場所には、少し立派な作りをした和風の建物が一軒建っていた。みたところどこかの偉い武士が住んでいるのかと思われるが、別にそういったわけではない。ここは人里の人間には診療所と呼ばれており、正式名称は『永遠亭』と言う。この診療所でもらえる薬は副作用が少なく良く聞くと言われており、難病を抱えた者や急患など大勢の人間が訪れる。
 永遠亭には主人を始めとした月の人間が二人住んでおり、それ以外にも妖怪の月兎一匹と地上の兎が何十匹と生活していた。しかし今のこの場所は竹の葉が揺れる音しか聞こえず、庭で作業をしている兎達の姿はない。唯一玄関に一人の人影が見えるくらいだった。
 玄関に立っている少女は箒を持って落ちていた竹の葉を集めているようだ。
「はぁ……今日は風が強いですね……」
 そう言って空を見上げた少女は、なぜか物足りなさそうな顔をしていた。
 少女はまるで外の世界の高校生のような姿をしており、髪の毛は白に近い紫いろのロングヘアーで、上はブレザー・下はピンクのミニスカートをはいている。唯一おかしいのは兎の耳としっぽのような物をつけているというところだろうか。
「患者さんも来ないし……忙しくないって言えば忙しくないけど、今は今で大変なんだよなぁ……」
 少女は不満そうに独り言をつぶやいて溜息をついていた。
「なに一人でしゃべってるんだ? ……鈴仙」
「はうぅ!」
 肩をふるわせて驚いた少女の背後には、赤いもんぺを着用した白髪ロングヘアーの少女がいた。静かに振り返ったウサ耳の少女は、彼女の姿を見た瞬間ほっと肩を下ろす。
「なんだ……妹紅さんですか。びっくりさせないでください……」
「ああ、悪い悪い」
 妹紅と呼ばれた少女は、入口のすぐ横の壁にもたれかかると大きく息を吐いた。
 この少女の名は『藤原 妹紅』。この竹林で済んでいる人間の少女で、普段は人里に出向いたり竹林で道案内を行っている。大昔にある不老不死の薬を飲んだ経験があり、それから老いることも死ぬこともない生活を送っているらしい。本人いわく不老不死というよりかは魂の存在なのだとか。
 ちなみにウサ耳をつけた少女の名は『鈴仙・優曇華院・イナバ』という変わった名前を持った月兎の少女だ。通称は鈴仙やウドンゲと呼ばれることが多い。へんてこな名前とは裏腹にすごく真面目な少女で、医者である永遠亭主人の助手を担当している。
「しっかし、鈴仙もマメだよな。こんなの掃いてもすぐたまるぞ?」
「そうですね。でも、何かしてないと落ち着かなくって……」
 二人はたまに笑顔を見せながらたわいない会話を続ける。そんな中急に表情を曇らせた妹紅が、鈴仙にあることを問いかけ始めた。
「ふ~ん……ところでさ、鈴仙」
「なんですか?」
「その……さ、今更だけど……あたしらが一緒にいること……変に思わないのかなって」
 普段は永遠亭に妹紅は住んではいない。それどころかここに訪れるのは患者を連れてくるときと彼女のライバルに勝負を挑む時だけで、頻繁に訪れるというわけでは無いのだ。
 そんな彼女の質問を聞いた鈴仙は、少し考えた後苦笑いをこぼした。
「あ~もうなれました」
「……そっか」
 少しキョトンとしていた妹紅だったが、変な質問をしたと感じたのか鼻で笑ったあとそう言っていた。それ以降会話は長く続かず、沈黙の空気が二人を包みこむ。そんな中鈴仙は何か思ったのか、ふと箒をとめ妹紅のほうに振りむいてしゃべり始めた。
「でも……仕方ないですよ。こんなことになっちゃんたんですし」
 急にそんなことを言われた妹紅はまたキョトンとした様子で鈴仙を見ていたが、納得する理由があったのか軽くうなずいていた。
「それもそうだよな……だからあたしは輝夜との勝負を中断して、慧音と一緒にここに来たんだもんな」
妹紅はそう言いながらさびしそうな目で遠くの空を眺めていた。
 
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