白澤

「今名乗ったのじゃ」
「そういうことですね」
「左様じゃ」
　ここでも明るい笑顔はそのままであった。
「よく覚えておく様にな」
「このことは」
「織田信長さんは確か平家だったから」
　葵はのことを何処かで聞いて知っていて言った。
「平信長さん？」
「そうなる」
「それで本来は織田三郎さんですか」
「そう呼ばれておった」
「そうだったんですね」
「そういうことじゃ」
「だから方広寺もね」
　獣も話してきた。
「実はなかったんだよ」
「国家安康君臣豊楽の」
「言いがかりつけたっていうけれど」
　徳川家康がというのだ。
「あれは徳川さんが自分の諱入っていて」
「羽柴さんの本姓が入っている」
「徳川さんがまさかと思いながら」
　そう思ってというのだ。
「そうだったら不都合だから変えてねってね」
「言ったんですね」
「そうだったんだよ、大阪の陣はもっと原因があったんだ」　
　獣はこのことも話した。
「切支丹認めたからね」
「幕府が禁じていましたね」
「それでも豊臣家が認めたからなんだ」
「それで起こったんですね」
「そうだよ、あの時伴天連の中には実際に日本乗っ取りを考えていた人もいて」
　そうであってというのだ。
「南蛮からも悪い妖怪が大勢来ようとしていたしね」
「全く、茶々は政がわかっておらんかった」　
　秀吉は腕を組み口をへの字にさせて述べた。
「既に天下は徳川殿の世に移り」
「折角秀頼さんも悪くしないってね」
「思っておったのにのう」
「徳川さん律儀だしね」
「天下人になってもな」　
　徳川家康はというのだ。
「そこは守る御仁であったからな」
「大坂から出たらね」
「拾も助けたが」
「実際大坂の陣でもお孫さんは見逃してくれたしね」
「見て見ぬ振りをしてな」
「幕府が続く間木下家の分家として残してくれたし」
「全く、茶々は難儀であった」
　口をへの字にさせたまま言うのだった。
「実にな」
「そうだったね」
「あの、太閤さんはどなたかわかりましたが」
　葵は今度は獣に尋ねた。
「貴方何者ですか？」
「さっき妖怪とか言ってましたけれど」
　幸恵も獣に尋ねた。
「南蛮から悪い妖怪がとか」
「ああ、私は白澤っていうんだ」
　獣は二人にあっさりとした口調で答えた。
「俗に妖怪とも言われる神獣だよ」
「神獣さんですか」
「そうですか」
「そう、もともと中国にいて平安の頃にこっちに移住して」　
　そうしてというのだ。
「今はこの神社で暮らしているんだ」
「わしと一緒にな」
　秀吉も二人に話した。
「そうしておる」
「そうなんですか」
「何かって思ったら」
「私は長生きしていて神々や仙人さん達とも親しくてね」
　白澤はさらに話した。