母子家庭がどうした

「懲戒免職です」
「セクハラやモラハラの問題で」
「パワハラそれに業務上横領もありまして」
「懲戒免職ですか」
「そうなりました」
「そうですか」
「もうです」
　真田は淡々とした声で話した。
「奥さんからも離婚されて刑事告訴もされて」
「犯罪者にもですか」
「なりそうです、何でも性犯罪までしていて」
　それでというのだ。
「奥さんから慰謝料も請求されているそうです」
「それはまた」
　田代もここまで聞いて言った。
「かなりですね」
「はい、ただ」
　ここで真田は田代にこう話した。
「田代さんのことを随分言われていました」
「私をですか」
「母子家庭だから駄目だと」
「そうなのですか」
「それで私にです」
　真田は自分のことを話した。
「適当に応待しろと」
「言われたんですか」
「はい」
　このことも話した。
「実は」
「それで我が社の担当になったのですね」
「そうでした」
「確かに私は母子家庭で育ちましたが」
　田代は首を傾げさせつつ言った。
「ですが」
「それでもですか」
「それがどうしたのか」
「そうですよね」
「わからないですが」
「何でも母子家庭は駄目だとか」
　清原のその言葉のことを話した。
「言っていました」
「そうなのですね」
「はい、それだけで」
「それを言うと世の中多いですが」
「母子家庭の人は」
「父子家庭の人も。ですがそれで人が決まるか」
「決まらないですね、私もです」
　真田はまた自分の考えを話した。
「だからといって」
「人は決まらないですね」
「おかしなことを言うと思っていましたが」
「ご本人がですね」
「色々悪いことをしていて」　
　そうしてというのだ。
「それがばれまして」
「それで、ですね」
「何もかもが終わりました」
　そうなったというのだ。
「実際に」
「そうですね、しかし」
「しかし？」
「いや、世の中何でもないことで人を差別する人がいますね」
　真田にだ、田代は考える顔で言った。
「子供の頃そう言って私を馬鹿にしてくるクラスメイトがいましたが」
「子供はそうですね」
「何でもないことで優劣をつけたがりますね」
「他にも色々と」
「そして大人になっても」
「そうしますね」
「はい」　
　まさにというのだ。
「そんな人もいますね」
「つまりあれですね」　
　真田は田代の話を受けて言った。
「性根の悪い子供がそのまま大人になった」
「あの人もそうですね」
「だから田代さんを馬鹿にしましたね」
「母子家庭というだけで」
「ですが自分はどうか」
「そう考えますと」
「本当にですね」
　こう田代に言った。
「滑稽ですね」
「そうですね」
　こう話した、そしてだった。　
　二人は仕事の話に入った、真田は田代のその辣腕と人格にこの時も唸った。彼を確かに見てそのうえでそうなったのだった。


母子家庭がどうした　　　完


　　　　　　　　　　　　　　　　　　　２０２４・６・２２