続・輪廻
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第一章
続・輪廻
大和隆一は無事大学に合格した。そのうえでバイトを続けている喫茶店のカウンターで岬百合子と話をしていた。
「文学部ですから」
「一緒よね」
「はい、そうですね」
こう笑顔で百合子に言う。言いながら黒子が三つ連なっている手で食器を洗う、百合子のシャツから見えている首筋には痣がある。
隆一はその痣を見ながらこう百合子に言った。
「そういえば百合子さんって」
「どうしたの?」
「首筋に痣ありますよね」
「あっ、これね」
百合子は隆一に言われてその痣に手を添えた。自分でもわかっている感じの仕草だった。
「子供の頃からあるの」
「ですよね」
「そうなの。生まれた頃からあって」
「俺もなんです」
隆一はその手の黒子をちらりと見て答えた。
「この黒子は生まれた時から」
「あるのね」
「そうなんです。ほら、黒いのが三つ並んでますよね」
食器を洗っているので泡に包まれたその手の中にある黒子を百合子に見せる。その上でこう言うのだった。
「黒い三連星って」
「何よそれ、ガンダムじゃない」
「ですよね。ずっと言われてたんです」
「それを言うなら私もね」
百合子は食器を拭いている。その中で笑顔で言うのだった。
「これキスマークって言われてたのよ」
「そういえば何か」
「そんな感じでしょ。いつも言われてたのよ」
「嫌でした?」
「特にね。だって自分じゃどうしようもないから」
そう見られるのはというのだ。
「だから笑って済ませてたわ」
「そうなんですか」
「そうなの。ところでね」
百合子は優しい笑みで話題を変えた。
「大学受かったわよね」
「はい」
「お祝いとか考えてるの?」
「卒業のそれも兼ねて旅行に行こうかなって思ってます」
「何処になの?」
「長崎に」
そこにだというのだ。
「中華街にでも行こうかなって思ってます」
「いいわね。長崎って坂が多くて移動は大変だけれど」
坂道の町と言ってもいい。とにかく坂ばかりの町だ。
「面白い場所なのよね」
「グラバー園とかあって」
「そうそう。面白い場所なのよ」
「他には同じ長崎ですから」
隆一は笑顔でこうも言った。
「ハウステンボスも行く予定です」
「あっ、いいじゃない」
「ですよね。僕あそこ大好きなんですよ」
隆一はハウステンボスについてにこにこと話す。
「奇麗で色々な楽しい場所があって」
「行ったことあるのね」
「子供の頃とか中学生の頃親によく連れて行ってもらって」
それで知っているというのだ。
「高校に入ってから忙しくて行ってなかったですけれど」
「それで今度なのね」
「はい、バイトの貯金もありますから」
それでホテルに泊まり遊ぶというのだ。
「行ってきます」
「いいわね。楽しんできてね」
「お土産楽しみにしていて下さいね」
「いいわよ、そんなの」
百合子は笑って隆一のそのことはいいと返した。
「私に買う分だけ楽しんできてね」
「けれどそれだと」
「だって隆一君の卒業、進学記念じゃない」
彼のものだからだというのだ。
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