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椰子の魔法

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第二章

「よく来たわね、それも船でなくて」
「泳いでというのか」
「はるばると。お魚に変身しても」
「お前が好きだからだ」
 強い声でだ、トゥイフィティは答えた。
「だからだ」
「泳いできたの。疲れたわね」
「疲れが何だ」
 これが彼の返事だった。
「好きな気持ちにだ」
「疲れは関係ないの」
「そうだ」
 まさにというのだ。
「そんなものはだ」
「どうでもいいの」
「俺にとってはな」
「そこまで私を想ってるのね」
「それで聞きたい」
 その言葉は真剣なものだった。
「返事をな」
「私をそこまで好きなら」
 シナは微笑んで答えた。
「私でよかったら」
「そう言ってくれるか」
「ええ、ただ」
「ただ。どうした」
「貴方は今鰻ね」
「おっと、その姿ならな」 
 トゥイフィティも言われて気付いた。
「一緒になれないな」
「人と鰻ではね」
「夫婦になれないな」
「だから」
「人の姿に戻らないとな」
「そうだな、俺は魔法が得意でだ」
 それでというのだ。
「あらゆるものに変身出来てだ」
「鰻にもなれて」
「ここまで来たが」
「人の姿に戻って」
「しまった」
 ここで彼はこう言った。
「一つ忘れていた」
「忘れていたって何を」
「変身は解ける」
 それはというのだ。
「だがな」
「それでもなの」
「解くものを持って来ることを忘れた」
 そうだったというのだ。
「これは俺の過ちだ」
「そうなの」
「椰子の実が必要なのだ」
 変身を解くにはというのだ。
「それを割ってその汁を頭から被り」
「そうしてなの」
「変身を解く呪文を唱えるとな」
 そうすればというのだ。
「俺は人に戻れる」
「そうなるのね」
「そうだ、ただな」
 こうも言うのだった。
「椰子の実がないとな」
「戻れないの」
「一月経たないとな」
 それだけの時間が必要だというのだ。
「俺は戻れない」
「この島の人達は鰻が好きだから」 
 シナはすぐに言った。 
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