媽祖
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第一章
媽祖
中国宋代の話である。
黙娘は官吏の六番目の娘であった、父は湄州島の都巡林愿であり実家は商売もしていた。商売は繁盛していて家は豊かだった。
誰もが黙娘を見て言った。
「普通の娘じゃないな」
「かなり頭がいい」
「もの覚えもいい」
「しかも信心深い」
「将来が楽しみだ」
「実にな」
幼い彼女を見て話した、しかも。
それにはじまらずだ、彼等は話した。
「十六になったが」
「いや、その頃からだな」
「仙術を得たか」
「道観で修行をしたのか」
「そのせいか」
「凄いな」
楚々とした外見で切れ長の奇麗な目を持ち見事な光沢のある黒髪を持つ小柄で色白な彼女を見て話した。
「これは将来は仙女か」
「それになるか」
「これよりな」
「そうなるかもな」
こんな話をした、そしてだった。
人々はその彼女を通賢霊女と呼ぶ様になった、働き者で家の商売の仕事に励みつつそのうえでだった。
機織もしていた、そんな彼女に母が言った。
「あまりね」
「働いてもなの」
「うちはお金もあるから」
だからだというのだ。
「商売の仕事だけしてくれたら」
「機織も修行だから」
娘はこう母に答えた。
「いい織物が出来て」
「お金になって」
「その分うちにお金が入って」
そうしてというのだ。
「仙術の修行にもなるから」
「しているの」
「そうなの」
こう母に言うのだった。
「私はね」
「そういうことなのね」
「だから」
それ故にというのだ。
「機織もしていいわね」
「そうしたことなら」
それならとだ。
母も頷いた、そのうえで。
仕事に修行にと忙しい日々を過ごしていた、眠る時はいつも疲れ切って横になると即座に寝入った、そんな日々だったが。
ある日彼女は朝起きて母に言った。
「上の兄さんと下の兄さんが」
「今海に出ているわね」
家の仕事でとだ、母は応えた。
「そうしているわね」
「そしてお父さんも」
「海賊の討伐でね」
官吏の仕事の一つであるので彼も出たのだ。
「船に乗って」
「夢で見たの」
黙娘は朝から仕事をしている母を手伝いつつ話した。
「三人共嵐に遭っていたわ」
「海で」
「それでね」
そうなっていてというのだ。
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