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昭和で止まった男

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第七章

「一試合ホームラン三本打ったことあってな」
「また過去の栄光かよ」
「あいつにはそれしかないからな」
「凄くてもな」
「過去は過去だな」
「ああ」
 重原はその通りだと答えた。
「それにしがみついてるからな」
「老害だな」
「そうなるんだろ」
「それでその過去の栄光からな」
 『凄い』それで終わることからというのだ。
「自分を大谷翔平とだよ」
「比較してるのかよ」
「偉そうにな」
「分際弁えろ、爺」
「大谷翔平はないだろ」
「大谷はバケモノだぞ」
「投打二刀流だぞ」
 この敵に回すと誰よりも恐ろしい選手についての言及のことも話されるのだった。
「十勝して百安打二十ホームラン」
「絶対にあの爺より上だぞ」
「どう見てもな」
「一試合三ホーマーも一度だろ」
「幾らバッティングがよくてもな」
「ホームラン王まで獲得したピッチャーいるかよ」
「それも投げても一六五キロ出してな」
 それだけのストレートをというのだ。
「とんでもない変化球幾つも投げてな」
「どう見たって現役時代のあいつより上だぞ」
「それも遥かにな」
「それで自分を比較対象にするか」
「思い上がるなよ」
「幾ら何でも比較になるか」
「馬鹿じゃないのか」
 こうまで言う者が出て来た。
「もう爺の時代じゃないぞ」
「そんな時代とっくに過ぎてるぞ」
「もう昭和じゃないんだ」
「今は令和だぞ」
「昭和の頭のままでいるなよ」
「それならとっとと隠居しろ」
「遺言なんか書かないでな」
 こう言われるのだった、そしてその連載をだった。
 重原は宇野にだ、こう言った。
「もう完全にすっ飛ばしてな」
「他の記事読んでるんだな」
「読んでも内容がないからな」
「だからだな」
「もうな」 
 それこそというのだ。
「全くな」
「読んでいないか」
「それで何か困るか」
「困らないな」
「昭和のままの爺さんの言うことなんてな」
「聞いても意味ないな」
「だからな」
 それでというのだ。
「もう読んでないさ、それで読まなくてもな」
「何もないな」
「ああ、普通にやっていけてるよ」
 こう言うのだった、そしてだった。
 彼はそのコラムを二度と読まなかった、それで彼の野球人生に何の影響もなかった。ただそれだけであった。


昭和で止まった男   完


                  2024・5・29 
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