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実は名医だった

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第一章

               実は名医だった  
 米原公佳は地味な外見である、主婦として家事は万端であるが眼鏡をかけてぼさぼさの長い髪の毛に穏やかな表情で服の色も目立たず露出もなくだ。
 モブと言っていい位に存在感がなかった、それでママ友も言うのだった。
「あっ、米原さんいたの」
「御免なさい、気付かなかったわ」
 そこにいても気付かれないことが多かった、兎角だ。
 彼女は目立たなかった、それで娘のはっきりとした美人の中学一年生の裕美にこんなことを言われた。
「お母さんもっと目立とうとしないの?」
「そう言われても」
 家で穏やかな声で応えた。
「お母さん別に困ってないし」
「地味なのに?」
「地味って悪いかしら」
「目立った方がいいでしょ」
 こう母に言うのだった。
「やっぱり」
「そうかしら」
「ええ、目立ってね」 
 そうしてこそというのだ。
「人間いいんでしょ」
「お母さんはそうは思わないから」
「このままでいいの」
「ええ」
 別にというのだ。
「お母さんはいいわ」
「昔はお医者さんだったんでしょ」
「今も免許を持ってるわ」
「お父さんもお医者さんだし」
「お医者さんでも目立つ必要ないから」
 だからだというのだ。
「このままね」
「やってくのね」
「そうするわ」
 こう言って実際にだった。
 公佳は地味なままだった、娘はそんな彼女を垢抜けさせて派手にした様な外見で歯がゆく思っていた、だが。
 彼女がクラスで母のことをぼやくとだ、友人の一人が言ってきた。
「あれっ、確か裕美ちゃんのお母さんってね」
「どうしたの?」
「うちのお母さんが言ってたけれど」
 彼女にクラスでこう前置きして言うのだった。
「有名なお医者さんだったのよ」
「えっ、そうなの」
 医者なのは知っていたがだ、娘としてその話に驚いた。
「あのお母さんが」
「内科医で世界的に優秀な論文を幾つも発表した」
「そんな人だったの」
「新発見もね」
 それもというのだ。
「数多くしたね」
「凄いお医者だったのよ」
「何でもお母さん裕美ちゃんのお母さんがいた病院に出入りしていて」
 そうであってというのだ。
「それでね」
「聞いたの」
「ええ、ふと裕美ちゃんのお話したら」
「うちのお母さんのお話したの」
「裕美ちゃんのお母さん結婚する前の苗字川原よね」
「そうよ」
 裕美はその通りだと答えた。
「結婚してね」
「今の苗字になったでしょ」
「米原ってね」
「だったら間違いないわ、若い頃からね」
「凄い論文発表して」
「新発見も沢山したね」
 そうしたというのだ。
「凄いお医者さんだったのよ」
「そうだったなんて」
「知らなかったのね」
「全くね」
 こうクラスメイトに答えた。 
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