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帝国兵となってしまった。

作者:連邦士官
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39


 「進め!」
 故に兵は拙速を聞く、未だ功の久しきを覩ざるなり。我々の軍団はトラックや戦車、足りない分は帝国内のタクシーまで支給された。その速度は確たるもので、ベルンカステルの街を抜け、ビルクブルグを抜けていく。ベルンカステルなんて名前は不吉だな紙を畳む魔女がいそうだ。まぁ、あんまり関係はないが補給は素早くハーフトラックがかなり居る。石油の補給も減ればすぐの至れり尽くせりである。特にこの数日、フランソワ軍を見ないのは不気味ではあるが、ベルンを目指すしかないだろう。ダンケルクが落ちた今、彼らの勝機はそれしかない。こちらが果てるのが先か、フランソワが果てるのが先かの早指しだ。だからこそ、フランソワは急いでいる。

 だから気づかない。首都機能はボンに移転されてることを。副首都機能分散による副首都計画により、首都を皇帝陛下が動けば大体は終わるように準備されていたのだ。誰がやったかは知らないが謎の論文の構想を元に仕掛けられた保険が効いているのだろう。だが、ベルンを陥落されたら士気に与える影響を合理的なバーグマンや帝国陸軍参謀本部は加味しない。典型的な職業軍人に市民はわからない。希望を掌で掬いたいと思っている農民や労働者の気持ちがわからない。首都機能が移ってようが首都ですら落ちたのだからフランソワに協力しようとする卑しい気持ちがわからないのだ。

 その裏を行くのがこの俺の7個師団で、野原をかけるムスタングのごとく、アルデンヌ高地を越えてアントウォーペンを目指せという話らしい。フランソワ軍は知っているかはわからないが、あのダンケルクという集積地を強襲後にバークマンが歩兵と騎馬兵力による電撃戦により、5個師団でガレー港を占領したとのこと。

 これにより、フランソワ軍100個師団相当の将兵という大量の需要が発生している供給体制を維持するには、船と鉄道が必須。海路による補給は南東のレハーベレ港かさらなる東のノーマンコタン半島からの輸送、またはブレスト港からの補給しか無くなった。アントウォーペンはまた鉄道の要衝でもある。こうなるのを見越してかアントウォーペンのインフラには何一つ傷をつけなかった陸軍参謀本部が優秀なのだろう。型に嵌まれば強いが型に嵌まらなかったら柔軟性がない体質はどこまで治るのだろうか?

 そして、海は当然だが、帝国海軍の潜水艦隊がフランソワの補給艦隊を撃破をせんと国民の麦の献身による建造で得た400隻のUボートで、補給線の海中から狙う、フカのように待ち構えている群狼だ。

 フランソワの海上戦力については帝国の最新艦である空母グラーフ・ツェッペリン、戦艦シャルンホルスト、戦艦ビスマルク(皇帝は命名について常に渋い顔をしていたらしい)を要する帝国最新艦隊がイールを出て、帝国領ノルデン沖海で決戦となったらしい。待ち伏せをしていたフランソワ艦隊とレガドニア艦隊を霧が発生するまで待ち、その後に水雷艇や新型魚雷艇Sボートの大多数の突撃と逃げようとするフランソワ・レガドニア連合艦隊を丁字戦法で撃破、レガドニア海軍のレガドニア級前弩戦艦2隻と巡洋装甲艦2隻の拿捕、フランソワ海軍からも弩級戦艦5隻と前弩級戦艦、巡洋戦艦7隻、巡洋艦3隻、駆逐艦は8隻の拿捕で完勝、諜報部からの話では本国の海軍大臣が辞任と、レガドニア・フランソワの海軍司令官とこの戦いの提督の計四人が自決したようだ。

 が、フランソワ大西洋艦隊が壊滅してもフランソワ地中海艦隊はまだ生きている。それに、島国根性紅茶まみれ本国が植民地の植民地になる予定の植民地依存体質メンヘラ紳士の国が巡洋艦や駆逐艦、水雷艇などを援助する動きもある。何より、植民地艦隊もフランソワ軍はまだ回頭しきってはいない。まだ本国の大西洋側に居た艦隊を叩いただけだ。なにより、フランソワは陸軍国家であるのだから。なにより、誰の入れ知恵かはしらないが世界に対する情報戦略のためにフランソワに海上封鎖は出来ない。我々侵略を受けた国が宣戦布告もなしに戦争をしに来たレガドニアとフランソワを殴りつけるという名目で戦ってるのだから。帝国外交部にしては頭が回るのが謎だ。いきなり、ツィンメルマン電報しないよな?

 その陸軍国家を締め上げる仕上げはこの部隊が目指すアントウォーペンの解放ができれば敵側の補給は絶たれるわけだ。それが先かベルンに向こうが着くのが先か。フランソワ本国に残った主力はダンケルクに向かっているのだろう。抵抗らしい抵抗もなく熱したナイフがバターを切るが如くぬるりぬるりと先に進む。俺は地図を眺めながら呟いた。ミュールズ攻略のためにマッケンゼン大将とボイナ大将が囮として32個師団を使った攻勢に出ている。ほとんどがダキア兵だ。

 「アルデンヌ越えか。」
 アルデンヌに7個師団に機動戦力なんて第二次世界大戦初戦と思いきや、こちらの戦車乗りは新人が多い。そして何より司令部がこの俺の突破攻撃に新たにラインの守り作戦と名付けてくれたからより、やる気も下がる。アルデンヌ攻勢じゃないか!失敗しただろそれ!バルジじゃないんだよバルジじゃ。やれと言われたんだからやるしかあるまい。頭シュリーフェンになってるんじゃないのか?

 「アルデンヌを機動戦力で突破できるのでしょうか?最近の司令部は妙に未来を知ってるかのような先読みを焦っているような?」
 指揮下に入ったマインフェルン大佐が話しかけてくる。帝国軍人は固いというイメージなのに皆俺に聞いてきたり意見を階級関係なしに求めてくる。俺は助言マシーンじゃないぞ。そういうのは知力100にした軍師に聞くものであって、一般サラリーマン軍人の俺に聞かれても困る。助言と言われてもイルカを消す方法なんか知りはしない。

 そう言われれば、シャルンホルストもビスマルクも副砲も魚雷発射管もなく、12.7cm両用砲と機銃が多く取り付けられてあだ名がイーゲル(ハリネズミ)だそうだ。特に主砲の口径を下げて長身化をし、発射速度を早める事に意識をした実験的な戦艦だそうだがゲルリッヒ砲じゃないよな?まぁ、そんなわけがないか。

 「戦闘は2手3手さらなる先を読まねばならないからな。チェスの名人では盤面を脳内に6面以上想定して更に100通り以上の展開を読むと聞く。しかし、トップになる選手は1人だ。違いがわかるか?」
 俺は地図の上にあった木の駒、兵棋を手に取りとりあえず聞いてみる。マインフェルン大佐は真面目だからこれで時間が潰れるはずだ。フランソワ軍は居ない。わかりきった事で航空戦力をほとんど全てフランソワ国内攻撃に割いているのが現状の帝国だ。

 「運ですか?」
 それもそうだけど間髪入れずに聞くんじゃないよ。俺は学校の教員でもないんだぞ。教えるのも上手くもない。俺は俺でしかないのだ。

 「運もあるが、それは残す盤面の違いだ。チェスの名人を10人集めて300の手を見せてほしいと言ったらほぼおなじになるだろう。しかし、100個や10個と減らしていけば違うものが残る。更に言えば最後に残った一個がその名人の本質といえるものかもしれない。それがその名人と残りの名人の違いだ。それは意固地な手や傲慢な手かもしれない。しかし、その名手に取っては一番の手だ。だから、そのフランソワ軍の一手を我々は読んでアルデンヌ越えをしなければならない。」
 地図のアルデンヌ高地を叩く。

 「アルデンヌを越えたらフランソワ軍の取捨選択を読んで一手を読み続けなければならない。これは我々もフランソワ軍もそうだ。今はまだ人間の脳とこの機動司令車においてある機械式計算機が演算力だからまだいい。これがSFにあるように電気化されればより高度にもなる。無線と伝書鳩が連絡手段の我々よりずっとな。それにだ。プロなら最後に残った手以外にも予備も奥の手もある。だから、プロだ。それを兵士ができるかは別だがこちらも同じだ。我々は盤面を俯瞰できない。だからこそ、気球や航空機、魔導航空歩兵は尊ばれるし、無くならないだろう。そうだな。大気圏内を覗ける宇宙からのカメラができても無くならないだろう。斥候もだ。情報と謀の多さが戦いを左右するからな。」
 俺は手に持った駒をアントウォーペンではなく、アミアンに置いた。俺はバーグマンから裁量を貰っている。アントウォーペンは正にフランソワ侵攻軍総司令官のフォルシュとペルタン参謀長はおそらく、アントウォーペンに罠を仕掛けているだろう。高官ならば誰しもが気付くティゲンホーフ並の価値をアントウォーペンは出している。だからこそ、ベルンに100個師団の内60個師団ぐらいを向かわせる。そして残りは使う補給線とアントウォーペンに立て籠もる。自国民がいる市街地に帝国軍は攻撃できないと肉の盾として市民やパルチザンなどを使うだろう。

 だからこそ、俺はあえてアミアンに行く。アミアンを叩けば合理的な軍人なら気が付く。ベルンを餌にパリースィイを狙うつもりだと。たった42個師団に祖国が蹂躙されるかもしれないと。浮足立つ。そこを狙えば良い。返す軍勢で戻ろうとするフランソワ軍を掃討する。

 バーグマンから頂いた裁量はここに使うべきだ。
 コレがうまく行けばフランソワ軍には残り少ない兵士しかいない。イルドアは国境地帯に50個以上の師団を貼り付けているし、イスパニアも国境地帯に38個師団を貼り付けている。

 パリースィイを守るために北部に出たらマッケンゼン隊がさらなる侵攻をするかもしれないからあまり動かせないはず。しかし……。

 「敵はあのジャッフル元帥だからな。」
 ジャッフル元帥はおそらくもう北部は捨てているだろう。より長い遅滞攻撃の後に各個撃破を狙ってくるのではないだろうか?

 「どの条件にしたところでアミアンを落とさないと意味はないのですか?」
 それはその通りだ。アミアンを目指して軌道修正をする。敵地に一気に突撃して攻撃をすると言えばリーデルは喜びそうだが。どんなことより出撃が好きだしな。あいつ危ないよ。


  
 たったの数週間、アミアンまでは快進撃としか言いようがなかった。ジャッフル元帥はやはり、こちらと同じように下げているのもある上に囮だったはずのマッケンゼン軍団が多数投入した130mm多段ロケットパンツァーヴェルファーや廉価版の88mm多段ロケットをポン付けしただけのトラックたちがフランソワ軍を焼き払い、それに乗じて三号戦車がこじ開けた戦線に騎兵が師団規模による突撃を行い、ディジョンまでフランソワを押し込んだようだ。

 「こちらが囮だったのかもな。」
 その間にもバーグマンはベテューヌとベルクまで戦線を拡大していた。もしかして、一番仕事をしてないのは俺なのかもしれない。あとはアブビルさえ落とせばバーグマン軍団と合流できる。特にフランソワ軍はゲリラ兵を投入しているがダキア軍も帝国軍もイスパニア内戦で慣れたもので報奨金と密告した者に物資を与える施策でゲリラ狩りを敢行していた。

 特に少年や少女に武器や爆弾を持たせていたりするので、ガンガンに世界発信をしているぐらいだ。

 「何にせよこれは……。」
 100個師団が遊兵と化したフランソワ陸軍は急速な弱体化をしている。攻勢に出られるが攻勢に出たら最後補給がないのを理解してるのだろう。更には帝国領土では軍票を使った徴発をしているようだが、彼らが抑えているのはほとんどが係争地、係争地で徴発をして恨みを買えば帝国に帰属すると躊躇しているのだ。それに今、報告を受けた暗号文を見るとそこにあったのは……。

 「ジャッフルが引責辞任をして、ニーヴェルが元帥に?この局面で指揮官をコロコロ変えるとは。」
 正気の沙汰ではないフランソワ陸軍の明日に何を考えているのか分からなくなりながら、情報を集める。

 「ニーヴェルになってからブレストなどの港が活発化。更には……。」
 攻勢の準備だろうなと当たりをつける。ディジョンまで退いたのもこれか。おそらく島国から武器が来ている。

 「これはこうか。」
 スパイや国民の麦からの分析によるとフランソワ陸軍はまだ120万人の動員をする余地がある。120万人だ。彼らはまだ余力がある。詰まるところこれは…。

 「まずいな。」
 アントウォーペンの部隊が下がりつつあるとの報告も見た。つまり、バーグマンと俺の部隊は挟み撃ちを食らう恐れがあるのだ。

 逆に言えばこちらがアントウォーペンに行かなかったことで出来た相手の物資の喪失によるアドバンテージはまだ続いてはいる。何回かの攻勢を防ぎさえすれば彼らは干上がる。しかし、フランソワ北部にいる部隊と合流しなければならない。

 そんな事を考えて居た時に司令官室に足音が聞こえる。扉が開かれてそこにあった顔はバーグマン上級大将だった。

 「遅すぎたようだがまだ間に合うかね?ジシュカ大将。昇進の前払いだよ。私は元帥だそうだ。」
 手に持っていた杖をこちらに見せてきた。本格的に長い夜になりそうだと眠気が引いていった。
  
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