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帝国兵となってしまった。

作者:連邦士官
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18


 先月の気楽はどこへやら、今は何故かイスパニアのガスコ地方より西側のもはやポルトガル的な場所に居るし、支援軍でやってきた司令はサディストなのかやばいやつなのか、実質的な司令官の帝国人のシェルヒャー少将(本来は大佐らしい)と参謀長のモーゼル准将(本来は大佐)は徹底的な、そう徹底的なまでに戦線の拡大と爆撃と機銃掃射が織りなす火の雨を使っている。

 補給を担当するカステル大佐(本来は中佐)は圧倒的な事務能力で32万にも膨れ上がった派兵軍と現地人義勇兵のカルタ部隊(カルターニャ人6万人からなる志願兵と民兵と捕虜の中の志願者からなる隊)とガスコ部隊(ガスコ人独立派からなる4万人の部隊、殆どが山岳兵と言っても過言じゃない兵士たち。)で、何より帝国はガスコの独立とカルターニャの独立を認める算段だったようだ。

 そもそも、そうじゃなければ旨味は少ない。つまりはこうだ。帝国はイルドアの動向なども加味して、ガスコとカルターニャを独立させて緩衝地帯にして、イルドアとイスパニアをパイ切りするわけだ。結論としてはそうだと思われるがその結果、無茶な戦線を任されている。

 「敵はそれにしてもなかなかだな。」
 地図を見るとポートシティから首都までの鉄道のみに防御を行い、援共ラインと呼ばれるものを維持している。中にはルーシー製の戦車まであると言われるほど援助は多種多様で、国際ボランティア旅団という多国籍義勇兵部隊があったりと驚きだ。

 逆に反乱軍側は首都を抑えようと北上しているが問題はイスパニア共同体が自分を守るために教会や孤児院、学校、病院等や町中に軍事基地を作ってるため、反乱軍はなかなか歩みが遅い。
 
 共同体は徹底的な民主主義の抗戦を訴えているがそもそも反共同体勢力が多く、共同体が勝てたのも前任の大統領兼将軍が疑惑のガスコ人に暗殺されたという建前で、議会を制圧した共同体活動家が即座に選挙を行い、選挙による民主化とか言っていたのが現状で誰も信用はしてない。

 彼らも党兵団による民兵部隊を主力としてるため、国軍とも対立しており、それが軍部の不信を加速させて、軍部を信用できないと共同体が幹部たちを更迭したとされるが、ここに連合王国が関わってるなら別となる。

 つまり、連合王国こそがこの混乱を作り出したのではなかろうか?民兵組織の武器の出処も謎だ。ならば、そうなっててもおかしくはない。

 「この戦い、このままだと連合王国が仲介して旨味を奪ってくな。反乱軍やイルドアと協力しないとこちらは半包囲される。包囲しているということはそれだけ背後の距離も長いということだ。つまり、チェックメイト。」
 俺は目の前のチェスを動かし、オルトーを降すと周りの参戦武官たちが広げる三面の将棋盤にも次々に指示を出し、勝った。

 「なんで、目隠ししながらチェスと将棋ができるんだ?」
 それを俺に聞かれても知らない。出来るからやってる。前々からインターネット将棋をしてる合間にチェスをしながら、ソシャゲーをして撮りためたドラマやアニメを見ていたから普通でしょう。

 「まるでジュルヌ・ベルスのSF小説のようだ!」
 知らんがな。でも、いきなり異世界なんだからSFはあってるよ。少し不思議じゃなくて少し不愉快な紅茶の国がいるが。なんで、わけわからないことをして収集つかなくなるのかわからない。

 「これがわからない。」
 これがわからないとか言われても俺がずっとわけわかんねーよここ数年で中佐だぞ。ヤン・ウェンリーじゃないんだから出世ガバガバブルース・アッシュビー戦死大元帥とか嫌だぞ。これがわからないとか頭カヤキスか?

 負けるんだからこの国。そういえば、規格統一法や国家総動員法を帝国とダキアが作ったらしいがどうなってるんだ?全く。待てよ。勝つ、勝たない?そうか!観戦武官達を外に退場してもらってから俺は伝えるために目隠しを取った。

 「勝たなければいいんだ!簡単だったな答えは。よし!これより、ガスコー地域まで撤退する。アルベルトもオルトーもグロプも隊をまとめろ。この戦い。勝たねば勝てる。」
 なんだかみんなバカみたいな顔をしてるが、俺が物資をまとめ始めると渋々、準備を開始した。

 「撤退するにも許可が必要です!」
 アルベルトが言うのは当然だが残念ながら、増援部隊は指揮系統は帝国本土、こっちの本当の上司はバークマンで陛下からの命令だ。つまり、統帥権を持つ陛下の直属の指揮下にある我々は帝国本土からの命令に統帥権を言えば拒否できる。

 「我々の上司はバークマン将軍で、もっと言えばその上は陛下だ。果たして、本土の参謀本部は我々を止めれるかな?こう言えばいい。陛下の統帥権を犯し自らの領分を忘れたのか!とな。それに気付いたときにはこっちはガスコー地域にいる。そしてだ。ガスコーは抗戦地帯になる。連合王国の援軍はガスコーに来る。奴らの動きは見えた。」
 つまり、連合王国はこちらの後背地を取って講和させる勝ちはしないが負けはしないというやり口をしだしたのだ。ならば、盤面をひっくり返せばいい。これらはそもそも連合王国が作り出した盤面ならば罠や伏兵はあって当然、こっちは勝てない。しかし、この用意された盤面で勝たなければいい。ひっくり返せばいいだけだったのだ。

 コペルニクス的転回だ。そして、それはできる。なんやかんや機甲部隊はこちらはあるし展開中の部隊をガスコーに固めれば負けはしない。うまくやれば、奴らの首相の首を飛ばせるだろう。それに上陸する前の敵が一番、柔らかいのだ。柔らかくなってるうちに頂こう。まるで料理だな。

 2週間かけて撤退を終えるとやはり、ガスコーにやってきた連合王国巡洋艦1隻、駆逐艦5隻と揚陸艦12隻をすかさず食らった。

 流石に空母は持ってきてはいないらしく、航空機による爆撃で難なく片付けると連合王国の捕虜を得た。

 「簡単すぎる。何だこの胸騒ぎ‥‥まさか!」
 そう思い、在派遣軍イスパニア本部に連絡をすると繋がらない。これは‥‥囮だ!つまり、連合王国は本土人の部隊を囮にして、連合王国地中海艦隊を使い、連合王国植民地軍をイスパニア東岸に運んだのだろう。つまるところ、どちらも本命だ。そして、どちらも保険だ。

 まるで、バレンタインのチョコを保険でキープにも渡すようなやり方で連合王国はこういうことをやる!

 「が、まだまだだな。」
 連合王国は知らなかったのだ。色めき立ったダキアと帝国がまだまだ部隊を送ってることを。2週間かかったから更にあれから7万の部隊は展開されてるはずだ。つまり、モーゼルの定置網の中に奴らは抑え込まれた。守備のモーゼルと言われるくらいにはこのイスパニア戦線で名を馳せている。

 何重にも何重にも防衛戦と鉄条網と塹壕を張り巡らせのがモーゼルのやり口であり、基本、連合王国は失敗だろう。となるともしや第三の矢があるかもしれない。そう例えば、帝国で精一杯という体でマカロネシアと南方大陸を一気に制圧するとか。

 「にしても、不味いなこれは。」
 コップの中の代用コーヒーを見ながら、つぶやくと周りにいた全員が頷く。

 「戦況はとても帝国に偏ってますが、まともなコーヒーや紅茶は降伏した連合王国派遣軍などしか持ってません。」
 コーヒーの話ではなく、この戦いの話だ。一旦、押し返しはしたが決定打に欠ける。それは両軍ともにだ。このまま膠着をすれば連合王国が仲介と言って変なことをするだろう。むしろ、平常時ですら変なことしかしてないのだから。

 「まずいのは嗜好品ではない。このまま出血を強いられたら負けだ。奴らは消耗抑制ドクトリンを採用した。長引かせて兵站に国民が耐えきれなくなったところに連合王国が他人面をして我々に仲介は任せてくださいと言うだろう。そうなったらマカロネシアは連合王国に落ちて、海峡部も完全に連合王国領になり、連合王国と共和国とダキアなどで南方大陸をパイ切りすることになる。こうなると国力差は広がるばかりだ。冗談ではない。帝国とダキアが得た領地は南方大陸を最南に、北は協商、東はルーシーで包囲されることになる。つまり、戦略的敗北だ。」
 そうこれは詰みなのだ。そしてこの責任を取るとして予備役に入れば良いだけだ。これは勝ったな。

 「では中佐は勝つためにはどうすればいいと?」
 無理難題を言って、彼らの疑問に終止符を打ってやる。

 「勝つためには敵中突破だ。精鋭部隊を指揮して寡兵を持ってマドリッドーリを制圧するしかないだろう。大統領さえ捕虜にすればこちらの勝ちだな。簡単な話だ。」
 あちこちで「そんな無茶な!」「馬鹿なことを。」「それができたら」などと声が上がるが二人の男が立ち上がった。

 「簡単だな。」
 オルトーは巨体が天を突くが如く立っていた。もう一人は‥‥。

 「行くぞ!ガーデルマン。出撃要請だ。敵はアカ共だ!これで出撃しないやつはアカの仲間か腰抜けに違いない!」
 いや、リーデルくん、あの無理難題を言ったんですけどなんでやりに行く雰囲気出してるんですか?いや、ドラクエ並に鉄砲玉だけど仁義なき戦いじゃないんだから無理でしょ。エレベーター開いたらサブマシンガン掃射する映画じゃないから簡単に行かないぞ。なんでコマンド部隊になってるの?

 「まて、明日決める。今日はみんな休むように。」
 俺は全員を出してから頭を回した。まぁ、クーデター軍による航空部隊の執拗な爆撃で防空網は南側に寄っている。

 ならば、こちら側の北側は手薄なはずだ。防空リソースは更に南に寄せてるはずだ。損耗率も高い。補充するリソースも南に注ぎ込まれてると思う。なぜなら、ここは21世紀ではない。輸送力は限られている。

 航空部隊と魔導師による強襲ぐらいならできるだろう。そこでバトル・オブ・ブリテンのように大して滞在できませんでした。でも、首都に打撃を加えましたでいいだろう。

 何よりこちらには独自裁量権がある。保証は皇帝なのだから形式上は問題にはならないだろう。バークマンの責任だからこちらは関係ない。盛り上がってしまったから、彼らを収めるためにそれをやるしかない。

 なぜ、帝国軍はわりと女性士官がいるはずだがこちらにはおっさんしかいないぞ。おっさんと顔面偏差値が高めのパイロットとかしか。なんで、ロメールは女性士官がいて、こちらはおっさんやら何やらなんだ?おかしいよな。

 よくよく考えたらなんで、こんな目に合わなきゃならないんだ?なんかもう、敵の首都強襲しなきゃならなくなった上にもうわけがわからない。

 やらないといけなくなったから、やるがなんでこんなことに‥‥まぁ、マドリッドーリで相手の首相のエマニュエル・エーザナティアを拘束できなかったら終わりだからいいか。
 
 空を飛ぶのは楽ではないが向こうはレーダーや対空砲が不足してるのだからまだ簡単だろう。まず陸上部隊が東に向かい、東に対しての大規模攻勢をしてるように見せて、相手が油断している間に強襲をかける。

 司令部にも東に攻勢をかけると何回も連絡をして、一気に司令部が通信量を増やしてると攻勢だと実際の通信で思わせる。

 敵首都降下部隊はオルトーとリーデルを始めとする部隊で行く。そして、爆音のイスパニア王国国歌を流してそちらに意識が行くようにしたらいいだろう。目的が威圧などと思われるように細部にもこだわろう。出撃しないガスコー人らを集めて、彼等が得意なガリ版刷りで大量に首都は内部の王国主義者および義勇兵に紛れ込んだ王国主義者により包囲されたとばらまく。

 相手が混乱している間に爆撃とともにこちらが降下して、敵の大統領官邸まで一気に行く。そこにエマニュエルがいない可能性もあるがやったということが重要なのである。

 そうしようと命令を出してから俺は寝たが、朝起きたときには秋津島観戦武官が集まっており、彼らが催し物をしてくれるらしく、許可を求められたので快く受け入れたのだが、そこから数時間後に集まった先には楽器を持つ秋津島観戦武官がいた。

 「音楽か‥なるほど。確かに。」
 レコードを持ってきていたりとそういう場面が多いこの派遣軍であるが頑張って彼らが練習した音楽は下手だとしても価値はあるだろう。なぜならば努力には無償の価値があるのだから。

 「これは帝国軍のために我々秋津島の音楽をマーチに作り直した曲です。」
 音楽が進むと聞いている帝国軍人もリズムを取るがそれ以上に俺は気になったことがあった。どう聞いても吉志舞マーチバージョンでほぼ自衛隊マーチの怪獣大戦争マーチに近い。縁起でもない。

 やめてくれとも言えずに聞き終わると帝国軍人達は立ち上がり拍手をする。礼儀だからな。

 彼らは彼らで帝国軍人として帝国国歌を返しに歌って、このまま出撃となった。

 この曲で出撃するとか悪い予感しかしないが、まだメアリー・スーがいるわけでもないし、作戦は失敗して帰ってこれて俺は予備役になるだろう。戦いの場より俺にはまぁまぁ平和なところにいるほうが似合うのだ。

 帝国軍旗が翻るイスパニアの空の下、そう強く思った。


  
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