偽マフティーとなってしまった。
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3-7話
まどろみの中で足音が聞こえる。息遣いも聞こえる。何だこの妙な感覚は!まさか、オットーがこちらの仮面を覗き込もうとしているのか?脂ぎったおっさんに覗き込まれるシュミはない。
悪いやつじゃないにしても息が聞こえるくらい近くにオットーの顔があってみろ、精神に良くない。強化人間育成プログラムくらいには人にダメージを与えるだろう。オットーではなく、バナージやリディとかならまだ。ブライトでも嫌だな。せめてミネバならまだ。違うな。ミネバのような幼い気配ではない。では一体?
「誰だね?椅子で寝ている老人を起こそうというのは?」
目の前とは言わないが近くにいたのは‥‥。
「カミーユ!近いがどうした?」
カミーユじゃねーか!医者を連れてこい!あぁ、カミーユが医者だったな。医者にしていいのか?カミーユだぞ!
「大尉!バカ野郎!」
お前ふざけるなよ!「シン!バカ野郎!」ぐらいの勢いで殴ってくるな!ついに頭がアスラン並みになったのか!カミーユの伸ばした腕の肘の内側に張り手をして軌道をずらし、椅子の肘掛けを起点に椅子の後ろに回り込み、そこから飛び降りる。
「冗談ではない!ご挨拶だぞ!カミーユ・ビダン!」
ふざけんなよお前!いいぞ!ならやるからな。
「大尉ではない!私は‥‥私はマフティー・エリンとして今を立っている!大尉などという幻想は粘膜が生み出す誤差にしか過ぎん!なぜわからな‥‥チィッ!まだ殴ろうというのか!よくやる!」
お前!蹴りまで使うな!ジュドーとか止めに入れよ!セイラ!なんで当然だみたいな目をする!グラサン芸人でもオールバックしょうもないサボテン野郎でも人に頼み事をするときにサングラスも外せないおじさんでもないし、パイロットしかできないのにパイロットで天パにボコボコにされる老人でもない!
「ふざけるな!そうやって弄んで!何人もの人間を惑わしてきたんだ!あの時に‥‥‥あの時になぜ俺を呼ばなかったんです!一人で死にかけて宇宙をわかったつもりになって!そんな人に何が変えられるんですか!」
知らねえよ!御大に聞け!知るか!マザコンファザコンシスコン弟がほしいブラコンのファミリーコンプレックスコンプリートフルコンボ赤い巴投げされ野郎に聞け!ふざけんな!シャア・アズナブル!なんでお前の後始末をさせられる笑えるか!えぇ!赤い彗星さんよぉ!
「私はシャア・アズナブルではない!マフティー・エリンだ!目を覚ませカミーユ・ビダン!やつは死んだんだ!アムロ・レイもだ!今いるのはあの二人ではない!アクシズ・ショックのサイコフレームの輝きは命を吸い上げてアクシズを外宇宙に返した!その為に二人は死んだ!いや宇宙とともに蒼に染まり漂い、宇宙に人の可能性を示した!ならばなぜ残された人間がその可能性を信じずに笑えない!可能性を活かそうとしない!それこそがシャア・アズナブルとアムロ・レイが残したものだ!」
カミーユが止まった?なんだと言うのだ。ニュータイプの力は、そんな所には神などはいない!シャアやアムロを神扱いするのは辞めるんだ!
「貴方のやり口は人を惑わせる!大尉やアムロ大尉では無いのなら、そのふざけたオレンジの被り物を外して顔を見せてくださいよ!」
はぁ?ふざけるな、断る!ブライト、早く戻ってこい!待てよ、ジョブ・ジョンがいる!
「それはシャアに近すぎたからだ。シャアやアムロに近くなかったジョブ・ジョン、君はどう思う?君は‥‥ホワイトベースで正規の軍人なのに活躍をしなかったと人々の最初の期待や羨望からの人間の醜い姿を知っているはずだ。ならわかるだろう?この局面でマフティー・エリンが一個人として、単なる個人となることで起きる個人崇拝などの恐ろしさが。故郷を追われて失って、戦地で死線をくぐり抜けてきたのに、後方でジオンと戦いもしなかった人間たちに非難されて奪われた男ならば。」
ジョブ・ジョンがビクッとする。目には一種の恐れの感情が浮かぶ。よし!生の感情でカミーユやジュドーをゆさぶれ!
「ジョブ・ジョンで誤魔化さないで!あなたの正体は‥‥」
カット・インしてくるなセイラ・マス!ベルトーチカまで入ってこようとしてるだろ!どうしてくれる?ベルトーチカが居るのにセイラとチェーンと遊んでいたアムロの話をしてやろうか?いま脳内に「それは大人の男がすることではないだろう。」と天パの声が聞こえた気がするが知るか!俺は大変なんだ!天パがもし生きているなら大型新人としてパイロットにでもなってラスボスとして現れてみろとしか言えないわ!
「セイラ!今はカミーユ、ジョブ・ジョンとの男の会話だ!男の間に女は来るんじゃない!」
だいたいこう言っとけば黙るだろ‥‥。
「ララァ・スンという女みたく?」
ベルトーチカ!話をこじれさすな!
「えぇい。女は今は違うんだ。いや、今は許されるのか?しかし、女の話をしているのではない!ここは男の戦場さ。ファ・ユイリィ。彼女たちをエスコートしてやれ。エル・ビアンノやルー・ルカも一緒にな。そこのオットーがうまい紅茶を淹れてくれる。」
この騒ぎを聞いてやってきたのか、バナージやリディもいる。これも除去だ!
「バナージくん、彼女らの話にミネバ様も連れて行ってやれ。セイラにはミネバ様は世話になってるからな。君がミネバ様とそういう風になるのなら、セイラに挨拶は必要だろう?それにラプラス騒動のときに君たちのために動いてくれたベルトーチカもいる。リディ、ジオンをより知りたいのならセイラと話してみたまえ。」
二人はセイラたちの方を見た。よし!地雷除去確認!勝ったな!
「なんでアンタはそんなになんでも知ってるんだ!」
ちゃんと黙ってなきゃ駄目じゃないか!ジュドー・アーシタ!ふざけるな!勢いで騙されろよ、この野郎。
「知っている範疇を知っているだけで‥‥。」
ほら、興味がこっちに戻ってきている。
「すべてを知っているとでも言うのか?」
知らないよ!宇宙世紀人が面倒くさいってことぐらいしか!笑え無いんだよ!
「知りはしないさ。知ってる事だけといった。ジュドーくん、ブライトも居るが挨拶してきたらどうだ?こんな仮面の不審者を気にすることはない。」
多重アタックをしてくるな、立体的な三次元による同時攻撃とでも言うのか?誰がそんなことを許す?許すわけない。許されないことには毅然と許されないと言わねばならない。許されないのだから。
「すぐはぐらかそうとする!それが大人のやり方なのか!」
知らねーよ!大人じゃなくていいから多重アタックしてくるんじゃねぇ!いちいちうるさいぞ!だからルー・ルカと破局するんじゃないんですか?あんなゲキヤバファッションセンスの女と。
「なんですか?」
ルー・ルカがこっちを見る。お前ら、早く行け、勘が良すぎるんだよ。寝させてくれ。寝起きカミーユドッキリされたんだぞ!ジェリドじゃないんだから喜ばないわ!「お前も連れていくぞ、カミーユ・ビダン」じゃないんだよ!連れていけてないんだよ、だからエセ天才なんだパプテマス・シロッコ。股間の隠し腕で喜んでおけよ、強い島田兵野郎。
「何でもないさ。ともかく、これを見てくれ。」
あのイカれたMAのデータを出して彼らの興味をずらして逃げることにした。彼らがデータを見ている内に艦橋から抜け出し、格納庫に向かう。
廊下を進むと色々な人物に会う。手を振ったりしながら廊下を走り抜ける。格納庫の扉を開くとそこにはハサウェイに飲み物を渡して、ぎこちなく話すブライトがいた。今はそれどころでは無い。ブライトを囮に使う。
「ブライト、今、俺の勘が敵がいると言っている。目の前の暗礁地帯を偵察してくる。ハサウェイと仲良くな。」
人差し指と中指をくっつけて敬礼を作ってブライトに飛ばすとブライトは笑みを浮かべて「あぁ、頼んだぞ。マフティー。」と返事をしてきた。これによりこの逃亡は正当化された。とりあえず逃げよう。あんな奴らを集団で相手にしてられるか!こっちはむりやりマフティーにされただけのマフティー初心者なのに、こんなに宇宙世紀を全身でわからせられるとか嫌味か!なんの意味があるんだこんな事。
そして、タラップに走り込んでイカれたディジェヘッドのゼク・ツヴァイに乗り込むと一気に出動した。ゼク・ツヴァイは起動する。光を放ち起動する異形の赤色と白のMS。
ダサい色合い止めろよ。各所には増加装甲とバーニアがあり、要らなくなったら各所でパージしていく作りらしい。圧倒的なサブアームの量とアンカーワイヤーも多数有り、サブアームにはボックスタイプビームサーベルやビーム・トンファーで、ボックスタイプビームサーベルを改造したビームガンが付いている。
安直なビームを乗せればいいというものでもあるまいが、それでも火力による一対多数を想定した装備で手にも武装が持てて、腕部が武装となると言う考え方は力による制圧よりも、力を見せつけることによる制圧を考えているとでも言うのだろう。
「頭がクリアになる。画面が広がっている?これはディジェヘッドの力とでも言うのか?何だこの音は!オカルトでもあるまい。」
しかし、この機体、重MSなのにもかかわらずトンデモなく動きが良い。動きが良すぎてこちらの反応を超えかねない。エクバや戦場の絆やらFPSなどで鍛え上げた俺が圧倒される。慣性に逆らうような滑らかさが‥‥。
「そうか!コイツはSEシステムとミノフスキーフライトを組み合わせたナニカでも積んでいるのだな!だからこんなにも動きが。」
何というものを組み合わせてくれているんだ!頭おかしいのか?ミノフスキー・ブーストなるボタンがある。とにかく、押してみる。自爆はしないだろう。実戦でワケもわからずに押すよりはかなりマシだ。
機体から大量のミノフスキー粒子が放出されているのがモニターで分かる。なるほど。SEシステムとミノフスキー・フライトを組み合わせたことによる疑似ミノフスキー・ドライブか。そして、この機体が軽いのはPS装甲などとそれらにMCAシステムのような何かにより、更に軽量化されているのがわかる。
「この感覚!わかったぞ違和感というものがな!そうか、そうだったのか!この機体は‥‥‥あのトチ狂ったMAと戦うに足りるというものだ!」
それらのシステムが絶妙に噛み合って何が起きたかというと、このブースト中はトランザムのようなギミックが発動をしている。それにコイツの動力はおそらく崩壊炉とやらの劣化版か先行量産型なのだろう。吐き出す粒子の細かさが‥‥。
「粒子の細かさなどと言うものがなんの役に立つ?立ちはしない!そんな事は100も承知だ!」
暗礁地帯を加速した機体が走り抜け、左メインアームについたビーム・シールドのような物がデブリなどを破壊する。そして、俺の機体はさらに加速をしていく。
「滑らかな動きにこの加速、まるでライトニング・カウントと呼ばれそうだな。」
明らかにおかしな加速性能とミノフスキー・ブーストのミノフスキー粒子量に機体の粒子収束性能が敵わなくなり、漏れ出たミノフスキー粒子がビームの翼になる。光の翼がデブリを溶かし更に進む。
『貴方は何をやってるんです!今、ブライトさんから聞きましたよ!勝手な出撃はやめて戻って‥‥。』
チィッ!しつこいなカミーユ・ビダン!女みたいな名前をしているくせに!いや、それは言い過ぎた。だが、家庭環境は最低だったに違いはない。
思わずフッと笑い声が漏れていたようでカミーユから怒号が飛ぶ。
『アクシズごときの石ころ遊びなら一人でやれば良いが、人の命がかかってるんですよ!早く戻ってこないことには皆が困ると言っているんです!大尉は大尉らしく船でスポンサーがとか余裕なふりをしていれば良いんですよ!』
シャアが聞いたら怒りそうなことを言われても知りはしない。俺は俺だからな。今こうしてマフティー・エリンとして大地に立っている。
「それはカミーユの、カミーユ・ビダンの思惑とならば私は従う義務はない!大人は流れに沿って、人は流れに沿って生きていけば良いが、私は今それを打ち壊そうというのだ!見ていればわかるだろうに、地球の青さも人類の輝きも、満天の星空の星々のように地球やコロニーに住まう人々の生活が放つ光はこうして今も輝いているのだ!それはジオンもルナリアンも地球も違いは無いだろうに!」
適当なことを言い逃げ回っていたが、偵察を称したこれらの行動はZZとZが飛んできてお開きになり、めちゃくちゃ色んな人から怒られた。俺は悪くはないから当然だが、それでも一応すまないと言ったのに「謝るときには態度がある」とマスクを外されそうになったりして平和な時間は過ぎ去り、決戦の地球近郊に艦隊は進む。
「戦いたくはないのだが。」
周りが複雑な表情をしているが俺が戦うしか無いのだから君たちは外野だろうと本当に神経が苛立つ。他人事だと思って。それでも、約束の地へは歩みが止まらない。
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